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ラナ markⅢ  作者: ススキノ ミツキ
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第6話 香澄の憂鬱

・・道中、日も暮れ数哉は山の上で一夜を過ごす事となった。しかし山の上には家を建てるスペースが無い。


「今日はここでキャンプするか。だが部屋を建てるには木が邪魔だな。」


『・・実体化。』


 ラナがオーロラと共に現れた。


「いえ、全く問題有りません。建てるのは別の空間ですから。但し、景色が・・。」


「悪いか?」


「はい。」


「確かに周りは高い木だらけだからな。」


「木を削除致しましょうか?」


「・・いや、これも冒険の醍醐味だ。このまま、ここで食べよう。建物は木の上にでも設置してくれ。別空間と言う事は、それも可能なんだろ。上がる時はジャンプすれば良いしな。」


「仰る通り可能です。では数哉様、本日のメニューのご希望は御座いますか?」


「ん〜・・折角の山の中だから山菜の天麩羅なんか食べたい所だが、もう夜だし今から山菜取りは厳しいよな。」


「数哉様、背後のあの辺りを御覧下さい。」


「ん?あれは・・葉は少し大きいが、もしかして竹か?」


「似た品種ですね。ですが地球の竹と同様に筍が生え、今が旬の様です。あの辺りにも沢山御座います。」


「筍の天麩羅か、それいいな。」


「あの少し膨れている場所は筍です。」


 ラナが右手の人差し指を向ける。


「あれか?よし!掘るぞ!」


「道具をお出し致しましょうか?」


「あぁ、頼む。」


「・・・転送。」


 オーロラと共に数哉の前に鍬が現れた。それを手にしながら数哉は話す。


「ん?この鍬の柄は鉄だな。」


「はい。」


「確かに柄が木なら、手加減出来ない俺は折ってしまうか。すまない、毎回気を使わせてしまって。」


「そんな!全く問題有りません!数哉様に気を使えるなんて、幸せです!それに気も使いますが女体も使えますよ!」


 ラナがモジモジとして話し、数哉は聞こえ無いフリをしながら竹林へ歩き出した。


「よし!掘るか!」


ガク・・。


 ラナは顔を少し地面に向けるが、直ぐに立ち直り後を追って行く。・・採れた筍は地球の物よりも、ひと回り大きいサイズであったがラナの調理でエグ味は少なく、美味しい天麩羅を食べる事が出来た。


・・・翌日、景色を楽しみながら走って行く。小さな川を飛び越え、山を2つ越えた平野でラナが話す。


『数哉様、御家族から連絡が来ています。如何なさいますか?』


「ん?あぁ、じゃあ部屋を出してくれ。」


『畏まりました・・転送。』


・・部屋が現れると数哉は普通の服装に着替えてパソコンの電源を付けた。そこには、父親達3人が映っている。母親が話し出す。


「数哉、変わり無い?」


 父親が割って入る。


「一週間も経って無いし、変わりは無いだろ。」


「あぁ、変わり無いよ。それより何か用?」


 母親が呆れた様に話した。


「まったく・・用が無くても連絡ぐらいするわよ。部屋にパジャマを忘れてたみたいだから送った方が良いか聞こうと思ったの。」


「いや、もうこっちで買ったからいいよ・・あれ?香澄、額の絆創膏どうしたんだ?」


 香澄は絆創膏を右手で隠しながら、元気の無い様子で苦笑いを浮かべる。


「大丈夫、体育の時間に他の人に当たっちゃって・・。」


 母親が香澄に話した。


「気をつけてよ。女の子の顔に一生の傷でも残ったら大変だから。」


「うん・・。」


--香澄の様子がおかしいな・・何があったんだ?


 数哉は家族との連絡を終えた後、ラナに話す。


「ラナ、香澄の部屋を壁に映してくれ。」


『畏まりました。』


 壁には映し出すと言うよりも、壁の表面上に映像が浮かび出した。そこには香澄が自身の部屋に入り、パジャマに着替える様子が映し出されている。香澄の下着姿を見て数哉はスマンと一言呟き、目の前に手を翳して見ない様にした。少し経ち、手を下ろすと香澄は溜め息を吐きながら学習机に置いたスマートフォンに手を伸ばす。椅子に座ると携帯電話を見ながら、ホロリと涙を流して呟いた。


「皆・・酷い・・・。」


 それを見た数哉は、ラナに香澄の携帯電話の内容をパソコンに映す様に話す。そこに書かれていた学生の掲示板には香澄の悪口を敷き詰める程に載せられていた。人の彼氏を取った売女や、約束は必ず破る女、近くに寄ると人の悪口を言われる等・・。極めつけは死ね!を重ねて打ってある。あの女と話した奴は同類だとも書いてある。香澄は唯一の親友であった違うクラスの晴子にメールしていた。


〔・・・・・私!そんな酷い事をしてない!晴子は信じてくれるよね!!〕


・・と、メールを打っていく。返って来たメールは香澄に取って非情な言葉であった。


〔もう私にメールをしないで。最低女と友達なのは嫌なの。〕


「そんな!晴子まで!うわぁぁぁぁ〜!」


 香澄はベッドにうつ伏せになり、涙を流す。数哉は怒り!ラナに命じた。


「コイツら!!ラナ!香澄を中傷している奴達へ100倍にして返せ!それと切っ掛けを作った奴も居る筈だ!そいつを探してくれ!」


『お任せ下さい!数哉様の御家族に害を与える等!精神が病む程の苦痛を与えてやります!』


「・・香澄が心配だから、一旦地球に戻るぞ。」


『はい。』


・・そして、掲示板に香澄の悪口を載せていた生徒達にメールが一斉送信される!


〔香澄様ファンクラブより   

 香澄様は素晴らしい御方だ。その香澄様を中傷するなんて許せない!お前の方こそ死ね!!死ね!!死ね!!・・・・・・!!手始めは、掲示板だ!!〕


 そのメールの後には、掲示板上に各生徒の隠し事を載せている。


〔佐々木圭子は昨日、先輩の橋本浩二の後を付けていた。まさに!ストーカー女である!コイツはいずれ犯罪者として捕まるだろう!皆!近寄るな!〕


〔加藤由子は51歳の会社員と援助交際している。一回、1万5千円でヤラせている売女だ。興味ある方はこちらへ090・・・・・・。〕


〔築木健太は○月○日・・ビルの裏で野糞をしていた。近寄るな!糞を付けられるぞ!〕


〔遠藤賢司はエロサイトで小さな女の子の動画を集めている。小さな妹が居たら気をつけろ!〕


 これらの沢山の暴露話や、でっち上げ話で香澄の話が霞んでしまうぐらいに掲示板を埋め尽くす!当然、香澄の悪口は全て消去していた。


・・佐々木圭子が掲示板を開くと、それを見て叫んだ。


「いや!嘘!そんな!誰が書いたの!?こんな事を書かれたら、もう先輩に会えないよ!うわぁぁぁ〜!!」


 加藤由子の携帯には電話の着信音が鳴り響く!


タラタタラタ・・・・。


「誰よ!あんた!」


『1万5千円でヤラしてくれるんだろ。』


「ふざけんな!てめぇ!死ね!!」


ピ・・ツ〜〜。


タラタタラタ・・・・。


「5千円に値引いてよ〜。」


ピ・・。


タラタタラタ・・・・。


「はぁ・・はぁ・・。」


ピ・・。


 加藤由子の携帯電話は次から次へと鳴り続ける・・。由子は携帯の電源を切るが、切った筈の電話が夜通し鳴り続けた・・。


タラタタラタ・・・・。


「電源切ってるのに!何で鳴るのよ!?・・いや!!もうヤメて!!・・・・ごめんなさい!ごめんなさい!!・・・!!」


 築木健太がスマートフォンに手を伸ばす。


「どれどれ・・掲示板はどうなってるかな?香澄の奴、俺の告白を断りやがって!いいキミだ!・・え?何だ?これ・・俺も載ってる?何だよこれ!?確かにビル裏で立ちションはしたけど糞なんかしてねぇぞ!画像まで載せやがって!クソ!!」


 健太がクソ!!と部屋で叫ぶとスマートフォンから、健太の声でリピートをして流れ出す。


『クソ!してぇ。クソ!してぇ。クソ!してぇ。・・・・クソ!してぇ。・・・・。』


「何だよ?いったい?・・臭え!何だ?この臭い!」


 健太は臭いの下を探す様に、臭いの下を辿ると自身の学習机から臭いがした。健太が引出しを開けるとあらゆる動物糞が溢れ返る程、詰め込まれている。


「うわ!!」


・・健太は尻餅を着いて呆然とし、臭いが家のアチコチへ流れ不審に思った母親が健太の部屋に向かっていた。


 一方、遠藤賢司がパソコンで長年掛けて集めた小さな女の子の動画をチェックしていると、小さな女の子は急に年齢を重ね初めて、最終的には乳房の垂れた老女に変化する!


「何これ!?ヤメろよ!俺の苦労して集めた動画が!?こっちも!こっちも!あぁ!・・あぁ!・・・ヤメてくれ〜!!」


 遠藤賢司はパソコンの前の椅子に座り、廃人の様に項垂れる。香澄の悪口を載せた全ての生徒達は、同様に眠れない夜を過ごす事となった・・・。


・・翌日、香澄が憂鬱そうに教室の扉を開けると登校しているのは半数しか居ない。しかも、いつもであれば香澄を見た途端に無視していた大半の者達が香澄に会釈している。まるで偉い方に挨拶をしている様子だ。


--え?どういう事・・?


 落書きや傷の付いていた机も新品に入れ替わっている。香澄が席に座ると1人の女生徒が立ち上がり香澄の席に近付いた。


「佐藤さん!ごめんなさい!!」


 他の生徒達も、次々に立ち上がり香澄に謝って行く。


「香澄ちゃん!ごめんなさい!」


「佐藤!ごめん!」


 香澄は何が起こってるか分からず立ち上がり、1列に並んで謝って来る生徒1人ずつにお辞儀を返している・・・。誰も居ない鍵の掛かった扉のある校舎の屋上で数哉は腕を組み、その様子を見ていた。空中に映像は映し出されている。


『現在の状況はこの通りです。謝った所で簡単には許しませんが。』


「それで良い。」


『・・数哉様。』


「ん?」


『香澄様が苦しんだ原因を作った者を特定致しました。香澄様の同級でサッカー部の1年森本雄星が原因の様です。現在、体育倉庫で仲間達とその話をしています。』


「録画しながら様子を映してくれ。」


『畏まりました。』


 空中に映し出された映像がサッカー部の部室に切り替わる。そこには三年生の神崎俊郎を椅子代わりに座る森本雄星と、同じサッカー部の二人の計4人が映し出された。


「お前!ホント悪い奴だな!自分の彼女を利用して佐藤香澄を陥れるなんて!」


 仲間の言葉に森本雄星が口を開く。


「ククク、見てろよ!佐藤香澄が失意のドン底に落ちた時に俺が助けてやれば、コロっと俺にイカれるぞ!裸にした時が楽しみだぜ!」


「飽きたら、俺達にも輪姦させてくれよ!」


「あぁ・・一回5千円な。」


「金取るのかよ!」


「当たり前だ。」


 椅子となっていたサッカー部キャプテンの神崎俊郎が行動を窘める。


「何言ってる!?それ犯罪だろ!悪い事をするな!」


「オイオイ!椅子が喋るんじゃねぇよ!俺達抜きで全国大会行けるとでも思ってんのか!?オラ!」


 森本雄星は上下に身体を揺らし、神崎俊郎の身体に圧力を掛けた。


「ググ・・・。」


 数哉はそれを見て話す。


「こいつら・・腐ってるな。ラナ、ロッカーの上にハンディビデオカメラを見つからない様に設置してくれ。」


『畏まりました。』


「よし、サッカー部の部室に行くぞ。」


『はい。』


 数哉は誰にも見られない様に屋上から裏庭に飛び降りると、運動場横にあるサッカー部の部室に向かった。扉のノブを回すが開かない。


ガチャ。


--鍵が・・?


「ラナ、開けれるか?」


 ノブを握ったままラナに話すと鍵が開いた。


カチャ。


『どうぞ。』


 数哉はゆっくりと入り、少年達を睨み付ける。


「・・お前らの話は全部聞かせて貰ったぞ。」


「やべぇ!お前!鍵掛けたって言ったろ!」


「鍵掛けたっつ〜の!何で開いたんだ?」


 神崎俊郎が同じクラスでもあった数哉を見て驚く。


「もしかして・・数哉か!?海外留学してたんじゃ?」


 森本雄星がそれを聞いて俊郎の上で口を開いた。


「数哉?・・あぁ!佐藤香澄ちゃんのお兄さんじゃないですか!サッカー部に何か用でも?」


「お前にお兄さんと呼ばれる筋合いは無い。それと言った筈だ。全部聞いていたと。」


「何の事ですかねぇ!証拠でも有るんですか?」


--やはりな。


「ある。」


 数哉は森本雄星達を通り過ぎて、ロッカーの上に設置されたビデオカメラを取った。


「この通り全部録画済みだ。」


「な!・・お兄さん・・余計な事をしてくれる。但し!文系のお兄さんが俺達スポーツマンに勝てると思います?」


 森本雄星は仲間二人を見てカメラを取り上げる様に顔を動かした。


「へへへ・・悪く思うなよ、佐藤の兄ちゃん。そのビデオカメラは俺達が有意義に使わせて貰うぜ!」


 神崎俊郎が椅子の状態のまま懇願する。


「やめろ!問題を起こすな!数哉もヤメてくれ!お願いだ!俺は全国大会に行かなきゃならない!病気の弟に約束したんだ!頼む!コイツらが居ないと全国大会に行くのは無理なんだ!」


「・・悪いが、それとこれとは別だ。俺の妹を傷付ける様なゲス野郎は絶対に!許さん!!」


--「ラナ・・神崎俊郎の弟の状態を調べてくれ。」


『畏まりました・・・どうやら隣町の大学病院に入院中で、全身に転移した末期癌のようです。』


--「そうか、治せるか?・・俊郎には恩があってな。1年の時、弁当を忘れた俺に、半分自分の弁当をやると言って貰った事があるんだ。」


『お任せ下さい。直ぐに治療班を向かわせます。邪魔が入らなければ1時間以内に治せます。』


--「そうか。」


 数哉の傍に2人の生徒が近付く。数哉の身体を取り押さえようと1人が手を広げる。


「何だ?その手は?」


 パシ!パシ!ガコン!


「いでえ!」


 数哉は手を優しく払い除けると、そのまま張り手でロッカーに叩きつけた!もう1人は数哉の手を下げて持っているビデオカメラに向かうが数哉が足を払って転ばせる。そのままボールの入った鉄籠に突っ込んでいった。


ガラ!ガガ!


「動きが遅過ぎる。」


 雄星は立ち上がり、驚きの表情で話す。


「な!?強い!合気道でもやってんのか?」


「まっ、そんなような物だ。」


「クソォ〜!サッカーのサの字も知らない奴のせいで!俺の人生を狂わされてたまるか!」


--もう狂ってるがな。


「・・サッカーなら負けないと?いいだろう!貴様達の得意なサッカーで勝負してやる。お前達3人対俺と俊郎の2人で5点先取対決だ。それぐらいのハンデじゃ足りないだろうがな。もし、お前達が勝ったらビデオカメラのデータは消去してやる。」


「・・ニ言は無いだろうな。」


「あぁ。」


「俊郎・・と言う事だ。お前がワザと負ける様な事をすればこの勝負は無しだ。いいな。」


「分かった・・だが絶対に勝てないぞ。雄星はジュニアユースの日本代表だし、他の2人も強化選手に選ばれる程の実力だからな。ましてや3対2なんて・・。」


「勝てるさ!サッカー熱血馬鹿のお前が居ればな。」


「・・俺は1年前に膝の手術をしてから、足が思う様に動かないんだ。スマン・・・。」


「ククク・・不良品とサッカー初心者の先輩達で、どれだけ戦えるか見物だな。」


 数哉に傷付けられた2人も逆恨みして、怒りを露わにする。


「この野郎!絶対!許さねぇ!」


「足を削り取ってやる!」


 部活は休みのようでサッカーコートは空いていた。ボールを持った数哉は雄星の腹へボールを軽く投げる。


「ほらよ。」


バシ!


「う!何の真似だ?まさか俺達のキックオフで良いって言うんじゃ無いだろうな!」


「その通りだ。下手糞な奴にはハンデが必要だろ。」


「・・ふざけやがって!後悔させてやる!浩介!」


「おう!」


 勝負が始まり、雄星含む3人は見事なパス回しを見せた!俊郎は必死に圧力を掛けようと走り寄るが、全くボールを奪える様子がない。


「なんだ!勝てる訳ねぇのに!頑張るねぇ!おらよ!シュートォ!」


ド!トン・・トントントン。


「な!?どっから現れたんだ!!」


 生徒の浩介が放ったボールを数哉は一瞬で追い越し、足の裏で止めていた。


「こちらの番だな。」


--ボールを破裂させない様にと。


「ほっ。」


バン!!ビュン!


 途中で数哉から後ろに控えていろと言われ、反対コートに居た俊郎の遥か先にボールは飛んでいた。雄星達は驚きを隠せない!


「何だ!?そのキック力!?クソ!素人じゃねぇのかよ!」


 ゴール前から蹴ったボールは、反対のゴールの上部を越えて行く!


 そのキックを見て、熱くなった俊郎が叫んだ!


「外れたが強烈な凄いシュートだ!数哉!!やるじゃないか!」


 数哉は特に喜んで居ない。


「お?おう!」


--俊郎にパスのつもりだったんだが・・。アレでもまだ強いのか。


 浩介がフェンスに当たって戻るボールを急いで拾い上げ、ゴールキックから反撃しようと、走り込んでいる雄星を指差し強烈なキックを放つ!


「行け!雄星〜!!」


バン!


「よっ。」


ビュッ!バン!・・シュルルルル!


 浩介が高く蹴り上げようとしたボールは、数哉がヘディングシュートでゴールへ返した!見事ゴールへ突き刺さる!


「まぁ・・狙った所とは違うけど、こんな所か。」


 浩介が呆然として呟く。


「嘘だろ!?1.5m以上飛んでたぞ?それに、あの至近距離で俺のゴールキックを受けて何で平気なんだ・・。しかもまたかよ・・どっから現れたのか分かんねぇし。」


 他の4人も、それを呆然と見ていた。・・雄星のもう1人の仲間の玲二が意識を取り戻したように急いでゴール内のボールを拾い、1人言を呟きながらコート中央へ走る。


「・・こんな筈ねぇ。ありえねぇよ!クソ!」


・・・数哉対策として出来る限りの早いパス回しを3人は行うが、数哉はパスを悉くカットし4点を先取した。数哉の技術は拙いが速過ぎるドリブルで掻き回され、3人はヘトヘト状態になっている。


「どうした!?スポーツマンとやらは、体力あるんじゃないのか!」


「はぁ・・はぁ、バケモンかよ!アレだけ速く動き続けて息も切れないのか・・はぁ・・はぁ。」


 最後に数哉は余裕を見せ、ゴール前に居る俊郎へパスを出す。


「俊郎!最後はお前が決めろ!今までの恨みを返してやれ!」


 なんとか蹴る力加減をして、フリーの俊郎へパスを届ける!俊郎はゴール前まで走り、後は無人のゴールを決めるだけであるが立ち止まった。俊郎へ雄星が叫ぶ。


「そうだ!俺達が居ないと全国大会に行けないぞ!俺にボールを寄越せ!はぁ!はぁ!」


「俊郎!それで良いのか!?こんなゲス連中と全国大会に行って!お前は胸を張って弟に報告出来るのか!?」


 数哉の声に応え、雄星が叫んだ!


「うるせぇ〜!!部外者は引っ込んでろ!」


 俊郎は何かを決心した様に、顔を上げボールを力強く蹴り出す!


バシ!!シュルルル!


 ボールはゴールに入り、数哉はそれを見て満足し頷いた。


「それで良い。俊郎・・弁当の借りは返すぞ。」


 雄星達3人はグラウンドに倒れ込む。


「「「マジかよ〜!・・・。」」」


 俊郎はボールを持って数哉に駆け寄った。数哉は笑顔で右手を上げてハイタッチをしようと迎える。


「やったな!俊郎!」


 俊郎は数哉のハイタッチに応えず、土下座した。


「頼む!!数哉!サッカー部に入って俺と全国大会を目指してくれ!お前が居れば全国大会でさえも優勝出来る!この通りだ!頼む!!」


--え!?


「・・ふぅ〜、断る!それよりも!立って膝を見せてみろ!」


 俊郎は納得行かない感じで、数哉の言う通りに立ち上がる。逆に数哉は屈み込むと俊郎に尋ねた。


「手術したのは傷のある、この右足か?」


「あ?・・ああ。」


 数哉は右手を膝に近付ける。


--「ラナ、俊郎の膝の状態はどうだ?治せるか?」


『・・容易に治せます。膝の内部に凝りが出来ていて、それが複雑に神経を刺激し痺れの原因となっています。現在の地球の外科手術では取り除けませんが私であれば容易です。』


「そうか、頼む。」


『畏まりました。』


 その瞬間、俊郎は膝に違和感を感じた。


「熱っ!!何するんだ、数哉!」


『完治致しました。』


--「早いな。」


「俊郎、飛び跳ねてみろ。」


「どういう事だ?」


「良いから早く。」


「変な事をさせるなよ。それより飛び跳ねたらサッカー部に入ってくれ!」


「・・検討してやるから、早く跳ねろ。」


「本当か!?幾らでも飛び跳ねるぞ!ほら!ほら!・・・!」


 俊郎は数哉が入部してくれると喜び、足が治っている事に気がつかない。


「これで入部してくれるな!ほら!ほら!」


「・・まったく、俊郎!足は痺れるか?」


「え?・・何だこれ?治ってる!?マジかよ!治ったよ!うぉぉぉぉ!!」


 俊郎が数哉に抱き着いた。


「鬱陶しいから離れろ。」


 数哉は俊郎の顔を押して引き離す。ラナが嫉妬で数哉に話した。


『・・膝を爆破させる許可を願います。』


--「治したばっかりで、爆破するな!」


『では膝を爆破した後、治します。』


--「何の意味がある!それに!友達同士のハグぐらい、誰でもするだろ!」


『・・畏まりました。』


「これ!数哉が治してくれたのか!?」


「ん?・・まあ。最近、整体をかじってな。」


「大きな病院で治療は不可能って言われてたんだが・・?」


「お前の日頃の努力で治りかけてたんだろ。見たら分かるぞ。筋肉が凄い盛り上がってるからな。」


「ああ、ハンデを乗り越える為に努力だけは誰にも負けないぐらいに頑張ったよ。でも・・?」


「まぁ、良いじゃないか!治ったんだから!それよりボールを蹴ってみろ。」


「おう!」


 俊郎は水を得た魚の様にボールを蹴ってドリブルしていく!今までの、何とかして身体を上手く使おうとした努力が功を奏し、自身の力に慣れて来るとジュニアユース代表の雄星よりも鋭い動きを見せた。俊郎はそのままドリブルで戻って来て数哉の前で立ち止まる。感動で涙を流し、数哉の手を握って深くお辞儀した。


「数哉!ありがとう!ありがとう!本当に!ありがとう!!」


「ああ・・良かったな。隣町の病院に入院している弟に早く報告してやれ。」


「そうだな!だが数哉!入部もちゃんと検討してくれよ!」


 数哉は回れ右をして、答えながら手を振り走り去る!


「気が向いたらな!」


タタタタタタタタ!


「やっぱり速い!?・・絶対諦めないからな!数哉!お前なら!何処のポジションでも、世界一のサッカー選手になれる素質がある!・・ん?そう言えば、数哉は何で弟が隣町の病院で入院しているのを知ってたんだ?誰にも言ってないのに・・。」


・・・俊郎は弟に報告する為、電車に乗り病院を訪ねた。そこでは慌ただしく弟篤史の部屋を看護師が出入りしていく。俊郎は胸騒ぎがして、勢いよく扉を開けて中に入った!


「篤史!」


 そこには元気一杯の弟が、驚愕の表情で検査している医師3人と看護師に囲まれている。俊郎が病室に入ると、嬉し涙を流している母親と連絡を受けて会社を早退した父親もいた。俊郎は何が起こっているのか分からない。よく見ると、薬で弟の髪は抜け落ちていたがフサフサと生えていた。10歳の弟、篤史は俊郎に気付いて嬉しそうに声を上げる。


「あ!兄ちゃん!約束通り、病気治ったからサッカー教えて!」


 俊郎は呆然として涙を流した。母親が俊郎に抱き着いて涙を流し話す。


「治ったの!治ったのよ!篤史の病気が治ったの!」


「本当かよ・・。夢じゃないんだよな。うぉぉぉ〜!!」


 俊郎はガッツポーズで喜び、看護師に静かにするよう窘められた。


「し〜!ここは病院ですよ。」


「すみません!」


・・俊郎は病院の屋上で喜びを噛み締め、ふと数哉の事を思い出す。


「・・もしかして?・・・。」


 俊郎は数哉の家の方向を思い出し、両手を合わせ拝みだした・・・。


 後日、学校には匿名でdvdが手紙と共に届けられる。そこには雄星達の悪党ぶりが綴られていた。処分しない様であればマスコミに流すと手紙には書かれてある。学校側は直ぐに3人の退学処分を決めた。

 3人の所属するクラブチームにも、同様のdvdは送られ処分される。3人の苦しみはラナの仕掛けで数カ月以上続いた。毎晩、サッカー選手の命とも言える足を折られる夢を見てしまう・・・。雄星の多くの彼女の中の1人で、香澄を陥れたのは親友と思っていた井上晴子であった。それを知った数哉は雄星が今、晴子以外の5人の女子と、どんな事をしているか詳しく録画された映像を送っている。数日後、晴子は雄星の殺害未遂で捕まる事となった・・。


 弟の病気が治った翌日、俊郎は1年生の香澄の教室を訪れる。


「香澄ちゃん!数哉は!?今、数哉は何処に居る!サッカー部に入ってくれる様に!香澄ちゃんからも頼んでくれないか!頼む!」


「ちょっ!急にどういう事ですか・・?確か、サッカー部の神崎先輩ですよね。お兄ちゃんは今、海外留学中ですし、運動なんて殆どしないからサッカー部なんて絶対無理ですよ!」


「え?俺、昨日会ったんだけど!帰って来てるんじゃ?」


「いえ・・家には帰ってません。神崎先輩は本当にお兄ちゃんと会ったんですか?」


「ああ!間違いない!香澄ちゃんを傷付ける下衆は許さん!って俺と一緒に雄星達を懲らしめたんだから!・・しまった!これ言ったら、マズかったか!スマン!今まのは聞かなかった事にしてくれ!とにかく!連絡くれる様に言ってくれ!番号渡しておくから!頼んだ!」


「・・・。」


・・・その晩、数哉に香澄1人から連絡が入った。数哉は既にレリクスに戻っている。


「どうしたんだ、香澄?」


「お兄ちゃん・・今、何処に居るの?」


「何言ってんだよ。留学先のアメリカに決まってるだろ。」


「本当?」


「ああ。」


「じゃあ、神崎先輩は昨日誰に会ったの?お兄ちゃんと会ったって言ってたよ。」


--アイツ!余計な事を!


「夢でも見たんじゃないか?」


「・・そう。じゃあ、香澄ファンクラブって知ってる?」


 数哉はドキリとして、こめかみをポリポリと書く。


「な!何!変な事を言ってんだよ!知らないよ!芸能人にでもなったのか?」


「フフ・・何でもない。・・ありがとう、お兄ちゃん・・・。」


「何の事か分からないけど・・おう。何か困る事があれば直ぐに連絡しろ。」


「うん・・また助けてくれる?」


「ああ、勿論・・え?」


 そこでパソコンの通信は切られた。


「フフフ・・嘘をつく時いつも、こめかみを掻くんだよね。どうやって戻って来たのか分からないけど。ありがとう!・・お兄ちゃん・・。」


 数哉も少し笑う。


「バレたか?まっ、いいか。」


「数哉様〜!御飯が御用意出来ました〜!」


「直ぐに行く!」

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