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28 本当の名 失われた記憶

「大変美味しゅう御座いました

 後片付け位は私にお任せください」


食事を終えるとフレイアが後始末を申し出る

最初は遠慮したセルヴィであったが

おっとりそうに見えて彼女の意思は固く、好意に甘える事となった


ゼロスも一言礼を言い空の食器をフレイアに渡す

燃え尽きた焚火の残りを前に再び馬車の中同様向かい合う形になる


「あの...もうお話しても大丈夫ですか?」


おずおずと遠慮がちに彼女が問う、それを見て

一瞬何の事か分からない、という様子のゼロスであったが


「ああ、すまないもう大丈夫だ」


表情を変える事無く答える

記録の閲覧は、丁度食事が配られる少し前に終了していた


するとセルヴィはその場に立ち上がり、今一度彼を見据え


「改めて、私はセルヴィ・マクナイトといいます

 助けて頂いてありがとうございました!」


両手を膝に当て、ペコリと深く頭を下げる

彼の反応はと言えばいつも通りの様子で


「気にしなくていい」


と一言返す


「所であの、ゼロスさん...でいいんですよね?」


再びその場に腰を降ろし、話の前に念の為再確認する


「...」


再び言葉が通じなくなってしまった


「一応彼の()()は違うわよー?」


そこに背後から助け船が入る、プロメだ


「違ったですか?!」


「彼の左肩の装甲を見てごらんなさい

 あの文字、貴女には読めるかしら?」


「えっと...古代文字で数字、ですよね...

 (ゼロ)と、(スリー)、でしょうか?」


「正解、そしてそれは彼のコールサイン...んーそうね

 作戦中のあだ名、の様な物かしら、【LG03(エルジーゼロスリー)

 その一部だけを貴女が聞き取って、勘違いしてしまったのね」


「あぅ...そうだったのですね!

 私ったらてっきり...ごめんなさいっ」


「いいんじゃない?お互いちゃんと分かり合えてるのだから」


「そ、そういう訳にはいきません!

 ちゃんとお名前があるならしっかり名前でお呼びしないと!」


「でも多分それは彼には無理ね、だって、ね?」


そのままプロメはゼロスに視線を送る


「何だ」


「03、貴方、自分の名前...言える?」


「何を言っている、正式にはLG0603A...」


「それは認識番号、貴方の人間としての本来の名前よ」


「俺の、本来の名前...」


ゼロスの口が止まる


「やっぱりね、私達の部隊がLG(ラストガーディアンズ)になる前

 以前所属も思い出せなかったのでしょう?」


「...」


何も答えない、答える事が出来なかった


「記憶として存在していない物は

 知らない事を知らないと

 認識出来ない物を認識出来ていないと

 人は認識する事が出来ない

 それが記憶領域圧縮の弊害よ、03」


「名前が思い出せないってどういう事ですか...?」


話の内容は完全に理解出来ていないが

何と無く事態を察した彼女がそのまま疑問を投げかける


「彼は一部の自分の過去、記憶を失っているの

 だから今の彼にとって名前はゼロスでいいのよ」


「そ、そんなっ...」


眉を下げ、何とも言えぬ表情を浮かべるセルヴィ


「でもそれは完全に無くした訳ではないわ

 厳密に言えば彼の記憶は完全に消滅した訳ではないわ

 圧縮...そうね一時的に封印されている様な状態なのよ」


「その封印を解く事は出来ないのですか?」


「人間の適応力、脳の力は凄い物でね。

 自らその状態に順応して、封印された状態からも元通り

 記憶を読み通れる様になったりしたケースもある」


「でもという事は戻らない事も...」


「そうね、でもその他にも方法はあるにはあるわ

 彼の不調な部分の修理...治療が出来れば記憶は戻るはずよ

 ただその為には、特殊な設備や素材が必要となるの

 今もまだ何処かに残っているかもしれないけれど

 私達はこの時代・世界の事を

 殆ど何も知らないから今はまだ何とも...」


黙って聞いていた彼女は改めて意を固めたように


「も、もし良ければ私にそのお手伝いをさせて貰えませんか!」


キッと目元に力を入れプロメに訴える

それを受け少し驚いたような反応を見せながら答える


「まぁ!そう言って貰えるのはとても助かるわ

 でも記憶と言っても一部だから

 見た所今すぐに何か支障がある訳では無いし

 まずは貴女達を村を目指すのが今は優先よ

 そこで一度状況を整理してから、改めてお願いするわ」


「分かりました!そうとなればすぐ出発の準備に取り掛かりますね!」


「お願いね、それまでは彼の事は今まで通り

 ゼロスと呼んであげて貰えると私も嬉しいわ、ね?」


「ああ、構わない」


「はい!これからもよろしくお願いします!

 ゼロスさん!プロメさん!」


元気よく立ち上がると周囲の敷き布を回収し馬車へと乗せると

近場で食器の洗浄をしているフレイアの元へと駆けて行く

その場にはプロメとゼロスのみが残る


「すまない」


先に口を開いたのはゼロスだった


「あら?何の事?」


さも分からないという体で答えるプロメ


そのまま無言の彼に数秒空けた後


「艦AIの存在目的は隊員の任務達成の補助及び生存

 今更謝ったり感謝したりするものでもないでしょ」


「...」


「それに今は村を目指した方が良というのは、彼女の為でもあるのよ

 救助した時の状況を鑑みるに相当な精神的ダメージを受けているはずよ」


「そうだな...」


「放って置けばいずれPTSD等の精神疾患を引き起こす可能性が高いわ

 本当であれば人の心のケアは人がするのが一番良いのよ

 機会があれば苦手云々言ってないでしっかりしなさい」


「善処する」


その場に立ち上がり、馬車へとゆっくり歩きだす


「全く...本当に貴方は誰よりも人間臭い心を持っている癖に

 それを出すのが誰よりも下手ね、ゼロス(・・・)


彼を追いながらそんな言葉を漏らした


遠い昔、似たような事を言われた事を思い起こす


ーったくお前って奴は...

 いっつも機械みたいにむっつりしてる癖に

 どうして毎度毎度誰より人間臭い行動を取るかね

 なぁ****!ー


暗雲立ち込め暴風雨吹き荒れる中

泥だらけの少年を抱きかかえビルの瓦礫の影に潜む

その隣で肩に06と書かれた

色違いの同種のスーツを纏った男が

笑いながら言った言葉だった

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