47 3級遺跡探索
一行はバルザックの郊外へと目指す
ガルムの計らいによりCランクに昇格した事で
立ち入り可能となったこの都市の遺跡調査の為だ
馬車での移動は不要と判断し、一同徒歩にて移動するが
セルヴィが一人やや顔を赤らめ、そわそわしている
「大丈夫?セルヴィちゃん
昨日の今日だもの、疲れが抜けてない様なら
宿で休んでてもいいのよ?」
隣を歩くプロメが声を掛ける
「い、いえ!大丈夫です!
体調は万全です!」
「あらそう?枕は固すぎ無かったかしら、ふふっ」
意味深な笑みを浮かべる
「だゃっ!大丈夫です!」
若干取り乱しながらより顔を赤らめ、セルヴィが答える
その原因は今朝の起床時に遡る
————————
「ん...」
微睡みの中からゆっくりと意識が浮かび上がる
布団に包まれた様に周囲がとても暖かい
(んぁれ...わたし...ねちゃった?きのう何してたんだっけ...)
ゆっくりと瞳を開くと、寝起き直後で焦点が定まらず
視界がぼやけるがすぐ目の前に何かある、程度しか認識出来ない
「ぁれ...私どこで...へっ?」
徐々に視界がハッキリしてくると
次第にそれが誰かの顔である事が分かる
「ぇっ...ええっ!?」
急速に意識が覚醒する
そこにはゼロスの顔が息の届く距離にあった
「目が覚めたか」
何時と変わらぬ様子で彼が声を掛ける
「ひゃ、ひゃい!おはようございます!」
急速に顔に血液が集中する
改めて認識すると彼の胸の中だった
どうやら泣き疲れてそのまま眠ってしまったらしい
気付くと毛布も掛けられている
恐らくプロメが持ってきてくれたのだろう
「ごごご、ごめんなさいっ!」
慌てて飛び起きる
「構わない、部屋に運ぼうかとも考えたのだが
深い眠りに入っている様子だった為そのままにした
どこか痛めてないか?」
「だ、大丈夫です!!ゼロスさんの方こそ
一晩中すみませんでしたっ」
「問題ない
もうすぐ朝食の時間のはずだ
一度部屋に戻ろう」
「は、はいっ!!!」
—————————
と言う訳で朝からずっとこんな調子である
その中で一人状況を理解していないのは
ただゼロス一人であった
「無理はするな、急を要する事ではない」
「はい!大丈夫です!」
改めて頬を両手で軽く叩き、気合を入れなおすセルヴィ
そうこうする内に一行は街はずれの
鎖にて立ち入り制限されている一角へと到着する
四方を鎖に囲まれたエリアは石と土である程度舗装されており
中央には地下深くに通じていると思われる石階段が口を開けている
その手前に管理関係者と思われる革製の軽装に
シンプルな槍を持った男が立っている
「止まれ、身分証を提示しろ」
3人はそれぞれの冒険者証を提示する
「OK問題ない
あんたらここらじゃ見ない顔だな
この遺跡は初めてか、目標階層は?」
そう言いながら男は冒険者証を見ながら
手元の書類に何やら記帳する、出入記録の様な物だろう
「最下層までだ」
「そうか、なら第六階層だな
救援隊の希望はあるか?」
「なんだそれは」
「ここは遺跡の中でも比較的浅いからな
もし2日経っても帰還しない場合は
捜索隊を編成して救援を送る
最悪の場合も骨だけは持ち帰ってやる
希望するなら一人金貨1枚だ」
「不要だ」
「そうかい、んじゃまぁ気をつけてな
大したもんは無いと思うが
もし何か見つけたら戻った時は
一度ギルドに提出しろよ」
「わかった」
非常にあっさりと通過する事となった
彼の業務では日常的事なのだろう
男の横を抜け階段を下り始める
セルヴィの緊張した面持ちへと変わる
階段を暫く下ると、すぐに日の光が届かなり
薄暗く視界が悪くなる
それを察してか、プロメが周囲のリングを
淡くグリーンに光らせる
決して眩しくない光でありながら
それは明確に周囲の地面や壁を照らす
やがて石階段が途絶えると、
周囲を掘削したような岩壁の先に
鉄製と見られる扉が大きく開いていた
中に入ると壁中が赤茶色に金属が腐食し
天井には電気式と思われる証明器具が埋め込まれていただろうと
思われる残骸が垂れ下がり、様々な配線や
何らかの配管と見られる円柱状の鉄の塊が
無数に垂れ下がり、壁同様赤茶に腐食している
フロア地面も所々めくれ上がり
コケや草等が至る所に散見される
この遺跡には魔物は基本的に居ない様子で
足元に気を付けて進めば特に障害らしい障害は無かった
「ちょっと待って」
プロメが静止を呼びかけ、皆が立ち止まる
「ん、進んで大丈夫よ
人体に害のないレベルだけど
微弱な放射能反応を検知したわ」
「発生源は分かるか」
「発生源と言うよりこの施設がずっと昔、被爆したようね
入口付近では核爆発に伴う種類の放射線を検知したわ」
「核融合兵器の影響か?」
「いえ、核融合兵器なら放射線を出すまでも無く
完全にエネルギーに変換し燃え尽きるずよ
これは初期の時代の核兵器に見られた特徴に近いわね」
「ふむ、何か他にも分かった事はあるか?
俺達の時代の物に近くも見えるが
見た事ない物ばかりだ」
「構造物から用いられている技術は
20世紀から21世紀頃と酷似してるわね
でも差異があるのと、構造材の年代測定から
この施設は1200~2000年くらい前ってとこかしら?」
「それなら俺達よりも、寧ろこの時代にずっと近いな
しかし技術的には、今よりかなり進んでいる様に見えるが」
周囲の壁も奥に行くほど、若干保存状態も良くなり
激しく風化しているが鉄筋コンクリートらしき物等
この時代の木材・石材建築より遥かに
進んだ技術力で作られている事が伺える
「ここはプロメさん達の時代の遺跡じゃないんですか?
確かに大分ボロボロですよね...
草原の時は壁もピカピカで、光もありましたのに」
セルヴィは先程の二人の会話から推測し
恐らくあっているだろうが確認してみる
「そうね私達の時代の物じゃないと思うわ
ちょっと似てるのだけどねー」
「そういえばフレイアさんが、教会の伝承で
この世界は4番目の世界、と言う様なお話をされてました
もしかしたら本当にゼロスさん達と私達の時代の間にも
別の世界があったのかもしれません」
「ふーん、4番目の世界...ね」
プロメが目を細める、そして一行は
そのまま調査をしつつ更に奥へ、下へと進んでいく
下に行くほど風化の影響は少なく、状態は良くなった
しかし腐食に対する技術が未熟だった為か
金属の類は殆ど錆蒸している
通路上の構造内を進むと、所々部屋が見受けられる
無作為にその一つに入り壁に枯れた長細い
腐食しきった金属の塊をゼロスが取り出す
「これは...銃か?」
「そうね形状だけ見れば20世紀頃から作られた
火薬で弾丸を打ち出す頃の自動小銃に似てるわ
でも似てはいるのだけど、内部を見る限り
火薬を撃発する機構が見当たらないのよねぇ」
「私も見ていいですか!」
セルヴィがゼロスの横に駆け寄り、同じものをもう一つ取り出し
じっくりと観測していく、そして通常の火器であれば
排莢の部位に当たる所で視線を止め、凝視する
「ん?...うーん...うん、やっぱり
この部分だけ見ると魔術回路が使われてるっぽいです」
「あら、それって魔具の中にある中枢部分のパーツの事よね」
「そうです、見た事も無い構造ですが
これは神機では無く魔法寄りの道具だと思います」
「なるほどねぇ...お手柄よ、セルヴィちゃん!」
「いえいえそんなっ」
満更でも無いと言う様子で嬉しそうにするセルヴィ
そして手に取った物を元の場所へと戻す
「取り合えず今は探索を進めつつ
最下層を目指すとしよう」
ゼロスの言葉と共に再び一行は
最下層を目指し、進んでいく
途中様々な小部屋を見かけたが、その殆どは
既に先に来た冒険者等によって持ち出されたのか
年月の経過による風化の為か、形を残していなかった
「結局何の無いまま、6階に着いちゃいましたね...」
程なくしてあっさりと最下層に到達した一同であったが
基本的な構造は上層階と変わらず
通路が張り巡らされ
その各所に小部屋が点在するだけであった
「無駄足だったか」
「いや、無駄かどうかはまだ決めるのは早そうよ?」
「何か見つけたのか」
「この下から微弱なエネルギー反応を検知したわ
微弱過ぎてこの階に来るまで探知出来なかったけど
恐らくこの下にまだ、誰も見つけてない階層があるのよ
どこかに入口があるはずよ」
「このまま破砕して突破するのはどうだ」
「せっかちさんは女の子に嫌われるわよ?
それは最終手段ね、この施設
あちこち限界まで痛んでるから
衝撃で一気に崩落する恐れがあるわ」
「そうか」
「わ、私はせっかちなゼロスさんでも好きですよっ!」
「?、そうか」
ゼロスが僅かに首をかしげる
言った本人は何やら急に顔を伏せ
そしてそれをニンマリしながらプロメが楽しんでいた
かくして6階層の探索を続け、程ない時だった
プロメが一室の前で立ちどまり一言
「ビンゴ」
自然の先には瓦礫の影になる様に
地面に回転式のつまみの様なレバーが飛び出していた