39 各種試験
「それで、登録したいんだが、出来るのか」
何事も無かったかのようにゼロスがカウンターの女性に催促する
「あ、ああ...登録ね、誰が登録するんだい?」
唖然としていた受付嬢が我に戻り答える
「3人全員だ」
「そうかい、じゃあ試験の受講はその合否問わず
1人金貨2枚、合格した場合は更に登録に金貨1枚だ
冷やかしに付き合ってやるほどこっちは暇じゃないんだ」
「わかった、これでいいか」
受付に金貨6枚を並べ支払う
宿泊施設が1泊食事付で銀貨数枚とすると
その料金はかなり高額だ
「へぇ...金はあるようだね、十分だよ
それで、試験はそれぞれ何を受けるんだ?」
「試験には複数あるのか?」
「なんだ、そんな事も知らずに登録しにきたのかい
あんたら辺境のおのぼりさんか何か?
んまいいわ、案内が私の仕事だからね
あんたは何が得意なんだい?」
「戦う事だ」
そんな漠然とした言い方じゃっ!と
あわてるセルヴィだったが
「じゃあ、あんたは戦闘実技試験①だね
んで、そっちのお嬢さんは...
あれだけの物見せたんだ、特・魔術適性試験だね
そこのおチビちゃん、あんたは何ができんだい?」
何の問題もなかったようですんなりと
二人から順に適切と思われる試験内容を振り分けて行く
最後にセルヴィを見つめて問う
「え、あっ、私は魔技師として冒険者に登録したいです!」
他に具体的にどの様な方法で冒険者になるのかは知らなかったが
魔技師であれば冒険者に成れるという事は聞いていた
「へぇ...あんなみたいなおチビちゃんがねぇ...
まぁいいさ、んじゃ推薦状を出しな」
「すいせんじょう...?」
「何だい、それも知らないのかい
魔技師での登録は国家指定を受けた魔技工房から
書面で推薦状を書いてもらわないと登録は出来ないんだよ」
「え、えと...あの...」
魔技師として登録出来る事は知っていたが
それには具体的にその様な物が必要だとは知らなかった
本来であれば自分が冒険者になるのはもっと先の事と思い
そこまでまだ具体的に必要事項を調べてはいなかったのだ
「俺が持っている、これでいいか」
横で聞いていたゼロスがおもむろに封書を受付に差し出した
「ぇ?え?それって…」
「村で彼から預かっていた」
「い、いつの間に...」
「どれどれ...って、これはっ!双銀の魔技師の魔術印じゃないかい!」
受け取った封書に目を通していた受付の女が声を上げる
「双銀...って何ですか?」
不思議そうにセルヴィが尋ねる
「あんた...これ貰った人が誰か知っているのかい...?」
「小さな村の魔技師の師匠からですけど、」
「はぁ...まぁいいわ、推薦状ならこれで文句は無いよ
あんた、文字の読み書きは出来るね?
あんたにゃ簡単な筆記試験を受けてもらうよ」
後は試験費用の支払いだ
試験の種類に問わず、その合否問わず一人金貨2枚
払えるかい?」
どうやらドミルは只者では無かったらしい
受付の女性がカウンターの奥に声をかけると
同じ制服を着た彼女より少し若めの女性が現れる
「こちらへどうぞ」
カウンターから出ると、すぐ横の扉の一室へと彼女を誘導する
「い、いってきます!」
「ああ、」
「行ってらっしゃい、貴女なら大丈夫よ、リラックスして」
セルヴィは緊張気味に一室に入っていく、一瞬見えた室内は
座学用と見られるいくつ物机が並び、教場の様にに見えた
恐らく筆記試験の会場は様々な用途で普段は使われているのだろう
公的機関の施設、ギルド内なら大丈夫だとは思うが
二度と昨夜のような鉄は踏むまいと
ゼロスは識別信号で彼女の位置を常に確認する
「さて、んじゃ簡単な方から先に終わらせちまうかね
よいしょっと...」
係の者と少女が試験室に入るのを確認すると
カウンターしたから何やら大掛かりな
歯車等の機械仕掛けの台座の上に水晶玉を載せた様な形状の
魔具と見られる機械をカウンターの上に据える
「特・魔術試験は特に魔法適性の高い者を見極める試験だ
適正が高ければ魔具の魔術効率が高いからね
そういう人材は逸材として
ギルドの定める既定値超えれば一発OKさ
簡単だろう?、
さっ、お嬢さん、ここに手を触れとくれ」
その様子を黙ってみていたゼロスが考え込む
(まずいな、これが何等かの魔法的検査機械だとすると
俺もそうだが、人間でないプロメもにも反応しないはずだ
そうなれば厄介だ...)
横目でプロメを見やると、それに気付いたプロメが
問題ないと言わんばかりに、一瞬ニヤリとして見せる
何か策があるのだろう
「さぁ、早くやっとくれ!」
「はいはい、この玉の部分に触れれば良いのね?」
せっつかれたプロメが一歩カウンターへと歩みより
そっと右手を推奨に翳し、ゆっくりと触れる、すると
ジジジッ、バリッ!! パァアン!!
僅かに放電したかと思うと次の瞬間はじけ飛んだ
「なっ!」
受付の女性が驚愕の表情を浮かべる
「いやいやっ、特魔試験何て久々だったから
魔力観測レンズが古くなってたかしらね
ちょっと待ってて頂戴!」
慌てて奥の物入れの中から、先程砕けた物と同様の水晶玉を取り出し
小走りで戻ると、再び同じ場所に取り付けた
「さぁ、もう一度試しておくれっ」
「ええ、何度でも構いませんよ」
焦り気味の受付女性に対し、余裕を持ち笑みを浮かべながら答える
再び手をプロメが手を翳すと
パリンッ!!
結果は先程と全く同じになった
機械なら壊してしまえばどうと言う事は無い
実にシンプルな答えだった
「そんな馬鹿なっ...計測不能な程膨大な魔力だとでも言うの?!」
「お、おいやっぱり本当に雷帝なんじゃ…」
「そんな奴が今更冒険者登録なんかするかよっ」
「第一、女の雷帝か聞いた事ねぇよ!」
「まさか...エルフかっ?!」
「それこそあり得ねぇって、御伽噺かよ!」
驚嘆の声を上げる受付嬢に続き
食い入るように見ていた周囲の者達も
目の前で起きた理解不能な出来事に己の知識の中から
何とか整合性をつけようと次々推測を口にする
どうやら魔法の力ではない事には気取られてない様である
「で、合格で良いのかしら?」
再び場が静まり返る
「えっ、ええ、そうねっ、そうなるわね
この用紙に必要事項を記入して頂戴...
文字が書けるかい?」
「ええ、大丈夫よ」
プロメがさらさらと書類に必要内容を記入して行く
「んで...最後はあんたな訳だけど」
プロメに書面を渡すと受付の女性がゼロスに向き直り
怪訝そうな顔を向けてくる
「あんたもなんか変な物ってたり
出来たりする訳じゃないだろうね...
獲物は...その腰の剣かい?」
「ああ、そうだ」
「ふん、そうかい、じゃあここにいる腕利きの奴で
立会い役頼めるやつぁいるかい!報酬は銀貨5枚だ!」
カウンターから大きな声でギルド内の冒険者達に声をかける
「お、おい、お前やらないのかよ?
新米との立ち会いなんか儲け話じゃねぇか…」
「ならお前がやれよっ!」
「パス、何かあいつら普通じゃねぇよ…」
皆近場の者とこちらをチラチラ見ながら話し込んでいる
「ったくどいつもこいつも何ビビッてやがる!
居るんだよな、従者に恵まれてそれを自分の力だっ手勘違いしてる奴」
そんな中一人、ライトアーマーを着た筋肉質の男が席を立った
顔や鎧の隙間から見える体には多くの傷跡が見て取れる
ライトアーマー自体も多くの擦り傷や凹みがあり
かなり使い込まれている様だ
「ずいぶん綺麗な鎧と面だなぁ、舞台役者かよ
戦闘試験なら装備が有れば簡単に通れるとでも思ったか?
俺が居るときで運が悪かったなぁ小僧」
そのままゼロスに歩みより顔を突き合わせて威嚇する男
「ありゃーかわいそうに」
「あのルーキーボコボコだわ」
「よりにもよってこのギルドNo1に目付けられるとは」
「腕の1本や2本で住めばいいが」
先ほどまで萎縮していた連中がトラの威を借りたように
余裕を取り戻し語り始める
それだけこの男は連中の中で一目おかれているのだろう
「ここで一番の腕利きはあいつじゃないのか?」
突然ゼロスがその雑多な野次の中の一つに答える
次の瞬間一気に場が凍りつく
顔を付き合わせた男の額にも汗が浮かぶ
ゼロスが向けた視線の先は、ギルド奥のバーカウンター内に立つ
頬に傷を持つ褐色のスキンヘッド男だった
「ほぅ...」
男がゆっくりとカウンターを出て受け付け前に立つゼロスに歩み寄る
「ガ、ガルムさんっ」
ゼロスを威嚇していた男が、たじろぎながら数歩後ろに下がる
「小僧、どうしてそう思った」
重く、渋みのある声で男が問う
目の前に立つと、それなりの身長を持つゼロスが
顔を若干上げねば成らぬ程巨体だった
先ほどの男の体格もそれなりに鍛え上げられた者だったが
このガルムと呼ばれた男の前では一回り小さく見えた
「カウンター裏の武器、服の中に着た鎖帷子、そして立ち回り
その全てに一切の無駄が無い
この中でもっとも常に実戦を意識してたからだ」
淡々と答える
「ふっ...わっはっはっはっ!!」
男が豪快に笑う
「面白いじゃねぇか小僧、おいリンダ!
試験官もかねてこいつの立会いは俺がやる、いいな!」
それは受付の女性の名だったのだろう
反応して女性が飛び上がる
「は、はいっ!わかりました...ギルドマスター」
どうやらこの男がここのトップで間違いなかった様だ
「改めて俺はここのギルドマスターをしているガルムだ
小僧、名前は?」
「ゼロスだ」
「そうか、じゃあ早速だがついて来い、
ゼロス、お前の試験は俺がやってやる」
そう言うとガルムはそのままバーカウンター横にある
裏手のドアを開け、外に出て行った
プロメが【わかってるわね?】という視線をこちらに向ける
僅かに頷き、彼の後を追い外へと向かった