リストラ勧告
彼女のお墓の前で、献花した向日葵に水をやり、僕は手を合わせた。
彼女は文通ノートを僕に送らなくなり、その後僕の前から居なくなった。
僕は今、自分の意思で彼女のお墓の前にいる。彼女に何があったのか、何を思っていたのか、自分の気持ちの中で整理が出来たからここにいるー。
いつもと変わらず、会社に出社したその日、突如として僕の会社は人事削減を発表した。
詳細な理由は明らかにされず、一ヶ月以内の事務職の事実上のリストラ。
僕は、今のご時世にどこか危機感を抱いてはいたが、それについて特段、自分の身近なことだとは思っていなかった。
その日の午後、リストラ該当リストが配布された。
そこには具体的な社員名が記載されていた。
注意書きとして、応じない場合は、退職金は出ないことが明記されている。
リストを見た瞬間、背筋がゾッとした。
僕の名前があるだけではなく、人事、総務、経理職の管理職以外の解雇者が明記されていた。
こんなにリストラが必要なのか?
会社の上司はお手上げ気味だった。
というよりも、遂に来たかと悟っていたのか、平常心を装って仕事をしている。
僕はつい最近に、婚約をしたばかりだ。
僕の婚約者は本人いわく病弱らしく、入退院を繰り返している。婚約者の名前は向日葵。
彼女は天真爛漫で元気な笑顔を周囲に見せる子、それが外見上の彼女であり、どこに病弱さなどあるのかわからないくらいだ。
ただ、一点聴覚を除いて。
喋れない代わりに、僕は、手でコミュニケーションをするようにしている。
リストラ勧告後、面会の約束をしていた日に病院にいる入院中の向日葵の元へお見舞いに行った。