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屍のカンパネルラ  作者: 仲川たま
1.戌堂倫太郎
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1.戌堂倫太郎 -4

深夜までやっている蕎麦屋で、かき揚げ蕎麦を啜りながらクロの話に耳を傾けた。

「つまり、もう死んでるってコト?」

「うん」

クロが握り箸で蕎麦をすくいあげる。しかし、中途半端に挟まれた麺達は次々にポチャポチャとお椀の中へと落ちていく。残った数本をクロが急いで口の中へ放り込んだ。が、無情にも麺は滑り落ち、1本だけ残った麺が咀嚼された。

「あー……」

「フォーク借りる?」

「いらない!」

果敢に次の麺へと挑む事にしたらしい。頑張れよ。

「それで、さっきの話に戻るんだけど。クロ、死んでるの?」

「うん」

自称死人は油揚げに齧り付きながら言った。

どう見ても普通の子供にしか見えない。私は油揚げが詰め込まれふくらむほっぺたを摘んでみた。

やわかかい。そして、あたたかい。

「さっきのアゲハちゃんも?」

「屍人形なら、みんな死んでる。死ななきゃなれない」

「それってゾンビなの?」

「ゾンビ……」

クロが考えるように蕎麦屋の薄汚れた天井を見上げた。

「……うん、そうかな。ザネリが居るゾンビ」

「だから、そのザネリってのは何よ」

「ザネリは、ヤス」

お箸をぴっと私の方へ向けた。

「いや、まぁ、だからさ」

「ザネリから指示を受けないと本来の力が発揮されない」

「へ?」

そういえば先程の戌堂倫太郎も、アゲハちゃんに偉そうに命令してたな。

「屍人形になると生きていた時より身体能力がアップする。あと、超常能力が使える」

「アンタ火とか出してたもんね」

「オレが使えるのは自然発火。その辺のモノ燃やせる」

「アゲハちゃんも風起こしてたね」

「うん。多分空気の圧力を操れるんだと思う」

「すご……突風みたいので弾き飛ばされてたもんね」

「あれが本来の力。自然発火も、オレだけじゃ火花しか散らせない。ザネリが指示を出してくれれば火柱くらい出せる筈なんだ」

クロが器を持ち上げてめんつゆごと麺をかきこみ始めた。箸ですくうのは諦めたらしい。

「ザネリがいない屍人形は、ザネリがいる屍人形に勝てない」

「それよそれ。何で戦ってるの?」

「……死にたくないから」

「でも死んじゃってるじゃん。で、生き返ってる訳でしょ、ならいいんじゃない?」

「屍人形は49日しかもたないんだって」

「49日過ぎたらどうなるの?」

「動かなくなる。でも、その前に腐っちゃうかも」

「腐る!!?」

「だって、死体だもん」

そりゃまぁゾンビだって言ってたけどさ。腐るとか生々しいな。

「そ、蕎麦とか食べて大丈夫なの? アイスノンいる?」

「今はいらない」

御馳走様、と言って器を下ろした。麺を食べるのに必死で汁まで結構飲んだらしく底が見えそうな位減っていた。それでもまだ2,3本蕎麦が残っている。

「屍人形って何体か居るの?」

「うん」

「そいつら全員に勝てば死ななくて済むの?」

「うん。生き返る方法があるんだって。だけど、それは一人分しかないんだ。だから他の人が使う前に手にいれないといけないんだ。ねぇ、ヤス」

箸で掴んだ蕎麦がすり抜ける。めんつゆがテーブルの上に散った。

「オレ、まだ死にたくない」

箸もちゃんと握れない子供が私の顔を見上げる。

戦闘中に赤く煌々と照らされていた瞳は、もう夜の闇のように深い暗色に落ちている。

霧がけぶる瞳が一度またたき、私に言った。


「オレのザネリになって」

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