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31 一難去ってまた一難

この数日の観測から地球の自転周期に大きな誤差は見られず

1日の長さはほぼ24時間と変わって居なかった

数分のずれがあったがそれも母艦との演算リンクにより修正出来た


日が昇り間もなく午前7時には出発を開始し

馬車道を進み続け3時間程が経過しようとしていた


幸い会話が出来る様になった事とプロメの存在もあり

彼女達との関係構築が円滑になった様に思える

聖職者の少女(フレイア)は俺達に対しを若干誤った認識を持って居る様だが

まぁ...そのままでも然したる問題ではないだろう


正面に緩やかな幅広の丘が見え始めた頃だった


「あ、もうすぐですよ!

 あの丘を越えればアール村です!」


セルヴィが馬車内から正面に顔を出して告げた

徐々に丘を登り地平線の向こうが見えてくる


眼下に広がった盆地には木製の柵で周囲を囲い

統一性の無い大小様々な建造物が多くて100程度散発的に広がっていた

その多くは木製や石造り等の建築素材で作られている様に見える


「ほんと、逆にまるで私達が過去に

 タイムスリップしたみたいな光景ね」


プロメが続ける


「ところでセルヴィちゃん、貴女の村って人口ってどれ位?」


同じく前方の景色に目を向けていたプロメがそのままの姿勢で口を開く


「えっと大体300人位の小さな村ですよ?」


「そう、随分とお客様が多いみたいね」


「え?」


セルヴィが身を乗り出し、じっと村の方を見つめる

坂をゆっくりと下り、村が近くに成るにつれ

その詳細が見えてくると

普段の村の様子とは明らかに違っていた


外周を覆う木製の柵の外側には所々馬車、人が散見され

木箱や大きな布袋と言った物資などが並べられており

村の広場と思われる場所には群衆が集まっている様に見える


ぱっと見ただけでも恐らく村人全員より遥かに多く

1000人は居ると思われた

セルヴィは胸に一抹の不安を抱きホロを掴む手に僅かに力が入る


村の入り口まで来ると左右に甲冑を纏う衛兵らしき者が2名立っている

その手前で馬車を止めると若い衛兵の一人が此方にゆっくりと近付き


「あなた方も王都から避難して来た方々ですね、無事で何よりです

 今この村は避難民で溢れております、代表団の者が受け入れについて

 只今話し合いを行っておりますので

 新規到着の方は少々、外周で待っていて待機していて下さい」


周囲を改めて見やると

そこには市民や冒険者、女性や子供、老人等も居る

皆疲れ果てた顔をして座り込んだり、焚き木に当たったりしている


「い、いえ、私はこの村の者でセルヴィと言います!」


「この村の方でしたか、失礼しました

 何分緊急時故、少し確認のお時間を頂けますか?」


「は、はい分かりました...

 皆さんもいいですよね?」


隣に居たゼロスを見ながら問う


「ああ、構わない」


ここは彼女の判断に異論は無いと皆受け入れた

兵士が一人そのまま村の奥へと消えて行った


程なくして、村の中から小柄な白髭を蓄えた年配

その割にはしっかりとした肉付きの男性が小走りで掛けて来た

その背後には少し遅れて歩きながら先程兵士が戻ってきている


「ぉーい!」


「!、ドミルさん!只今帰りましたー!」


ドミルと呼ばれた年配の男に答える様に

馬車を降りセルヴィが手を振る

どうやら顔見知りの様だ


「お前さん無事じゃったかっ!!

 よかった!あーよかった!!」


目の前まで来るとドミルは彼女を抱きしめてそう言った

すっかりその腕の中に納まるセルヴィ

彼女とはかなり近しい関係の者なのだろう


「ところで、そちらさんは?」


抱きしめていた腕を離すと馬車を見やり問う

彼女と行動を共にしている事から推測したのか

その目には警戒心と言った雰囲気は見られない


「ここまでの間、助けて頂いた方々です

 こちらの方達が居なければ私はここに居ませんでした...」


「そうじゃったか...色々あったんじゃのう

 儂はこの村で魔技師をしているドミルという者じゃ

 こやつは儂の孫の様な存在なんじゃ

 助けてもろうて本当にありがとう」


ドミルが深々と馬車の一同に頭を下げる


「こんな所で立ち話も何じゃ

 中でゆっくり話そうじゃないか、よいな?」


左右の衛兵に確認を取る


「分かりました、技師殿が身元を保証されるのでしたら大丈夫です」


衛兵が左右に寄り村の入口を開いた


「ふむ、それは風の動力魔具の4号じゃな、

 どれお嬢さん、良ければ儂が変わろう」


「すみません、御願い致します」


馬車の動力魔具を見つめたドミルがそう提案し

操縦を変わりフレイヤが荷台へと移動する

そしてドミル手綱を握りゆっくりと魔力を込めると

再び馬車はゆっくりと村の中へと移動を開始する


「ドミルさん一体何があったんですか?」


「難民じゃよ、何やら王都でとんでもない事が起きたそうじゃないか

 昨晩急に村に集まってきよった

 本当にお前さんを心配しとったんじゃぞ?

 あの馬鹿弟子は、一緒じゃ無いんじゃな...」


「はい...」


しばしの沈黙が続いた、そんな時


「...!!」「...!!」


突然複数の荒げた声が響いて来た


広場で村の代表と思われる一団と派手な甲冑を纏う

小太りの男とその周囲には先程の門の衛兵の様に統一感は無い

各々武装した私兵と思われる者達が固め

その背後からは避難民団と思われる群衆が声の限りを上げている


「自分達が良ければそれでいいのかっ!!」

「もう何日も水すら口にしてないんだ!!」

「女子供や老人だっているんだぞ!」


群衆が次々と怒気の声を上げる


「いえ、ですので可能な限りの支援はさせて頂き...」


村の代表と見られる顔中に皺の入った年配の男性が答えるが


「だから報酬なら支払うと言うておるではないかっ!

 我は王族に連なる大貴族シュヴァイン家当主っ

 ドゥム・シュバインなるぞ!

 この傷つき飢えた者達が貴様らには見えぬのかっ!」


貴族がわざとらしく両手を上げ民衆を見回す


「ですので無い物は無いんです!」


代表と見られる男の横に立つ中年の男が必死に訴える


「ええい話に成らん!直ちに村の食糧庫を明け渡し

 その管理を我々に委ねるがよい!足る足らぬは此方が判断する!」

「そうだ!独占するなー!」

「飢えた者優先だ!」


状況は再び繰り返した


「...」


一同その光景を黙って馬車から見つめる

広場を通り過ぎそのまま暫く馬車を進めると

小さな村の更に郊外にポツンと一つの木製の平屋が見えて来た


その隣に馬車を付け動力魔具を停止させると

年配の男性が馬車から居り建物の入り口の鍵を開けた


「さ、狭いところじゃが入ってくれ」


一同促され馬車を降り、建物に入ると

中は床・壁共に気張りの木製で天井には太く頑丈そうな柱が組まれている

幾つかの椅子とカウンターと見られる机の奥には

大小さまざまな工具らしき道具が所せましと並べられ

機械の様なモノ、恐らく魔具だろう物があちらこちらに転がっていた


「今茶を用意する、適当に座っててくれ」


入口とカウンターの間に於かれたテーブルと周囲の椅子にそれぞれ腰を掛ける


「あの、こちらは?」


フレイアがセルヴィに尋ねる


「ここは私が村に居る間ずっとお世話になっていた魔技工房です!

 ドミルさん一人で切り盛りしてて村の魔具や普通の道具の修繕何かも

 請け負ったりしてます、皆顔見知りだからってお店に名前は無いんです」


「まぁ...ではここはセルヴィさんのご実家の様な所なのですね」


「そうですね!子供の頃から入り浸ってますし」


「お父様お母様にはご帰還をお知らせしなくてよろしいのですか?」


「あはは、私、こんな(無属性)ですから

 お父さんもお母さんも居ないんです

 ドミルさんが私のお父さん、というかおじいちゃんの様な人です」


そっと左手を示しながらセルヴィが明るくそう告げた


「申し訳ございません...大変失礼な事を伺ってしまいました」


「いやいや!良いんですよ、もう気にしてませんから!」


セルヴィは影を見せる事無くいつも通りの明るい笑顔を見せた


「おまっとさん」


その時工房の奥から湯気の立つ湯飲みを盆に乗せ現れた

一人一人の前に茶を置き、最後に開いてる席に自分も座った


「改めて皆さん、こやつ(セルヴィ)の事、本当に感謝する

 そして良くぞ無事に参った、本当になによりじゃ」


座りながら今一度軽く頭を下げる


「しかしどえらいベッピンさんが二人も!」


「あらお上手」

「いえ、私もこの方々に助けて頂いた者で、」


それぞれに返す


「それにあんた...ただ者じゃないな?」


眼光鋭く改めてゼロスの鎧を繁々と見回して言う


「…」


彼は何も答えない


「まぁそんな事ぁ良い、孫の恩人に変わりはない

 さて、今の村の状況じゃが...見ての通りじゃ」


「王都の避難民は一気に押し寄せ村の許容を完全に超えてしまったのね」


プロメが透かさず答え、ゆっくりとドミルが頷く


「このままだとまずいわね

 逆算すると王都から碌な遠征の準備もせず

 着の身着のままで逃げて来た避難民はもう何日も

 満足な補給も受けれないまま歩き続けて来た事になる

 精神状態も限界だわ」


「その通りじゃ、儂も魔技師として難民達の魔具の修理に出向いとるんじゃが

 飲料水生成用の魔具によって何とか飲み水は確保しておるが

 栄養失調に陥ってる者は多い、いずれ餓死者も出始めるだろう

 恐らくここに来るまでの道中でも既に犠牲者も出とるはずじゃ」


「実際村の食糧はどうなのかしら?」


「この所不作が続いておってのぅ

 村の者の分も満足に確保できておらん

 先月も二度、外から一部食材を買い付けた位じゃ」


「早急に何とかする必要があるわね

 恐らくあの貴族とやらが群衆の疲弊に託けて

 大儀の元、武力による強制徴用を始めるのも時間の問題よ」


「そうじゃ...難民の中には避難民を誘導してきた

 王都の軍隊や貴族の私兵と言った傭兵崩れも混じっとる...」


一同沈黙が続く、そして


「食糧か、」


意外にも最初に口を開いたのはゼロスだった


「プロメ、ドローンのレプリケーターで効率を重視した場合

 この人数の食糧をどの程度なら生産可能だ?」


「そうねー味の保証はしないけど人が生きるのに必要な分なら

 触媒の残量からするに一か月分位なら出来ると思うわ」


「な、何の事じゃ...何を言うとる?」

「まぁまぁドミルさん!後で私が説明しますから」

「おぉ神よ!」


それを聞いた3人が思い思いの声を上げる


「ならば」

「無理ね」


ゼロスの言葉をすぐに塞ぐ


「もうそれだけでこの爆発寸前の状況は収まらないわ」

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