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30 これからこの世界で

胸部埋没殺人未遂事件から数時間

辺りは完全に闇に包まれ、頭上の月皓々と淡い光を降らしていた


パチッ...パキ...


焚き木が時より心地良い音を立てる

少女二人はその横で炎の明かりに照らされながら

敷かれた布の上で小さく寝息を立てている


少し離れた所で枯れた丸太にゼロスが腰掛ける


「どうだ?」


すぐ隣にプロメが星空を見上げながら立っていた


「うーん...公転軌道も最終作戦の影響でずれてるかもしれないし

 ドローンの光学センサー程度じゃ地上からの観測じゃ正確な事は言えないけど」


「大体で構わない」


「そうね、少なく見積もっても何十万

 大きければ数百・何百万周期は経過してるわね

 そりゃ永久機関も止まる訳よ」


「っ...」


思わず息を飲む

相当数な年月の経過は覚悟はしていたが

正直そこまでとは考えて居なかった


「次に艦の事だけど」


冠せずとプロメが続ける


「あ、ああ...」


「先の砲撃支援で、レーザー群の殆どのレンズが焼け付いてしまったわ

 恐らく長年の劣化でコーティングがダメになったのね

 小口径支援砲撃が後出来て1度か2度

 残念な事に艦の修理ドローンは全て活動を停止、修理も無理ね

 左右の主砲は生きてるけど多分これも1後発づつが限度」


「そうか...」


「次、ここからが本題なのだけど

 貴方のセンサーに不具合は無かったわ」


「ではあの動物はまだしも、何故他の人間、

 あの少女は識別センサーに反応しない」


焚火の傍で眠るフレイヤに視線を向ける


「まずあの魔物と呼ばれる攻撃的生物については

 アデスとしてのデータも特徴も無いけれど

 体内からアデス因子を検出したわ」


「っ!」


「どの様な経緯であの様な生物が産まれたのかは分からない

 生き残ったアデスが独自の進化...外敵不在により退化したのか

 又は自然界や人類施設に保管されていた遺伝子情報を取り込んだのか

 又は元の自然が影響を受けてアデス因子を取り込んだのか

 今の時点では情報が足りないわ」


「そして...こっちの方が問題なのだけど」


続けてプロメが口を開く


彼女フレイアからも同様のアデス因子を検出したわ」


「なっ!!」


思わず腰を上げ声が漏れる


「シッ、彼女等を起こしちゃうわよ?」


「すまん...」


直ぐに浮いた腰を丸太の上に戻す


「そして彼女セルヴィからは検出されなかった

 ここからは推測になるのだけれど

 この世界で大多数の”人”が行使出来る魔法という未知の力...

 あれは恐らくアデス側の次元の法則に由来する技術じゃないかしら」


「...成程、確かにあれはアデスが周囲に発生させる力場

 特有の力の変質した姿とも見れなくはない」


「そして彼女自身は魔法が使えない自分の存在は稀有だとも言っていたわ

 魔法が使える使えないというのはアデス因子に起因するのじゃないかしら?

 と言ってもまだ観測対象が少なすぎるから

 可能性の一つだけどね」


「だが話の筋は通っている

 しかし何故人がアデス因子を...」


「それもまだ分からないわ、

 動物側と同じ様に、何かの拍子に目覚めた人類の生き残りが

 新たな環境に適応する為に、独自の進化を遂げたのかもしれない」


「ふむ...」


「そこで、マスターに一つ確認します」


普段のおどけた様子は一切無く

真剣な表情でゼロスを見据える


「どうした」


「既に当艦における最後の生存者、艦最高責任者マスターは03、貴方です」


「...」


「艦AIとして現在アデス因子を持つ人類に限りなく近い外観の生命体を

 私は守護対象である人類として定義する事が出来ません

 マスター、貴方は彼女、及びに恐らく他に多く居るであろう

 この時代のアデス因子を持つ者達を人類と認識しますか?」


ゆっくりと立ち上がりプロメテウスに正対する


「当然だ、彼らは俺が、俺達が守るべき人間だ」


レールガンを託し逝った初老の男も

聖職者の少女を頼むと言った男も

そしてその少女も、間違いなく人だった


瞳に確かな意思を込めて告げる

僅かな間の後、プロメがゆっくりと目を閉じ

普段の雰囲気に戻る


「りょーかい、艦AIプロメテウスはマスターの判断を支持します

 そして今後はどうするつもりかしら?

 とりあえずこの時代の人類は差し迫った危機は見られないようだけど」


「一番の懸念事項はゲートだ、情報は集まったか?」


「次元の歪みの計測結果から、コードΩは正常に動作した様ね

 一番重要な問題ではあるけれど幸い時間はあるわ

 大丈夫よ、少なくともあの子の孫が老いて亡くなる位までは持つはずよ」


ちらりとセルヴィを見やる


「そうか、だとすればまずは情報収集、それに...

 破損個所の修理は可能か?」


頭を指で示す


「補助量子脳の修復には超電導液体金属か、又はそれに代わる

 液体人工純金が必要ね...ただ後者はあの時代でも稀少だからまず無理ね」


「とすると超電導液体金属か...この時代あると思うか?」


「さっきのマイクロウェーブ送電施設を見る限り

 まだかなり良い状態で当時の施設が残ってる場合もあるみたいだから

 施設によっては十分残ってる可能性はあると思うわ」


「ふむ...だとするとその為にも情報収集、特にこの時代で遺跡と呼ばれる

 俺達の時代の施設に関する調査が当面の活動方針だな」


「なら冒険者なんてどう?

 色々な国家や機関が遺跡への立ち入りを管理、制限してるって話よ?

 冒険者は遺跡調査を生業にして許可も下りるって話だし

 特に情報も集まりやすいんじゃないかしら」


「そうだな、まだ世界規模の共同体を築けて居ないこの時代で

 この情勢や勢力図に影響を与える事は割けるべきだろう

 冒険者か...明日、集落につけば

 より多くの情報が入るはずだ、含めて検討する」


「そうね、じゃあ今日は貴方も、もう休むと良いわ」


「何を言っている、俺に睡眠は必要な...」


「体はね、でもこの前食事してどうだった?」


「...」


何か物を食べる等と言う行為は何十年もしていなかった

それも料理という形態での摂取は最早数百年無かった行為だった


最後に口に含んだのも最低限人間が生存する為だけに産み出された

無味に僅かなフレイバーを含ませただけのプロテインバーであった


ーーーーーーーーーー


「兄ちゃんありがとう!これあげるよ!」


少年が泥だらけの手で一本のバーを差し出す


「いや、俺はた...」


「たくおめぇはよぉ!ボウズ、ありがとな!

 後でこいつの口の中詰め込んでおいてやるよ!」


言葉の途中で隣から肩に08と掛かれた

別色のスーツ纏う大男が少年からバー受け取る


「僕も何時か絶対強くなって兄ちゃん達みたいに

 アデスから皆を守るんだ!」


「おうボウズ!お前が次のガーディアンだ!

 待ってるぜ!」


手を振りながら少年供は難民キャンプの奥へと駆けて行った

大男が顔に似合わずニカリと手を振り返す


「お前が助けた小僧だろう、最後まで面倒見てやれよ」


「しかし俺達は携口食など...」


「かぁーっ!あんな無茶して子供一人助けて置いて何言うかね

 心が熱いんだかねぇのか良く分かんねぇ奴だな

 良いから食え!」


「んぐ...!」


ねじ込まれたバーは口の中で砕け

砂となり口内の水分を奪っていく


「そいつ小僧の気持ちなんだ、受け止めてやれ、なぁ****」


そのまま黙って咀嚼し消化ユニットへと流し込んだ


ーーーーーーーーーーー


「確かに必要はないわ、でもね貴方は人間なの

 人の心は必要があるか無いかだけで動く物ではないのよ」


しばしの沈黙の後


「分かった...見張りを頼む」


「うんうん、素直で宜しい」


ゆっくりと近場の岩を背に腰掛ける

そのまま片膝を抱え瞳を閉じる


プロメは一人星空の下、少し高い岩の上にそっと腰かけ

その様子を一人優しく見守っていた

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