表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/123

46 救えた者・救えなかった者

「いやぁ、改めてあんた等にゃ礼を言うよ!本当に助かったよ!」


「ありがとうございやしたっ!」


「ふっ、我の助力になれた事を光栄に思うがよ

「おい」

 ありがとうございました」


バルザックギルドのテーブル席にて

至る所に包帯を巻き、治療を受けたであろう女戦士と共に

その仲間達がそれぞれ謝辞を述べる


「気にするな」


ゼロスが短く答える


途中女戦士が、一々痛々しいポーズを決める黒マントの男に

蹴りを居れるが、全員見なかった事にする


「それより、何で私達がギルドに呼ばれているのかしら

 もうここに来る用事はないはずだけど」


言い出しづらい事を連れてきた本人に直球でぶつけるプロメ

ゼロス達が再びギルドに来ていたのは、ガルムの申し出による物だった


「そう邪険にするなって、悪い話じゃねぇよ、ほら」


バサッ


そういうとテーブルを挟んで向かいに座るガルムが

3冊の冒険者登録証を並べて置いた


「俺達はこの組織のルールに違反したはずだ」


「ああ?俺はそんなの知らねぇな、誰かそんな物見たかぁ?」


わざとらしくギルド中の者に聞こえるように大きな声で話す

だが誰一人として、そこで声を上げる者は居なかった

既に事のあらましは周知されている様だった

畏怖・尊敬・警戒、一同様々な視線を向ける


「しかし、」


「いいじゃない、そう言ってるんだから貰って於けば」


プロメがテーブルから三冊の冒険者証を拾い上げる


「そういう事だ小僧、俺はお前等がまだ冒険者としての説明も聞く前に

 飛び出して行った際、落としたのを拾って預かってただけだぜ」


腕組みをしながらニカッっとガルムが歯を見せる

口調は荒く、がさつに見えるが、この街で冒険者を纏める長として

面倒見は良いタイプなのだろう


「すまん、助かる」


「はい、これはセルヴィちゃんの

 そしてこれは貴方の...あら?」


セルヴィに続きゼロスに差し出した際

プロメが何かに気付く


「どうした?」


受け取り自分の冒険者証を確認する

すると最初ページを開くとそこには明らかな変化が見受けられた

名前の横に貼り付けられているランクを示す

金型がEではなくCになっていた


「これは...」


「飛び級の条件、それは誰もが認める様な功績

 英雄的行動、そしてその成果として結果を出す事だ」


ガルムが口を開く


「魔物の残骸を武器職人に調べさせたが

 その外殻はミスリルより硬い事がわかった

 こいつ1匹を討伐に要する戦力はAランク以上の冒険者だ

 それも数百体を相手にした所か、生存者の救出も完璧だ

 その実力・献身的行動・人道的行為

 そしてそれを証明する物的証拠、証言出来る第三者の証人」


視線を救助した3人に向けると、リーダー格の女戦士が頷き

紙の束をガルムに差し出し受け取る


「これらの事からギルドマスター権限にて特例昇格処置により

 ゼロス・プロメ・セルヴィの3名をCランク昇格とする

 本当ならAにしてやりたい位何だが...

 すまんな、俺の権限じゃこれが限界だ」


恐らく先ほどの紙束は報告書の類の物だろう


「いや、十分だ」


そういうと腰元にしまう仕草を取りながら、次元収納に冒険者証を収める


「受け取ってもらえて何よりだ、ちょいとこの後

 特例昇格に伴っていくつか記入をしてもらいたい書類が有るんだが...」


「それなら私がやっておくから、

 貴方達は宿に先に戻っていていいわよ

 今日は色々あってかなり疲れているでしょうし、ね」


視線を僅かにセルヴィに送り、すぐにゼロスと目を合わせる


「わかった、後は任せる」


意図を察したのか、素直に

椅子から立ち上がり、出口へと向かう


「ありがとうございます!先に戻っていますねっ!」


セルヴィも続き、椅子から立ち上がり

プロメに一礼し、小走りでゼロスを追う

プロメはニコリと笑みを浮かべ、手の平を軽く振って見送る


「さて、記入はお嬢さんに任せるとして

 お前らも疲れてる所悪いんだがもう少し付き合ってくれ」


「構わないよ、助けてもらった恩義に比べればこの程度」


ガルムが傭兵3人組みに声をかけると

女戦士が立ち上がり健在振りを見せる

そして一向はギルド奥の応接室へと入っていった


———————


二人がギルドから出ると、既に日は落ち

天にはすっかり星空が広がっていた


セルヴィと並び彼女に歩調を合わせつつ、宿へと向かう

ギルドから宿までの道のりは人通りも多く

周囲の建物から煌々と挿す灯りにより

夜でも明るく活気立って見える


宿に着くと亭主の老夫婦が夕食の用意を整えており

1階の小さな食堂でセルヴィと共に食事をとる

スープに野菜を炒めた物、鶏肉を蒸した料理等

派手さは無かったが、食材の一つ一つに丁寧な下処理が施されており

手間を掛けられているのが分かる


食事を終えると2階の客室フロアへと上がり

隣同士の部屋へセルヴィと別れる

別れ際に彼女明るく挨拶を交わし自室へと入っていった


そしてゼロスも自室へ入る

室内には最低限の家具と、簡素なベットが二つ置かれており

その一つに腰を掛ける、特別高級な物ではないであろう

ベットがゼロスの重みでやや深く沈み込む


この宿を取ってから、このベットに横になった事はない

【横になる】という感覚がどうも落ち着かない為だ

ただ腰を掛け、両手を膝にあて、目を閉じる

これが彼なりの【休息】であった


閉じた目の中で、周囲の様々な情報を確認する

壁一枚挟んだ隣の部屋にはセルヴィの識別反応が出ている


ギルドから出て宿までの道中

宿に戻ってからの食事の最中も

彼女は非常に明るく色々な事を話し続けていた


しかし何か引っかかる物があった

だがそれが何なのかは今は解らない


30分程した頃だっただろうか

隣の部屋からセルヴィが移動していく事を確認する

気を使っているのか、ドアの開け閉めの音は非常に小さい


位置情報の表示で後を追うと

そのままフロア移動する事無く

同フロア施設の端まで移動して停止する

最初に施設構造を確認した際、そこはテラスだっただろうか

特に差し当たった異常ではない為、特に何をするという事も無い


しかしそれから1時間程したが、まだ位置は動かない


2時間、依然として位置が動かない

夜は若干外は肌寒さを感じさせる気温であり

この2時間も屋外に居続ける事に不自然さを覚える


彼女に対するフォローはプロメにも

きつく言われていた事も有り

念の為、確認の為に部屋を出る


客室の並ぶ廊下を隅まで行くと

テラスへと続く薄い扉が一枚

この先に彼女は居るはずだ

彼女を見習ってゆっくりと扉を開ける


扉を抜けると、正面には落下防止用の手すりが

外周に円を描くように広がっており

その手前に一組の椅子とテーブルが置かれる

非常にささやかなテラスであった


しかし肝心の彼女の姿は見当たらない

今一度位置情報を確認し、左右を確認すると

ドアの横の壁伝いの隅、手すりの横の壁に

普段着ている帽子を外し、上着や腰当を脱ぎ

肌着の状態で膝を抱えうずくまっていた


「大丈夫か」


「ひぅっ! ゼ、ゼロスさん...!?」


声を掛けるとビクリと体を震わせ

彼女が慌てて顔を上げると

その目元は真っ赤にはれ上がっていた


「えとっ、あの、何でもないですっ!」


急いでその目を両手の平の付け根でこする


状況から察するに彼女は泣いていたと思われる

そしてそれは恐らく何かの心的要因である事は間違いないだろう

しかし自分がどうすればいいか、ゼロスには解らなかった


ガシャ!


取り合えず彼女の隣の壁に腰を降ろし

そっと彼女の頭に手を当てる


「あぅ...っ」


一瞬驚いた反応を見せたセルヴィであったが

そのまま受け入れ、撫でられる


「...最初会った時も、こうしてくれましたね」


「落ち着けるかと思ったのだが、

 気分を害したならすまない」


一旦手を引くゼロス


「いえ、そんな事無いです...とても安心します...」


「そうか、それならばよかった

 君が何かを悲しんでいる事は解る

 だが俺には何を話せばいいか分からない」


共に壁に背を預け、顔を向けあう事無く星を見ながら話す


「だが聞く事位は出来る」


「...」


再び抱えた膝を抱くセルヴィ両手に僅かに力が籠る


「...今日のあの魔物って...あれがアデスなのですか?」


セルヴィが静かに口を開く


「ああ、そうだ」


「あれは...王都で私達を襲ったのと同じアデスなのですか...?」


その時ゼロスにも少女が何を思い抱いていたのか

引っかかっていた少女の違和感の正体に漸く思い至る


普段からセルヴィは明るく活発の少女であるが

ギルドからの帰り道も、食事の際も

彼女が会話を絶やす事はほぼ無かった

その様子は初めて出会い、森の中を言葉も通じぬ中

歩き続けていた時と全く同じだった

恐らくそれが彼女にとっての、不安を紛らわせる方法だったのだろう


 —救助した時の状況を鑑みるに相当な精神的ダメージを受けているはずよ—


合流した際、プロメの忠告の言葉が思い出される

再びアデスの姿を見た彼女が、その当時の悲惨な情景を

フラッシュバックしても不思議は無い事だった


「そうだ」


「ゼロスさんはあの後...王都がどうなったかを知っているのですか...?」


返答の言葉次第では彼女の心の傷を広げる事にも成るだろう

しかしそれを考慮した上で旨い言い方等、ゼロスには浮かばなかった


 —本当であれば人の心のケアは人がするのが一番良いのよ—


自信はなかったが、ゼロスはありのままを

そのまま彼女に告げる事にする


「都市はコードΩが発動された、コードΩというのは

 都市の中枢、奥深くに眠るゲートの封印が

 何等かの原因で万が一に解けてしまった際

 都市全体を現次元から切り離し、隔離する

 発生した次元障壁は120~150年程は維持されると推測され

 その間に準備を整えて対処する時間を稼ぐ為の

 最終フェールセーフシステムだ」


「中に居た人たちは...どうなったのですか...?」


「残念だが切り離された次空の彼方では

 生命体は生存出来ない...と言われている

 正確には誰も次空の先を見た事が無い為、確認出来ない」


「そう...ですか...」


「...」


「...」


再びセルヴィは俯き、沈黙が場を支配する


「あの魔物が王都に突然現れて...沢山...沢山...死んだんです...」


一滴の涙が頬を伝う


「わだしを...助けるだめに゛っ...!

 ジャッカスざんも...カイド兄ざんも゛、みがづきでいの皆もっ!」


一度溢れ始めた涙は筋となり、もう止める事が出来なかった

少女が今まで胸に溜め込んでいたであろう負の感情が一気溢れ

嗚咽が混じり、鼻もつまり呂律が回らなくなる


恐らく上げた名は共に都市で暮していた居た

又は親しい者達だったのだろう

森の道中で聞いた名も含まれて居る

あの最後まで戦っていたであろう老兵の名も

そこにあるのかもしれない


「俺がもっと早く駆け付けれて居れば、すまない」


「ち、ぢがうんです、ぞんなづもりじゃっ...あぅ!」


ゼロスはゆっくりと隣の少女を懐へ抱き寄せる


「すまない、俺には全ての人を救う事は出来ない

 だが、君はもう大丈夫だ。」


すると堰を切ったように顔を胸に押し付け

年相応の一人の少女の様に細く悲鳴の様に声を上げて泣いた


装甲が痛くないか?等とゼロスもこの状況で口にする事無く

そのまま少女が泣き止むまでゆっくりと頭をなで続けた


戻ってきていたプロメがテラスの扉越しに

状況を察し、扉を開ける事無く

ゆっくりと自室へと一人引き返していった


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ