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23 ノヴァ教会

僅かに夕日の面影を残しながら

辺りが闇に包まれようとしている中


今、私たちは馬車に揺られている


「すみません、神官様に御者までさせてしまって...」


「いいえ、お気になさらないで下さい

 あの時貴女方に助けていただけ無ければ

 今のわたくしはここにおりませんもの

 それに私の事はお気遣いなく、フレイアとお呼び下さい」


正面で馬車を操縦する女性に、ホロに覆われた荷台の中から、セルヴィが話しかけた


この馬車を動かしている魔具は風の力を用いた物で

操者が魔具へ魔力を送り込む事で、下部に大気の流れを生み出して

浮遊し、馬車を牽引する、一般的なものよりも高性能な魔具であった


当然、属性適正を持たないセルヴィでは動かす事は出来なかった

その動作を見て、一瞬驚いていた彼もまた、動かす方法は知らないのだろう


彼は荷台後部で、ずっと外に視線を向けている

きっと周囲を警戒してくれているに違いない。


「しかしまさかフレイアさん達がアール村を目指してたなんて驚きました

 私はあの村出身なんです」


「あら、そうだったのですね

 アール村はここから馬車で約1日程の距離に御座います

 今の御用がお済になってもし、戻られるのでしたら

 その時はご一緒させて頂ければありがたく存じます」


「勿論それは構いません、でも私も一体

 今何処に向かっているのかも判らないんです」


「構いません、助けていただいた恩義に比べればこの程度

 これはノヴァ神の思し召しに違いありません」


おっとりとした口調で物腰柔らかく答える


彼女の名前はフレイア

ノヴァ教の神官見習いとして各地の教会を巡礼する旅に出たところ

突然先程の魔物の襲撃に合ってしまったのだという


「しかしあの様な場所にブラッドウルフが出るとは...誰も予想しておりませんでした」


「あれは珍しい種の魔物だったのですか?」


「はい、ブラッドウルフは本来もっとここから北東に進んだ

 テストラ王都から程近い湿地体を縄張りとして持つ魔物の上位種です

 普通ですとその縄張りから出てくる事等無いはずなのですが...」


「神官様は魔物にお詳しいのですね!」


「はい、私共神官見習いは皆世界各地のノヴァ教会を巡礼し

 祈りをささげる事で一人前の神官と見なされます

 その為の旅路に置ける危険性等の教育は

 冒険者様等を講師としてお招きし、ご指導賜るのです

 貴女方は冒険者様ではないのですか?」


「ぁ、えと、一応私は冒険者を目指してはいるのですが

 あの、まだ冒険者ではなくて、彼もそのっ」


今の状況をどう説明してよいか、しどろもどろになってしまう


「すみません、困らせるような事を聞いてしまいました、お許し下さい」


「い、いえ!私の方こそごめんなさいです!」


お互いを何とも言えぬ距離感が隔てる

先程、旅の仲間を失ったばかりである彼女に対し遠慮気味であり

彼女もまたこちらの状況についても深く詮索しないようにしている様である


「あ、あの!ノヴァ教の神官様に

 こんな事聞くのはとっても失礼かもしれないんですが

 ノヴァ教って世界中にあるとっても大きい教会なのですよね?

 私が育った田舎の小さな村にもノヴァ教の教会があったのですけど

 ノヴァ教ってどんな神様を祭っている教会なのですか?

 私全然知らなくて...」


「私はまだ見習いですのでその様にかしこまって頂かなくても大丈夫ですよ

 それに興味を持っていただける事は私共にとってはとても喜ばしい事です」


そっと優しく笑みを浮かべ慈母の様に諭すフレイア


「そうですね、ノヴァ教は世界で最も大きな宗派として

 全ての国に協会が設置されています」


「全ての国にですか!そんなに凄い教会だったのですね、

 確かに田舎の小さなにもある位なのですから...なる程です!」


「まずは私共が崇拝する最高神、ノヴァ神についてからお話し致しましょうか


 天地創造の神 神々の中の神 最高神ノヴァ

 ノヴァは混沌の世界に光・太陽を産み出し

 この大地を水を空気を緑を創り、そして最後に人を創ったと言われます


 今の年号がAC暦583年と言われておりますが

 ACの読みはご存知ですか?」


「えっと...アフト・クアトル、でしたっけ?」


「その通りです、よく勉強されていらっしゃいますね

 アフト・クアトルは神々の言葉で『四番目の世界』を意味します」


「四番目?」


「はい、今私達が居るこの世界は、ノヴァ神に創造された4番目の世界

 というのが言い伝えとなっています」


「ぇ、じゃあ前の世界は何でなくなってしまったのですか?」


「伝承によると

 1つ目の世界は業

 2つ目の世界は背信

 3つ目の世界は因果

 によって夫々人類は自ら滅びてしまったと言う話です

 そして-------

 ------

 -----

 ----

 ---

 --」


「うーん、小さい頃聞かせてもらった御伽噺で

 その様な話を聞いた事がありますが 

 少し抽象的に感じます...機械や古代の遺跡なら

 小さな発見や解明を積み重ねて明確に見えてくるのですが...

 あっ、ごめんなさい!否定したいとかそういう訳じゃ!」


「ふふ、構いません神とは人の身では到底理解できぬ存在故

 私達には抽象的な物となってしまう事が多いのです

 伝承という物も時代の経て人の手によって書き換えられてしまう物も多くあります

 神官見習いの私が言ってはいけないのかもしれませんが

 正直、私も私共『人』が思う偶像的な形でノヴァ神様が居られるのか

 私には判りません」


「え...?」


神を崇拝する者が、その神を否定しかねない発言をする事は

セルヴィにとってはとても意外だった


「人は今日よりも良い明日を迎えると誰もが信じて生きていく物です

 しかし人が人らしく生きる為には産まれながらにして生じる差や

 各国の法制度や身分制度、軋轢様々な障害が立ちはだかります」


「...」


つい思わず左手の紋章の無い手の甲を見る

 

「まだ見習い故、神々の真理についてはまだ教えて頂いておりませんが

 私達は少しでもその隔たりを無くし、皆が等しく生きる事の出来る世界を

 その指針となり明日を見失った方を一人でも多く導くのが

 私達ノヴァ神の使途の役目だと思い、教会に身を置いております」


セルヴィが主とする考古学や魔具技術という物は宗教という物とは無縁

だった為、差ほど関心を抱いていなかったが

今でもノヴァ教について深く理解出来た訳では無い

しかし彼女強い信念に基づいているのだという事は理解出来た


「ごめんなさい...そんな大切な事を興味半分に聞いてしまって...」


「いいえ、こうやってお話をする事で、理解を示してくださったじゃないですか」


フワッと笑みを返す


「はぅ...物凄く大人な対応なのです...」


「いえいえそんな事ありませんよ

 私も漸く来年で成人となります

 お年も差ほど変わらないのでは?」


「ひ、一つしか変わらないですねっ

 私はてっきりもっとお姉さんかと...

 それなのにとても差を感じるのです!

 こう立ち振る舞いと言いますか!背と言いますか!

 む、胸は同じ位ですが...いや、しかし存在感が...ぶつぶつ」


同年代の少女と比較し小柄であるセルヴィに対し

フレイアは標準かやや高い程であったが

加えて慎ましやかながらある種の線は強調される神官服と

それを着こなす佇まいも相まい年齢以上の清楚さを醸し出していた


「あ、あの...?」


一人暴走気味のセルヴィを前に笑みのまま汗を浮かべるフレイア


そんな時


ガタッ


後部で座っていたゼロスが立ち上がり静止を掛ける


一瞬魔物の接近かと固くなる二人だったが

そのまま彼がゆっくりと馬車を居り

後部に積んであった牧を手に取り設置していく


どうやらここで野営をするという意味の様だ

魔物の襲撃では無い事に二人はそっと胸を撫でおろす


その間も無言で作業を続け牧にいつもの火を灯し

夜食用の食糧の散策の為か奥の林へと姿を消した

姿は見えなくなったが恐らく彼は周囲の状況を把握しているのだろう


動力魔具を停止させ二人も馬車を居り

彼が用意した焚火の周りに腰を下ろす


「ふ、不思議な方ですね...」


「は、はい...でも悪い人では無いですよ!」


「その様ですね」


ふと地面に敷かれた2枚の布をフレイヤは見やる


「その所作一つ一つに確かな思いやりが見受けられます

 きっと優しい方なのだと思います

 時にあの方はお話しはされないのですか?」


「しないというか出来ないというか...

 言葉が通じないのですよ」


「まぁ、何処か遠い国の方なのでしょうか?」


「遠いというか何というか...エンシェントの方なのかも...なんて」


「エンシェント...?」


一瞬僅かに開かれたフレイヤの瞳が蒼翆ではなく金色こんじきに輝いて見えた


「ぇ...」


セルヴィが慌てて見直すと、そこには普段の蒼翆のフレイヤの瞳であった

恐らく焚火の火が反射して元々半分程しか開けていない瞳が錯覚してそう見えたのだろう


「あの...」


「す、すみません私ったら呆けてしまって

 余りに突拍子も無いお話でしたので...」


「ぁ、いえこちらこそごめんなさい突然妙な事いって!

 彼の事は会話が出来ないので本当の所は良く分からないのです...」


「それでも私の命を助けて下さいました

 そして今もこうしてお世話して頂いております

 それだけでも素晴らしいお方に違いないでしょう」


「はい!」


林の中から再び彼が食糧を携え姿を現すと

仲睦まじく談笑する少女二人の姿があった


それを見て一人僅かに目元の力を緩めるのであった

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