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50 闇市 奴隷商館

「おはようございます!」


部屋を出ると、丁度隣の部屋から出て来た

セルヴィに元気よく朝の挨拶をされる


「ああ」


「む、朝の挨拶はおはようと返すのが基本ですよっ?」


「そうなのか、おはよう」


ぎこちなくゼロスが返す


「はいっ♪」


「ふふっ、じゃあ行きましょうか、準備は良いわね?」


セルヴィに続き部屋から出て来たプロメが促す

全員揃った所で階段を降り、宿の出口へと向かう

途中、受付内にいた老夫婦の夫人にセルヴィが声を掛ける


「昨日は騒がしくなっちゃって、すみませんでしたっ!」


「いいのいいの、ここ最近はお客さんも少なかったから

 久々に賑やかになってわたしらも楽しかったよ

 今日もぼうけんかい?気を付けて行ってくるんだよ

 また夕食は作って待ってるからねぇ」


「はい!行ってきます!」


こうして一同目指すは西地区の闇市だ

先日調査した遺跡の最深部と同種のエネルギー反応が

そこから反応が出ているらしい


「ゼロスさんそれ、結構似合ってますね!

 色も鎧とぴったりですし」


「そうか」


歩きながらセルヴィがゼロスの肩から掛けられた

黒い外套を見ながら言う


昨日、傭兵の男から貰った物だった

元々身長が低めの彼が付けていた物だったからか

ゼロスの体系だと太もも付近までしか長さが足りず

また肩回りも足りなかった為、片側に掛ける様になってしまった

しかしそれはそれで中々に見栄えしている


「でも驚いたわ...昨日それ調べてみたら

 未知の合金繊維で出来ている上になんと

 熱や電磁放射に対して一定の耐性がある事が分かったわ

 低出力の光学兵器何かなら弾いてしまう代物よ、

 セルヴィちゃんはミスリルって何なのか知ってる?」


「えと、ミスリルは遺跡や地中から稀に見つかる

 とっても貴重な魔法合金です

 金属自体がマナ、魔力を帯びていて

 その加工には魔術の付与が必要不可欠で

 とっても難しいのです

 それも錦糸加工何て言ったら

 とんでもなく貴重な物ですよ!」


「なるほどね、しかしそんな貴重な物

 なんであの男はおいそれと持って居たのかしら

 黒くてかっこよかったから有り金はたいて買った、とか?」


「あははっ流石にそこまでは、いくらなんでもあの方に失礼ですよっ」


「流石に無いわよねぇ、ふふふっ」



————————


ぶえっくしょん!


「お?風邪か、何か代わりのマントでも買った方が良いんじゃないか?」


「ふっ...この煉獄の炎を内に宿す我が風邪など...ぶえっくしょん!」


「いわんこっちゃないッス」


————————



そして一行は中央広場を抜け、いよいよ西地区へと入る

ゼロスが先頭を進み、セルヴィの横に並んでプロメが歩く

セルヴィはと言えば少し緊張している風であった


先日、あれだけの事があった以上

すぐに完全に切り替えれる、という物でも無い

こうやって共についてきている事自体

彼女なりには十分無理をしている事だろう

ゼロスは戦闘モードに近いレベルで周囲に気を配り進んでいく


明るい時間帯に来てみると、改めて西地区の荒廃具合が目に着く

建物の外壁には至る所に落書きに染まり

街道整備等のインフラ整備も停止しているのだろう

そこら中から草が生え、割れた石材はそのままになっている

浮浪者らしき者達が壁際には定期的に目に入る

壁や床に思い思いに伏せるその者達は

全てに希望・関心・興味を失っている様に

地面や壁をただ見つめている

恐らく彼らは今この場で誰かが殺されたとしても

反応を示す事は無いのだろうとセルヴィは思う


程なくすると、西地区に来てから見た事が無い程の

多くの人が集まる一角が先に見え始める

皆、街道床や、その沿いにある建物店を開き

様々な品物を陳列している


露店に置いてある商品には

食料品を置いているかと思えばその隣には彫像

またその隣には装飾品、干草の束が並べられたりと

統一感がまるで無い


武具類等は柄の部分に手垢が濃くついている等

明らかに長年使用されていたとみられる形跡もあり

その中の多くは盗品である事が伺える


明らかにガラの悪そうな者

フード等目深に被り顔を隠している者

客側の多くも明らかに普通ではない


中には煌びやかな服装に身を包み

舞踏会で付ける様な装飾入りの仮面を纏い

周囲に私兵とだろうか、武装した護衛を付けた者も見受けられる

街の富豪・権力者の類であろう


「余り良い雰囲気の場所じゃないですね...

 まるで広場を境に表と裏に分かれてしまっている様な...」


ゼロスのすぐ後ろを接する程近くについて歩くセルヴィが呟く


「だが、表と裏が存在できている内はまだ、

 人が人としての社会を維持できているという事だ

 ただ生存の為だけに戦う日々の中には...光も闇も無い」


その時ほんの少しだけ

セルヴィから見たゼロスの顔が寂しそうに見えた

きっと彼の中に残っている過去を振り返っているのだろう

ずっと太古の時代で、何百年も戦い続けて行く中で

ここよりも、もっと凄まじい地獄を

一体どれ程見て来たのだろうか


「はいはい、話はその辺にして、そろそろ目的のポイントに付くわよ」


プロメが場を仕切りなおす


「位置は特定出来たか」


「ええ、前方右30mの施設内、下方5mという所ね」


プロメが示した方角を見ると

一際大きな窓の無い石造りの倉庫の様な建物が一つ


「地下か」


その建物だけ壁にひび割れや落書き等も無く

まともである事が、返ってこの場では異様であった

小奇麗な外観を持ち正面の大きな両開きの戸には

金属製のノッカーも添えられている

ゼロスは構わず戸に手を添え力を入れると


ギィイイイ...


大きな重量感あるドアが軋み音を上げて開いていく

ドアの先にはきれいに磨かれた木製のカウンター越しに

貴族の様な上品な服装に身を包み

如何にも胡散臭い微笑みを浮かべる男が一人立っていた


「いらっしゃいませ、本日はどの様なご用向きでございましょう?」


男が片腕を胸に当てゆっくりと礼をする


「ここの地下を見せて貰いたい」


「ほぅ、早速商品をご覧になりたい、と

 どなたかのご紹介ですかな?」


「いや違う、ここは何の店だ?」


「これはこれは、初見のお客様でしたか、いや失礼

 こちらは奴隷商館に御座います

 当館の奴隷は全て正式な手続きを経た

 純正品を取り揃えております」


「やはり、ね

 正式な手続きを経た奴隷と言うのはどういう事?」


プロメには心当たりがあったようだ、続けて問う


「犯罪を犯し身分はく奪の上奴隷罪に問われた者

 正式な金銭による売買契約に基き売られた者

 正規機関から正式に奴隷と証明された商品で御座います

 世の中には攫って来た者を違法で奴隷として売り払う

 不遜の輩もいるそうでございますが

 ご安心下さい、当店の商品にはその様な者は一切御座いません」


「見せて貰いたい」


「では此方へ...」


男がカウンターから出ると、横の鋼鉄製のドアの前に立ち

腰につけた何十という鍵束の中から1本を取り出し差し込むと

重い金属の開錠の音を立て、ゆっくりとドアが開く


「ここから先は少々そちらのお嬢様には刺激が強いかも知れませんが

 大丈夫ですかな?ほっほっほっ」


男が卑しく口元を吊り上げてそう言った

ゼロスとプロメが同時にセルヴィを見つめる

言葉は発していないが、ここで待っていても良いと言う意味だろう


「だ、大丈夫です!一緒に行きます!」


「ほっほっほっ、ではこの先は少々暗くなります故

 足元にはお気をつけて...」


男が扉横に置かれたランタンを手に持つと

ゆっくりと地下への薄暗い階段を降りる

男の持つランタンの火の揺らめきに合わせ

周囲の石壁に埋め込まれた丸みを持った石々が影を作る


階段を降り切ると、再びもう一枚大きなドアが現れ

同じ様に男が鍵束から鍵を取り出し、開錠していく

そして男が扉を開けた瞬間


「うっ!」


思わずセルヴィが鼻を手で覆う

湿った、まとわりつく様な空気と共に

腐敗臭や便臭と言った饐えた臭いが鼻を突いた


扉を潜ると左右には鉄格子に囲まれた囲いが無数に並んでおり

その一つ一つに足に鎖を繋がれ、ボロボロの布服一枚になった

やせ細って骨が浮き出ている者や体中に痣や擦り傷が出来ている者


男が言った”商品:達が収められていた

その檻の床には散乱した食べ物の残りが腐敗し

周囲に放置されているモノにはハエがたかっている

最早そこには人の人たる尊厳は奪いつくされている様に見えた


(あの時、ゼロスさんが助けに来てくれなければ

 もしかしたら私も今ここに...)


そんな事が頭を過り、一瞬ゾクリと体を震わせる


プロメが先頭に立ち、歩みを進める

恐らく目的の方向へと向かっているのだろう


途中から檻の中の環境が変わり始め

そこそこ小奇麗にされた檻の中から

殆ど半裸に近い状態の女性たちが一斉に

檻からゼロス達に思い思いの言葉、しぐさで

【自分を買ってくれ】と声を掛ける


こちらの女性達は比較的血色は良く

健康状態は決して悪くない様に見える

恐らくはその様な(・・・・)事の為に売られた人達なのだろう


ゼロスとプロメは顔色一つ変えず、一瞥もする事なく

先を進んでいく、気おされ遅れ気味になっていたセルヴィも

目を伏せて小走りで二人に追いつく


程なくすると再び並ぶ檻の雰囲気が変わる


ガシャン!!ガシャ!!


檻の中から獣の様な毛皮・爪に覆われた腕が激しく格子を揺する


「彼等はいったい何だ」


檻の中にはゼロスやプロメが目にしたことも無い

特徴を持つ者達が繋がれていた

それぞれ体の一部に獣の様な

体毛、爪、尾、耳等を有する

人と獣が混じった様な者達だった

気性が荒い物が多いのか、その多くが敵意の目線を向ける


「彼等は亜人です...」


小さくセルヴィが答える


「亜人は体の一部が少し異なる、というだけで

 基本的に殆どの国で人として扱われず

 保留地に隔離され、そこを許可なく離れた者は人権は無く

 即座に逮捕されて処刑又は奴隷に落とされてしまいます...

 恐らくここに居る人達も...」


「ほっほっほっ、お嬢様は博識ですな

 その通り、ここに居る者達は一方的に取り決めを破り

 保留地から出て来た罪人に御座います

 亜人は非常に強固な肉体を持って居ますので 

 番犬や盾代わりには優秀ですよ?」


「一方的に、か、おおかた保留地と言うのは

 住みづらい枯れた土地なのではないか?」


ゼロスがまるで見て来たかの様に問う

セルヴィから彼の表情は読み取れない


「さぁて、私にはそこまでは分かりかねます

 何せ彼らは動物ですからな、ほっほっほっ」


男が白々しく答える


そしてプロメが一つの檻の前で歩みを止めた


「おや、こちらは廃棄処分予定の区画に御座います

 正直私共としてもこちらの商品はオススメ致しませんが...」


プロメの視線の先の檻の中には

紅の髪の一人の少女が一人、冷たい床に横たわっていた

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