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19 エンシェント

満月に照らされ森の中を淡く照らす


僅かな風が木々を抜け、葉が騒めく


草木の音と共に何処からともなく猛禽類と思われる鳴き声が響く


「ぅ...ん...」


太い幹の根本に腰掛ける少女が微かに動く


(ここは...)


目を開けるとぼんやりと夜の森が浮かぶ

ふと無意識に傷を負った部位に手を伸ばす


(痛く...ない...?)


ハッっと目を見開き飛び上がる

体中を確認してみるも、痛みは全く感じない

服を捲し上げて腹部を確認するが目に見える範囲にも傷一つ見て取れない

しかし服にこびり付いた大量の血痕からそれは勘違いではない事を告げる


(どうして...あんなに苦しかったのに...)


ゆっくりと周囲を確認すると周囲は木々が奥まで連なり

灯りの類は一切見当たらない、何処かの森の奥深くに居る様だった


目の前には森の土木をかき分け地面から

遺跡の一部らしき大きな人工物が突き出している


すぐさま日中の記憶が呼び起こされる


永い間まるで夢を見ていた様に思う

消え行く意識の中で僅かに写った漆黒の神機を纏った者

その腕から、その背から光の翼を広げ、人知を超えた力、速さで

巨大な魔物を圧倒する様はまるで神話の戦いの様に


(っ!あの人は!?)



その者は正に自分のすぐ横にうつ伏せのまま草の上に横たわっていた

咄嗟の事にすぐ近くが目に入って居なかった様だ


「大丈夫ですかっ!」


呼びかけるも反応がない

直ぐに手を伸ばし肩を掴んで揺らそうとするが

ピクリともしない、まるで石像かの様な重量感が手に伝わる


「うぬぬぬっおんもぃっっ!!」


両手で片側を全力で持ち上げると

何とか辛うじてあおむけにする事が出来た


「よいしょぉとっ、ぁ...」


月明りに照らされ眠る様に目を閉じるその顔に

セルヴィは一瞬息を飲む


黒色の前髪が夜風に僅かに揺れそこには

戦士とは思えぬ整った顔立ちの青年の顔があった


自分よりは5,6歳は年上だろうか

少年の様なあどけなさは感じられない


「あ、あの...大丈夫ですか?」


もう一度ゆする様に腕に力を入れるが殆ど動かない


そっと手の頬に触れると地面と長時間触れていた為か

一瞬ひんやりとするも、まだ内には体温を感じる


口元に耳を当てると呼吸は...無かった


「っ!!」


直ぐに心臓の音を確かめようと胸に耳を当てるも

分厚い装甲板により確認出来なかった、が


ゥゥゥゥゥゥ...


微かに何かの駆動音が耳に入る


「これは駆動音...?」


耳を離し、改めてじっくり鎧を見定める


(この形状...特徴は...この鎧、やっぱり多分神機みたいです...

 それも今まで発見されたどのタイプとも違う...)


装甲鎧の表面やその隙間には様々な機械仕掛けと思われる部位が見受けられる

その構造は今まで目にしてきたどんな神機とも異なっている


(それもこの神機この人の体と完全に一体化してる?!)

 

まずは心音を確認する為、装甲を外そうと

襟首や胸部の装甲の隙間から指を挟み外そうと試みたが

その装甲鎧は全くピクリとも彼の体から離れようとはせず

また外す為の金具の類も見当たらなかった


(でもそれがまだ稼働してるって事は!)


腕、肩、胸、腹部と、つぶさに観察していく


最初にその姿を見た時、まるで全身を流れる様に

走っていた蒼白い光の線は今の鎧からは見て取れない


すると左わき腹付近の腰当てと見られる装甲付近で

赤い光がゆっくり点滅していた


(何だろう?)


ゆっくり顔を近づけ、光の元を良く観察していく

どうやら剣の束の様な少し出っ張った部分から光を発しているらしい


そっと振れるか触れないかの距離に手を近づけると


カシャッ、パシュ!


僅かな金属の動作音に続いて圧縮音と共に柄の様な部分が手に飛び込んできた


「おっととっ」


一瞬落としそうになるも無事キャッチする


それは縦5㎝、横2㎝程のスティック状の物だったが

間違いなく何かの機械である事は表面を見ると分かる


直後


カチッ!


今度は彼の顔の方で何かの作動音が聞こえた

先程まで光って居なかった襟元付近の一部が点滅している

その光のすぐ下に装甲の一部が四方に開き、丁度棒状の物が差し込める空間が空いていた


(ここに挿せって事でいいのかな...?)


恐る恐る開いた部分に先程の棒を差し込んでいく


中腹まで差し込んだあたりで止まり、直後中から掴まれ引きこまれた

四方に開いた装甲が元に戻り穴を完全にふさぐ


すると


カチッ、キュィイイ...


僅かな金属音と甲高い動力音を上げた後


ゆっくり、淡く鎧全体に蒼白い閃が走り始める


「やった!」


その様子から彼の鎧の神器が再稼働したであろう事が見て取れた


暫くそのまま様子を見守り数分程だった頃だろうか

彼の瞼がゆっくりと開き始め

その瞳は赤く見慣れぬ色をしていた


(綺麗な紅玉の様な瞳...綺麗...)


少なくともセルヴィが知る限り紅の瞳を持つ人は初めてだった


(この人は...でも、そんなまさか)


すると彼はゆっくりと上半身を起こし

僅かに周囲を見回した後、彼女をじっと見つめる


「あっ、えっと、あのっ」


咄嗟に見つめられ思わずしどろもどろになる


「あ、あの!助けて貰ってありがとう御座いました!」


「...」


直ぐに向き直り、上半身でお辞儀をして見せるが

彼の表情は全く動くことが無くただそのままみつめている

その表情からは感情を読み取る事は出来ない。


(通じてない...?

 彼が発した言葉...もしかしたら本当に!)


一瞬息を飲み、そして意を決した様に今一度口を開く


「『助け』て頂いて『ありがとう』ございました、です! 

 あぅあぅ古代言語での会話何てした事ないので

 伝わってなければごめんなさいっ」


必死に分かる範囲の古代言語で思い当たる感謝の意味の言葉を伝えると


「...!」


僅かに彼の瞳が動く

何かしらの意図は伝わったようだ


「えと...通じましたでしょうか...?」


「...」


しかし変わらず彼は何も答えない


僅かに彼の瞳の奥で光が流れている様にも見えるが

それが月明かりを浴びた草木の僅か反射を写しているのか定かではない


未知の言語に対し、辛うじて聞きとれた範囲の言葉を

記録に残っていた文字に当てはめ解釈する事が出来るとしても

自らの意思で望んだ言葉を紡げる事とは全く違う事であった


それもセルヴィが学んだ古代言語はあくまで神機の理解の為であり

会話する事を想定して学んだ物では無い為なお更である


そのままの状態が続き数分が立とうとしていた


気まずい...


敵意と言った様な物は感じられないが

ただ黙って初対面の人間に見つめられ続けるというは

何ともこそばゆい物である


「あの!私、の、名前は、セルヴィ

 セルヴィ・マクナイト、と、いいます!」


必死に身振り手振りのジェスチャーを含めて伝えようと試みる


「私、セルヴィ、あなたの、名前、何ですか?」


「...」


やはり何も答えない


諦めかけたその時、僅かに彼の口が動く


「...$@*&^...ゼロ...ス&*$」


「ぇ...」


彼が言葉を発するが、やはり古代言語のそれであった

だが僅かに固有名詞らしき部分が聞き取れた


「ゼロ、ス?...ぁ、ゼロス...それが貴方のお名前ですか?」


落ち込みかけたその表情が一気に明るくなる


「やはりあなたはエンシェント(古代人)なのですか!?」


「...」


再び彼は何も答えない時間が流れる


(うぅ...そもそも通じたとして私達が勝手に古代人と呼ぶ当事者が

 そうだなんていう筈も無かったのです、馬鹿ですか私は...)


再びしょんぼりする少女


ザッ


すると思むろにゼロスが立ち上がると

こちらにゆっくりと手を差し伸べて来た


「ぇ?立てという事ですか?」


その手を掴み起き上がると

足元から顔まで今一度視線をゆっくりと動かした

流石に恥ずかしく思わずもじもじしてしまう


「あ、あの...?」


「...」


やはり彼は答えない

するとその後ゆっくりと振り返り森へと歩み始める


数メートル程彼が進むと、立ち止まり此方を振り返る


「...」


(ついてこいという事ですか...?)


私が歩き始めると再び彼も歩き始める


(やっぱりそういう事みたいですね)


直ぐに掛けて隣に並ぶと

一瞬彼がこちらを見るとまたすぐに前に向き直る


(気にかけてくれてる...?)


表情からどの様な人なのか読み取る事は以前出来ず

遥か太古のエンシェント達と今現代の人間達とでは

その精神性が全く違うのかも知れないと少し不安になっていたが

少しだけ彼が同じ人間的仕草が見えた気がして少し嬉しくなる


何時か冒険者としてまだ誰も見た事がも無い様な

魔法の様な伝説の時代、あの御伽噺の様な伝説その物が

人として自分の目の前に居る、自然と胸が高鳴った


ただそれと同じ位すぐ近くにざわついた感情が

今にも爆発しそうな触れてはいけない物があるのを感じていたが

直感的に今それを考えては行けないと脳が静止を掛ける


何がどうなっているのか状況の整理もついていなかったが

今は彼と共に居る事が一番良いと思えた


兎に角今は何かしていないと


歩き続けていないと


一度でも立ち止まってしまったら


もう立ち上がれない気がした



そしてそのまま二人は夜の森の中に踏み入ってゆく



ーこれが私とエンシェントのゼロスさんとの旅の始まりだったー

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