表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラナ markⅢ  作者: ススキノ ミツキ
41/41

第41話 父親の災難2

・・数哉はイギリスにあるヘンリー邸の玄関に来ていた。数哉がベルを鳴らす前にTシャツとGパン姿のセレーナが扉から出て来る。


「遅い!もう、10時よ!」


「すまない、日本で色々あったんだ。」


 数哉が謝っているとヘンリーが、セレーナの後ろから顔を見せた。


「まあまあ。スープや料理は今、温め直して貰ってる。さぁ、バルコニーに移動して食べよう。」


 数哉はヘンリー達に付いて歩く・・2階に上がりバルコニーに到着すると、ここにも花壇があり、広いバルコニーには2つの大きな白い長テーブルと椅子があった。テーブルには大量のサンドイッチと、スープは寸胴鍋で2杯用意されている。数哉がヘンリーを見ると、ヘンリーが笑顔で答えた。


「足りないかい?」


--又、気を使われたか?


「いいえ。朝に、こんなに食べられません。」


「まあまあ、食べられるだけ食べてくれれば良い。さあ、座って。」


 数哉が勧められた席に座ると、セレーナはその隣に座る。セレーナが目の前の卵とチーズとレタスを挟んだサンドイッチを取り、数哉の口へ持って来た。


「はい、あ~ん。」


 数哉は、出されたサンドイッチから少し頭を離す。


「セレーナ、自分で食べられる。」


 セレーナが間髪入れずに返す。


「へ~、遅れて来たのに私のサンドイッチを食べられないって言うの?」


「どういう理屈だよ。」


 数哉は仕方ないと、セレーナが持つサンドイッチを口を開けて大きく噛りついた。


「これ、うまいっ。」


  セレーナがそれを聞いて喜ぶ。


「でしょ!それ私が作ったの。ソースも私の手作りなんだからっ。」


 サンドイッチをセレーナから受け取り数哉は話した。


「チーズも、このソースに凄くあった物を使ってる。美味しいよ。」


「でしょ、でしょ。一杯食べてね!」


「ああ。」


 ヘンリーが微笑ましく、それを見ていた・・殆どのサンドイッチを数哉が食べ終えた頃に数哉が話しだす。


「食べている途中ですが、二人のボディガードを紹介します。アンドロイドですが、普通に人間と同じ感情や知性を持っているので仲良くして下さい。」


--「ラナ。」


『はい・・転送。』


 バルコニーへの扉を開けて二人が現れる。一人はセレーナと同じ年頃だがボディビルでもやっている風で、Tシャツがはち切れそうな筋肉ムキムキの若いショートカットの女性であった。もう一人も、執事風にスーツを着ているが筋肉で胸が盛り上がった初老の執事である。


「二人共、挨拶してくれ。」


 二人が深く御辞儀した。


「「畏まりました、数哉様。」」


 まず執事がヘンリーに向かって挨拶する。


「初めまして、私はトムソンと申します。この通り執事風で、大体の事は出来ますが基本的には護衛並びに戦闘用として作られたアンドロイドです。」


 トムソンが右手を上げると、右手が分解される様に別れて機関銃や大砲、剣に次々と形が変わった。普通の手に戻してヘンリーへ御辞儀する。ヘンリーは、トムソンの肩をトントンと優しく叩き頭を上げて貰った。


「こちらこそ、宜しくお願いします。」


 ヘンリーは右手を出して握手を求める。


「ですが私としては、私よりセレーナを守って欲しいのです。」


 セレーナの橫に居るムキムキ女性が、それを聞いて話した。


「大丈夫です、私はミリー。いざとなれば、セレーナの(よろい)兼パワードスーツとして頑張りますから。」


 ミリーの身体が2つに裂けて伸び、セレーナの身体が入れそうな隙間が生まれる。口は別れていて、動いていないがミリーが話を続けた。


「セレーナさんが、この中に入れば溶岩の中でも平気で泳げます。勿論、トムソンも同じ事が可能ですから、危険な状態では私達の指示に従って頂ければと。」


 二人はミリーの別れた身体を見て驚きながら、静かにゆっくりと頷く。数哉は自己紹介が終わったのを見て、持っていたコーヒーカップを置いた。


「ヘンリーさん、この邸宅の地下にアンドロイド戦闘員達を指示する秘密基地を用意します。今日の夕方迄には出来上がるので、イギリスのUKAグループを叩きのめして下さい。」


 ヘンリーが、それを聞いて驚く。


「いくら何でも早すぎないか?数哉。まさか、随分前から、作っていたとか?」


--その方が話が早いか・・。


「すみません、勝手な事をして。」


「いや、良いんだ。私達の事を思っての事だろうから。」


「あと、この邸宅を守るシステムも用意しました。軍隊が攻めて来ようと安全ですから、何かあれば此処に急いで戻って下さい。」


「分かった。」


・・料理を食べ終わった所で、数哉の妹から連絡が入る。


『数哉様、香澄様から電話が入っています。』


--日本はまだ夜中の筈なのに。分かった、携帯電話に繋げてくれ。


 数哉のGパンの携帯電話がリリリンと鳴り出した。数哉は誰からか?と知らない振りをして画面を見る。


「・・香澄からみたいだ。」


 数哉が電話を耳に当てると、焦る香澄の声が聞こえた。


「お兄ちゃん!?どうしよう!お父さんがっ、お父さんがっ!」


--この深夜に何かあったのか?身体的に何かあればラナが報告してくれる筈だが。


「・・落ち着いて話てくれ。」


「う、うん。あのね、お父さんが残業で遅くなってタクシーで帰って来たんだけど。お母さんとお父さんの話しているのを聞いちゃて。お父さん、会社をクビになりそうだって。」


「管理職でもないのに簡単にクビにならないだろう。」


「それが・・ミシンの売上が先月たまたまノルマに達せずに上司の課長から凄く叱られたらしくて、日頃の課長からの嫌がらせも有り、悔しくて今月ノルマを達成しなかったら会社を辞めるって言っちゃったらしいの!」


「それで達成しなかったのか?」


「ううん。お父さんは達成したのに、その功績を女性の課長が不倫してる、お父さんの後輩に勝手に移されたって。」


「最悪な課長と後輩だな。」


「それで急いでノルマ達成しようと頑張ってるらしいけど、もう無理そうだって・・どうしよう。」


「分かった、俺が何とかするから心配するな。香澄もアイドルの練習大変なんだろ。もう寝た方が良い。」


「でも・・私、アイドルやめてアルバイトした方が良いのかな。アイドルって、どれだけ貰えるかも分からないし。」


--そりゃ、心配か。


『数哉様。話を聞いていましたが御心配されなくても大丈夫です。』


--「ん?どういう事だ?」


『こういう事も有ろうかと、お父様の会社の親会社であるコート電機の株の51%を既に手に入れております。現在、千葉県の奧地の屋敷に住む老人が持っています。その老人は部下のアンドロイドです。』


--「ふむ、それは面白いな。」


「・・お兄ちゃん?聞いてる?」


「ああ、実は俺の知ってる友達が父さんの親会社のお偉いさんと知り合いなんだ。」


「そうなの!」


「ああ、だから任せろ。その無法上司も仲間達も全て片付けてやるから。」


「良かった~、お兄ちゃんに相談して。」


「分かったら、もう安心して寝ろ。」


「うん。」


 数哉は、電話を切るとヘンリーとセレーナに向き直る。


「ヘンリーさん、日本に用事が出来たので移動します。」


「ああ、いつでも待ってるよ。」


「セレーナ、またな。」


「うん、約束忘れないでね。」


「ああ。」


--「ラナ、日本に転送してくれ。」


『畏まりました・・転送。』


 数哉は自宅マンションの屋上に仮の部屋を立てて、その地下の秘密部屋で再び研究に没頭した・・朝の8時前に大きなフカフカの高級椅子に座り、30分だけ寝てパチリと目を覚ます。ラナは高級椅子の腕置きに座り寄り添っていて、何故かミニスカート看護師の姿で綺麗な足を見せていた。


「よし、ラナ。コート電機に向かうぞ。」


「たんのう・・いえ、畏まりました。会社の開く8時30分には玄関前に居る様に話しております。」


「コート電機の社長は会社に居るのか?」


「はい。今日は1日、会社で書類を確認予定となっています。」


「直ぐに人気(ひとけ)のない、その近くの路地裏に転送してくれ。」


・・ラナが腕輪に装着される。


『畏まりました・・転送。』


 数哉が転送された路地裏を抜けてコート電機の大きなビルに辿り着くと、白いロールスロイスの後部座席から、和装の白髪老人が杖をついて、こちらに歩いて来た。数哉の前に来て深く御辞儀をする。


「御目にかかり、恐悦至極に存じます。宇宙・・いえ、数哉様。ラナ様。」


「・・頭を上げてくれ。ラナからの計画は聞いているか?」


 老人は頭を上げて、真剣な表情で話した。


「はい、全て覚えております。数哉様の御家族に害を与えるなど、不届き千万!本当は、八つ裂きにしてやりたい所です!」


『同感です。』


「ラナ。」


『申し訳御座いません。』


 老人がラナからの通信を受け取ったのか、再び頭を下げる。


「申し訳御座いません!殺さずに出来るだけの罰を与えてやります!」


「ああ、それで頼んだ。演技もな。」


「はい。」


「よし、行こう。」


「畏まりました。」


 老人が先行する形で玄関に入っていく。新作の電機製品の展示場も兼ねた玄関ホールを歩いて3人の受付嬢と警備員一人が立つ受付まで歩いた。真ん中の受付嬢が軽く御辞儀をして笑顔で話す。


「いらっしゃいませ。当社にどのような御用件でしょうか?」


 老人が、ぶっきらぼうに目も合わせず話した。


「脇森社長はおるか?」


「お約束は、されておりますでしょうか?」


 老人は受付嬢をジロリと視線を落として話す。


「儂は筆頭株主の江戸澤(えどさわ)じゃ。ここは儂の会社なのに、約束せぬと会えぬのか?」


 受付嬢は慌てて立ち上がり深く頭を下げた。


「申し訳御座いません!大変失礼致しました!直ぐにお繋ぎ致します!」


 受付嬢達と警備員に緊張が走る。ピンと背筋を整え、右に座る受付嬢が受付を出て来て御辞儀した。


「宜しければ、応接室に御案内させて頂きます。」


「うむ、頼んだ。」


 チラリと受付嬢が白いYシャツにGパンのラフな格好の数哉を見たが、誰なのかを尋ねて老人の怒りを可能性もあり、数哉の素性を聞く勇気がない様である。少し歩いて役員専用のエレベーターの前で、エレベーターを待っていると、わざとらしく息を切らした眼鏡を掛けた小太りの脇森社長が出てくる。


「これは!これは!江戸澤様。ようこそ、いらっしゃいました。私が応接室に御案内申致します・・ん?この子は?」


 江戸澤がジロリと脇森を睨み、怒気を含む声で答えた。


「この御方(おかた)を子・・じゃと?この御方は儂の大切な友人で佐藤数哉と言う方じゃ。いずれは、儂の持つ株をこの御方に譲渡する事に決まっておる。お主が社長を続けるかどうかは、この御方の考え次第と言う事を分かっておるか?」


 脇森が土下座するのかと思うぐらいに頭を下げて倒れそうになりながら謝罪してくる。


「大変失礼致しました!佐藤様!ど、どうぞ応接室へ御案内致します。」


・・脇森社長は二人を誘導して役員用エレベーターに乗り、最上階にある社長室の隣の一番大きな応接室へ案内した。部屋に入ると江戸澤が数哉を上座に座る様に勧めていて、脇森社長は、それをギョッと驚き見ている。3人が座ると直ぐに、秘書らしき女性が茶菓子と、高級抹茶を出してきた。脇森社長は恐る恐る問い掛けてくる。


「・・それで今日は、どういった御用件で御伺いされたのでしょうか?」


「うむ。こちらの佐藤様のな、お父様がコート電機の100%子会社である那須川ミシンに勤めておる事が分かってな。お主に案内して貰おうかとな。」


 脇森が、それを聞いてホッと胸を撫で下ろす。経営方針のクレームか役員交代を指示されると思っていた様だ。


「左様で御座いましたか!佐藤様のお父様が!直ぐにアポイントを取り御案内申し上げます!」


 江戸澤が間髪入れずに返す。


「いやアポイントは必要ない!この御方のお父上が、どのような仕事振りなのか、会社に大切にされておるかを知りたいだけじゃ。アポイントなんぞ取れば分からぬじゃろう。さぁ、案内せい。」


「畏まりました!直ぐに御案内致します。当社の車を会社の前に御用意致します。」


「儂達は車がある。お主は別の車で誘導せい。」


「畏まりました。」


・・道中でラナに数哉は確認した。


--「どうだ?父さんは今どうしてる?」


『はい。申し上げにくいのですが、お父様の机だけ窓際に寄せられる様な嫌がらせや、パソコンも取り外されて、会社を辞めさせようとしているのか、整理用と書かれたダンボールまで2個傍に置かれております。』


--「許せないな・・父さんも俺に見られるのは嫌かもな。俺は会社に着いたら用事が出来たからと離れて様子を見る。ラナ、後はしっかり頼んだぞ。」


『畏まりました。江戸澤と通信して悪者退治を致します。お父様の課の9人中、4人は嫌がらせに協力していて、その他の人達はお父様の方へ手を合わせて申し訳なさそうにしていたので課長を含む5人に罰を与えます。会社の近くの路地裏に映像を映します。』


--「ああ。」


・・・高速道路を使って、1時間と少し走った所で那須川ミシンに到着する。降りた所で、数哉の携帯電話を鳴らすと、近くに来た脇森の前で江戸澤に話した。


「悪いが、急な用事が出来た。江戸澤さんが父さんの様子を見て来て、今度会った時に教えて下さい。」


「畏まりました。」


 いつもは表情の硬い江戸澤が深く頭を下げる。それを見て更に脇森は、数哉が何者かと思うが江戸澤が御辞儀している橫で深く頭を下げた。


「私も関連会社で仕事をして頂いてます、お父上に感謝の意を送らさせて頂きます!」


「お願いします。まさか、父さんが不自由な仕事状況だった場合は・・分かりますか?親会社の社長である貴方も同罪です。」


 脇森社長は深く頭を下げたまま、冷や汗を出している。


「畏まりました!決して、そんな筈は有りません!」


「あと、私が江戸澤と仲が良い事を父は知りません。出来る限り内緒に願います。」


「畏まりました。」


 数哉が去って行くのを御辞儀しながら見届けた後、隣に生産工場もある社員約50名の会社の玄関ホールに二人は入っていく。何度か来ているのか脇森が入ると受付に居る一人の女性が立ち上がって挨拶をした。


「おはよう御座います。お取り繋ぎしますが弊社社長の嘉永で宜しいでしょうか?」


「ああ。大切なお客様も、いらっしゃるから早くしてくれ。」


「畏まりました。」


 受付の女性は急ぎ、社長の嘉永に連絡を取るとホールの橫にある応接室に案内された。脇森が江戸澤を上座に勧めて革の椅子に座る。江戸澤が座った後に自身も隣の椅子に座った。コンコンと扉をノックして、白髪混じりの細身の嘉永が入って来る。脇森よりも上座に座る江戸澤をチラリと見て入って来た。


「ようこそ、いらっしゃいました脇森様。この度は一体どのような御用件で?」


「うむ。その前にこちらの御方を紹介させてくれ。こちらの御方は、コート電機の筆頭株主である江戸澤様だ。」


「そうなのですか!?お初に御目にかかります。那須川ミシンの社長をしております嘉永と申します。」


 嘉永は座ったまま頭を下げる。脇森が自身が話そうかと江戸澤を様子見ると、江戸澤は脇森の発言を許可したかの様に頷く。


「嘉永君、実はな。江戸澤様の大切な方の父上がこの那須川ミシンに、いらっしゃる様なのだ。」


「そうなのですか?それはどちらに?」


「営業二課の佐藤様だ。」


「営業二課の佐藤ですか?」


 江戸澤が佐藤と呼び捨てした嘉永を睨みつける。脇森が江戸澤の怒りを察して、嘉永へ話す。


「こらっ、江戸澤様の大切な御方だぞ!様を付けんか!」


 本来ならば、自身の会社の社員に様を付けるなど有り得ないが親会社である脇森の慌て様に、それを受け入れた。


「大変、失礼致しました!営業2課の佐藤様でした!」


 江戸澤が満足そうに頷く。


「うむ。」


 脇森が一瞬ホッと目を閉じて、直ぐに目を開け話を続けた。


「それでだな、江戸澤様が佐藤様にご挨拶したいと話されたんだ。」


「そうですか、では早速御案内致します。」


 3人は応接室を出て廊下を歩き、エレベーターへ向かう。嘉永が先頭を歩いていると脇森が小走りに近付いた。江戸澤に聞こえないように、コソコソと前を向いたまま話す。


「嘉永君、大丈夫だろうね・・。」


「それは、どういった?」


「佐藤様に不都合でもあってみろ。私達はこれだ。」


 脇森が首を手で切る様子を見せた。嘉永がゴクリと唾を飲み込む。脇森は続けて話した。


「佐藤様は課長か?早く部長にして差し上げろ。適当な役員でも良い。」


「・・言いづらいのですが、佐藤様は平社員です。」


「何だとっ、馬鹿か。課長でもおかしいのに・・不味いぞ、困った。」


 エレベーター前まで来て、全て聞こえている江戸澤が話す。


「何をコソコソと話しておる?さっさと開けんか。」


 嘉永が急いでエレベーターの上ボタンを押した。


「はい!申し訳御座いません!」


 エレベーターの4階を上がった所が、営業フロアの前の廊下らしく、エレベーターが開くとフロアから話し声が聞こえてきた。女性課長と数哉の父親が話して来る。


「これは酷すぎませんか?課長。私の売上を後輩が上げた事にしたり、今度はパソコンも取り上げて仕事の妨害ですか。」


「何の事かしら?前に言ったでしょう。それは、無能な佐藤さんが抱いた幻想でしょう。無能な佐藤さんにパソコンなんか必要ないのよ!何度も言わせないで!時間の無駄だわ!」


 大きな声で話している為に3人の耳に声が届き、脇森が大変だと江戸澤を見る。江戸澤は怒りに震えて顔を真っ赤にしていた。嘉永は慌てて止めようとするが、嘉永の肩を杖の曲がり部分で止める。


「お主ら、覚悟は良いじゃろうの?」


「「ひぃっ!大変申し訳御座いません!」」


 嘉永の肩の杖を江戸澤が外すと、嘉永が廊下を走って扉を勢い良く開いた。


「何をしているんだ!?」


 嘉永の大きな声で、やり取りを聞いて笑っていた社員と、先輩である佐藤の人格が好きだが課長からの、とばっちりに怯える社員が社長を見る。少し離れた営業一課の社員達も見ていた。女性課長の柿下が、社長を見て慌てて弁解しだす。


「申し訳御座いません、お騒がせしまして。ノルマを達成出来ていない無能な部下を躾ていた所です。あの佐藤社員は2ヶ月もノルマ達成出来ていません。本当に困った社員でして。佐藤社員のボーナスも私の優秀な部下の高梅(こうばい)社員に、全て渡す必要もあるかと考えています。」


 数哉の父親が言い返そうとしたが、先に課長の不倫相手の高梅が社長にアピールしようと出て来る。


「いやぁ、本当に佐藤先輩には困ってまして。私の売上は佐藤先輩から盗んだ物とか言うのです。」


 褒められると思っている二人は、意気揚々だが返って来た声は違うものであった。


「貴様らっ!よくも佐藤様を侮辱してくれたな!」


 社長が数哉の父親を佐藤様と呼んで、社員達は言い間違えだろうと思っている。嘉永は続けて話した。


「佐藤様はな!コート電機の筆頭株主である江戸澤様の大切な方のご親族なんだぞ!」


「「「「「「ええっ!?」」」」」」


 課長も高梅も、何が起きているか判断出来ずにオロオロとしている。そこで、数哉の父親を良い先輩と思っていた社員の若い男が立ち上がり追い討ちを掛けた。


「社長っ、私は見ました!課長が佐藤先輩の売上を移した事を何度か見た事が有ります!更に、課長と高梅先輩は会社内でも隠れて不倫していて、真面目で融通が効かないといった理由で佐藤先輩を貶める話を陰でしていました!」


 嘉永は二人を睨みつけた後に、数哉の父親の下に急いで走り謝罪する。


「大変申し訳御座いません!佐藤様!柿下はクビにして、高梅社員と佐藤様を侮辱していた者達は今後、倉庫整理と掃除に回します」

!」


 数哉の父親が意味が分からなく戸惑っていた。


「社長、頭を上げて下さい。何かの間違いでは?そんな話を家族から聞いた事無いのですが。」


 その言葉に二人が、もしかしたら助かるかもと思っていたが江戸澤が証明する。ゆっくりと江戸澤は数哉の父親に近付いた。


「佐藤様、間違えておりませんよ。その家族の方から貴方様の写真も見せられております。貴方様が望む役職が有るのならば、この会社の社長でも、コート電機の社長でも好きな様に出来ますぞ。」


 二人の社長が、それだけは困ると首を素早く振っている。数哉の父親は、手を橫に振り話した。


「そんな、私はそんな器では有りません。」


 その言葉に二人はヨシ!と心に思うと、嘉永が数哉の父親の話に乗り、橫から話しだした。


「佐藤様、そんな事は有りませんよ。では、課長の席が空きましたし、まず課長から始められては?勿論、慣れてくれば部長でも役員でも席を御用意致します!」


 そこへ、こことばかりに脇森も混ざる。


「そうですよ、佐藤様。それも合わなければコート電機の役員の座を用意致します。勿論、安心して仕事出来る様に私が全てフォローします。補助の社員を二人付けますから。如何でしょう?」


「・・この仕事にも愛着が有りますし、宜しいのであれば課長でお願い致します。」


 路地裏で数哉は、流れを見ていた。


「ラナ。」


『はい。』


「4人以外の父さんを笑っていた連中は、どうする?」


『お任せ下さい。』


 数哉の父親が課長になると聞いて、課長と高梅以外の者もコロリと態度を変えて拍手している。江戸澤が後ろを向いて、課長と高梅以外の三人を指を差していく。


「そこにいる三人も見ておったぞ!佐藤様が困っておる時に笑っておったじゃろう!佐藤様が許しても儂が許さん!」


 江戸澤が、嘉永に振り向かずに話す。


「嘉永社長、分かっておるな。」


 嘉永は真剣に頷いて話した。


「お前達にも、倉庫整理に回って貰う。」


 22歳の女性が立ち上がり、抵抗する。


「そんな!私は殆ど何もしてません!」


 そこに27歳の女性が、キッとその女性を睨んで話した。


「佐藤先輩の席を、高梅と部屋の隅に移動していたじゃない!」


「うるさいわね!あんたは黙ってなさいよ!」


「私の方が先輩よ!」


「三年ぐらいで、先輩づらするんじゃないわよ!あんただって、机を戻そうとしなかったじゃない!」


「・・それは、柿下課長に睨まれるから。」


 嘉永社長が、いつまで続くか分からない喧嘩を止める。


「もういい!これは、決定事項だ!」


「だったら私、この会社を辞めます!」


「俺も!」


「俺も!」


 高梅が、気を落とし項垂れる柿下課長を終わった関係と思っているのか一瞥もせずに、反撃のチャンスと勢い良く立ち上がった。


「俺も!どうするんですかね?営業の5人が一気に辞めて困るのは会社じゃないですか?」


 嘉永は動じずに話そうとするが、脇森が右手を少し上げ制して話した。


「お前達が居なくとも、新しい社員を入れて体制が整う迄は、コート電機がしっかりと補助する。お前達の心配など無用だ。辞めると言ったんだ。さっさと、荷物を纏めて出て行け!」


「そんな~~~・・・。」


 嘉永は人事課に直ぐに連絡して、数哉の父親の昇進と、社員達に退職願を出す様に促した。性格の悪い課長と社員が一斉に消える事で、営業2課の他の社員達は互いに喜んでいる。やはり会社に残りたいと言った二人が居たが、ひたすら倉庫整理をアルバイトの者と作業するのは耐えられなかった様で、1ヶ月後には辞めていった。


・・数哉が夕方、自身のマンションに連絡すると母親が固定電話を取った。


「母さん?今、留学先のアメリカから戻ったんだけど。」


「あらっ、丁度良かった!お父さんが昇進したから、今日は祝いに豪勢な食事にしようと思って。数哉も一緒に祝って頂戴。」


「そうなんだ、分かったよ。もうすぐ帰るから。」


・・数哉は自身で捌いたマグロを大量に更に載せラップを掛けて帰る。大皿二枚で手が塞がっている数哉はラナにチャイムを押して貰った。


ピンポン!


 数哉の母親が、心配が取り除かれて晴れ晴れとした笑顔で出て来る。


「お帰り!うわぁ、凄い!また、マグロを貰ったのね!折り畳みテーブルを、出さなきゃ。」


 母親が扉を開けた状況で数哉は中に入っていく。既に父親が食卓に座っていて、数哉を見て話した。


「・・今日の事は数哉の仕業(しわざ)なのだろう?」


 数哉がニコリと笑う。


「良かったよ、俺の人脈が役に立って。今迄、苦労させた分を恩返ししないとね。」


 数哉の父親が感動したのか目線を上げて、涙を堪えながら話す。


「こらっ。お父さんには、家族の事で頑張るのは幸せな事なんだ。まだまだ数哉に心配される歳じゃないぞ。でも本当に助かった。ありがとうな。」


 数哉が笑顔で頷いていると、マンションの鍵がガチャリと開けられて、ダンスレッスンと歌のレッスンを終えた香澄が飛び込んで来る。


「やっぱり、お兄ちゃん!良かった、大変なの!助けて!」


「ん?父さんの件は、問題なく解決したぞ。」


「そうっ、良かった!って、大変なの!」


「まだ何かあるのか?」


「来週、緊急ライブで私のデビューライブを行うって言うの!」


「早すぎないか?まだ、レッスンを始めた所だろう?」


「そうなの。私もミスしたら困るし、皆の迷惑になるから無理だって言ったんだけど。愛華さんもメンバーの先輩達もミスするぐらいがアイドルとして盛り上がるんだって言って。」


「それで、何時なんだ?」


「来週の土曜日。」


「それは厳し過ぎるだろう。」


「うん・・でも、何があっても全てフォローするから、お兄ちゃんを連れて来てって。仕方なくOKしちゃったの。勿論、お兄ちゃんに聞いてみないと分からないって言ったんだけど。」


「・・なんで、そこで俺が出て来るんだ?」


 母親が香澄に助け舟を出す。


「良いじゃない!妹がお兄ちゃんを頼ってるのよ。助けてあげなきゃ。」


「仕方ないな、分かったよ。俺は何をすれば良いんだ?」


「なんか、前日にコンサートのリハーサルで兄目線でどう映るかを知りたいのと、本番のコンサートの立ち会い。あと、打ち上げにも参加して欲しいって。」


「兄目線のコメントが何に役立つんだか?まあ、良いよ。分かったから。」


「ありがとう!お兄ちゃん!」


 家族で昇進を祝いながら、暖かく食卓を囲み時は過ぎていった・・。


・・・2日後、数哉の父親は自身の勤める会社に向かう。到着して会社の玄関を通ると、社長と全ての役員が立っていた。数哉の父親がおはようございますと、挨拶する前に社長と全ての役員達が課長になったばかりの父親に頭を下げる。


「「「「「「「おはようございます!昇進、おめでとうございます!」」」」」」」


「あ、ありがとうございます。」


 数哉の父親が困惑しながら営業フロアに入ると、柿下課長の席は撤去されて、社長室の物より高級なブランドの木の机と、フカフカな椅子が置かれていた。数哉の父親が困ったと、自身の後頭部を触る。営業1課と営業2課、そして営業部長が立ち上がり数哉の父親を祝った。


「「「「「「「「おめでとうございます!」」」」」」」」


 数哉の父親は、困った顔を切り替えて笑顔で返す。


「役者不足かも知れませんが、一生懸命頑張りますので宜しくお願いします!」


 フロアの全ての社員はパチパチ!パチパチ!と長く盛大な拍手で、その宣言に答えた・・。因みに、社長と役員の朝の挨拶は、数哉の父親が止めてくれと話すまで一週間程、続いた様である。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ