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29 バンドラの箱を開けた古の人類

日が沈み始め、茜色の夕日が馬車へと差しこむ


草原を抜け、舗装されては居ない物の草木が刈られた馬車道へと出る

地形がスムーズになり馬車のスピードが上がった事で

恐らく翌日の朝には村に到達出来ると思われた


ゼロスは何時も通り、馬車後方の隅に座り

外に視界を向け、辺りを警戒してくれている


「あの、どうしてエンシェント方々は居なくなってしまったのですか?」


正面に対面する様に座るプロメにセルヴィが声を掛ける


「気を使わなくていいわ、貴女達から見れば

 何故私達の古代文明が滅びたのか、という事ね?」


包んだオブラートを全て引きはがし突きつけて来る


「は、はい、聞いちゃまずかったです...?」


「良いのよ、事実だもの」


プロメは何でも無い言わんばかりにニコリと返す笑みを返す


この様にサバサバしハッキリした物言いは嫌味では無く

プロメの性格による物なのだろうと思うセルヴィは徐々に受け入れていた


「では良ければ教えて貰えませんか!

 私達の知るエンシェントは魔法よりももっと凄い

 奇跡の様な技術で星の海を渡り、天に都市を浮かべたと聞いています!

 私はそんな世界を知りたくて冒険者を目指しているのです!」


「そうねー、構わないわよね?」


視線をゼロスに向ける


「ああ、今の彼女等が聞いたからといってどうという事ではないだろう」


「お許しも出たという事で、ではここでプロメ先生の歴史講座を始めます!」


いつの間にか学者的な眼鏡を目元に装着し

手の平から空中にモニターを表示させると、そこに映像によるダイジェストが始まる



ーーーーーーーーーーーー


22世紀末、急速に科学文明を発達させてきた人類は大きな問題に直面した

突如今まで文明技術を支えて来た化石燃料に始まり、石炭・レアメタル等の

主要資源が次々と枯渇を始め、人類は深刻な資源不足に陥った


その後混迷した世界は互いに争い始め、世界は大きく乱れた

数多くの戦争を経て当時の人口を急速に減らした人類は

その解決策として他の惑星からの資源確保に活路を求め

宇宙開拓が加速、太陽系内の他惑星の開拓に着手する事となる


しかし宇宙開拓計画はすぐに行き詰った

遥か彼方の惑星から、資源を採取して地球に持ち帰る事は

砂漠から砂をスプーンで一掬いして、何年もかけて持ち帰るに等しく

輸送コスト・スピード、その費用対効果という壁が立ちはだかった


そんな世界が緩やかに衰退する中

23世紀中盤、欧州で行われていた人工ブラックホール実験の際

副次的に人類史上最大の大発見が成される

今我々の居るこの次元と、全く異なる次元とを繋ぐ扉


ゲートの発見だ


それこそがパンドラの箱だったのだ


程なくしてゲート通じて他の次元から

膨大なエネルギーを抽出出来る事を発見した人類は

自ら喜んでその箱を開けてしまった


瞬く間に次元技術の開発は世界中で進められる事となり

23世紀末頃には世界には7つの巨大ゲート施設が建造され

世界中へエネルギーを供給する様になると

無尽蔵にあふれ出る無限とも思えるエネルギーによって

今まで人類が抱えていた数多くの問題は解消され

人は史上最も栄華と堕落を極める時代を迎える事となった


24世紀中盤には減りかけた人類の人口も、230億人まで膨れ上がっていた

各国都市部では集中する人口過密を解決する為に

次々と都市の上に更に都市を築き、多重構造都市へと変化していった

都市を浮かべる為には膨大なエネルギーを必要としたが

それを全てゲートエネルギーが解決してくれていた。


それで満足していれば良かった


その後も次元技術・ゲート技術の開発は各国で続けられ、その中で

今の次元からより深い、と言う表現は次元の概念に於いて抽象的な言い方だが

全く異質の次元であればある程、抽出出来るエネルギーの密度が違う事を発見される


無限のエネルギーを手に入れて尚、人の欲望・好奇心に際限は無かった


7つの巨大ゲート施設を保有する中の一つの国が

最後の扉を開けてしまったのだ

今まで人類が到達した事が無い程の、異なる深い次元への接続が試みられ

そして新たな次元とのゲートが開いたその時

突如ゲートは人類の制御下を離れ、暴走を始めた


その暴走はその一国のゲートに留まらず

7つ全ての巨大ゲートが一斉に同期し、暴走し始めたのだ

結果のエネルギー供給は不安定となり

次々と空中都市が落下世界はパニックに陥った


しかしそれは始まりに過ぎなかった


世界が混乱に陥る中、暴走したゲート内から

未知の生命体が次々と溢れだして来たのだ


敵性異次元生命体・Another Dimension Enemy Species


通称ADES(アデス)


溢れ出たその生物はそのまま、人類に明確な敵意を持ち侵攻を開始した

アデスは此方とは異なる物理・熱・エネルギー法則を有し

それまでの人類の兵器では、その殆どが効果が薄く


加えて、無限とも思える程増え続けるアデスの数の相まって

人類は常に劣勢に立たされ

その後300年以上の壮絶な消耗戦を強いられる事となる


27世紀末、人類は最大規模の反抗作戦に撃って出る

アデス出現の源である全世界7か所のゲート施設への一斉攻撃である

人類の持てる最後の戦力の全てを投入したこの作戦は成功し

全てのゲート施設の奪還、そしてゲートは都市ごと

地中遥か奥深くへと封印された


しかし既に手遅れだった

世界に溢れる残存アデスと戦えるだけの力は

もう人類には残されていなかった

敗北を悟った人々は僅かな可能性に掛け、最終計画を発動する


ーハルマゲドン計画ー

人類が保有する残り全ての、大量破壊兵器・戦略兵器を一斉投入する事によって

この地球諸共、地球上に残存する全てのアデスを殲滅するという物だった


同時に当時残されたあらゆる手段を用いて

人類存続計画も進められていた

それはどれ程かかるか分からないが

一度焼き尽くされた地球環境が再び

人が生存可能になるその時まで、僅かな可能性に賭けて

人類を存続させるという物だ


そしてそれは決行された


地殻破壊兵器が大陸を粉後に砕き、マグマの海が地表を飲み込み


核融合爆縮兵器により地球上の酸素が全てが一瞬で焼き尽くされ


広範囲電磁放射兵器により海は枯れた


こうして世界は滅び地球は死の惑星となった


ーーーーーーーーーーー-


「という訳でこれが私達が眠りにつくまでの世界に起きた事よ」


手の平の映像が消え眼鏡をはずすとそのまま掻き消えた


「はぅ...そんな凄い戦いが遠い昔にあったなんて...

 アデスというのは魔物の事ですか...?」


「関連性についてはまだ、確かな事は言えないのだけど

 少なくとも私達の知っているアデスとは、異なる存在ね」


プロメは敢えて王都での事には触れなかった


「でも、昔の文明はゼロスさんの様な方が

 沢山いたんじゃないんですか?

 それでもどうにもならなかったんですか?」


「それはちょっと違うわね、彼は特別よ」


「特別?」


「そうよ、彼はアデスに対抗する為に、

 人類がその英知と粋を集めて開発・結成された

 究極の対アデス特殊部隊 ガーディアンズよ」


「ガーディアンズ...守護者達、という意味ですか?」


「そう通り、人類を守護する者達」



アデス出現直後、人類はその脅威を正しく理解出来ていなかった

様々な国がそれぞれの思惑の元、各個に対処する事に成った結果

それが致命的な遅れに繋がった


各国の敷いた前線、包囲網は悉く瓦解し

小国は救援を請う間も無く消え去った

人の命は価格はあっと言う間に兵器より安くなり

その対価として人類はアデスとの開戦後

最初の僅か10年にして

当時の総人口の約80%、180億人を失う事となる


その時初めて世界は、人類種全ての存続の危機に直面している事実を認識し

国の垣根を越えて手を取り合う事となった

しかしその時にはもう人員の消耗著しく

今度は兵器を持たせる兵が足りなくなっていた


そこで24世紀末人類史上最大の全世界共同プロジェクト

ガーディアンズ計画が始まる



「つまりそれって、ゼロスさんって

 エンシェント最強の戦士の一人って事ですか?!」


「そうねー...うん、そう言っても差し替えないかな」


「なんと、私とんでもない方に助けて頂いたのですねっ!

 今度改めてもう一度しっかりお礼しないと!」


「ちゃんと伝わってるから大丈夫よ」


「因みに...他にもゼロスさんの仲間の方って

 他にも今も何処どこかで眠ってるのでしょうか?」


「んーまだ分からないけれどその可能性はあるわね」


ガーディアンズはアデスに対して、凄まじい戦果を上げた

しかしもうそれ以上、彼等と同じ様な存在を産み出せる程

人類には人も、物資も、残っては居らず

その技術すらも激戦の中で失われてしまった


結果ガーディアンズは人類戦力の切り札として

戦闘中以外の殆どは衛星軌道上の母艦で次元冬眠処置を施され

人類が窮地に追い込まれる度、その局面毎に投入され続ける事となった


しかしどれ程固体としての戦闘力を持とうと、アデスの数は圧倒的だった

数世紀に渡り極限の戦地に投入され続けたガーディアンズは

出撃の度、一人、また一人と数を減らしていった


そして人類最後のゲート施設奪還作戦に於いて

6番艦プロメテウスに帰還したガーディアンズは

LG03、ゼロスただ一人であった

逆に一人だったからこそ、この時代までポッドを維持出来たと言える

その事実を、彼女の質問の可能性が限りなく0である事を

プロメが彼女に話す事は無かった



「どうして?」


「えと、ゼロスさんにとってこの時代、

 この世界は、全く知らない場所、知らない人ばかり

 そんな中独りぼっちのみたいで、寂しくないかなって」


「フフ、貴女は優しいのね」


「いえそんな...、

 プロメさんは神機...機械の方なんですよね?」


「そうよ」


「あの変な聞き方だったらごめんなさい、

 プロメさんにも家族や友達の様な方っているのですか?」


「構わないわ、そうね~...

 そう言う意味で強いて言えば姉妹兄弟なら居るかな?」


「やっぱりプロメさんが一番のお姉さんなんですか!」


「残念、私は6女、の様なものね

 兄姉、妹弟達の丁度中間」


「はわわ、大家族なのです!」


「本当に貴女は面白い娘ね

 初めてよ?私にそんな事聞いたの、フフフ...」


「あっ、ごめんなさい不躾な事聞いちゃってっ」


「そういう意味じゃないわ、もう本当にかわいい子ね!」


「きゃっ、く、苦しいです>w<;」


セルヴィを抱きしめて胸元に埋めさせる


「む、むねがっ」


「ほれほれ~」


実体じゃないと言っていたはずの彼女のその確かな弾力は

セルヴィの一部分の完全敗北の事実を明確に告げるのであった

そんな中、後部隅に座っていたぜロスがゆっくりと立ち上がる


「た、助けて下さい、ゼロスさんっ」


咄嗟に救助を求めて見るも、彼はそのまま

そっと馬車のホロ天井に吊り下げられていたランタンに火を灯し

一度顔をこちらに向けると、無表情のまま


「すまん...」


そう言い残すと振り返り、再び後方の隅に戻っていった


「そ、そんなぁー!」


日も沈みかけ、間もなく闇夜に包まれるであろう馬車道に

一人少女の悲鳴が響き渡る

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