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ラナ markⅢ  作者: ススキノ ミツキ
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第19話 魔法F級ライセンス教室からの昇格 後編

・・ルセアナの動きを解除した後、数哉達は訓練場で現在実習訓練を行っている場所に向かった。到着するとF級ライセンス教室の生徒達が授業で習った魔法を練習している。


「・・・炎の玉を・・。」


「・・・冷たき水を更に冷やせ・・・。」


・・数哉は生徒達を擦り抜けて、やる気もない抜けた表情で鼻をほじくるフランク先生へ向かう。近付くなりフランクが2人を見て話した。


「んあ?どうしたんだ?落ちこぼれでも底辺の落ちこぼれが?早く一杯練習しねぇとF級ライセンス取得も夢のまた夢だぞ。」


クスクスクス・・・。


 フランクの話を聞いた周りの生徒達が笑っている。数哉は平然と話した。


「その件で話があります。」


「何だぁ?」


「ライセンス最終試練クリアの証を持って来ました。確認願います。」


 周囲が先程の話で聞き耳を立てていた為に、それを聞いて驚いている。


「え!?おい!あのパーティーがF級ライセンスの最終試練クリアしたってよ!」


「嘘だろう!あいつが入学したの数日前だぜ!それに見ろよ!横に居るのは、痩せて見間違いかも知れないが能無しのルセアナじゃないかよ!」


 ルセアナがそれを聞いてビクリと反応する。数哉はルセアナをフォローする為に話した。


「ルセアナより魔法が劣る者が何を言っても、負け犬の遠吠えだ。気にするな、ルセアナ。」


「何だと!?俺の何処がルセアナに劣っているんだ!ふざけた事言うな!」


「聞こえたのか?答えてやろう。全てだ、威力も正確さも魔法陣構築の速さ・・今のルセアナはお前に負ける所は無いな。」


「俺の事を知らない癖に言うな!」


「知ってるぞ。執事風の男の嫌がらせの責任を、俺に押し付けて来た男だろう。」


「ぐ!変な事を覚えんな!」


「更に俺に謝りもせずに、俺の用意した料理を食べようとして手を払われた男だな。」


「ぐぐ!あの時の恨みも忘れて無いからな!」


「逆恨みの上に、しつこい奴は人間失格だ。」


「よし!決闘だ!」


 フランクが見かねて口を挟む。


「ほらほら、めろ。いい加減にしないと退学にするぞ。」


「「・・・。」」


「それで良い・・それよりもカズヤだったか?どう見てもお前らが証を仮登録出来るのはおかしいだろう。ルセアナは魔法の威力が全く無い上に、お前は魔法の構築さえ出来て無い。」


 ルセアナを貶した背の高い少年が、ニヤケながらウンウンと頷いている。


「証を確認して貰えれば分かると思います。」


「有り得ないな。」


「見て貰えないと?」


「あのなぁ。そこまで言うからには証を仮登録しているのかも知れないが、たまにいるんだよ。お前らみたいな奴が・・他の奴をお金で雇って証を仮登録して来る奴が。それでライセンス教室を昇格させても結局は本番の本登録試験で落ちる事になる。戯言はそこ迄にして早く練習しろ。後、仮登録されたギルドメダルは事務所で抹消して貰えよ。」


シッ!シッ!


 フランクが早く行けと手を振った。他の生徒達もそう言う事かと頷いている。数哉はどうすれば見て貰えるかを少し考えて話した。


「生徒の実力も測れない先生なのか?困ったものだ。」


「何!?お前らの命を守る為に言ってるのに!そこ迄言うのか!分かった!お前らの実力を見てやる!全員集合しろ!この2人が手本の魔法を見せてくれるとよ!」


 フランクは実力の無い2人の魔法を生徒達に晒して、笑い者にするつもりである。ルセアナを貶した少年は、それを聞いて口笛を吹き喜んでいた。


「お前ら、あそこに5体の大型エルラの魔法練習用置物がある。アレに1体ずつ魔法を撃ち込んでみろ。先ずはルセアナからだ。威力の無い魔法を放ってもエルラを怒らせて、より凶暴になるだけだからな。それも仮想して撃てよ。」


 それを聞いたルセアナが緊張しながら、斜め前に居る数哉を見る。数哉は後ろへ振り向き、ルセアナを見ると頷いた。ルセアナも頷いて大型エルラの方へ振り向き杖を構える。フランクがそれを見て話した。


「おいおい!もっと近付かないと、ここから20メートルはある的に届く訳無いだろうよ!」


 フランクが声を発すると同時に、緊張した声でラナが警鐘を鳴らす!周りの生徒はフランクの発言に笑いが起きていた。


・・ハハハ!


『数哉様!今直ぐここからお逃げ下さい!』


--「どうした?」


『数日前に、2キロメートル離れていた所からコチラを監視していた少女が凄い速さで近付いて来ております!危険です!』


--「ああ・・隠しているが伝説に伝わる勇者よりもエネルギーを秘めていると言う、俺も見たあの小さな少女か?」


『はい!急いでお逃げ下さい!』


--「・・ちょっと待て。まだ、俺の敵と決まった訳じゃない。それに今逃げたら実力を見て貰おうとしているルセアナも連れて行く必要がある。敵かどうか、見極めてからにしよう。」


『・・畏まりました。直ぐに転送出来る用意だけは、しておきます。』


--「ああ。」


 ルセアナはフランクが近付けと話したが、近付いていない。数哉と会う前は、オストラルエネルギーが少ない為に人一倍練習して威力以外の全てを研ぎ澄ませた魔法を構築していく!


「・・・氷の矢よ・・」


 魔法陣構築の正確さと速さに周囲が驚いている。


「マジかよ!あの正確さで構築速過ぎねぇ!」


「構築だけはな!こっからだって。俺は見た事があるからな。氷の矢じゃなくて、細いツララが落ちるの。」


「そうなのか?それじゃあ食後の楊枝にでも使うか。」


「それ面白れぇや!」


「「「「ハハハハハ!!」」」」


「・・彼の者を射抜いて!」


ビュン!!ズドン!


 ルセアナの矢はF級ライセンス魔法とは思えない速度で飛び、エルラの置物に突き刺さった!しかも頭のある眉間に見事当たっている!生徒達は口を開けて何も言わずにポカ〜んと氷の矢の刺さったエルラの置物を見ていた。それはフランクも同様である。ルセアナは気にせずに、次々と放っていく。


ズドン!


・・・ズドン!


 最後の置物だけは眉間から少しズレているが、全て急所と思える頭に刺さっていた。


「次は俺だな。先生、危ないから皆を離してくれ。」


 フランクはルセアナの放った魔法を見て、異常な程警戒して生徒を下がらせる。


「・・お、おう!みんな!!危ない魔法らしい!下がれ!もっと下がれ!早く下がれ!!」


 フランクを含めた生徒達が数哉から離れて行く。ルセアナは他生徒以上に離れていた。数哉の超人としての力を見せつけられていたルセアナは他の者達以上に警戒している。


--大丈夫かな・・初歩魔法しか使えないって言ってたけど、あのカズヤさんが危ないって言うなら、もっと離れた方が良いかも。


 数哉が魔法陣を画くと、失笑が起こりだす。


「・・はぁ〜!?何だ!あれ!?あいつが画いてるのって、初歩魔法の松明じゃねぇのか!」


「本当だ!ハハハハハ!何処が危ないっつ〜んだよ!笑わせる為にやってんのか!?」


「おい!皆!近付いて馬鹿にしてやろうぜ!」


 それを聞いてルセアナが焦り出す。


--え!?近付いたら絶対危ないよ!超人のカズヤさんだもの!皆を止めなきゃ!


「・・近付いたら、危ないよ。」


 ルセアナには大きく話したつもりだが、臆病なルセアナから出る声は小さく生徒達には届かなかった。フランクは初歩魔法かよと、両手を呆れた風に広げている。生徒達の発言を鵜呑みにしている様だ。数哉の杖の先に大量のエネルギーが注がれていく。


--証を認めて貰わないと困るから、熱くても我慢していつもより注がないとな。


 魔棍棒の先に小さく出ていた炎が、一気に燃え広がる!


ゴオォオオ〜〜!!


 近付いていた生徒達は熱さに逃げ惑う!炎は数哉を包み、数哉の背の2倍を超えつつある!フランクは目を大きく見開き、目の前の状況が飲み込めない。


「ヒイィィ〜〜!」


「た!助けてくれぇぇぇ〜!」


「「「「「「「「熱いぃぃぃ〜〜!!」」」」」」」」


 数哉の背の3倍になった所で、杖が大きく振られる!


「ラァ!!」


ゴオォオオ〜〜〜!!


 数哉を包んでいた炎が、氷の矢の突き刺さった5体のエルラを目掛けて地面を焦がしつつ飛んでいった!


ブォオオ!!


 勢い良く当たり、巨大な炎がエルラの置物を燃やしていく!氷は溶けてエルラの腕や足の細い箇所は焼け落ちていった。数哉を嘲笑おうとしていた生徒9人のが軽い火傷を負っている。その中にはルセアナを中傷した少年もいた。フランクと他の生徒達は数哉の訳の分からない初歩魔法に呆然としている。その雰囲気を壊した者は1人の小さな少女であった。


「クハハハハハ!コヤツ!松明魔法を投げよった!松明がゴオォォ〜〜じゃと!ハハハハハ!お!面白過ぎる!代理はコヤツで決定じゃ!誰が何と言おうと譲らん!ハハハハハ・・!」


 1人の少女が数哉の傍で地面を転がりながら笑っている。


『数哉様・・。』


「ああ・・この少女だな。害は無さそうだぞ?」


『そうでしょうか・・?』


「カハハハ!ヒイッ!く!笑い過ぎて苦しいわい!・・フゥ、フゥ。」


・・スタッ。


 突然、少女が立ち上がった。数哉に向かって涙を拭きつつ、話し出す。


「・・こりゃ、すまんの。儂はコーネットの知り合いでアラルナと言う。」


「コーネット・・さん?もしかしてベロルドナの町で会った?」


「そうじゃ。そのコーネットじゃ。」


「それで?アラルナは何か俺に用があるのか?」


「ふむ。儂も、お主の冒険者パーティーに入れて貰えんかの?」


「何が目的か知らないが断る。2人で十分間に合っているからな。」


「ふむ・・それでは、お主にとって良い事を教えよう。」


「・・・。」


「儂をパーティーに入れると特典があるぞい。」


「特典?」


「そうじゃ。わざわざ先生達の許可を取らんでも、ライセンスクリアの仮登録さえすれば本番の試験を受けなくても本登録が出来るでな。」


--「ラナ、ギルドのデータバンクに今言った本登録の抜け道があるか確認してくれ。」


『畏まりました、お待ち下さい・・有りました。数件、同じ様な許可は出ていますが特例の様です。』


--「条件は?」


『・・申し訳ございません。そこ迄の詳細が記録されておりません。』


--「そうか。」


「どうした?何を考えておる。」


「いや、それを信じて良い保証は何処にある?」


「この冒険者魔法学校の事務所で確認してみるが良い。保証してくれる筈じゃ。」


「そうか、それでアラルナは何者か聞かせて欲しい。」


「儂か?ふむ・・先ず1つ、ギルドのお偉いさんに知り合いがおる。2つ目、儂は不思議な事や面白い事が大好きじゃ。3つ目、謎を秘めた美しい少女の容姿をしておる。これで、どうじゃ?」


「・・フッ、良いだろう。信用しよう。」


「宜しくの。」


『宜しいのですか!?数哉様!もっと聞き出した方が!』


--「話したく無い事も、人間1つや2つ有るだろう。」


『危険です!』


--「良いから・・俺も色んな人達と会ったがこの少女は大丈夫だと思う。もし、騙されてたらラナが守ってくれるんだろ。」


『勿論です!』


--「俺にとっても良い話だ。毎回、信用されずに実力を示す事も面倒だからな。」


『畏まりました・・。』


 フランクは我に戻り、火傷した生徒達に回復室へ行く様に指示して数哉の近くへ来た。ルセアナも数哉が火傷していないか心配してフランクより先に傍へ来ていたが、数哉が元気そうに話しているので立ち尽くしている。


「ん?その子供は・・まぁ良いか。それよりもギルドメダルを確認させてくれ。」


--「ラナ。」


『はい・・転送。』


 数哉がギルドメダルを出すと、ルセアナもギルドメダルを腰袋から出す。フランクは手に取り、自身の腰袋から手の平サイズの石板を出して重ねた。ギルドメダルから光が出て、そこにはD級クリアと示された文字が映る。火傷をしていない生徒の野次馬達が本当にF級ライセンスをクリアしているか確認する為に集まって来ていた。フランクは予想外の文字に驚く。


「Fじゃなく、Dライセンスのクリアだと!?・・。」


「「「「「すげぇ〜!」」」」」 


「俺達F級落ちこぼれ教室から飛び級だってよ!」


「マジかよ!」


「俺らも一気に行くか!?」


「死んでも良いならな。」


「・・・。」


「流石、不死身の魔法戦士・・。」


「あぁ、あいつが?・・本当だ、あれだけの炎に包まれてピンピンしてるな。」


「誰だよ・・あいつが転校して来た時に、外れだから絶対パーティーに入れるなって言ったの?あいつをパーティーに入れてたら一発合格だったてのに。」


「いや、お前も言ってたじゃん。」


「・・・。」


 フランクはギルドメダルを確認して数哉とルセアナに戻す。


「お前らは凄い・・こんな魔法ライセンス3つの飛び級なんか初めて見たぜ。お前らなら、いつかA級ライセンスクリアも2人で可能かもな。よし良いぞ、D級ライセンス教室に明日から行ってくれ。」


パチパチパチパチ!


 F級ライセンス教室の生徒達が数哉とルセアナを称える拍手を叩いた。数哉達はD級ライセンス教室の訓練場へ挨拶に向かうのでは無く、門の傍にある冒険者魔法学校の事務局へ向かう・・。


ガチャ。


・・入るなり、数哉はカウンターに居るギルドの従業員に尋ねた。後にはルセアナと正体を隠すアラルナも付いて来ている。


「すみません。」


「何かな?」


「D級魔法ライセンスの本登録をお願いしたいのですが。」


「ん?D級魔法ライセンスの本試験は二ヶ月も先だよ。何を言っているんだい?」


 それを聞いて、数哉が右後ろに居るアラルナを見た。


「ふむ、おかしいのう?ここの校長のマッシュ殿には連絡がいっておる筈じゃがな。悪いが確認してくれんかのぅ?」


 とんでも無いと首を振りながら、職員が答える。


「何を言ってるんだ?校長のマッシュ様は、この王都第5支部ギルドマスターでお偉い方なんだよ。私が直接話を出来る訳がないし!こんな場所には来ない!変な事を言ってないで帰った!帰った!」


「まだ連絡が行っておらぬか・・出直すしかない様じゃな。」


バタン!


 勢い良く事務局の扉が開けられ、五十代前半の身なりの良い男性が飛び込んで来た!数哉達を通り越してカウンターに両手を置き、職員の誰でも良いから返事しろとの勢いで話す。


「君達!ここにアラルナ・・様!は来なかったか!?」


 その姿を見て数哉達を追い返そうとしていた男性職員が驚いた。


「マッシュ様!?どうして、この様な所に!?」


「そんな事を聞いているのでは無い!!アラルナ様は来なかったか!と聞いているんだ!?」


「いえ・・その様な方は、いらしてませんが?」


「そうか・・良かった。間にあったか。この事務局にアラルナ様が来られたら、絶対に失礼の無い様にしてくれ。その方は10歳ぐらいの美しい少女の姿をしておられる。」


 マッシュは未だ数哉の影になっているアラルナに気付いていない。数哉がアラルナをチラリと見ると、ニコリと笑いながら人差し指で自身を何度も指している。マッシュは話を続けた。


「その方がおられる冒険者パーティーが来た場合は、ライセンス仮登録を本登録する様に!いいね!他の職員にも全員に話しておいてくれ!他にもアラルナ様から御要望があれば、それに従うように!」


「分かりました!・・って、え??」


 何処かで聞いた話だとカウンターにいる男性がアラルナを見る。


「儂じゃの。」


 マッシュが声の方を向いた。


「も・し・か・し・・て、アラルナ・・様ですか!?ゆう!」


 マッシュの発言を途中で、少女が口に人差し指を当てて止める。


「シィィ〜〜。」


「これは失礼致しました!内緒でしたね!」


 マッシュがカウンターの職員に振り向き、責め立てる!


「どういう事だね!?君!アラルナ様は、もう来られているでは無いか!?まさか!失礼はしていないだろうね!」


「いや!・・あの!・・その・・。」


 アラルナは笑みを浮かべて話す。


「大丈夫じゃ。ここにおるカズヤとルセアナのライセンス本登録を問題無くしてくれると聞いておる。」


「は!はい!勿論です!直ちに行いますのでギルドメダルをお預かりしても宜しいでしょうか!?」


 数哉とルセアナは顔を見合わせて、まぁ良いかとギルドメダルを出した。カウンターの職員に渡すと職員は少々お待ち下さいと奥の部屋に入って行く。マッシュはアラルナを接待しようと誘った。


「アラルナ様!宜しければ校長室で御茶菓子でも如何ですか!?」


「悪いが、儂はこの者達と遺跡迷宮に行く予定がある。また、今度にしてくれるかの?」


「そうですか・・いつでもご要望があれば職員にお申し付け下さい。」


「ふむ。」


ガチャ。


 少しがっかりした様子でマッシュが事務局から出て行く・・職員がカウンターへ戻って来ると丁寧に1人ずつ両手で渡された。


「お待たせ致しました。こちらがカズヤさんので・・こちらがルセアナさんのギルドメダルです。D級ライセンスが本登録されましたのでC級ライセンス教室に明日からどうぞ。」


・・数哉達は事務局を出て行く。次の魔法ライセンスクリアを目指す為に、遺跡迷宮入口へ校舎の中心へ向かった。


「本登録出来たのは良いのだが、クリアが早過ぎたか?ルセアナもそうだがE級ライセンス魔法もD級ライセンス魔法も一切習ってないし。ライセンスがあっても魔法を知らないのでは意味が無い。」


「大丈夫じゃ。A級以下の魔法教本は世界中に売られとる。更に高価な本なら、その魔法のコツ等も書かれとるから安心すると良い。」


「そうなのか・・そう言えばA級魔法より上の魔法は無いのか?」


 ルセアナが即答し、アラルナがそれを否定する。


「無いよ。聞いた事が無いし、見た事も無い。」


「有るぞい。」


「え!?」


 ルセアナが驚いて声を出した。数哉がアラルナに尋ねる。


「有るのか?」


「うむ・・内緒じゃぞい。」


 数哉とルセアナが頷いた。


「昔、破壊神と呼ばれる者が存在した時に神器と同様に強力な魔法も生み出された。但し、その魔法は神器を使わないと消費エネルギーが多過ぎる為に普通の人間では使えんがな。」


「ほう、何故それをアラルナは知っている?ルセアナの反応からして知らないのが普通なんだろう?」


「遺跡の中心部に記されておる。何処の遺跡かは内緒じゃ。」


「なるほどな・・。」


・・遺跡迷宮に向かう途中で、王都が急に慌ただしくなった!


ウォォ〜〜ン!ウォォ〜〜ン・・ウォォ〜〜ン!


 王都に緊急事態の低い管楽器音が鳴り響く!


「何だ?この音は?」


 数哉が音の発生源である王都中心の城に向いて話した。


「何か緊急事態の様じゃの。ギルドの冒険者魔法学校事務局に戻れば何か分かるやも知れん。」


「よし、戻ろう。」


・・早足で事務局に戻ると、事務局前で職員達が多くの集まった冒険者達へ依頼をしている。口には手の平サイズの拡声魔法具を使い大声を出していた。


「聞いて下さい!現在、北の旧マダラグス王国にあるペリナシア遺跡から大量にエルラが現れて!このマルセドラスタ王都へ向かっています!お願いです!エルラを食い止める為に、ギルドでは冒険者を募っています!」


 冒険者から大声が上がる!


「王国騎士達は対処しねぇのか!?」


 ギルド職員が質問に答える。


「既に北へ向かっていますが、エルラの数が問題なのです!エルラの数はニ千を超えると情報が入って来ているのです!王国騎士だけでは完全に食い止められません!」


「冗談じゃねぇ!そんなの死にに行く様なもんじゃねぇか!」


「そうだ!俺は家族連れて逃げるぞ!」


「「「「「「そうだ!そうだ!」」」」」」


「待って下さい!討伐エルラのランクに付き、今までの報酬の3倍出します!」


 ギルド職員の発言に悩む者や、逃げる様に立ち去る冒険者魔法学校の者達がいる。


「おい・・どうする?」


「3倍は美味しいよな・・騎士達を盾にして戦えば何とかなるんじゃねぇか?」


「俺は行かねぇ。命あっての冒険者稼業だしな。」


「俺もだ・・。」


 数哉がラナに問い掛ける。


--「本当に、この王都へ向かって来ているのか?」


『お待ち下さい・・その様です。』


「向かっている王国騎士の数は?」


『約二千人です。但しランゴアナ帝国の侵略に備えて、約三千人は既にマダラグス王国との国境に配置されています。』


--「勝てると思うか?」


『恐らく勝てるでしょうが、幾つかのエルラは通り抜けて王都に被害をもたらすでしょう。後、軍にはかなりのダメージとなります。ランゴアナ帝国が、その隙に侵略して来るかも知れません。』


--「・・となると決まりだな。エルラ共には退場して貰おう。ファルアナが戻って来て既に王国が潰れていたら話にならない。この迫って来ているエルラもランゴアナ帝国の仕業かも知れないな・・。」


『どうでしょうか?』


--「ラナ、エルラを遺跡に戻す方法は無いか?転送の限界は?」 


『申し訳ございません。あの大量のエルラでは・・ん?お待ち下さい。』


「・・・?」


『南下して来るエルラのルートの傍に別の遺跡への巨大な隠しルートを見つけました。』


--「ふむ?」


『はい、少しルートを左へ導く必要が有りますが誰かが前方を走っている左端と右端のエルラを誘き寄せれば別のバルビル遺跡へ落とす事が可能かと。更にそこは中心部に近い為に人も居ない様子です。』


「俺が走ってイケるか?」


『数哉様で有れば体力的に余裕です。但し、もう一人必要ですが・・。』


--「ラナが実体化して、もう一方を誘き寄せるのはどうだ?」


『申し訳ございません。私は隠しルートを開くのと、大きな落とし穴を隠す幻影ビジョンを映す調整で手一杯です。』


--「・・となると、アラルナか?」


 数哉がアラルナを見た。


「ん?なんじゃ?」


「悪いがアラルナ、力を貸してくれないか?」


「エルラと戦うからかの?」


「いや、戦わない。別の遺跡に落とし込むんだ。」


「ほう、それは如何に?」


「エルラが南下しているルートの先に、大きな隠しルートがある。そこに導いて落とす。」


ひらけるのかの?」


「ああ、違う遺跡のバルビル遺跡中心部の誰も居なさそうな所へ出来る限り落とす。」


「ほう!・・。」


--儂ら勇者代理が、ある程度好きに出来る遺跡は必ず勇者の眠る一つの遺跡と決まっておる。もしや、カズヤはバルビル王家縁ゆかりの者か・・?


「但し、エルラをこちらから見て少し左へ誘導する必要がある。」


「ふむ、一つ聞かせてくれんかの?」


「何をだ?」


「カズヤはエルラを防いでお金が欲しいのか?」


「いや、エルラを遺跡に落としただけではお金にならないだろう。」


「ならば、何故じゃ?」


「・・救う必要の者達が居る、それだけでは駄目か?。」


「お主が救う必要があるのか?」


「分からない・・ただ俺は罪の無い人達が家族を失うのを見たくない。俺の家族が不幸に成るのを想像してしまうからかもな?」


-更に言うとファルアナは、香澄と瓜二つだからな・・。


「なるほどのう。良かろう、力を貸すぞい。何をすれば良い?」


--性格も問題無さそうじゃのう。ガンダルクの様に力が全てと思う節は今の所、見られん。


「さっき話した通り、エルラを隠しルートの入口へエルラが走る勢いのまま誘き寄せる。俺が右側を」


「儂が左側を・・か?」


「ああ、そうだ。」


「普通の者にとっては命に関わる危険な事じゃが、お主に可能なのか?」


「ああ、体力には自信があるぞ。1日中、休み無しでも走り続けられる。」


「ほう!」


 アラルナは目を見開き、ルセアナも声無く驚いている。


『数哉様。走るのであれば、急がなくては間に合わなくなります!』


--「分かった!アラルナを連れて転送する訳にはいかない!出来るだけ走り易いルートを探してくれ!」


『畏まりました!』


 ルセアナがパーティーとして何か出来る事があるか小さく尋ねる。


「あの、私は・・。」


「ルセアナは・・そうだな。C級魔法を出来るだけ覚えて、後で俺に教えてくれ。」


「・・分かった、カズヤさん。気をつけて。」


「ああ。それじゃあ、行くぞ。」


「うむ。」


 数哉とアラルナの姿が消える!一陣の風を残して走り出した。


ブォッ!タタタタタ・・・!


「キャッ!」


 ルセアナは心配そうに数哉の消えていく方向を見る。


--気をつけて・・。


タタタタタタ・・!


・・王都を時速約40kmの速度で駆け抜け、王都を出ると時速80kmの速度で駆け抜けて行く。アラルナは数哉の斜め後ろを見て考えていた。


--・・こんなに飛ばして走り続けてはエルラの合流時に恐らく動けないじゃろう。走りも無駄が多いし、まだエルラまでは140km以上ある。儂が対処せざるを得んか・・。


・・・タタタタタタタタ!!


ビュオォォ〜〜〜!


・・国境へ向かう兵士達を迂回して追い越し、国境の兵士達に近付いて行く。国境に配置された兵士達も大量のエルラが向かって来ているのは聞いており緊張の表情で北を柵の内側から眺めていた。国境には一メートル程の高さの木柵しか無い。


「国境を飛び越すぞ!」


「うむ!」


タタタタタタタタ!!


 数哉とアラルナが力強く地面を蹴り上げた!


「ラァ!!」


ドオォォ〜ン!


「ほい!」


ダン!!


 数哉が今ある全ての力で地面を蹴ると、大砲の玉が落ちた様な音を立てて地面が凹む!兵士達は何事かと一斉に後ろを振り返った。兵士達が空を飛ぶ2人の姿を認識した者としていない者に別れて話す。


「ランゴアナ帝国の大砲か!?」


「違う!誰か2人飛んでいるぞ!」


「鳥型のエルラか!?」


「違う!人だ!子供も飛んでいるぞ!」


「子供が空を飛べるもんか!エルラだ!絶対に!」


タンッ!タタタタタタタタ!


 アラルナが国境を大きく飛び越え、軽やかに着地した瞬間そのまま走り続けた。弧を大きく描いた数哉は派手な音を立てて転がって行く!再び地面の草や土を撒き散らした。アラルナが走りを止め助ける必要があるかと、斜め前で異常な速さで転がる数哉を見る。


ゴオッ!ガ!ガゴ!ゴロゴロゴロゴロ!


「思い切り頭から着地しておったが、死んだのでは無かろうな?」


 数哉は転がりながら、腕を伸ばして地面を押した。


「ラァッ!」


バン!


 再び数哉は回転と共に軽く浮き上がり、空中を走る様に着地してそのまま走り出す!


ダ!タタタタタタタタ・・・!!


「頑丈な奴じゃの・・しかし。」


・・国境を超えると雨量が少ない地方なのか、草がまばらで平坦である。その環境を見た走り続ける数哉がアラルナも驚く発言をした。


「アラルナ!」


「なんじゃ!」


--流石にもう限界か?


「スピードを上げるぞ!」


「な!?」


「駄目か!?」


「いや!大丈夫じゃ!」


--あの無駄な動きで長時間走っておるのに一体、どんな体力をしておるのじゃ!?儂以外の他の勇者代理でも速度が落ちそうなものを!更に速度を上げるじゃと!?こやつ!・・本当に破壊神との戦いの切り札になるやも知れん・・。


タタタタタタタタ!!

 アラルナンの使う偽名がアラルナとは・・きっと、正体がバレても構わないと言う事でしょう。

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