18 守護者の力の片鱗
『命令受諾、記憶領域情報の圧縮を開始』
直後凄まじい激痛が頭に走る
「ぅぐっ!!ぐっ...ぐぁあ゛あ゛あ゛っ!!!」
思わずその場で一瞬体制を崩すがすぐに踏み止まる
『圧縮処置完了、量子脳領域に必要空き容量確保
WODシステムデータ高密度転送開始』
直後、空より一筋の光が体全体を包む
高密度データー信号によるエネルギー発光だ
「WODシステム...起動、対象...81式電磁投射砲」
ギンギンと眼球が飛び出しそうに成る程の頭痛に僅かに顔を歪めながら
そのまま右腕を前に突き出し、左手で支える
右腕の上部装甲が次々とパズルの様に切り離され空中に漂う
「兵装...融合開始っ」
足元に差し出された81式がゆっくりと宙に浮かび
前腕部上部に近付くと、そのまま腕に装着される様に収まり
先程まで宙を浮かんでいた装甲各種が再び81式を包み込む様に
再装着され、まるで腕から生えている様な状態になった
しっかりと左腕で右手首を抑え込み目標に狙いを定める
オ゛ォオ゛オ゛オ゛
吹き飛ばされた魔物が再び起き上がり体制を立て直そうとしていた
「回路接続、リアクターエネルギー供給開始」
ジジ...ジ...ジジジッ!
徐々にその砲身から放電が始まり火花が散る
「リアクター出力臨界突破、弾頭へのエネルギー圧縮開始」
バチッ!!ジジッ!バチチッ!!
放電現象はその勢いを増し、周囲の地面をも削ってゆく
『警告、81式電磁投射砲エネルギー供給過多により異常加熱を確認』
「まだだっ!」
ゴォォオオオオ!
腕部、背部スラスター部が開き
火花混じり凄まじい熱風を排気し始める
下から風が吹き上げるがごとく髪は逆立ち
周囲の小石が宙を舞い、あふれ出るエネルギーが放電となり体全体を迸る
グォォオ゛オ゛オ゛オ゛ッ!!
姿勢を立て直した化け物が脅威を感知したのか
何かに駆られたように此方に向き直り猛スピードで突進を開始する
『もう遅い...オーバードライブ・フルバースト!!』
次の瞬間辺から音が消え、凄まじい輝きの閃光に包まれる
そして右腕から最早弾頭は物質の形状を留めず
とてつもないエネルギーの奔流となり
周囲の建造物や石畳を吹き飛ばしながら化け物目指し放たれる
放たれたエネルギーは極太の一閃となり化け物の全体を包み込む
光の中、化け物の影は口を裂けんばかり広げながら
徐々にその影は光の中にとけて消えゆく
その口から放たれていたであろう咆哮は音になる前に光にかき消された
その凄まじい閃光の中、背後の初老の男はそっと目を閉じ
息を引き取った
ゴォオオオオオオ!!
遥か遠くから遅れて轟音が轟く
化け物の背後の遥か先に有った山脈の中腹が
テストラキャノンの砲撃クレーター諸共
三日月が如く完全にえぐれ消失していた
『兵装オーバーロード、緊急パージ』
ガシャ! バシュ!
構えた前腕部から装甲が再びはずれ
装着していた81式を腕から蒸気を伴い弾き飛ばす
直後81式は激しい放電の後
飛ばされた先付近の建物諸共大爆発を起こした
『急激な過負荷により、リアクターコア不安定』
「構わない、状況は打開された...」
一瞬腕部をしびれる様にぎこちなく動かしながら構えた腕を降ろす
『先程の高密度データ転送により当艦に残されていた
残存エネルギーは0.1%を切り活動限界
システム保護の為スリープモードへ移行します』
「了解した」
『最後に今後の作戦プランをスーツに圧縮信号にて転送
03、貴官の任務達成と健闘を祈ります』
「助かった、プロメテウス」
...
その後、一切母艦から通信が来ることは無くなった。
直ぐに少女の方へと向かい、しゃがみ込み
そっと少女を抱きかかえる
厚手の皮製と見られる衣類を纏ったその体は細く、とても軽かった
ヒュー...ヒュー...
少女の口からはどこか穴の開いた空気漏れのチューブの様な呼吸音が微かに聞こえる
すぐに腰付近の装甲パーツに手を回し中から筒状の装置を取り出すと
ゆっくり負傷していると思われる左胸部から腹部の中ほどへと押し当てると
プシュ!!
僅かな空気の圧縮音の後、装置の上部の光が赤く点滅を始める
「ナノマシン注入、制御開始」
網膜に次々とステータスが表示されていく
<内臓細胞復元開始>
<骨格矯正及び再構築開始>
<出血箇所の止血、及び流出血液の分解開始>
その状態を2分程維持した後、グリーンの表示と共に
<治療完了、バイタル正常>
「すぅ...」
もう先程までの漏れる様な擦れた呼吸音は聞こえない
少女の呼吸が安定しているのが確認出来る
「よし...」
そのまま患部に当てていたメディカルキットを投げ捨てると
少女を抱えたまま立ち上がる
視界の隅に秒単位で表示されるカウントダウンが残り300秒を切っている
(このまま徒歩の移動では都市閉鎖までの脱出は不可能か...)
「都市管理システムにアクセス、都市構造情報を開示せよ」
都市全体の3次元見取り図が表示され
自分が居る地点を重点的に拡大される
(これは...)
その中の一部に目を止めると
「右脚部、ショック・インパクター起動
保護対象にフィールド集中展開」
両腕で抱えた少女が薄っすらと光の膜に覆われる
右足脚部の装甲が開き、淡い光を発し始める
<<危険:リアクター不安定>>
「構わない、破砕開始」
僅かに足を上げ一瞬淡く光を放ち地面に叩き付けると
半径1メートル程の石畳の地面が粉々に粉砕され穴を作る
そのまま次々と階層を隔てる地面と天井を撃ちぬいていく
最初は石畳と岩・土だった構成物は装甲隔壁へと変わっていくが
まるでハンマーで陶器を砕くかの如く簡単に撃ち貫いていく
50メートル程、数十階層程貫いて辿り着いた巨大な空間に降り立つ
空間は相当な年月の経過が見られるが
構造物そのものはその形のまま維持されている
そしてそのまま薄暗い中、奥へと駆けて行くとそこには壁一面
無数の穴とその手前にそれぞれ高さ3メートル程の
長方形の輸送コンテナが設置されている
都市のリニアレール輸送システムだ
その一つに駆け込むと、そっと少女をコンテナ内に設置されている
人員固定用の席に着かせハーネスを固定する
制御パネルへアクセスする、が当然システムは死んでいる
バキャ!!
右腕をパネルを貫きめり込ませる
「電力供給開始、システム制御」
クォオオオオ...
火花が迸りながらシステムが立ち上がっていき
ゆっくりとコンテナが僅かに浮遊を開始する
前方トンネル内を奥の深淵に二本の光の筋が伸びる
既に視界の隅のカウントダウンは100秒を切っている
「加速開始」
直後コンテナに強烈なGが掛かる
当然自分はこの程度では何ともないが
少女の方に目を見やる...大丈夫そうだ
50秒を切った
バチィ!
「ぐっ...」
一瞬コンソールにめり込ませた腕部から雷が迸る
<<危険:リアクター不安定・即時エネルギー消費を停止せよ>>
網膜に表示が点滅している
「あと少しだ!!」
速度を更に加速させ暗闇の地下深くのトンネルを
コンテナが凄まじい速さで駆け抜けていく
もしも何処かに崩落があった場合は一貫の終わりだが
がその危険性も承知の上で選ばれた最適ルートである
表示では後3000m程で都市外部に到達する
カウントダウンは残り10
9...
8...
7...
6...
「行けッ!!」
5...
4...
ーーー
ーー
ー
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緑豊かな木々に恵まれたある森の中
ゴゴゴゴゴゴ...ドゴォオオオオン!!
凄まじい地響きと轟音を上げながら
突如森の一角が突然隆起し岩土を吹き飛ばし
大木の根を引きちぎり地面がせりあがる
その下から巨大な人工物が地表に現れた
ズシン...
そして飛び出した様に現れた長方形の人工物は動きを止め
その場に横たわる
ガンッ!...ガンッ!...バカンッ!!
人工物の一角が中から蹴破られ
少女を抱えながら一人の男がその穴から姿を現した
<▲▽▲リアクターコアオーバーロード▲▽▲>
<▲▽▲リアクターコアオーバーロード▲▽▲>
煩わしい警告が男の視界を埋め尽くす
ゆっくりと抱えた少女を巨木の根本に降ろす
<<生体組織保護限界:リアクター強制停止>>
<<緊急用補助電源に自動移行:失敗>>
<<至急手動切り替えを実施せよ>>
<<至急手動切りーーーー
ドサッ...
男はその場に言葉無く倒れた