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意識改革になった日


 どちらかというと、優しくない。あるいは冷たい。そんな評判を広められた過去が私にはある。それには真っ向から否定したい。だって、みんな騒ぎすぎだから。そしてまた働くここ、ファミレスでもそんな騒ぎが起ころうとしていた。


「あれは何ですか?」


 夕方、客の入りが落ち着いた時間。客のまばらな席の中、何やら歓声と拍手とクラッカーが鳴っていた。クラッカーを鳴らすのは本来は遠慮してもらっているのに、この日だけは良いとされていた。


「誕生日サプライズらしい。ファミレスだろうがどこだろうが、サプライズ受ける方は嬉しいことだろ」


「サプライズ?」


「驚くこととか、不意打ちな」


「それくらい分かります。バカにしてます? えーと……」


「深瀬、お前……俺の名前――」


 この人もそれを言って来るんだ。男の人って名前呼ばれるのが好きって聞いたことあるけど、そういうこと? この人は私がホールに入った時にすでにベテランしていた男性。ホールの人はさすがに知ってる。


「嫌ですね、もちろん知ってますよ。がっこうさんでしたっけ?」


月東がっとう! 月東亜貴がっとうあきだ。深瀬、お前覚える気ないだろ? 厨房の奴等は嘆いてたぞ。未だに名前を呼ばれたことが無いって」


「……呼ばれたいんですか?」


「仕事だから! お前、変わってるな」


 変わってると言われること。それは私には褒め言葉でもあり、喧嘩上等な言葉でもある。それはともかくとして、確かに仕事上で必要と言われてしまうと、それは覚えないと自分が危うくなる。


「じゃあ今日から覚えて行きます。がっこうさん」


「がっとう! はぁ……それでもいいや」


「それで、クラッカーってサプライズですか?」


「ちげー! 本人に知らされずにお祝いされることがサプライズな。とにかく、オーダー取り行って来て」


「はい」


 幸いなことにサプライズな席の人たちにオーダーを取りに行くわけじゃなかった。それは本当に良かった。ああいうサプライズな人たちは、店員にも何かしてくるという偏見が私の中にはあるからだ。


「深瀬、料理運んで」


「あ、はい。どこテーブルです?」


 私がそう言うと、厨房の彼は口角を上げて嬉しそうにあの席に向かって、首を動かした。意地悪ですか?


「仕事ですから。驚きませんけど?」


「そりゃそうだよな。じゃ、よろしく」


 私じゃなくても他の誰かでもいいのに、よほど名前を呼ばれないことが悔しいのか、寂しいのかそれは分からないけれど、私に頼む辺りが意地悪い。そして予想通りに私にもサプライズクラッカーの空気圧が飛んできた。こういうことが起きるのは普通じゃない。


 だからまずは男性スタッフの名前を覚えよう。きっと今日はそういう日。

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