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ちづるとの出会い

僕が今の事務職で仕事が出来ている、みんなも仕事を出来ているのは、人工知能代替制限租税法というものが二十年ほど前から施行されたためだ。


この法律は、簡単に言えば人工知能を人の代わりに代替させた企業には法人税を引き上げます。というものだ。

この法律が当たり前のように機能していたのが、今までの世の中だった。


僕らの世代は、小学校からプログラミングなどがすでに身近な存在で、人工知能が人の仕事を奪う?なんてことは全くの初耳だった。

そんな世代が向日葵の言う脱ゆとり失敗世代なのかもしれない。


僕らは、学校で与えられた学習に沿って学んだ。先生や親はそれを真に受け止めて何の疑いもなく、教育指導をしてきた。

勿論、新学習指導要領を批判していた学者もいたであろうとも思う。


しかし、みんな時代に付いていくのが、精一杯だった。


東京でオリンピックをやっていたという、今は先進国では開催されていないオリンピックを僕が生まれた年にやっていたらしいが、このオリンピックの後、2020年危機と呼ばれた大不況が起きたという歴史もある。

詳しく、それについて調べると、その不況時、人の失業率が全く改善されない事態が起きた。


人工知能が人を代替した。


労働人口が減ってる中、企業のコストパフォーマンスと人間の失業者の能力が見合わないため、企業は仕事の補助的業務を人工知能に補わせた。

しかし、その一方で政府の公債費は弾けて、税収が回復せず、日本の国債は格付けを失った。


経済の低迷期に、人の雇用をもう一度戻す動きが起き、今の人工知能代替制限租税法が小泉内閣のときに施行された。


そのはずの今、自分の会社で人工知能が再び人を代替するというのは、どういうことなのか?


同期のちづるは人工知能が進化した、と言うがどういうことなのだろうか?思考力のない自分でも考えていこうと思った。


ちょうど、そんなとき、Siriからちづるのメッセージが来ていることを伝えられる。

メッセージは、今日急ぎで、例のリストラの件について話をしないか?というものだった。

ちづるの意見を聞いてみたいと思った。了解と返事をし、待ち合わせ場所に向かった。

待ち合わせ場所は、僕の住む街には一件しかない喫茶店だった。


「お疲れ様、休みの日に悪いね。」

「いや、大丈夫。僕も会社の件、ちづるから聞きたいことがあったから」

「君は例のリストラの件どう思う?」

ちづるはいきなり本題に入る。彼は結果から入る、聡明タイプだ。

「うーん、ちょっと考えたくらいじゃあなんだかよく分からないかな?社会的には政府は色々な問題を抱えてるんだろうけど、今まで乗り越えて来たと思ってる。なぜ今なのか?僕にはやっぱりわからない。」


「君はこの国が人工知能を完全に認めざるを得ない現状を把握してる?」


「どうだろう?2040年問題とは昔から言われてたけど、何だかんだ克服してきたと思うけど。」


「克服ね。本当にそうなのかな?僕は人口知能について肯定する気はないから、会社は辞めようと思う。」


「えっ、決断が早いね。どうして?」

ちづるは事務職の中でも東大の人間形成学部卒のエリートだ。人工知能の部署連携も抜群にセンスがある。

「だってさ、会社って人工知能に従う時代になるってことだよね?そんな世界、会社の価値なんてないんじゃない?」


そうか、企業が人工知能を前面に推していくなら、人間が補助的業務になる可能性もあるか。


「ちづるは会社を辞めてどうするの?」

「趣味のピアノに没頭しようかと思う。自然の中で人間として、芸術を学ぼうかなって。」

僕にはそんな考えを持ち合わせていないし、まず趣味に没頭出来るほど生活資力を持ち合わせていない。

僕の質問自体がちづるにはナンセンスだったのか?

「僕は介護系に転職もどうかなって考えてるんだけど?」

僕は今の現状を多少調べたなりに、とりあえず答えた。

「介護か、今管理職まで外国人だらけだよ?やっていける?」

「分からない、でも高齢者を支えるのが、若者の使命じゃないかなって」

「なるほどね、意思があれば、出来るんじゃいか?」

日本の移民政策は審査が厳しく、業種により、制限がかかっている。

2020年危機の際、それまでの移民限度枠を廃止し、移民を受け入れる範囲を広げた。

結果、大方の予想通り日本らしい安心、安全が失われた。

今は、労働人口の逼迫している業種にだけ効果的に外国人を投入している。中でも、介護職は外国人には人気の職業だが、給料も高い分、研修や体力、思いやりなど求められるスキルも高い。

外国人は、選ばれた人材が特別に日本国籍を取得している。

受け入れに限定的な面がある限り、多様性が当然の世界では、日本は超後進国ということかもしれない。


「あ、ちづる。こないだ言っていた人工知能の進化、あれはどういうこと?」

ちゃんと教えてくれるかわからなかったけど、どうしても知りたかった。


「あー、うーん、君もわかってるとは思うけど、一昔前に改革した社会保障はもう限界を迎えたんだよ。労働人口の減少を移民で補ってきてはいたけど、日本社会には移民が全肯定されず、その代替として従来の人工知能以上のものが導入されるらしい。

だから人工知能の租税法はどうやら撤廃され、これから労働人口知能生産法ってのが施行されるみたいなんだ。

今までの人口知能は補助的業務だったわけだけど、人間の領域に食い込めるようになったんだ。」


「年金受給年齢は知ってるでしょ?」

ちづるが唐突に話を変えた?

それは知らなかったから、さっき調べていた。

「確か七十八才だよね?」

「そうだね、昔は六十才からだったらしいよ。

この国は将来のことを出来る限り、隠している。小泉内閣はもう末期だ。余りにも若者を重視してきた。

そのツケが、人工知能に奔走される国や人を産み、人工知能に従う人間をたくさん作ってしまった。」

隠している?僕にはよくわからなかった。調べたいことはすぐにわかる。

年金受給者年齢を今までは確かに知らなかった。でも調べればわかることだ。国が何を隠しているのか?

ちづるに聞こうとしたが、その質問を遮るように話を続けた。

「そこでなんだけど、もし転職先も決まってないなら、農場を一緒に取得しない?」


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