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43 本当の化け物

「うぉおおらぁああっ!!」


片肩装甲の銀の女性用プレート鎧を纏い

髪を後ろで一本の三つ編みに纏め

眼帯を付けた金髪女戦士が

その身の丈程もあろう巨大なハルバートを振るう


ガキンッ!!


接触と同時に硬質な衝突音が鳴り響き

振るった先の昆虫型の魔物が弾き飛ばされ

平原の土を抉り地面へとめり込んだ


ボコッ...  キシシシシシ!


しかし程なくして、独特の鳴き声を上げながら

土の中からまるで何も無かったかの様に

先程の魔物が無傷の状態で再び姿を現す


「ふんっ!せめて腕の一本位は欲しかったが...やはり無傷か...」


ハルバートを横に突き立て、女戦士が呟く

足や腕には数多くの切り傷が刻まれており

既にかなりのダメージを負っている様に見える


「リ、リーダーぁ、逃げましょうよぉ!

 途中合流したA級のやつら(冒険者)もやられちまったし

 こんな化け物相手にB級の俺らだけじゃ

 どうにもなりませんよぉ!」


後ろで魔具の弓を構える気弱そうな男が涙目で訴える


「馬鹿いうなっ!あたしらがここで引いたら

 すぐ後ろはもう街だ、それに冒険者じゃないんだ

 普段高給の貰ってる分、傭兵の意地見せなっ!」


そう言うとハルバートを引き抜き

大きく振り回しながら再び近づいて来た別の魔物に切りかかる


「ひぇえっ!

 風のマナよ、その身を持って、敵を穿つ刃と成れっ!

 テンペストアロー!!」


男が弓を構え、焦りながら早口で詠唱を行うと

矢じりの先を小さな竜巻の様な渦が包む、そして弦が離されると

通常を弓矢を遥かに越える凄まじい速さで

1匹の魔物へとまっすぐ伸び、命中する


命中した瞬間、凄まじい風の塊が弾ける様に

周囲の草が激しく魔物を中心にその側に吹き靡く


それは弓使いの男がB級昇格と同時に

王都の傭兵専門の魔具装屋で特注して作らせた

丸太をも貫く程の貫通力に特化した魔具弓だったが


その効果は魔物を何歩か後ずさりさせるも

表面には傷一付ける事すら叶わなかった


「な、なんなんだよこいつらぁ!!」


「倒そうと考えるな!遅滞戦闘に徹しな!

 1分でも1秒でも時間を稼げれば

 それだけ助かる奴が居るんだ!」


数体の魔物と対峙しながらリーダー格の女戦士が活を入れる


「ふっ、いよいよ我の左腕に封じられし

 暗黒の力を解き放つ時が来たようd

「馬鹿な事言ってないであんたは支援切らすんじゃないよ!」

あ、はい...ウォーターボルト」


更に弓使いの横に居た、黒いマントを纏う

背も低くやや腹も出た残念な男が

包帯の巻かれた左腕を掲げ、何か言おうとしていたが

すぐに女戦士の怒号によりかき消される


その滑稽さとは裏腹に、手に持った杖状の魔具で

適確に女戦士の死角から、襲い掛かろうとした

魔物の足元に水流を発生させ、よろめかせる


そんな一見バラバラな事を言いながらも

3人の連携は非常にレベルの高い物であった


「助けた冒険者パーティの生き残りの奴

 ちゃんと街につけましたかね?」


「そう願うしかないねっ

 ただ救援何か期待するんじゃないよっ!

 バルザックにゃ、これ以上戦力に成る冒険者なんざ

 鋼腕のガルム位しかいないだろうからね!」


敵の攻撃を捌きながら

気弱そうな男の僅かな希望を打ち砕く


「男が何時までもメソメソしてんじゃないよっ

 腹くくんなっ! うぐっ!」


魔物の六本の鋭い釜の様な腕の一つが小手付近を掠める

頑丈な皮と魔法合金ミスリルを繋ぎ合わせた装甲が

まるで紙切りの様に一瞬にして切断され、かすり傷を負う


躱すのが後僅かに遅れていれば、腕が落ちていただろう


(こいつはいよいよまずいね...)


全員で一体に集中すればどうにかなるかもしれない

しかし敵は一体では無かった

今自分の正面に対峙する3体の他に

背後の平原には見渡す限り無数の数百という、同型の魔物で溢れていた


「ひえぇっ!来るなっ、来るなぁっ!」


弓使いの男の悲鳴に気付き、慌てて後ろを見ると

そこには1体の魔物が真横から急襲を受けていた


「ちっ、横から抜けたかっ!

 神々の雷よ!我に纏いて神光を示せ!

 神速雷光!!」


魔具起動詠唱を唱えると手に持つハルバートから

僅かな光が、全身に伝わる


「うぉおおおおおっ!」


先程より数段素早い動きで弓使いの元へと駆け寄り

魔物を薙ぎ払うと、そのまま片膝を付く


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」


「リーダーっ!すまねぇ、俺の為に無茶をっ!」


弓使いが女戦士へと駆け寄る


奥の手であったのだろう

うずくまった女戦士は肩で息をし

その疲弊が強く見て取れる


すぐ隣では前衛が抜けた穴を

杖使いの小太り黒マントの男が

必死に足止めを試みている


「はぁ、はぁ、馬鹿!配置を離れるなっ!」


その時だった


キシシシシシッ!


すぐ背後から魔物の鳴き声が耳に届く

先程吹き飛ばした個体がもう体制を整えて反撃に来たのだろう


「くっ!」


咄嗟に女戦士が目の前に居た弓使いを突き飛ばす


弓使いの目には、普段の男勝りの様な険しい表情では無く

初めて見る様な、優しい顔をする女戦士の表情と

その背後には一斉に6本の鎌状の腕を広げ

今まさに襲い掛からんとする魔物の姿があった


「リーッ…!」


ザンッ!!


ゴロン...


次の瞬間、諦めかけた女騎士のすぐ横に岩の様な物が転がる


巨大な顎持ち、触覚の様な物を生やす、魔物の頭部だった


女戦士が慌てて振り返ると、全身漆黒の鎧を纏い

淡く翆色に光が刃に走る漆黒の剣を持つ男が立っていた


「接敵した、インファント級アデス確認、殲滅する」


男は一切此方に視線を向ける事無く

ただただ魔物へと目を向け

何か口にしたかと思うと

疾風の如く一瞬にしてその場を跳び去り

近場に居た他の魔物3体を一瞬にして切り捨てる


あれ程の巨大なハルバートを全力で振りぬいても

表面の甲殻に傷一つ付ける事すら叶わなかった魔物達が

まるで訓練用の藁人形を切り裂くかの如く両断され

細身の漆黒の刃は翆の残光を残し、その体をすり抜けた


そして男はそのまま休む事無く

溢れかえる魔物の群れの中央目指し

真っ直ぐ突進していった


「助かった...のか...?」


「リーダー!大丈夫ですかっ!」


弓使いが慌てて駆け寄る


「ふっ、煉獄の定めを背負う我に天界は

 漆黒の堕天使を使わした様だな」


左手で顔を覆いながら痛々しいセリフを吐く

杖使いの言葉に耳を貸す者は居なかった


「あ!あれを見て下さい!」


弓使いが背後方向を示す

そこには1台の馬車と、大柄の男が一人

馬に乗り、猛スピードで此方へ向かってきていた

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