プロローグ
好きなこと。それは、何? そう聞かれたら、部屋の中に飾られたモノから順に答えて行くことにしている。それが一番手っ取り早いから。ありきたりでも何でもいい。わたしはただ、普通にして行きたいだけだから。
中学、高校と特段何も驚く様な出来事も無く、さして興奮や刺激といったことにならなかった。それが私の6年間。そして今、19の年の最後を終えようとしている。遅生まれだから、20に変化するまでには時間的な余裕がある。それって、その年になればみんな同じだろ? なんて言うけどそれは違う。誕生日が来てそれから変わるって思うから。
心も身体も未だ未成熟。それが普通だと思う。20になるまでの僅かな時間と、過ぎてからの私はどう変わっていくのだろう。そんなことを思う普通の女。それが私、深瀬桃華、19歳。
「一番テーブルが光ってる。深瀬、よろしく」
「行きます。スタンバイは――」
「客少ないし、すぐ作れるよ。とにかく行って来て」
「はい」
そうしてオーダーを取りに行き、伝えるとすぐに出来上がって来る料理。この瞬間は結構好き。
「料理あがったよ。よろしく!」
幸いなことにファミレスで料理を作ってくれるのは男性ばかり。女な自分はオーダー取って、運ぶだけ。この辺が楽って思うあたりがつまらない私でもある。ファミレスに特別は求められない。それが私にとって最高の働き場所。それでいいって思う自分がいるんだから、文句なんて言わない。
「おつ、深瀬」
「お疲れ様です」
彼は厨房でキビキビと動く人。たぶん、20は越えてる。自己紹介した時くらいしか名前を呼んだことが無い。だけど私以外のホールの人間は、オーダーを取りに行く人の名前を全員覚えるのは当たり前で、覚えていないのは私くらいだった。
「深瀬、俺の名前呼ばないけど何で?」
「名前……何でしたっけ?」
「ひどくね? もう三カ月目だぞ。覚えてくれよマジで。じゃあ、メモってくれるか?」
「オーダー入りました」
「くっ、後で! 絶対だぞ!」
名前は覚えるけど、普段はあまりこっちから呼ばない。オーダーって呼ぶだけだから。友達でもないし、それは必要なのかな。こういう所は自分でも可愛くないし、素直じゃないって思う。
でも、そんなものだ。それが普通。普通にしていければいいって思ってる。もちろん恋も普通希望です。