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ラナ markⅢ  作者: ススキノ ミツキ
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第5話 パラヤユン遺跡 後編

・・2分後、数哉が公園らしき子供な遊具もある広場に着いた。全てのエルラを置いていかない様に走っていた為に、足の早いエルラには途中襲われている。攻撃を避けながら走る事が困難であった為に、噛み付いたエルラをキーホルダーの様に揺らしながら走って来た。


「着いたな。いつまで噛み付いてる?」


ドォ!ドン!


 数哉は鎧の腰に噛み付いていた2匹のエルラの首を掴み引き離すと、他のエルラに勢い良く投げた!


 投げられた2匹は当たった他のエルラと共に吹き飛んだ!数哉は腰の剣を振ると狙おうとしたエルラとは別のエルラを仕留めてしまう。


ズバ!


「コレだけ沢山居たら、どれかには当たる!ラァ!」


ズバ!バシュ!ズバババババ!・・・・・!!


・・・・数哉は剣を振り回し、エルラを倒していった。沢山のエルラの中心部を狙い、剣を取り敢えず振り回す!エルラは数哉に噛み付いたり、突進するが数哉は気にした様子も無く一心に剣を振った!


「・・・ふ〜、大分片付いたな・・後、三匹か。あの白っぽいオーラ出してる一匹は、もしかして?」


『はい、炎の竜巻攻撃と鋭い爪で攻撃して来ます。名前はラドクリスでBランクに相当します。」


「炎の竜巻って、どうやって防ぐんだ?盾なんか無いぞ。」


『そうですね、現状では避けるしかないかと。』


 巨大な蜥蜴型のラドクリスがそろそろ出番だと口を開き、魔法陣を画いていく!他の2匹は数哉を襲おうと走り出した。ラドクリスの魔法陣から生み出された強烈な熱風と共に、炎の竜巻が襲い掛かる!数哉は近付いて来る2匹を踏み台にしてジャンプし炎の竜巻を避け、ラドクリス目掛け狙いを定めた。ラドクリスに近付くなり宙で蹴りを放つが避けられる!炎の竜巻はエルラの死体と2匹のエルラを死亡させて燃やしながら消えた!


「やっぱり、Bランクになると力押しだけでは簡単に倒せ無いな。本気で動くと勢いで周りの建物を破壊しそうだし。誰かに闘い方を習った方が良いか・・?」


『それは名案です!このマルセドラスタ王国の王都にギルドが経営している魔法と武術全般を教える有名な学校がある様ですから!この先、より良いお土産をゲットする為にも必要かと!』



--ハー・・レム!・・・チャンス!!学園と言えば恋愛は付き物!


ーーーーーーーーーーーー


「カズヤ先輩・・私、この魔法を使いたいんですけど上手く行かなくて・・・。」


 数哉様は背後から優しく、杖を持った少女の腕を握る。ポニーテール美少女の緊張が震えから見て取れた。


--あ・・先輩の手が・・それに!背中に先輩の厚い胸板も当たって・・・心臓が張り裂けそう!


「良いかい?杖はこう扱うんだよ・・。」


 そこで少女が我慢出来ず、カズヤ先輩に振り向く!抱き着いて少し上を見上げた!カズヤ先輩の優しく微笑む表情が見える!


「好きです!先輩!杖より私の身体を使って下さい!○ックスしましょう!」


ーーーーーーーーーーーー


『・・・となる筈!』


・・数哉はラナが妄想を続ける間もラドクリスの牙や尻尾攻撃、炎の竜巻を避け続けている!


「・・・・ナ!ラナ!聞こてるのか!?」


『・・は!はい!申し訳御座いません!』


「良かった!通じたか?このままじゃ俺の攻撃が当たらない!本気で攻撃すると逃げてる皆に被害が及ぶ可能性もある!近くの狭い路地で行き止まりを探してくれ!」


 数哉が蹴りや、剣撃で吹き飛ばした幾つかのエルラが原因で近くのビルを倒壊させかけていた。



『畏まりました!数哉様左45°方向に見える路地へ入って下さい!』


「分かった!」


--その前にと!


 数哉は近くに倒れている自身より大きなエルラを担ぐとラナの指示する方へ走り出した!ラドクリスは炎の竜巻を放ちながら追い掛けているが狭い路地の為に他の障害物に当たり、数哉に届かない!


タタタタタタタ!


『・・・数哉様!そこを右に!・・・そこを左へ!後32mで行き止まりです!』


「了解!」


 数哉は行き止まりの壁を壊さない程度に蹴り、三角飛びで背後から追って来たラドクリスの上空を越えた。ラドクリスは数哉に噛み付こうと勢い良く振り向く!数哉は着地するなり、持っていたエルラの死体をラドクリスに素早く投げつけた!


ブォン!


 ラドクリスはそれを避け、垂直にジャンプする!


「それを待ってた!よ!」


ビュ!


 数哉もラドクリス目掛けて下から舞い上がる!数哉はラドクリスの首に腕を引っ掛けた。そのままスルリとラドクリスを回り、上部からラドクリスの首を締め上げる!


「どんなに素早くても、自由落下中は流石に避けれないよな・・ラァ!」


ゴキ!ゴキゴキ!ブチ!!


 数哉は締め上げる力を増して首を千切った!


・・ドスン!!


 ラドクリスの胴体が地上に落ち、大きな音を立てる!胴体のクッションを利用して、ラドクリスの首を持った数哉は地上に降りた。


「ゴホッ!ゴホッ!・・砂埃りが凄いな。」


『数哉様!ラドクリスの首はまだ生きています!』


 数哉が力を抜いた瞬間、腕を摺り抜け牙を剝いて数哉に噛み付こうとしている!砂埃りで数哉は見えていない!咄嗟に数哉は両腕を交差して頭を守りながら回転した!


「見えないぞ!っと!」


ブオン!!バシ!


 高速回転した数哉にラドクリスは噛み付けずに弾かれて、残った力を使い果たし動かなくなった。出て行くオストラルエネルギーは、いつも通りラナが増幅して、数哉に吸い込んで行く。


『数哉様、完全に倒しました。』


 数哉は回転を止め、地面に座り込んだ。


「ふ〜・・少し目が回った。それにしても魔法まで使うのか?エルラって・・。」


『C級以上のエルラは殆ど使う様です。』


「こっちも離れて攻撃出来る手段が欲しいな。」


『魔法を覚えれば良いかと。』


「そうだな・・弓矢とかだと、力加減を間違えて壊しそうだし他の人に当たる可能性もあるからな。それに魔法とか言う物にも興味あるし。でも、どうやって覚えるんだ?」


『簡単に申しますと、魔法はオストラルエネルギーによる魔法陣の作成方法、供給方法と型を覚える事で魔法が使えます。例えば冷却の竜巻魔法となると、冷やす対象・・空気ならば空気の温度を冷やすエネルギー変換を行い、そこに風発生と空気中の水分を集めるエネルギー変換、全てを兼ね備えた魔法陣を画く事で生み出せます・・オストラルエネルギーは色々なエネルギー変換が可能みたいですね。但し、使用するには繊細な技術が必要ですから学校や魔法書で魔法陣の作成方法を学ばなくてはなりません。』


「繊細なのか・・。」


『魔法陣を覚えても、出せるオストラルエネルギー出力が低い者や正確に魔法陣を作成出来なければ何も起こりません。数哉様は他の者より御元気な上にレベルが高い為、殆どの魔法を使える素養がある筈。』


--{御元気なのは私が原因ですが・・ぽっ。}


「だったら嬉しいんだがな。」


『間違いありません・・取り敢えず初歩的な魔法修得だけでしたらアルトデルト公都にある冒険者研修センターで教われる様ですので、まずはそこで練習されては如何かと。』


「そんな所が在るのか?じゃあポラの果実を採ったらそこへ行こうか。」


『はい。』


「話しは変わるがラドクリスは食べられるのか?」


『いいえ、臭みがあり食べられません。先程、広場で倒した中には美味しいエルラもいます・・燃えてなければですが。』


「そうか、コイツが派手にやったからな。一応、確認の為に戻ってみよう。」


・・数哉は広場に戻って見渡しラナに話し掛ける。焦げていない魔物は見当たら無かった。


「ちょっと厳しそうだな・・。」


『いえ5匹程は食べれる箇所が残っています・・転送。完了です。』


「じゃあ、ポラの実までの案内を頼む。」


『畏まりました、ポラの実は・・・。』


・・・数哉はラナのナビゲートで無事、ポラの木の群生地の崖まで辿り着く。到着までにも多くのエルラを倒していた。熟した黒いポラの果実を32個採取して引き上げる。果実は新鮮なままの保存が可能と言うので今まで通り、転送を行なった。その後、ラナは子供達が通って来た遺跡へのルートが町に戻る近道と話す。それを聞いて数哉はそこから戻る事にした。


『このビルの屋上です。』


・・ラナの言うビルの屋上を数哉は見上げた。


「ん?屋上には何も無いぞ。」


『映像でカモフラージュされていますが、屋上に滑り台が有ります。』


「滑り台?登れるのか?」


『はい、普通の者では瞬発力と体力が持ちませんが数哉様であれば確実に登れます。オリンピック100m金メダルの選手より速い速度で3時間走る事が出来れば可能ですから。』


「・・・そうか。」


--マラソン選手じゃなくて100mの選手か・・普通は絶対不可能だな。


 数哉はビルの階段を駆け上がって行く!屋上の下の57階まで走って来たが首筋に少し汗が滲み出ているだけだ。


--既に人間ヤメてるかも・・。


 屋上への扉を開き、辿り着くと数哉は疑問が湧いてラナに問い掛ける。


「ラナ・・そう言えば、子供達が落ちた入り口は開いたままなのか?」


『いえ、閉まっています。ですが問題ありません。こちらから遠方操作が可能ですから。』


「分かった、それで・・もしかして、あれがそうなのか?」


『はい。』


「ラナの事は信用しているけど、勇気が必要だな。」


 目を凝らすと、屋上の端から薄っすらと幅4mの滑り台が空に向かって伸びていた。信じていても空中に伸びた滑り台に足を掛けるのは躊躇われる。滑り台が無い場合は高さ約300mの屋上から落ちてしまうからだ。数哉は一応滑り台があるか足を上げて確認する。


「あるって分かっていても少し怖いな・・でも、行くか。」


 数哉は滑り台から離れると勇気を出してクラウチングスタートの態勢をとった。


『スタートの合図は必要ですか?』


「ああ・・音だけ頼む。」


『畏まりました。行きます!』


パァン!!


「ラァ〜〜!!」


タタタタタタタ!・・・・・・・!!


 数哉は空を駆け上がって行く!・・・走り続けると次第に、空に見えていた上部が金属の壁に変化していく。


「本当の姿か・・。」


タタタタタタタ!・・・・・!!


『はい、他の全ての遺跡の上部も、あの灰色の合金鋼が使用されております・・そろそろ着きますのでゲートを開きます。』


「ああ。」


ウイィ〜!


 ラナが遠方操作すると上部の灰色部分が開き始めた。


『あの開いた部分で8m程、垂直に飛んで下さい。』


「おいおい・・急に垂直に飛べないぞ!速度緩めると滑り落ちるし!」


『可能な限りで大丈夫です。失敗しても地表の大木に当たるだけですから。』


「呑気に言うのはヤメてくれ!怪我するだろ!」


タタタタタタタ!・・・・・!!


『いえ、数哉様が当たっても怪我をしません。所詮、直径2m程の只の大木です。当たっても向こうがへし折れるだけですから。』


--大木が折れる衝撃で怪我しないって・・?


 数哉は穴の手前で落ちない程度に速度を落とし、穴へジャンプした!


ギュン!


『数哉様・・。』


「分かってる、飛び過ぎだな・・。」


『はい。』


 数哉は加減を間違えて大木を軽く飛び越し高さ30mまで上がっている。空中で背筋をピンと伸ばして腕を組み、最高地点から自由落下を始めた。


「ん?あれは?」


 下を見ると、あちらこちらで大人達が誰かを探して叫んでいる。


『どうやらアラル達を探している様です。』


「そう言えばアラル達は無事に遺跡を脱出出来たのか?」


『確認致します・・・エレベーター近くの監視カメラに依ると現在、遺跡の出口付近に居る様です。エルラも近くには居ない様ですから問題有りません。』


「そうか、良かった。」


--下の人達に知らせないとな。


ダン!


 数哉が勢い良く地上に着地した。その音を聞いた者達が集まって来る。手には魔物対策で剣や槍、弓矢を装備していた。


「何だ!?こっちから聞こえぞ!モントル〜!アラル〜!居たら返事をしろ〜!」


「エルラかも知れん!気をつけろ!」


 数哉は近付いて来た5人の男の前に、争う気は無いと両腕を上げて顔を出した。男達は数哉を見て武器を下ろす。


「何だ・・冒険者か。」


「君!この当たりで子供4人を見なかったか!?」


--さて、どう説明するか?


「子供達なら、この近くの遺跡への隠しルートに落ちるのを見ました。」


「何だって!大変だ!こりゃ私達だけじゃ助けれない!ギルドに依頼しなくては!」


「・・いや、遺跡に行ったのなら助からないだろう。あの子達にはエルラと戦う術が無いしな・・。」


「何言ってる!?あの子達の親にそんな話を出来るかよ!」


 口々に話す大人達に数哉は話した。


「落ち着いて下さい、まだ続きが有ります。子供が落ちたのを見て、パラヤユン遺跡に居る知り合いの冒険者に連絡を取りました。4人共、無事で遺跡の出口辺りまで戻って来ている様です。」


「本当か!?」


「良かった!」


 4人の男の顔に笑みが浮かぶが、1人はまだ信じていない。


「いや!待て!その話が本当かどうか分からない。君はどうやって遺跡に連絡を取れたって言うんだ?」


「申し訳有りませんが、それは企業秘密です。」


「怪しいな・・お前!私達を罠に嵌め様としているんじゃ無いだろうな!」


 ラナがその言葉に反応した。


『数哉様、デコピンでその男の頭を爆破させる許可を願います。』


--「落ち着いた感じで、恐ろしい事を言うな!デコピンは禁止。」


『デコ一本?』


--「だから言い方変えてもダメだって。」


『・・畏まりました。』


 数哉は、その男に話す。


「・・仮に私が嘘を付いたとして、先程の話の内容で私に何の得が有りますか?嘘でなければ貴方達には、嬉しい知らせ。嘘であれば、まだ探せば良いだけ。それよりも町の南にある遺跡に迎えに行ってあげる方が良いと思いますが。」


「それは確かに・・よし!皆!手分けしよう!遺跡出入り口に行く班、町で待つ班、山で探す班に分かれよう。それで見つけたらトルマルを焚いて、煙信号で知らせあおう!」


「分かった!」


「「「分かった。」」」


 疑っていた男が数哉に謝罪の言葉を口にした。


「君・・済まないな。多分、君の言っている事は信用して良いのだろう。ただ私達も引率の教師としての責任があったものでね。」


「気にしないで下さい。私が同じ立場であれば、もっと疑っていた筈ですから。」


「・・君は頭が良いんだな。ありがとう。もし、機会があれば町の学校を訪ねてくれ。御礼をするよ。」


「ええ・・機会があれば。」


 男は他の班を集め、先程の案を話す。数哉は山を降りて町のギルドを目指した。


「町の裏山だったんだな。ラナ・・何故、隠しルートの門は開いたか分かるか?もしかして誰かが開いたのか?」


『お待ち下さい・・数哉様の仰る通りの様です。何者かが中央部への門を開く為に、中央制御装置にアクセスして失敗したデータが残っています。その為に、アチコチの隠しルートが間違って開いたみたいですね。』


「そうか・・誰が開こうとしたか分かるか?」


『・・申し訳御座いません。遺跡の防犯システムも侵入者を把握出来ていない様です。ただ、システムは中央制御装置にアクセスした事により、エルラを大量に放っていますね。』


「それで遺跡の辺境にも拘らず、大量にエルラが居たんだな。」


『その様です。』


・・・・一方、遺跡の入り口に着いたコーネット達は乗って来たノーラを近くの木に留め、数哉が来るのを待っていた。オッドが呟く。


「・・中々、来ねえな。もしかして弱っちいから依頼をキャンセルしたんじゃねぇか?」


 ネリスが応える。


「多分、私達のノーラが速過ぎたんじゃないかしら・・ん?待って!誰かが遺跡から出て来る!」


 遺跡の扉が開いて行く。中から出て来たのは4人の冒険者とアラル達であった。全員息を切らし、リーダーのクダンは疲れて動けくなった子供を背負っていた。


「・・・やっと、出れた。ふ〜・・。」


 リーダーは安堵の息を吐き子供を下ろすと、コーネット達の姿を見て話し掛ける。


「ん?あんたら、パラヤユン遺跡に行くのならヤメておいた方が良いぞ。今、無茶苦茶エルラが大量発生しているんだ。」


 コーネットが真剣な表情で応えた。


「何だって?まさか!中央部に誰か近付いてるのか!」


「何か知っているのか?」


「中央部に誰かが近付くと遺跡はエルラを大量に放つ仕組みになっている。未だ遺跡の全てが解明されていないのは、その為だからな。だが、中央部に近付く場合はギルドか国に報告する事になっている。」


「そんな話は聞いた事が無いな。」


「別に秘密と言う訳ではないが、A級冒険者以上にしか知らされない。B級以下の冒険者パーティーでは中央部に近付く前に死ぬからな。」


「あんたらはA級冒険者パーティーとでも言うのか?」


「ああ。」


 クダンの後ろに居た仲間が背後から耳打ちする。


「・・リーダー、最近S級ランク認定された疾風迅雷のコーネットだよ。」


「まさか?・・コーネットがこんな辺境に居る訳無いよ。なぁ!あんたも、そんな有名人に間違われても困るよな。」


「コーネットだが。」


 コーネットの仲間達はいつものやり取りなのか、またかと顔を見合わせていた。


「コーネット?・・その剣って魔剣オレ・・イヤン?」


「いや、魔剣には違いないがこの剣はオライアルだ。」


 レモル達は笑いで吹き出しそうになっている。クダンが仲間の方へ振り向いた。


「なっ、違うだろ。」


「何がなっ、だよ。疾風迅雷のコーネットが持ってる魔剣はオレイヤンじゃなくて雷系の魔剣オライアルだって。そんなオカマみたいな魔剣、聞いた事ねぇし・・。」


「うそ・・コーネット?」


「ああ。」


「この鎧にサイン下さい!」


「悪いが、サインする程の者じゃ無い。それよりも、そこの子供達は?遺跡から出て来たみたいだが・・。」


「え?ああ、この子達は運悪く遺跡の隠しルートで運ばれたらしいんだ。」


 ネリスが口を挟む。


「よく大量のエルラの中を子供達を連れて無事に、ここ迄戻れたわね。」


「それが・・。」


 グエン達の顔が曇った。


「誰かエルラに?」


「・・大量のエルラに建物内へ追い込まれて、誰かがエルラをおびき寄せる為に犠牲になるしか無かった。そいつは、冒険初心者にも拘らずに名乗り出たんだ・・。」


 レモルが急に顔を曇らせて、大声を出す。


「もしかして、その人の名前!カズヤさんって言う人じゃ無いよね!」


「いや・・名前は聞いてないが君ぐらいの歳で、初心者用のボロボロの鉄鎧を着ていた。」


 アラルが声を静かに出した。


「私・・名前を聞いたよ。確かに・・カズヤって、お兄ちゃんは言ってた。」


 それを聞いてレモルが右手を口に当てて、今にも泣きそうな顔になる。


「そんな!・・。」


 ネリスは怪訝な表情でグエンに尋ねた。


「ちょっと待って!あなた達!?本当に!カズヤって子が亡くなった所を見たの?」


「いや、見てないが生き延びる事は不可能だ。エルラは50匹近く居たし、その中にはラドクリスも居たんだ。あんたらみたいなA級冒険者ランク以上ならともかく、冒険初心者の少年が生きてる訳無い・・。」


「つまり貴方達は亡くなった所を見て無い訳ね。」


 レモルがそれを聞いて、遺跡の入り口へ走り出す!オッドも走り出した!


「レモル待て!俺も行く!」


 コーネットがそれを止める!


「皆!!待ってくれ!エルラが大発生している遺跡に少人数では危ない!俺も行く!ネリス!済まないが子供達をここで見ててくれ!」


「分かったわ!」


 その時!アラルが大声を出して、コーネットの言葉で立ち止まったレモルに、走って駆け寄る!


「お姉ちゃん!!待って!・・ハァ・・ハァ・・私、知ってるの!絶対!お兄ちゃんは生きてる!私だけが見たんだもん!お兄ちゃんが、こ〜んなに!大きなボッゴを軽く蹴るだけで倒してたし!走ったらビュンビュン景色が変わるの!G級冒険者ランクだけど凄く強いの!ほんとよ!!」


 レモルは子供の気遣いに微笑み言葉を返した。


「・・ありがとう。迎えに行って来るね。」


 アラルは小声で、レモルに問いを投げ掛ける。


「うん・・もしかしてお姉ちゃんて、お兄ちゃんの彼女なの?」


 レモルは慌てて、手を振りながら否定した。


「違うよ!彼は私の命の恩人!」


「良かった・・。」


 アラルは小声で呟いて、友達の下へ戻って行く。


「え?・・。」


 レモルはアラルの発言に少し戸惑いを感じていた。そこにコーネットが押したエレベーターが到着し、扉が開く。オッドがレモルを呼んだ。


「開いたぞ!レモル!」


「あ!うん!」


 レモル3人達はエレベーターに乗り込み、遺跡へ降りて行く。レモルはアラルと話をして表情が和らいでいた。オッドが不思議に思いレモルに尋ねる。


「さっきの子供と何話してたんだ?」


「うん。カズヤさんは絶対、生きてるって言ってた。」


「何で分かるんだ?」


「あの子は見たんだって。カズヤさんが凄く強い所を・・。」


「Gランクなのにか?信じられねぇな。」


 コーネットは自身の予想を話す。


「俺も生きている気がする。」


「ま、生きてて貰わねぇとな。レモルを救ってくれた御礼をまだしてねぇからな。」


・・・エレベーターが下に到着すると、エレベーターの内部警報と警戒放送が流れる!


ウォン!ウォン!ウォン!


〈危険です。現在、5体のエルラが近くに居ます。危険です。現在、5体のエルラが近くに居ます。〉


 オッドが真剣な表情で放送相手に尋ねた。


「B級以上のエルラは、その中に居るのか?」


〈居ません。D級が4体、E級が1体です。〉


「なら、開けてくれ。」


〈畏まりました。〉


扉が開いた瞬間、ケトレルと言う犬型のエルラ2匹がエレベーター内に押し入ろうと飛び跳ねる!一番扉の近くに居たオッドは慌てた様子も無く、鉄甲を装着した両手で2匹の首を下から掴み上げた。


「ここは立入禁止だ。」


 そのまま軽く押す仕草で宙に放り投げ、エレベーターの外に出ると背中の大きな両刃オノを握り、あっという間に2つに身体を切断する。その横から風が吹いたかと思うと、コーネットが飛び出しエルラ3匹がこちらを認識した瞬間に、エルラの身体が2つにズレて死んだ。レモルは結果が分かっていた様に魔法も使用せず、ゆっくりとエレベーターから出て来る。オッドが背中に斧を背負いながら話した。


「エレベーターの傍にまでエルラが居るとはな。遺跡はどれだけ大量にエルラを放ったんだ?」


「オッド!それより急いで!」


 レモルがそう話して走り出す!


「おいおい・・何処行くのか分かってんのか?」


「まず、あの子供達が閉じ込められてたビルに行ってみる!」


「そうだな。」


 3人は両脇に建物が並んだ大きな道を走って行く!エルラが次々と襲い掛かるが、3人は倒さずそのまま過ぎ去って行った・・暫く走るとアラル達が閉じ込もっていたと思われるビルが見えて来た。ビルのアチコチに新しい傷が付いている。到着するとオッドが地面に屈みながら話した。


「このビルみたいだな。遺跡の入り口の反対側におびき寄せたとすると、向こうか・・確かにアイツらが言ってた通り大量に居た様だな。エルラの足跡がスゲえ数だ。」


 レモルが少し焦りを見せて、オッドが話した方向へ再び走り出す。オッドとコーネットも走り出した。


・・エルラの足跡を辿り暫く走ると、大量の焼けたエルラやビルに衝突したエルラのいる広場に到着する。真っ先にオッドが感想を述べた。


「・・スゲえな。これを冒険者ランクGのアイツが全部やったってのか?」


 レモルは数哉が何処かに居ないか見渡し探している。オッドの傍に居たコーネットは何かに気付き、エルラの近くで屈み込んだ。


「・・ん?これは・・?」


「どうした?何か見つけたのか?」


「この剣傷を見てくれ。」


「・・何だこりゃ?無茶苦茶だな。」


「ああ・・剣で斬るのでは無く、冒険初心者に有りがちな叩いて出来る傷。間合いを上手く取れずに作る傷だ。切り口の細胞が潰れて破裂した様になっている。」


「だが、エルラは真っ二つか。余程の力がねぇと、こりゃあ無理だぞ。冒険者ランクGじゃあ、絶対不可能だ。アイツは一体、何者なんだ・・?冒険初心者で力は、A級ってか?」


 コーネットがそれを否定する。


「いや・・多分、筋力的にはS級に達している。見るとエルラは全て一撃で斬られているからな。これから分かるのは、力がS級なのに技術が追いついていないか、実力はあるがそれを隠しているか・・。」


「実力を隠して良い事でもあるのか?冒険者ランクGで筋力がSランク級ってのもな・・。」


 話している2人にレモルが近付く。


「カズヤさん、ここには居ないみたい!ラドクリスと戦ってるのかも!」


 オッドがレモルを落ち着けようと話した。


「大丈夫だ。アイツがラドクリス程度に負ける筈はねぇ。」


「どういう事・・?」


「コーネットと話してたんだがコイツらを倒したのがアイツなら余裕でラドクリスを倒せる。少なくとも絶対負けはしねぇ。このエルラ達の倒し方から、それは間違いねぇよ。」


「本当なの?」


 コーネットが話す。


「ああ、オッドの言う通りだ。この闘いの後、時間もかなり経っている。今頃、ポラの果実を取ってギルドに向かっているだろう。会う為には、直ぐに引き返す方が良い。向こうのノーラも異様な速度をしているみたいだからな。又、追い抜かれる可能性もある。」


「そうなんだ・・良かった!だったら早く戻りましょ!」


「ああ、子供達も町へ送り届けよう。」


・・・一方、数哉はギルドでカウンター越しにミーナへ依頼達成を伝えていた。


「ポラの果実を採って来ました。」


「え?今朝この町を発たれたのでは?」


「そうですが。」


「早過ぎ!こんなに早くポラの果実を採って来たの君が初めてよ!・・凄く速いノーラを、お仲間さんは持ってるのね。」


「そんな所です。」


--帰りは近道したしな。


「え〜と、確認するわね・・え?これってポラの果実じゃ無いわよ。腐っては無い様だけれど、実が黒いし。ポラの果実は黄色いから。」


「・・・・。」


--「ラナ?なんかポラの果実じゃ無いって、言ってるぞ。」


『数哉様の御家族のお土産にする物ですから、一番糖度の高く瑞々しいポラの果実を探し出しました。品種改良され珍しい物かも知れませんが、間違い無くそれはポラの果実です。』


--「それで地下なのに、あんな険しい地割れの様な崖の途中にあったのか?普通なら死ぬぞ。」


『はい、穴場です。』


--しかし困ったな。このままじゃ依頼達成出来無さそうだ。


 そこに休憩を終えたギルドマスターが戻って来る。


「どうした?お!冒険初心者の少年じゃないか!ポラの果実は諦めたのか?」


「それがマスター・・冒険初心者らしく、間違った実を持って来られまして。」


 ミーナの横からカウンターに置かれているポラの果実を覗き込んだ。


「ん?・・・え!いや!?まさか!!」


「マスター?」


「ミーナ!これは間違い無くポラの果実だよ!22年前、当時隣国のロフェスタ王へ献上する為に、アチコチのギルドが血眼になって探し出した幻の黒ポラの果実だ!いやぁ!これを又、見られるとはね!取り尽くされ絶滅したと思ったが、よく見つけ出せたもんだ!何処にあったんだい!」


 ミーナがギルドマスターを見ながら一本指を立てて、ミスを窘める様な表情で自らの口を塞ぐ。


「マスター・・。」


「こりゃしまった!スマン、スマン!つい興奮してな!冒険者の稼ぎ口を聞いては、マズかったな!・・しかし、困った。これを普通の相場では受け取れん。当時の金額で1個120万ディルで取引された物だからな。」


--120万ディル!只の果物に価値付け過ぎだろ・・。


『推測ですが、貴重な果実ですから当時の王への献上品として価値を吊り上げたと思われます。大変、美味しい物ですが日本で売られれば約10万円程の価値でしょうか。』


--それでも10万円か。良い土産になりそうだな。


 そこへ商人らしき格好をした小太りの中年男性が黒ポラの話を嗅ぎ付けて口を挟んで来た。


「ちょっと、良いかな?」


 ギルドマスターが知りあいの程で応える。


「ゲイロウ、見るだけだぞ。」


「またまた〜!ここのギルドへの依頼No1のお得意様なんだから、少しぐらいの融通効かせて貰うぐらいの優しさ見せて下さいよ〜。」


「・・お前はいつも良い所取りするからな。言っとくが黒ポラの果実は、お前にはやらんからな!」


「それは、この方が決め事ではないですかね。私なら一個150万ディル出しましょう!如何ですか?」


 マスターがまたか、と言う表情でゲイロウを睨み付ける!


「コラコラ!ギルドの依頼を受けてカズヤはポラの果実を採って来たんだ!お前には、渡さん!」


「何を言われるのか!?カズヤさんとは、まだ依頼達成手続きをしていないでしょう!この方が決める事です!」


 ギルドマスターとゲイロウが睨み合った。カズヤはどうするか?と考えた後話す。


「・・ならば1個は、ギルドへ。後の2つはゲイロウさんへ売りましょう。私も今は新しい装備を買うのにお金を必要としていますので。」


 ゲイロウが1人締め出来ない事に焦りを見せて話した。


「何を仰います!?ギルドになんか売ったら、損しますよ!私に全部売るのが得策です!」


「何言ってる!ゲイロウ!ギルドは黒ポラの果実を一個151万ディルで買い取る!」


 ミーナが慌てて、それを止める!


「ちょっと、マスター!勝手に金額を決めたら本部に怒られますよ!」


「ほら!見なさい!カズヤ君!私に全て売る方向でご検討下さい!」


「ゲイロウさん、俺は言った筈です。この果実の一つは依頼達成と言う事で普通の価格でギルドに売ります。2つはゲイロウさんが一個150万ディルで買い取ってください。」


「いや!それでは!」


 ゲイロウが慌て口を挟もうとするが、そのまま数哉は続けた。


「それがダメでしたら、3つ共何処にも売らず全て俺が食べます。美味しそうですし。」


 二人共、それはマズイと思い声を上げた!


「「分かった!」」


 ゲイロウが右手の平を出したまま、話を続ける。


「カズヤ君の言う通りにする!マスターもそれで良いですよね!」


「ああ!勿論!」


・・数哉は商人とギルドマスターから報酬と代金を受け取りギルドを後にした。


--「ラナ、この近くに鎧を売っている所はあるか?」


『はい、歩いて2分程の場所に。』


--「案内を頼む。」


『畏まりました。』


・・・数哉が店に向かい少し歩くと、店の前に派手な鎧や剣などを飾っている大きな店舗が見える。


--「あの店・・もしかして、あんな派手なのばかりか?」


『派手なばかりで剣も鎧も安物ですね。アレならば、余程今の装備の方がましです。』


--「そうなのか?」


『はい。剣は型に流し込んだだけの殆ど鍛えていない物ですし、鎧は可動範囲が狭く動き難い事に間違い有りません。』


--「そんな物を目玉として置くような店は、中も期待薄だな。」


『はい。』


 店の前で、そんなやり取りをしていると30代の男が店の中から出て来た。


「おっと!これは凄い目利きの冒険者が現れたもんだ!この鎧は良い物だよ!」


--「また面倒なのが来たな。小悪党業者か・・。」


『排除致しましょうか?』


--「いや、少しだけ付き合ってやるさ。その後、他の店に行けばいい。」


『畏まりました。』


「・・どんな風に良いんだ?この鎧は?」


「この鎧はですね!ある貴族が超特注で作らせた優れた鎧です!」


「強度は?」


「拳で殴っても、ほらこの通り!」


ゴン!


「アイタタタ!ビクともしません!」


「普通、拳ぐらいで凹むような鎧は無いぞ。それに俺が殴ると多分、凹む。」


「それ程言うのであれば、如何でしょう!貴方が叩いて凹なければ、丈夫さを認めて特価の200万ディルで買い取ると言うのは!」


「ん?良いが。」


--ククククク、馬鹿な少年だ。派手なばかりで動き難いが、厚さ4mmもある鎧が叩いて凹む訳無いんだよ!200万ディルも持ってそうにないが借金として絞り取ってやる!!


ゴン!!ボコ!べキベキ!


 数哉は勢いもつけず鎧を叩くと、鎧の胸の部分が凹んで固定していた太い木も折れている。


「ほらな。」


 店主は顎が外れそうなぐらい驚いて、口を開けていた。我に返ると数哉を逆恨みし、声を荒らげる。


「お前!店の商品になんて事をしてくれる!」


「アンタが叩けと言ったんだろう。」


「煩い!!」


--お前の方が煩いけどな。


「こうなれば!」


パン!パン!


 店主が手を叩くと小汚い服装を着た、角材を持つ9人の男達が裏路地から現れた。一番、大きな身体をしている男が話す。


「オイオイ!聞いてたぞ!店の商品を壊すなんて酷い奴だ。弁償するのが筋ってモンだろう!」


 数哉はお決まりパターンか、と少し面倒くさそうに応えた。


「・・叩いても壊れないから、叩けと言ったのは店のこの男だ。」


「何の事だか?」


「ほら見ろ!ボズマンさんは知らねぇってよ!俺も聞いてねぇしな!お前らもそうだろ!」


「「「「「おうさ!聞いてねぇ!」」」」」


「どうやら不都合な事だけ聞こえない便利な耳の様だな。」


「何だと!金を払えねぇってんなら!少々、痛い目に遭って貰うしかねぇな!」


「痛い目?」


『数哉様』


--「大丈夫だ。見掛けだけで、アイツら弱そうだしな。」


『当たりです、レベルも低い雑魚ですね。9割9分9厘殺しにする事をお勧め致します。』


--「それもう死んでるだろ。まぁ・・傷め付けるぐらいは、させて貰うとするか。」


パシ!パシ!パシ!


 9人の男達が木を手に当て威嚇しながら、距離を徐々に縮めて来た。店主が小悪党の笑みを浮かべながら話す。


「ほれ!謝って金を払えば助けてやるぞ!」


 数哉は無視して話した。


「掛かって来い。」


クイクイ。


 数哉は挑発する様に右手の人差し指で呼び寄せる。男達は最初に軽く痛み付けようと思っていたが、怒りから数哉へ走り力一杯叩き付けた!


ガ!ガ!ガ!ガ!ガ!・・!


「遅い、欠伸がでそうだ。」


 数哉は地面を攻撃した男達の背後に回り込み、そう話す。そのまま一人の男の脚を軽く蹴飛ばした。


ゴキ!


「ウギャァ〜!!痛え!痛えよ!」


 数哉の蹴りで男の脚は曲がらない筈の方向に曲がり倒れていく。


--え!?軽く蹴っただけだぞ?コレでも強いのか?


『数哉様はお優しいですね。蹴りで足を吹き飛ばさないなど。』


--「逆!逆!」


『逆?頭を吹き飛ばすのですか?』


--「その逆じゃない!もっと手加減したつもりだったのに、やり過ぎたんだ。」


『そうなのですか?』


 男達は倒れた男を見て一番大きな身体の男が声を上げた!


「お前ら!離れろ!コイツ!足に魔法具か何かを仕込んでやがる!」


 男達は距離を取る為に後ずさりして話す。


「卑怯な野郎だ・・。」


「9人で1人を襲っておいて、どの口が言ってる?」


「煩せぇ!!」


「・・それに足に何も仕込んで無いぞ。力がお前らより遥かに強いだけだ。まだ手加減出来そうに無いから引いてくれ。お前達が悪党でも殺すと後味が悪いからな。」


「・・読めたぜ。」


「何をだ?」


「足に仕込んだ魔法具は一回こっきりのネタなんだろう!それで俺達を引かそうなんて!そうは行かねぇぞ!ヤラれたボンボの分もお前に返してやる!両手両足を折って泣き叫ぶまで許さねぇからな!」


「ふ〜・・その角材借りるぞ。」


「誰が貸す!え!?」


 男は拒否するが分からない内に手から角材を奪われていた。数哉は、その角材を自身の頭に叩き付ける!


バキ!


 角材は2つに分かれ、数哉は丸めた新聞紙で叩いた如く平気な状態だ。男達はその不思議な光景に戸惑っている。数哉は折れた角材を男達の前に見せると今度は角材を強く握りしめた。


ミシ!メキ!メキ!


 数哉は角材を握力で潰して、一言話す。


「コレで分かったか?」


 男達は数哉の力を認識すると、怯えながら一目散に逃げ出した。


「ひえぇぇ〜〜!!バケもんだ〜!!」


 逃げる一番身体の大きな男へ、倒れているボンボの折れてない足首を掴み放り投げる。


「忘れ物だ!受け取れ!」


ブォ!ドス!


 大男は背中に当たった衝撃で倒れ、ボンボの折れた足を見て再び悲鳴を上げた。ボンボは痛みで泡を吹き気絶している。


「ひえぇぇ〜!!」


 大男は立ち上がり、ボンボを置いて飛ぶ様に逃げて行った。


「忘れ物じゃなかったんだな。」


 数哉はそう呟き、店主の傍に近付く・・。店主は怯えながら鎧の後ろに隠れた。


「く!来るな!私に手を出したら衛兵を呼ぶぞ!」


「衛兵が来る前に片付けるとしよう。」


--面倒事になるか?


「誰か!!助けてくれ!強盗だ〜!!」


--弱った?目立ってるな。


 通行人が何が起きているのかと、数哉達の方を見ている。


--放っておく事も出来るが、少し懲らしめないと他の人が困るかも知れない。


--「ラナ、何か目立たずに懲らしめる方法は無いか?」


『そうですね・・こちらを大量に空から降らせるのは如何でしょう?・・転送。』


 数哉の前に1枚のビラが現れた!


--「ん?・・面白い。コレで行こう。何枚用意出来る?」


『幾らでも御用意出来ます。』


--「町中に行き渡る枚数で頼む。あと、材質は雨が降ると溶ける紙で作成可能か?町を汚すのも何だからな。」


『可能です。』


--「では、やってくれ。」


『畏まりました・・転送。』


 何百万枚ものA4程の大きさの紙が町の上空に転送される。紙にはボズマンの店にある全ての物の評価が事細かく記されていた。勿論、売られている値段もである。お仕置きは終わりだと、数哉は店を後にした。アルトデルト公都に向かおうとしている。ボズマンは私の勝ちだとばかりに笑い、後ろに向いた数哉へ声を掛けた。


「ハハハハ!どうだ!早く逃げないと衛兵が来るぞ!参ったか!?」


・・空から大量のビラが舞い降りて、ボズマンの近くにもそれは舞い落ちる。ボズマンは手に取ると驚き、怒りを見せた。


「・・ん??何だこれは?・・!?ふ!ふざけんな!さては!お前がやったんだな!営業妨害で訴えてやるぞ!」


 数哉は後ろを振り向かずに応える。


「好きにしろ!今まで詐欺まがいな商売をして来たならば、お前が呼ばなくても、このビラを見た人達が衛兵に連絡するだろう!さて、本当の事しか書いてない様だし訴えられるのはどっちかな!それに俺がやったって言う証拠でもあるのか!?じゃあな!」


 数哉は後ろへ手を振り去って行った。店主は膝から崩れ落ちる。


「そんなぁぁ!!〜!・・・。」


・・歩きながらラナが数哉へ話す。


『数哉様・・詐欺紛いな店に、ご案内してしまい誠に申し訳御座いません。』


--「気にするな。寧ろ詐欺の店を潰せて良かったよ。最後はスカッとしたしな。」


『今度は良い装備を置いてある店をお探し致します。』


--「いいって。全く知らない店に入るのも冒険と言えるだろ。それに今はもう、暫く必要無いかなと思っているんだ。」


『それは・・?』


--「良く考えたら、このボロボロになった鎧でも十分約に立ってるし、怪我もレベルが高いお蔭か?直ぐに治るしな。」


--{それは身体改造されている事も有りますが。}


『・・はい。』


--「あと、あの店の剣を見て考えていたんだが・・今持っているこの剣も、普通の剣じゃ無いだろ。」


『申し訳御座いません!・・仰る通りです。』


--「やっぱりな。だが責めてる訳じゃ無い。何となくな・・俺の力でアレだけ無闇に振り回して折れないのは普通じゃないと思ってな。」


『はい・・切れ味は冒険初心者が持つ剣と同様の切れ味しか有りませんが、丈夫さで言えば他世界に伝わる聖剣よりも丈夫です。数哉様の現在のお力では、1匹のエルラを倒すだけで殆どの剣が折れてしまいますので・・。』


「早めに、力加減と戦う技術を学ばないと剣を買っても壊すだけか。よし!この装備で暫くは行こう!アルトデルト公都に案内してくれ。」


『畏まりました。予定では数哉様が適当に走って約2日程、掛かります。』


「結構近いな。」


『距離にして約700kmです。』


「遠いか?・・。」


--基準が変になって来てるな。


「2日分の食料は必要か?」


『全く問題有りません。今まで倒されたエルラで半年分の食料が御座います。』


「そんなに?」


『はい。』


「道中に景色の良い場所はあるか?」


『御座います、アルトデルト公都の少し手前にナイアガラの滝規模の滝が。但し、少し最短ルートから外れます。』


「寄り道も良いさ。そこで絶景でも眺めながら楽しいバーベキューと行こう!最近、食べても食べてもお腹が空くしな。ラナもそれで良いか?」


『私は数哉様さえ満足して頂ければ、それで幸せです。』


「そうか・・ラナには味覚とか無いんだよな。」


『いえ!味覚も痛覚も!人間として必要な物は全て御座います!』


「あるのか!?」


『はい・・少しでも数哉様にお近付きに成りたいと思いまして、性感帯も・・ぽっ。』


「・・まぁ、それは良いとして。」


--{が〜ん・・ですが負けません!いつか必ず数哉様の寵愛を頂いて見せます!}


「取り敢えず、その滝へ向かおう。」


『・・畏まりました。』


・・・数哉が町を出た約4時間後、夜遅くギルドを訪ねる者達が居た。レモル達である。まだ、ギルドではお酒を呑んで楽しむ客達も居た。ネリスはその中に居らず、遺跡に居た子供達を親下に届けている。カウンターにレモルが急いで駆け寄り、帰り支度を進めるミーナに尋ねた。


「すみません!カズヤさんは、ポラの果実採取の依頼達成報告に戻って来ていませんか!?」


「え?・・あぁ!コーネットさん達ですか?」


 オッドが口を挟む。


「急いで帰って来たんだ。アイツが先に着く訳ねぇさ。ギルドに来るのは明日だろう。」


 ミーナが手を手招きに似た仕草でブンブンと縦に振り、答える。


「それが聞いて下さい!あの少年!今日の昼間にはもう!ギルドに戻って来たんです!ポラの果実採取依頼の最短達成記録ですよ!王族の知り合いでもいて、飛空艇でも使わない限り無理じゃ無いかしら!しかも!持って来たのが幻の黒ポラって言うんだから!!・・何者なのかしらね?見た目は冒険初心者なのに。」


 コーネットとオッドはその話に驚き、レモルは浮かない表情でミーナに尋ねた。


「・・と言う事はカズヤさんはもう、何処かに?」


「ええ、依頼達成報酬を受け取った後にギルドを出て行ったわよ。」


「何処に行くとか言ってなかったですか!?」


「ごめんなさい・・聞いてないわ。」


「そうですか・・。」


 落ち込むレモルにオッドはどうして良いか分からず、コーネットが声を掛けた。


「・・レモル、落ち込むな。俺の師匠に探して貰う様、手紙で連絡を取っておくよ。」


 オッドが目を剥き話す!


「本気か!?コーネット!そりゃあ!オメェの師匠なら世界の何処に居ても見つけ出すだろうけど!剣聖だぞ!勇者の直系が人探しなんぞ引き受けるかよ!」


「いや、師匠なら引き受けるだろう。あの少年には不思議な事が有り過ぎる。師匠は不思議好きだからな。今まで起こった事を話せば探して欲しいと言わなくとも勝手に探してくれる筈だ。」


「そうなのか?まぁ俺もお会いした事ねぇから分かんねぇけどよ。」


--オッドが会ったら驚くだろうな・・師匠は60歳を過ぎているのに、どう見てもレモルよりも若く見えるからな・・。


「でも良かったな、レモル。これで絶対見つかるぞ。コーネットに感謝だ。」


「有難う!コーネット!」


「礼はいい。俺も彼には興味が有るんだ。どうすれば冒険者ランクGであの強さを身に着けられるのか?俺も遺跡中央部のロストテクノロジーを解明し、もっと強くなって!故郷のマダラグス王都を取り戻す!」


 コーネットが右手を少し前に出し、強く拳を握り締めた。オッドが応える。


「そうだな・・レモルの父親カイエルの仇も取らなきゃな。」


 レモルが頷く。


「うん・・捕まっているコーネットの婚約者も早く助け出さないとね。」


「ああ・・。」


--もう暫く待っていてくれ!フレリア!必ず!助けて見せる!!


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