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F(普通)の恋には驚かない


 普通って何?

 恋にしても、何にしても、普通であるならそれだけで良かった。それが現実はというと、簡単には行かなかった。


「いや、普通は二股三股はしないからね?」

「バカにしてます? それくらい分かりますよ。そうじゃなくて、ケーキさんがそれを望むなら、それでもいいかなと思っただけで」

「あー……えーと、俺はフリーだからね? だから、その二股どうこうって話は当てはまらないというか」

「じゃあ、私がケーキさんとガトーさんとで付き合うことになったら、それは股になるんですか?」

「え? 付き合う? あれ、でも月東は彼女いるよね?」

「いますね」


 帰りに送ってもらった時に彼女のことを聞いているから、それは間違いがなくて、それでも彼は私を拒むことはなく、可能性はあるんだと勝手に思えた。


「深瀬、月東の彼女のノエルを敵に回すのはよせ。深瀬は何か危なっかしいんだよな」

「別に敵を作ろうとしてないですけど、私、危ないですか? じゃあ、もうこの際ケーキさんでいいです。美也ちゃんが怒って怖くなるのは目に見えているんですけど、普通じゃないことをしてくれそうですし……まさか映画を見た後に、本当に胸に触れて来るとは思いませんでした。普通じゃないですよ、アレは」


 アルバイトの掛け持ちをして、もっとここのバイト先じゃない人でアブノーマルな関係でも持てれば、なんて思っていた。だけれど、きっとどこに行っても、彼女持ちの人くらいにしか興味を持てない。


 それならもう、美也ちゃんにはばれてしまうけど、手っ取り早くて好意を持っているこの人にしよう。


「じゃあ、付き合いますか? 胸好きのケーキさん」

「や、待って、それのことは本当にごめん! あれはどうかしてた。いつもあんなことしたいわけじゃなくて、その場の雰囲気と、あと……深瀬が好き、や、気になっていた子から誘われたら拒否なんてするわけが無いわけで。だから、俺をその辺の安っぽい男と一緒くたにしないで欲しいっていうか」


「……気にしていないです。じゃあ、よろしくです」

「えっ、付き合うってことの意味?」

「あ、です」

「じゃ、じゃあ、月東のことは?」

「ケーキさんだけでいいです。美也ちゃんに何て言い訳をするのかは見ものですけど」

「す、する! あいつは俺がなんとかするから!」


 本当はもっとこのバイトでも他の場所でも、ドロドロした恋愛感情に溺れてみたかった。それこそ彼女持ちの人のもう一つの感情を動かしてみたかった。だけど、とりあえず圭希さんでいいや。


「条件があるんですけど、聞いてくれますか?」

「き、聞くよ。何でも! もちろん、浮気はしない!」


「――いいえ、してください。普通の恋では驚かないので、もっと驚くような恋をさせてください。そうじゃないと、私が嫌なので。それでいいですか?」


「それは俺も嫌なんだけど、でも、そうさせたくないから、普通と思わせないような恋をさせるから」


「はい、期待しています。深瀬を普通じゃない恋で驚かせてください。よろしくです、圭希さん」

長いこと書けなかったままの作品でしたが、これで終わりです。

もっとドロドロな展開の予定でしたが、現状厳しかったので綺麗?に完結させました。


お読みいただきありがとうございました。

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