49 漆黒のマントをてにいれた
「それって、もしかしてこの装置の中に居た方が
上の都市に居る、って事ですか?!」
セルヴィが驚いた様にプロメの言葉に反応する
「まだ断定は出来ないけれど
ここがまだ未発見区域だった事を鑑みれば
外から来たものが何かを持ち去った、というより
中から外に出て行った
という可能性の方が高いんじゃないかしら」
「街のどの辺に居る、とかも分かるんですか?」
「うぅん、ここからだと正確な位置は難しい、かな
地上に出ればおおよその一はつかめると思うわよ」
「じゃあ、早速!」
「待って、一応他にも見落としが無いか
一通りしっかり探索しましょう
また戻ってくるのも大変だもの
セルヴィちゃんも中々のせっかちさんね」
「はぅ...すみませんっ」
先走るセルヴィをなだめつつ
念の為7階層の隅々まで確認を行うが
特にそれ以降目新しい発見は無く
程なくして一行は再び地上へ引き返す事となった
帰り道は特に寄り道等することなく
また、プロメが正確に内部情報をマーキングしていた為
非常に速いペースで地上へと戻ってくる事が出来た
しかしそれでも既に地上に出ると
日は傾き既に空は茜色に染まっていた
「お、お前等ちゃんと帰って来たな
無事で何よりだ、お疲れさん」
出て来た所に見張りの男が声を掛けつつ
手元の書類に何かを書き込む
そして全員の荷物が増えていない事を確認すると
「何の遺物も回収してない様だな
成果無しか、まぁここはそういう遺跡だからな
あんまり気落ちするなよ」
「ああ」
手短に返事を返すと、そのまま入口管理区域を後にする
死者達への配慮か、又は面倒だったからか
ゼロスは見張りの男には未到達区域の発見
第七階層の事は告げる事は無かった
暫く歩き、男の姿が見えなくなった頃
「プロメさん、どうですか?」
「大体の距離と方位は掴めたわ
これは...西地区の方ね」
「西地区...ですか...」
一瞬、先日の事が脳裏を過るセルヴィだったが
すぐに振り払い、言葉を続ける
「でもどうしてよりにもよってそんな所に?」
「こればっかりは当人に聞いてみるしかないわ
でもあのエリアは今からだと色々面倒そうね
今日は朝からずっと暗い閉所を歩き続けだったから
自分が思っているより大分疲れているはずよ
明日改めて日が昇ってから出向くとしましょう」
「私はっ...いえ、そうですね、何だか私もお腹ペコペコで!」
自分のせいで皆の行動を遅らせてしまっている事に
申し訳なさを覚え、咄嗟に意を唱えそうになるも
ここで自分が彼女の配慮を無碍にする方が
より困らせる事だと認識し、踏み止まる
「ふふっ、きっと宿屋の夫婦が
夕食を用意してくれているはずよ
今日の所は戻りましょう」
恐らくプロメはセルヴィがどういう思考に思い至ったのか
それも見透かしているのだろう、その上でその反応は
彼女にとっても良い答えだったという事なのだろう
先頭を歩くゼロスもまた
無言ながら進路は宿を目指しているのだった
郊外から都市中心部へと戻り
宿まであと数分程の距離に来た時だった
「お~ぃ!!」
少し遠くから呼び声と共に
遠くからでもハッキリわかる
大きなシルエットを持つ女性がこちらに手を振る
横には二人の男性、皆見た顔だった
「あれは...昨日の皆さんですね」
それは昨日救助した傭兵3人組であった
各々最低限の護身用と見られる短剣を除いて
武器や鎧等の防具は外している様に見える
背の低い小太りの男はあの時と同じ
黒マントをなびかせている
「あんたらこんな所で何してるんだい?」
「さっきまでこの都市の遺跡に潜ってたんですが
今日はもう切り上げて宿に戻る所だったんです」
「そうかい、見た所、残念ながら成果は無かった様だね
所であんたら良かったら飯でもどうだい
遺跡から戻って来たばかりならまだなんだろ?」
「ぁ、ご飯は多分宿の亭主さん夫婦が
用意してくれてるはずなので
宿で食べるつもりなんです」
「お、ならあたしらも一緒させて貰ってもいいか?」
自分が決めていい事かとゼロスをちらりと見ると
彼は無言のまま頷いた、問題ないという事なのだろう
「私達は構いません、でも食事が皆さん分あるかどうか」
「なぁに、無いなら無いで適当に屋台で見繕って買ってくるさね」
そう言うと歯を浮かべ、ニカッっと笑う女戦士
見た目同様、細かな事に囚われない豪胆なタイプの様だ
目の前に立たれるとセルヴィでは
上を見上げる様にしなければ顔が見えない
しかし丁度目線の高さに来る腰回りに
つけている短刀やそのバックルを見ると
丁寧に手入れされている様に見える
決してガサツと言う訳では無いのだろう
改めてみると所々露出した肉体からは
相当に鍛えられ女性離れした筋肉を有している事が分かる
「ん?どうしたお嬢ちゃん、熊みたいな女が珍しいかい?」
そういうと再び豪快に笑う
「あ、いえ、そういうつもりじゃっ
腰回りの装備、とっても丁寧に手入れされてるなって」
「ああ、そりゃそうさ
自分の装備ってのは命を預ける物だからね
いざって時の為に日頃できる事はやっておく
ってのは傭兵も冒険者でも当り前の事さね」
「なるほど...ごめんなさい、当たり前の事聞いてしまって」
「はっはっはっ!いいさいいさ
あんたら昨日冒険者になったばかりなんだろ?
気にせず色々聞いてくれてかまわないよ
しかしこのまま立ち話ってのも何だ
続きは飯でも食いながらにしようじゃないか」
そうして傭兵3人と合流した一行は、程なく宿に戻り
亭主夫婦に相談した所、まだ作る途中で今からなら
まだ料理の量を増やす事が出来るとの事で
追加料金を支払い人数分の食事を用意して貰う事となり
料金を払おうとするとすぐに女戦士が割って入り
食事代は全て自分らが出すと譲らず
その好意に甘える事となった
宿1階の食堂で軽く談笑していると
程なくして料理が運ばれてきた
焼きたてのパンやサラダ、スープに続き
メインディッシュは大きな陶器製の容器に
小麦粉を練った生地を何層も重ね
トマトやひき肉を混ぜた特性ソースをその間に挟み
上にはたっぷりのチーズが焦げ目がまだ音を立てている
亭主夫婦の郷土料理なのだとか
「あーっ!うめぇなぁここの料理!」
「ちょっとリーダー、はしたないですって」
「一々細かい男だねあんたは!
旨い物を旨いって言って何が悪いんだい!」
横の少し気弱そうな弓を使っていた男が女戦士を宥めるが
女戦士は我関せずと次々と料理を口に放り込む
幸い今は宿泊客はゼロス一行以外宿には居らず
それを聞いた老夫婦も厨房の奥でニコニコしている
大声よりも料理の賛辞を喜んでくれて様である
「それにしたってこんな旨い料理が出て
べット2つで一室一泊銀貨2枚だって?!
くっー!もっと早くこの宿の事を知ってたら
銀貨5枚も出してあんな糞見たいな宿
取るんじゃなかったよ!
もう1週間分払ってるから今更変えれもしないっ」
この宿の亭主は良心的だったようだ
確かに部屋等も豪華さは無いが
しっかりと隅々まで清掃が行き届いていた
「そういえば皆さんも王都から来られたのですか?」
前の料理が無くなり始めた頃、セルヴィが口を開く
「ああ、あたし等は魔物の襲撃の知らせを聞いて
王都外縁部に配置されてたんだが
待てど暮らせど魔物の1匹も現れやしなかった
ところが、街の中が騒がしいと思ったら
見た事も無い魔物がうじゃうじゃ中から出てくるじゃないか
慌てて逃げて来た一般人を王都の外へ逃がしつつ
何とか魔物を食い止めようと試みたんだが
見ての通り足止めすらまともに出来なかったよ
も、って事はお嬢ちゃんも王都から来たのかい?」
「はい、私はそちらのゼロスさんに助けて頂いて
何とか生き延びる事が出来ました!」
「なるほどね、だんなが一緒なら納得だ
寧ろあんたの前じゃ私も同じか弱い女の子だね
ハハハハッ!!」
女戦士がゼロスの方を向き笑う
「リーダーがか弱い?、それも女の子なんt いでっ!」
突っ込んだ隣の男の頭にげんこつが落ちる
その様子からもう3人は皆付き合いの長い
気心の知れたな中であろう事が伺えた
「遠くからお前たちの戦いを見ていた
絶望的な状況の中、決して諦めず戦っていた
立派な兵士だ」
先程の女戦士の冗談に対し、ゼロスが口を開く
「兵士...ね、まぁあたしらは傭兵なんだが
あんたからの世辞だ、素直に誇らしく受け取って置くよ
あんたも軽口ばっかり叩いてないで
ちっとはこの旦那を見習いな!」
するとそんな中、口を付ける動作だけはしているが
全く中身の減って居ない、ワインの入ったグラスを持った
黒マントの男が先程の言葉を聞き、意を決した様に
おもむろに立ち上がり、ゼロスの前まで歩いて行くと
身に着けていた黒マントを突然外し、差し出した
「漆黒の堕天使よ、我は恩を忘れん男だ
この暗黒魔道の外套は其方が纏うが良い」
「へぇ...お前がそれをねぇ...」
また変な事を言い出した男を女戦士が
ツッコm...止めるかと思われたがそうではかった
「えっと、あのー...それは?」
向かいに座るセルヴィが男が差し出した物を
じっと見るも、ただの黒い、所々先が解れたマントに見える
「こいつなりの礼のつもりなんだろう
もし良ければ貰ってやってくれないか
変な奴だが悪い奴じゃないんだ
そいつは魔法金属錦糸で編み込んだ外套だ
物としても持ってて損はないと思う」
「ミスリルの錦糸?!」
セルヴィがとても驚く反応を示す
繁々と差し出された外套をゼロスが見つめる
ミスリルがどういった特性を持つ金属なのかは分からないが
当たり前の様に口にするからそれは常識的な名称の物であり
反応から察するにそれなりの価値の伴う物なのも確かな様だ
「分かった、頂こう」
昨日の冒険者証の事も思い返し、くれると言う物を
必要以上に断る事は返って相手の気分を害する様だと判断し
素直に頂く事にする
受け取った黒の外套は、手に持って見た所
重さや質感は通常の繊維と遜色ない様に感じる
「これでお前も今日から漆黒の鷹の同胞だ!」
そういうと男はすぐさま席に戻り
再び中身の減らないワイングラスを口に運ぶ動作を始める
「今のはあんまり気にしないでおくれよ...
多分さっき旦那ほめてくれたのが余程嬉しかったんだろうさ...」
「あ、ああ、分かった」
女戦士が頭に汗を浮かべながら、どこか申し訳なさそうに言う
ゼロスもどう返せば良いものか分からず、とりあえず相槌を打つ
「所で、もし知って居たら教えて欲しいのだけど」
次にプロメが、食堂の壁に張り出されていた
都市の地図、その中の一角を差しながら口を開く
「西地区のこの辺りってどういう場所か、あなた達は知ってる?」
「ん?その辺だと...恐らく闇市が出てるエリアだな」
地図を見ながら少し考えた後
心当たりがあったのか、女戦士が答える
「闇市?」
「ああ、そこは西地区の中でも特に闇の濃いエリアだ
盗品や違法栽培された麻薬、薬物
狩猟が禁止されてる希少動物やその毛皮
そして奴隷なんかも売られているらしい
バルザックの闇市といやぁ悪い意味で有名だ
正直、表のもんはまず近寄らねぇ場所さね」
「なるほどね、ありがとう、参考に成ったわ」
そういうと再び席に着くプロメ
食事の席には同伴しているが、一口も食事に口を付けていない
一瞬隣の気弱そうな男がその事を気にしてか
視線を食事とプロメに交互に向ける
「お前達は、俺達の事を聞かないのだな」
それに気付いたのか、ゼロスが思った事を口にする
「ん?すないね、出来るだけ気を使わせない様
気を付けてたんだがね」
ゼロスの反応から、察した女戦士が答える
「冒険者、傭兵にとって持っている特技や能力
その生い立ちを詮索するのはタブーさね
あんた等はあたし等の命の恩人だ、そして良い奴等だ
それだけで十分だろ?
勿論話してくれるってなら喜んで聞くがね」
「そうか、助かる」
「そういうこった、さぁ、あんたはイける口だろう?
もっと飲みな!今夜はあたしらのおごりだ!」
そして騒ぎは夜更けまで続いた
セルヴィはその騒がしさが三日月亭に居た頃の様で
少しだけ懐かしく感じるのだった