向日葵の病室①
リストラの件は簡単には話せなかったが、表情を読み解くことを大切にしている彼女には僕のことなどすぐに理解されてしまう。
なぜリストラされるのか?納得いっていないのと、彼女に本人自身以外の心配はさせたくなかったのだけれど。
「今日はいつもと何か雰囲気が違うね?」
そう手話で伝えられた。
「そんなことないよ、ただ、会社で少しミスをしてしまって。」
そうやり過ごした。
僕は障害がある彼女を支えると誓い、婚約を決めた。
仕事をこれからもっと頑張りたい、家族を持つだけでなく、向日葵の障害と共に向き合って生きていきたい、そんな風に思いながら仕事をしている。
だからリストラの候補に挙げられるような適当な仕事をしてきたわけではない。
世の中は、急速に発展している。
今は、高齢者が多く、労働人口も少ない。そのため、人口知能を取り入れている会社がほとんどだ。
会社での業務は人工知能と人間の並存業務をしてきた。
社内には人工知能に業務をインプットしているエンジニアの部署がある。
そうは言っても、人工知能は全体で見れば人間の補助的な業務を担っていたレベルだった。
その人工知能の急速な進化が事務職削減の理由だと後に同期から聞いた。
僕は、いわゆる脱ゆとりに失敗した世代だ。
考えて能動的に動くということを学んでこないまま、言われた指示を丁寧にこなしてきた。読解力なんて無視して、英語とプログラミングを学んできた結果、何も身に付かなかった。
人工知能を利用しながら事務職をやってきた。
しかし、人工知能のレベル、導入コストの低下による人工知能代替化の流れは、僕のいる一流企業には先手として先んじていく使命がある。
時間は止まってくれないリストラ期日。
僕は微々たる退職金を貰って退職すべきか、居づらい中でも会社にいるべきか、面と向かって向日葵に相談するべきだろうと、それも家族ではないかと考えた。
「向日葵、ごめん、実は、今、会社で、リストラの候補者リストに上がっている。新しい転職先もなかなか決まらない」
僕は、正直に話した。
「それ、なんとなく分かってた。今嘘を付かれてるなって。リストラねぇ。」
聴覚のない向日葵にはやはり嘘は付けないなとつくづく思った。
「僕の会社にも人工知能が人の仕事の代替的な存在になりつつあるみたいなんだ。」
向日葵は特に何も言わない。
「でも、心配はしないでほしい。リストラには応じないで、会社で働けるようにがんばってみる。」
「…。ねぇ、そんな会社にいる必要ある?」
「えっ?」