25 マイクロウェーブ送信施設
思いの他施設の状態も良く特に障害無く
中央制御室までたどり着く事が出来た
途中、破損した外壁から入り込んだと思われる
幾つかの敵性生物の襲撃にはあったが
どの個体もアデスの様な脅威度は無く
各種センサーにより問題無く対処する事が出来た
中央制御室の各種機器、コンソールも外観上破損している形跡は見られない
起動コンソールに手を伸ばすと
メインシステムの起動が開始された
各種起動手順後、制御システムが開かれるはずだ
しかし
ーメインシステム起動ー
ー制御システムの起動には責任者の許可が必要ですー
ー当施設責任者の識別:反応無しー
ー代理責任者:反応無しー
ー当施設職員:反応無しー
ー代理指揮権移譲を開始ー
人類とアデスとの戦いに於いて戦局は人類史上類を見ない速さで変化した
その中で総指揮官が急死、又はその代理の者が何等かの都合で不在等の場合
その承認手続きをしている間に壊滅する等の事態を避ける為
常時システムは責任者の移譲を行う
最初は本来の責任者・副責任者
そして役職上次に連なる物
更にはその組織の最末端の構成員
そして最後は部外者であろうと人が一人でもそこに居るのならば
という点まで掘り下げられる
その目的が人類の生存その物である為だ
「代理指揮権移譲申請
コードLG031151」
ーーーーー エラー ーー
(何...?)
「繰り返す、コードLG031151」
ー エラー ー
ーその認識コードに該当はありませんー
ーまた生体情報を認識出来ませんー
(ちっ...24世紀後半に封鎖された時点ではまだ
ラストガーディアンズとしての情報が登録されてないのか
重度のサイバネティック手術を施したこの体は最早人間と認識されない
ならばそれ以前のコードをっ...以前...前の俺の所属...)
突然そこから幾ら記憶を辿っても何も引っかからなくなる
(ラストガーディアンズ...部隊改変...前...アスガード艦隊...)
それ以上は記憶の混濁やノイズと言う物は感じない、完全な無だった
(くっ!記憶圧縮処置の弊害か、寄りにもよってこんな所で...)
「自己判断・論理解析しろ!
この様に言葉を発する人間以外の生物が居るか」
ー私にはその様な機能は持ち合わせて居りませんー
ーエラー、代理責任者として認識出来ませんー
(このポンコツがっ)
僅かに拳に力が籠る
(どうする、代理任命者として彼女等なら行けるのではないか?
いやしかしどれ程の時が経過しているのか、正しく認識されるか
仮にされるとして、どうやって彼女等にコンソールを操作して貰う
無理やり腕を掴んで...いや...しかし状況は)
何が最適か判断するほんの僅かな合間に
隣にはいつの間にかセルヴィが立っていた
そして何も言わぬままその手を
認証承認の元へと手を伸ばす
(なっ、この娘はこの装置の事を理解しているのか?)
すると直後
ー代理責任者確認、権限を移譲、制御プログラムロック解除ー
画面が施設内の制御操作系へと切り替わる
突然画面が移り変わった事に隣の少女はやや慌てた様子で
先程の操作を理解して行っていた訳ではないようである
此方の顔を見ると自分は誤った事をしたのか、と不安そうな顔を向けて来る
(そんな事はない、寧ろ君は大手柄だ)
前回よりもやや乱暴に頭を撫でる
少女は小さな悲鳴を上げて途中まで手を上げるも
その後にんまりとしつつ聖職者の少女の隣へと戻って行った
再びコンソールに向き直ると素早く操作を開始する
<マイクロウェーブ送信アンテナ:稼働>
<アンテナ射出口ハッチ:稼働>
<エネルギー供給ライン:稼働>
<エネルギー貯蔵タンク12番:37% 39番:21%残存>
(よし、母艦にエネルギー供給を行う為の
プロセスに必要な個所は全て問題ない、後は)
ー供給目標、高度450㎞衛星軌道 座標226.315 確認ー
ーマイクロウェーブ送信アンテナ、リフトアップー
ー射出口開放ー
ギギギギギギ...
施設内を僅かな振動と重く金属がこすれある様な音が響き渡る
正面のモニターには施設内からの映像なのか
鋭いトゲ状の装置の先の巨大な扉が左右に開き始め
上は草原だったのか草を纏わせた岩土が落下してくる
そして円状にくっきり空が覗かせた
ーマイクロウェーブチャージ開始ー
ー供給量・貯蔵タンク残存エネルギーの100%-
徐々にトゲ状の装置に放電現象が起こり始める
そしてその状態が1分程続いた後
ゴゴゴゴゴゴゴォオオ!
施設全体を先程より更に細かな微振動と唸る様な轟音と共に
モニターに映し出された装置が天高く一筋の光の柱を伸ばしている
先程上の扉を開いた際落ちてきてアンテナに積もっていた土や小石類が
瞬く間に蒸発し四散する
その後継を後ろで二人の少女が食い入る様に見つめる
恐らくこの振動や轟音とモニターに映し出されている光景の因果関係を
理解出来ているのだろう
その状態が暫く続いた後、徐々に光は薄れ霞みやがて消えて行った
再び施設内を静寂が包む
(これでプロメテウスの再起動が完了出来て居れば
間もなく通信が入るだろう)
ふと一つ息を吐き、振り向くと
二人の少女の上方、視界の隅に微かに動く物体を捉える
(しまっ...!)
それはジェル状と見られる謎の物体が天井に張り付いていた
しかし明らかに何かしらの意思を持つかの様に蠢き
少女達の上方から少女達目掛け落下した
それは熱を持たず熱センサーにも反応しておらず
液状で這うように移動していた為か音紋センサーでも捉える事は出来なかった
あらゆる手段を即時演算するが
液状の生物が彼女達接触前に防ぐ方法は無かった
出ないはずの汗が噴き出す感覚に襲われる
そしていよいよ彼女等に降りかかろうとしたその時
ジィィイイイ!!ジュワッ!!
一線の10㎝程の太さを持つレーザー光線が液状の微生物を貫き
一瞬でその液体を蒸発させつつ吹き飛ばした
「03、センサーに頼り過ぎよ?
何の為にあなた達が人間である部分を残していると思っているの」
突如そこに見知らぬ女性の声が響いた。