表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラナ markⅢ  作者: ススキノ ミツキ
7/37

第7話 アルトデルト公都

『数哉様、この山脈の5合目辺りにウェクステダントの滝が御座います。』


「滝の音が凄いな。ここまで聞こえるなんて。滝に着いたら直ぐに昼食にしよう。ラナは豆腐を食べた事あるか?」


『いえ、食べた事は有りません。』


「そうか、だったら後で食べてみたらいい。地球に戻った時に俺の好きなポテトチップスと豆腐を買っておいたから。」


『もしかして!それは!あ〜ん的なオプション付きですか!』


「いいや・・。」


ガクッ!


 山を草を掻き分けて登るが、腰までの草が邪魔をして中々進めない。


「この山は草が凄いな。」


『反対側から登れば、道もありますし草も少ないのですが。』


「まぁ、特に急いでる訳でもないしな。それに走ろうと思えば走れなくもない。今の強さなら穴とか、木の根に引っかかても怪我は有り得ないだろうから・・ん?」


「何かを踏んだ感触があるな?」


『数哉様、ルドベルスと言う毒ヘビを踏んでいます。数哉様の足首に咬みついていますが・・。』


「マジで!うぉ!」


ブオン!バサ!


 数哉が焦って足を振ると、目の前にあった草が千切れ飛び、ヘビも勢いよく木に当たり弱っている。


「俺・・毒ヘビに咬みつかれたんだよな?」


『はい。微小な傷も体内に入った毒も既にありません。』


「弱い毒なのか?」


『いえ、処置しなければ極微量の毒でも全身の痺れから、最終的に心臓麻痺を起こし死に至ります。』


「・・で、俺は大丈夫と?」


『はい、食べますか?』


「食べないよ!死ぬだろ!」


『数哉様には、殆どの毒は効きませんし、大量に摂取するとスパイス的な良いアクセントの料理になるかも知れません。』


「フグで確か・・そんな料理を聞いた事あるな。美味しいのか?」


『はい、味は保証致します。』


「少し怖いが何でも試してみるか。」


--土産には絶対に出来ないな・・。


『では、いつでも料理出来るように保管致します。』


「ああ。」


ドドドドドド〜〜!!・・・・・・・!!


ザザザザザザ〜〜!!・・・・・・・!!


・・やがて滝が近くなると、かなり大きな音が重なり合い聞こえだした。滝へ繋がる幅520メートルの大きな川も見える。森を抜けた所で、高さ150メートルを落下する大量の水が見えた。滝の下には広大な湖が眺められる。


「壮観だな!」


ドドドドドドドドド〜!!・・・・・・!!


・・動物やエルラの音や鳴き声、自然の音を全て飲み込むように滝は流れていた。


「音が煩いな!ラナ!俺の声!聞こえるか!」


『大丈夫です。数哉様の声はどれほど小さく話して頂いても聞き逃しません。若しくは、いつも通り心で会話して頂ければ。・・煩いようでしたら滝の水を全て転送させますが。』


「滝じゃなくなるからヤメてくれ。」


『畏まりました、それでは昼食の用意を始めます。』


「ああ。昼食で思ったんだが、この下の湖には食べられる魚は居ないのか?」


『お待ち下さい・・どうやら沢山の魚と魚のエルラがいます。』


「焼き魚が食べたくなって来たな・・。」


『それでは釣りなど如何でしょう?』


「良いな。少しのんびりと行くか。」


『それでは・・・・転送。』


 数哉の前にオーロラが現れ、鉄竿が現れた。竿には頑丈なワイヤーの糸が繋がり先には手の平サイズの大きな針が付いている。


「おいおい・・魚を釣るんだが?」


『この大きな湖に居る魚は殆ど1メートル以上の大きさです。滝の上流の川には数哉様のイメージぐらいの魚も居ますが。』


「そうか・・そんなに大きいと大味じゃないのか?」


『いいえ。ここの湖は水質も良く、良質な餌となる水草も育っている為に、刺し身でも食べられる美味しい魚がいます。』


「分かった。頑張って大物を釣ってみるか!」


『それでは私は・・実体化。』


「他の料理を用意させて頂きますので、ごゆるりと。声はこの状態でも直接数哉様の頭にも届けていますので、通常声量の会話で問題有りません。」


「ん?ああ・・ところで餌はどうするんだ?」


「こちらに・・転送。」


 数哉の前にワロー肉が現れる。


「草食じゃないのか?」


「殆どは草食ですが、元が雑食の為に切り身であれば喰い付くみたいです。」


「何で分かるんだ?」


「湖に転送したワロー肉に現在、喰い付いています。」


「そうか・・だったら豪快に行っとくか!」


 数哉は腰の剣を抜いてワロー肉を50cm程にする。剣は最後にビュン!と振り血を払うと鞘に戻した。


カチン!


「剣を仕舞うのも慣れて来たな。」


「はい!格好良いです!最高です!」


「そこまで褒められると照れるんだが・・景色も良いし、このままここから釣るとしよう。ラナ、この竿の糸で届きそうか?」


「大丈夫です。そのリールに付いているワイヤーは500メートルの長さがありますから。」


「このリール、大きいしな。」


「はい、竿と合わせると重量的には約250kgですね。」


「クジラでも釣れそうだ。」


「可能です。その鉄竿も特殊な素材を芯に使ってますから、シロナガスクジラでも釣れます。」


--船が沈没しそうだけどな・・。


「よ!・・っと。」


ビュン!


 勢い良くワロー肉を付けた針が飛んで行く!湖に着くと大きく水飛沫を上げて着水した。


ザボン!


「着水が派手過ぎて魚が逃げたんじゃないか?」


 ラナはテーブルや椅子皿等をセットしながら数哉に応える。


「一時は逃げた様ですが、それ程気にしていない様です。」


「さっきから思ってたんだが、どうやって見ているんだ?」


「惑星デアラールの監視システムを使用して、こちらに映像を送っています。勿論、数哉様に言われた通り御家族に危険が無いように、この監視システムを使って監視も続けております。」


「ああ、頼んだ。何かあれば俺に報告と、緊急性があれば助けて欲しい。」


「護衛アンドロイドも気付かれない様に付けています。車に引かれそうになっても車を消滅可能です。」


「え!車を止める事は出来ないのか?」


「それを御希望とあらば。」


「・・なるべく人を殺さずに助けてくれ。」


「畏まりました。」


 数哉の竿が急にしなりだす!


ギュン!


「お!掛かったか!?」


「体長5.2メートルの大物です。」


「・・よ!・・ほ!・・中々、釣りも楽しいな!地球に帰ったら太平洋の真ん中で釣りでもするか。」


「では、海の上に別荘でも建てましょうか?」


「それも良いな!庭から直ぐに釣りか!」


「では、数哉様のお部屋と同様仕様の別荘を設置しておきます。」


「ああ、任せた。」


・・・数哉は力強くリールを巻いて行き、遂に魚はその姿を見せた。魚は最後の力を振り絞り湖の表面でジャンプを続ける!


ザパーン!ザパーン!


「おっと!凄く生きがいいな!」


「魚型のエルラでモロストースといいます。」


「特大サイズのカジキマグロみたいだ。」


「産卵時期だけ海から、この湖に戻る様です。」


「・・と言う事は味も期待出来そうだな。」


「はい。」


 数哉は地上の近くまで釣り上げるが、モロストースはまだ逃げようと数哉に向けて尾ビレを振った!


ブオン!


「おっと!危ない!」


シャキン!ズバ!シュ!


 数哉は屈んで尻尾を避け、片手で剣を抜いてモロストースの頭を斬る。しかし剣の長さが足らず4分の1しか切れていない。モロストースは鱗を広げて数哉へ体当たりをしようと地面を跳ねた!


バン!!


 4メートルの高さまで上がり、数哉に向かって落ちて来る!


「生きが良過ぎだろ。ラァ!」


ドオ!ドスン!!


 数哉は鉄竿を振り上げて落ちて来るモロストースの頭を面打ちの様に上段から叩いた!モロストースの頭は凹み、地面に叩き付けられて気絶している。


「ふぅ・・尻尾ビレが動いてる?まだ生きてるのか。」


 モロストースが再び動かない様に、数哉は剣で頭を斬り落として行く。


ズバ!ズバ!ズバ!ズバシュ!


 頭を斬り落とすとオストラルエネルギーが出て行く。


「申し訳御座いません、数哉様。」


「ん?どうしたんだ?」


「現在、腕輪化しておりませんので倒してもエネルギー吸収が出来ません。」


「何だ、そんな事か。大したエネルギーじゃないんだろ。」


「はい・・。」


「気にする事ないさ。それより、この魚を美味しく食べる事の方が重要だからな。」


「それはお任せ下さい。あと、数哉様。」


「ん?」


「もう刺身は出来上がっております。」


「はやっ!て・・いつもの事か。どれどれ・・。お、醤油も用意してあるな!」


モグモグ・・。


「上手い!無茶苦茶美味しいぞ!身が引き締まってるのにマグロのトロみたいに脂も乗ってて!」


「殆ど余りそうですが、御土産になさいますか?」


「そうだな、頼んだ。これの前では豆腐も霞むか?豆腐は又今度にするかな?」


「いえ!私は数哉様がお勧めされた豆腐を食べてみたいです!」


「そうか?じゃあお皿に出してくれ。醤油はもうあるしな。」


「はい。」


 数哉は食べた事のないと言うラナに先に勧めた。


「どうだ?ラナ。美味しくなければ後は俺が食べるが?」


「・・美味しい。美味しいです!これ!今まで食べた中で1番美味しいです!」


「そうか?俺には、さっき食べた刺身の方がかなり美味しかったが余程ラナの口にあったんだな。」


「・・・・・。」


 ラナが豆腐を食べながら考え込むような表情になっている。数哉はそれを見て話した。


「ラナ?・・地球の大豆を全て1人締めしようとするのはヤメろよ・・クク!冗談だがな。」


「駄目ですか・・。」


「本当に考えてたのか!?ダメに決まってるだろ!」


 ラナが冷奴を食べながら落ち込んだ様子を見せ、数哉は話す。


「時々、地球に戻って豆腐を買えば良いさ。」


「本当ですか!次はいつ戻られます!?」


「まぁ・・一週間以上は先かな?」


ガクッ!


「そう落ち込むな。レリクスにも美味しい豆腐を作っている所があるかも知れないしれないだろ。」


「そうですね!早くアルトデルト公都に向かいましょう!」


「ちょっと待ってくれ。まだ食べている所だし・・それにしても、これだけ絶景にも拘わらず人が誰も居ないんだな。」


「公都から、まだ距離があるからでは?お待ち下さい・・。」


「ん?」


「ギルドのデータバンクによると、この滝は神聖な物とされている様です。只の御伽話の様ですが・・昔、エルラに追い詰められた旅人家族がいてエルラと共に子供がここに落ちました。この滝には精霊が住むと信じられていて、両親は私達が代わりになるから子供を助けて欲しいと、精霊に願いを込めて身を投げた様です。子供は助かり、子供の居ない親戚に預けられて幸せに暮らしたとあります。」


「嘘っぽいな。」


「はい・・ですが、それを信じて今まで何人かが命を落としている様です。あの女性の様に・・。」


「え?」


 数哉がラナの指差す方へ振り向くと、両手を前で祈る様に組み滝へゆっくりと近付く20代前半の女性がいた。それを見た数哉はスクっと立ち上がり駆け出す!


ビュン!タタタタタタタタ!!スザ〜〜!!


 数哉は滝へ向かう女性を阻む様に手を広げて、滑りながら急停止した。


「何考えてるんだ!?アンタは!!」


「キャッ!$#^&%*$$?・・。」


--あ!


「ラナ!・・腕輪化して通訳を頼む!」


『畏まりました・・腕輪化。数哉様の声も向こうの女性にお届けします。』


 ラナは離れた場所でオーロラと共に消えて、数哉の右腕の腕輪と化して現れる。


「それで?あなたは何故滝へ飛び込もうとしているんです?」


「止めないで下さい!・・これしか、あの方をお救いする方法は無いのです。」


「あの方って言うのは?」


「あなたには関係有りません・・。」


--まぁ、その通りだが・・もう見てしまったしな。


「出来れば話して欲しいんだが。内容によっては助けて上げれるかも知れない。俺は冒険者の数哉と言います。」


「冒険者!?では!Bランク以上の冒険者の方をご存知でしょうか!お願いします!出来るだけ多く雇いたいのです!」


--Bランク以上の知り合いか・・コーネットさん達ぐらいしか知らないな。


「どうしてですか?」


「私は衣服商人の娘でルノーテと言います。実は・・私のお慕いさせて頂いている方に命の危険が迫っているのです。その方はアルトデルト公都で1番偉い公爵様の嫡男コースト・アルトデルト様です。」


「・・・。」

 

「本来ならば実る筈の無い恋ですが、公爵家には昔から服のお得意様で邸宅へお伺い致しておりました。初めてお会いした時からコースト様も、私も一目惚れをし・・愛を育み今まで隠れてお付き合いさせて頂いておりました。ところが少し前に、その事が公爵様の耳に入りお怒りになられたのです。明後日には公爵家跡継ぎの儀式を行うそうです。」


「公爵家跡継ぎの儀式とは?」


「はい、200年以上前まで行われていた儀式ですが余りにも危険な為に廃止されていました。そこで本来跡継ぎと決まっていた筈のコースト様と、弟であるフィリップ様で先に跡継ぎの儀式を終えた者が公爵家の正式な跡継ぎとなります。」


「それが危険な儀式なのですか?」


「はい・・アルトデルト公都の南にあるベレンモル遺跡内部の迷路を踏破して、公爵家の証を水晶の中に灯す儀式なのですが途中には、数は少ない様ですがB級やA級ランクのエルラも存在するそうです。」


「なるほど、それで出来るだけ冒険者のランクが高い者を護衛に付けたいと。」


「そうです。」


「ギルドで雇えは・・?」


「・・公爵様の手廻しでフィリップ様の護衛に多く駆り出され、アルトデルト公都と周辺の街の高ランク者からは、力を借りられませんでした。それで私はこの滝に・・。」


「だが・・あなたが滝に身を投げれば、そのコースト様が哀しむのでは?」


 女性が泣きながら崩れ落ちる。


「あぁ!私はどうすれば!?」


「ふぅ・・いいでしょう。俺が協力します。」


「では!何処かに高ランク者の方が!」


「いいえ、今協力出来るのは俺しかいません。」


 数哉のボロボロの初心者鎧を上から下まで見て、再びルノーテが泣き出した。


「やっぱり!もうダメです!うぅ・・。」


『数哉様、この女を滝に叩き落とす許可を願います。』


--「落とすな、折角止めたのに・・確かに失礼だがな。」


「これで信用して貰えるか?」


バキバキ!バキバキバキ!!


 数哉は近くにあった木に腕を回して圧し折る!ルノーテは明るい表情で数哉に尋ねた。


「もしや!高ランクの冒険者なのですか!?」


「いいや、Gランクだ。」


 ルノーテは地面へ顔を伏せる。


「やっぱりダメなんだわ!うぅ・・。」


『数哉様、この女を上空1000mから滝へ落とす許可を願います。』


--「だから落とすな。だがどうやって安心させるか?そうだ!さっき滝の水を消すような事を言っていたが一瞬だけ本当に出来るか!?出来れば俺がやったみたいに見せたいんだが。」


『可能です。一瞬でも永遠でも。』


--「ならば俺の合図で、一瞬だけ滝を消してくれ。」


『畏まりました。』


 数哉は右手を滝へ向けた。


「ルノーテさん。よく見ておくんだ、俺の力を。」


「え?」


 ルノーテは顔を上げて数哉の右手が向けられた滝を見る。何トンもの水がいつもと変わらず、滝壺へ落ちていた。


「滝よ!消えよ!」


--「いいぞ!ラナ!」


『・・転送。』


「え!ウソ!?滝が!!・・・!」


 今まで滝であった存在は、音も静かに只の崖へと変化している!数哉は右手を降ろした。


「これで俺の力を信用してくれますか?」


 再び滝は復活して大きな音を立てる。


ドドドドドド〜〜!!・・・・・・・!!


ザザザザザザ〜〜!!・・・・・・・!!


 ルノーテは土下座をして数哉に懇願した。


「貴方様は精霊様でしたのね!今までのご無礼をお許し下さい!」


「いや、精霊ではないんだが。」


「こんな大きな滝を消すなどの奇跡を起こせるのは!精霊様に違いありません!」


--やり過ぎたか?


「・・それで俺が力を貸す代わりに、滝に飛び込むのはヤメてくれますか?」


「はい!是非とも!精霊様の御力で、コースト様をお救け下さい!」


「・・分かりました。何処までやれるか分からないが力になりましょう。ただ俺の指示に従ってくれる事が条件です。」


「畏まりました!コースト様には精霊様の声に従う様に、お願い申し上げます!」


--これでいい。迷路ならばラナが案内出来るだろうが、貴族が簡単に俺に従うとは思えないからな。それを考えれば精霊と勘違いされている方が良いのかもな。年上だが言葉も少し偉そうな方が良いか?


「では案内を頼む。」


「畏まりました。」


・・・ルノーテの馬車に乗って走り出す。馬車はルノーテ自身が走らせていた。馬車は意外と大きな馬車で、公爵家に出入りしている衣服商人らしい荷台付きの豪華な馬車である。3頭の馬で牽引されていた。数哉は後部座席に乗っているが、少し不満を洩らしている。


「俺が自身で走った方が速いし、景色も良いな・・。」


『走ったら宜しいのでは?』


「そうだな・・飽きたらそうするか?」


・・・山道を登り降りを数回繰り返し、後30分ぐらいで山を降りると言う所でラナが不穏な話をした。


『数哉様。』


「ん?」


『後10分程走った先に、武装した男8人が木陰や木の上に隠れております。』


「もしかして彼女が目当てか?」


『分かりませんが、その可能性はあるかと。彼女を人質に取ればコーストの行動を抑え込む事は簡単でしょうから。』


「だとしたら弟のフィリップが黒幕かもな・・どうだ?その男達の強さは?」


『恐らく雑魚ですね。身に着けた装備だけでいくと、大した事はありません。』


「その基準で話すと俺も大した事ないんだが。」


『いいえ!数哉様は超別格です!数哉様は何を着ていても超凄い御方なのです!』


「まぁ、別に気にしてないから。」


『本当ですよ!』


「分かった。それより男達を退治しに行くぞ。」


 数哉は走っている馬車から、扉を開けて飛び出す!


タタタタタタタタ!


 馬車を走らせていたルノーテの横に余裕で並んだ。


「ルノーテさん!」


「え?キャッ!精霊様!何を!」


「この先にならず者がいる様だ!ルノーテさんは馬車を止めて待っていてくれ!」


「え!?はい!」


タタタタタタタタ!!


 数哉は、そう話すと一気に加速した!まだ減速していない馬車を置き去りにして走って行く!それを見てルノーテはポカ〜ンとして驚いていた。


「・・流石、精霊様です・・・。」


タタタタタタタタ!


・・土埃を上げて一気に男達に近付いて行く!男達がそれに反応した。


「女の馬車か!?」


 単眼鏡で木の上から覗く男がそれに答える。


「いや!違う!・・何だ?あれは?・・人か?速過ぎるだろ??」


「何だ!?早く言え!」


「人らしき物がこちらへ走って来ている・・。」


「馬鹿言うな!人があんな速さで走れるか!」


タタタタタタタタ!ビュン!


 そう話している間に数哉は男達のいる場所を通り過ぎた。男達は砂煙に覆われ視界が悪くなっている。


「ゴホッ!ゴホッ!一体何なんだ!?」


 木の上にいる男が叫んだ。その男に砂煙防止用メガネとマスクを着けた数哉が背後から、男達の仲間を装い話し掛ける。


「そんな事はどうでもいい!早く女を捕らえるぞ!もうすぐ来る筈だ!」


「分かっている!ゴホッ!ゴホッ!」


「やはりルノーテさんを狙っている様だな。」


「!?誰だ!」


ボコ!!

 

「ゴゲ!」


ドサ!


 数哉は男の振り向き様、かなり軽くパンチを放つ。口元を布で隠した男は気絶しながら落ちて行った。その悲鳴と音に男達が異変に気付き騒ぎ出す。



「気を付けろ!誰か一人ヤラれたぞ!」


「よっ!」


 数哉が腹に穴を空けないよう前蹴りを放ち、又一人吹き飛び気絶した。


ドス!


「ぐえ!」


 砂埃は少しずつ収まり視界が広がって行く。


「お前か!砂埃に紛れて攻撃していた卑怯な奴は!?」


ビュッ!


 男が数哉を殺そうと剣を振る。数哉は顔の横に迫る剣を頭を下げて避けた。


「遅い!それに女1人を男8人で狙う様なやからに卑怯呼ばわりされたく無いな。」


ガシ!


 数哉は相手に踏み込み、剣を持つ腕を取りそのまま横の木へ誘導する。剣が木に刺さり動かない!一生懸命ノコギリを外す時の様に揺らしていた。


「くそ!」


 数哉は動かない的の腹をアッパー気味に軽く殴る。男が着ていた鎧が凹み、お腹を押さえて崩れ落ちた。


ボコ!


「グワッ!」


『数哉様、他の者達は全て木の上に居ます。魔法をそれぞれ構築している様です。』


「分かった、降りて来て貰おう。」


 数哉は近くの1番太い木に抱き着いて、木を持ち上げようとする。腕も回らない様な太さの木を持ち上げる姿を見て、魔法を構築しながら男達は笑った。


「「「「「ククク・・。」」」」」


「アイツは何をしている?あんな大きな木が持ち上が・・え?」


ミキ!メキ!ブチ!ブチ!ブチ!!


 木の根の千切れる音と共に引き抜かれた!男達が驚く!


「「「「「な!?」」」」」


ドブォ!!


 数哉は抜いた木を振り回して、男達の居る木に叩き付けて行った。叩き付けられた木は、折れそうなぐらいに揺れている。男達は焦り、魔法を生み出せず木にしがみついた。


ドン!ドン!ドン!・・・・・!!


「うわ!揺らすな!」


ドサ!


「クグ・・・。」


 1人の男が耐えられすに落ちて、地面で呻いている。男達は落とされまいと木の上から自ら降りた。


「やっと降りて来たか。そら!」


 そこへ数哉の木が迫る!


ブオン!ブオン!ブオン!


「ゴボッ!」


「ブッ!」


「ダワ!」


「ベゲ!」


 男達はそれぞれ吹き飛び、殆どの者は衝撃で気絶していた。数哉はラナにロープを出して貰い、木に縛り付けていく。意識がハッキリして来た男に、数哉が近付いて話した。


「お前達は誰に頼まれてこんな事をしている?」


「・・・。」


--そりゃ言わないか?ならば・・。


「フィリップに頼まれたんだろ。」


「な!?次期公爵様を呼び捨てで呼ぶなど!無礼な!お前こそ誰だ!牢屋にブチ込んでやる!」


「クク・・誰も公爵様の御子息とは言ってないんだがな。」


「!?し!知らん!俺は何も言ってない!」


『間違い無い様ですね。この者達を如何致しますか?』


--「そうだな・・雑魚だし、まだルノーテさんを誘拐もしていない。このまま木に縛り着けて放って置こう。」


 数哉がルノーテの下に戻ろうとすると、男は喚き出す。


「こら!ロープを解け!エルラが来たらどうする!?」


 数哉はゆっくりと歩きながら答えた。


「お前ら・・自分を殺そうとした人間が居たら、そいつが危険な時に助けるか?」


「・・・。」


「じゃあな。」


 数哉は走り出す。


タタタタタタタタ!


「待てぇぇ〜!頼む!!解いてくれぇぇ〜!!」


・・数哉は不安そうに待つルノーテの下に戻った。


「あ!精霊様!ご無事でしたか!」


「全く問題無い、公都へ向かおう。」


--「ラナ、馬車の運転は俺でも可能か?」


『可能です。数哉様の力でしたら馬が暴れても抑え付けるのは容易ですから。』


--「そうか・・運転の仕方を後で教えてくれ。」


『畏まりました。』


「・・念の為、ルノーテさんは後部座席に乗ってくれ。俺が運転する。」


「はい。」


 数哉は馬車を走らせて行く・・。途中で、木に縛り着けた男達が喚くが何も反応せずに横を通り過ぎた。ルノーテは気になり後部座席から数哉に話し掛ける。


「精霊様、あの者達は何者なのですか?」


「ん?只のゴミだ。気にしないで良い。」


--フィリップの仕業と知ると余計に心配するだろうからな。


「は・あ?・・??」


・・・夕方となりアルベルト公都付近傍まで来ると、コーストと5人の冒険者が馬を走らせて来た。数哉の走らせる馬車の傍まで来るとコーストが大きな声を出した!


「ルノーテ!返事をしてくれ!」


 ルノーテが窓から顔を出して笑顔で返事を返す。


「コースト様!」 


 数哉は馬車を止めて、コーストもホッとした表情で馬を止めた。ルノーテがドアを開けて出る。コーストは馬から降りてルノーテを抱き締めた。


「心配したぞ!まさか!この様な手紙を残して消えるなど!」


 コーストは右手に持つ手紙を握り潰しながら、より強く抱き締める。手紙はルノーテがコーストに宛てた物で、滝の精霊にコーストを護って貰うと書いてあった。ルノーテはコーストの胸の中で泣きながら話す。


「・・申し訳ございません、コースト様!・・これしか思い着く事も無く!」


「良いのだ、そなたが無事であったならば・・だが滝の精霊などに頼らなくとも必ず私は無事に戻る!頼むから危険な事はするな!よいな!」


「はい・・しかし、精霊様はいらっしゃいました。そこに居られる方です。精霊様の御指示に従えば必ず守って頂けるはす筈です。」


「・・・。」


 コーストは数哉を無言で見て、ルノーテを放すと数哉に近付いた。ルノーテは不思議そうにコーストに呼び掛ける。


「コースト様?」


シャキン!


 コーストは腰の剣を抜いて数哉へ向けた!


「貴様がルノーテを唆したのか!?」


 ルノーテが急いで数哉とコーストの間に割って入る!


「お待ち下さい!コースト様!本当にこの御方は精霊様なのです!私は見ました!この御方がウェクステダントの滝を只の崖に変える奇跡を!!必ず!コースト様を護って頂ける筈です!」


「ルノーテ!そこを退くのだ!お前は騙されておる!」


 ルノーテが更に、涙を流した。


「私を信じて下さい!コースト様をお助けしたいのです!・・。」


「分かった・・ルノーテがそこまで言うのならば・・。」


 コーストが仕方ないと言う感じで剣を下げる。数哉は何もせずに見守っていた。数哉に取っては後継ぎが誰になろうと構わず、ルノーテが死のうとするのを知ってしまった為に、成り行きで助けようとしているだけである。


「ありがとうございます!コースト様!」


 冒険者達は数哉のボロボロの鉄鎧を見て、コーストと同じく数哉を口だけの怪しい奴と見ていた。1人の出っ歯の男が、馬を降りてコーストに近付きボソリと話す。


「宜しいので?コースト様・・どう見ても冒険初心者がルノーテ様を騙している様にしか見えませんが。」


「・・仕方ない。ルノーテは信じている様だからな。取り敢えず連れて行くしかなかろう・・。」


「御意・・。」


 ラナは、その会話を聞いて怒り心頭に数哉に願い出た。


『数哉様!この者達を助けるのは、お辞め願います!この者達は、数哉様の事を!』


--「分かってる・・ラナありがとう。コイツ達のコソコソ話はレベルの上がった俺にも耳に届いているさ・・がな、俺は自身の昇進の為に人を殺そうとまでするフィリップ達を絶対に許せない・・なんか数年前に俺を貶めようとした企業の奴らと同じ様に見えてな・・。」


『数哉様・・。畏まりました!コイツ達の前歯は!フィリップ達を成敗した後に全折りです!』


「ん?折るな。」


『畏まりました・・。』


「精霊と申す者?」


「数哉だ。」


「精霊にも名前があるのか?」


「そうだ。」


「・・私はお前が精霊だとは信じられぬが、ルノーテの真剣さに付き合う事とする。儀式はフィリップの申し出で明日に早まった。大方、私に戦力が集まるのを恐れたのであろう。明日の朝7刻にアルトデルト公都の正門から出発する故に遅れるな。遅れたら置いて行く。」


「分かった。」


 コーストの馬にルノーテを乗せて、馬車は冒険者が運転して行く。宿はコーストが冒険者用に取っていると言うが、数哉は宿があるので拒否をした。馬車を降りてアルトデルト公都に別で向かう。


・・数哉はゆっくりと歩き、コースト達が見えなくなった所で流す程度に走り出した。流すと言っても時速30kmは出ている。


タタタタタタタタ・・。


「ラナ、今日は公都に入らず待ち合わせ場所の正門近くで泊まろう。」


『畏まりました。』


・・翌日、朝7刻より早く門へ向かうとコーストが公爵家の筆頭執事に食って掛かっていた。ルノーテは横で心配そうに見ている。


「どういう事だ!?ドルトン!フィリップは朝5刻に出発しただと!卑怯ではないか!」


「申し訳ございません!コースト様!モリガン様が、それをお許しになられた様で・・。」


「く!そこまでして父上はフィリップを次期公爵にしたいのか!?」


「大変!申し訳ございません!!・・・。」


 ドルトンは深く頭を下げたまま、悔しそうな顔をしていた。ドルトンは傲慢で我が儘なフィリップよりも家来達に気を回すコーストを次期公爵にと願っている。ただ、公爵の命令は絶対であり頭を下げる事しか出来ない。コーストはドルトンを見て少し溜息を吐き話す。


「もう良い、ドルトン。そなたが謝る事では無い。」


 ドルトンは頭を下げ続けた・・。コーストは雇った5人の馬に乗る冒険者と合流した数哉に話す。


「皆の者!聞いた通りフィリップは、既に出発した様だ!急ぐぞ!」


 数哉以外、全員頷いて重そうなリュックを背負ったまま馬車に乗り込んだ。数哉は手ぶらで乗り込もとして出っ歯の男に止められる。


「オイ!精霊さんよ!遺跡に何も持って行かないつもりか!?お前の食料なんか無いからな!知らんぞ!」


「ああ、分けて貰うつもりは無い。」


 前日の夜、数哉はラナに多くの弁当を作って貰っていた。それを転送保管している為に2週間程は料理をする必要がない。


・・馬車に揺られて走るが、冒険者の男達は一言も話さなかった。全員、違うパーティーでランクは5人共にE以下である。唯一コーストは、貴族であり幼い頃から訓練を受けていた。冒険者ランクで言う所、Bに近いCである。不安を抱えるも報酬の高さに飛び付いてしまったのであった。貴族の依頼を直接受けた為に今更、逃げ出す事も出来ない。コーストの使用人が走らせる馬車内には重苦しい空気が流れていた。コーストはフィリップに置いて行かれた焦りから、使用人と共に運転席に乗っている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ