気にしなくていいよと言われたら気になるものです
「ガトーショコラさん、おはようございます」
「おはよう……って、俺は月東……いや、だいぶ近くなったからいいやもう」
「このお店の男性って甘そうな名前の方ばかりで覚えやすいです」
「それはどうも。そんなあなたもそうだけどな。というか、表情が沈んでるように見えるけど、何か気になってることでも?」
どうして分かられてしまうのだろうか。この人は伊達に歳を重ねていない。そういうことなのだろうか。
「ガトーさんって、いくつですか?」
「へ? もしかしてそれをずっと気にしてたとか? 隠すことでもないから言うけど26だよ。年上でごめんね」
「何で謝るんですか? むしろわたしよりも年が下ならそれはそれで気になりますが」
「あ、いや……気にしなくていいよ。謝ったのは何となくだし、そんな感じがしただけだから」
「気にします。わたし、知りたいんです。ガトーさんのこととか、まだ覚えていない人のこととかも」
数か月も同じ場所にいるのに、友達じゃないってだけでそれなりに見知った関係者。なのに、人の名前も覚えようとしなかった。よく知りもしないのに映画とか行くんだから、それっておかしなことだと思う。
「えーと、それは~……とりあえず、接客が落ち着いてからでいい?」
「はい」
昨日のことは関係がない。だからそのことには触れたくないし、話す必要もないと思う。けれど、それとは別にもっと人のことを知るべきなんだろうなどと思うようになっていた。他に身近な存在で、話しやすい人がホールにいたので、何となく話を振ってみたわけだけれども。
「ふー、ピーク過ぎたな。どする? 話くらいなら聞くよ?」
「お願いします」
「それって、他の人には聞かれたくない系? それなら今日はもうあがりだし、途中までなら一緒に歩いて行けるけど」
この人、大人だ。素直にそう思えた。この人になら話してもいいのかもしれない。