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ラナ markⅢ  作者: ススキノ ミツキ
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第18話 魔法F級ライセンス教室からの昇格 前編

・・・翌日、教室へ向かうルセアナを見つけた。数哉は、カクカクとロボットの様に歩いているルセアナを見て不思議に思う。


--「ルセアナは、どうしたんだ?ロボットみたいな動きしているぞ。」


『おかしいですね?本物のロボになる改造効果は、あの防具に付いていませんが・・?』


--付いてるのも、有るのか・・?


 数哉は心配して近寄り話し掛けた。


「・・ルセアナ、大丈夫なのか?」


「大丈夫だけど・・大丈夫じゃないかも。」


「謎掛けになってるぞ?」


「筋肉痛で・・。」


「そうなのか?俺の時は何も無かったけどな?あの飲み物も合う、合わないがあるのか。」


「飲み物?」


「いや、でもこのままでは今日の特訓は難しいか?」


「・・無理かも。」


『そういう事であれば、大丈夫です。午前中にはドリンクの効果で痛みも無くなります。』


--「人が違うと、効く時間が異なるのか?」


『それは分かりませんが、多分ルセアナの痛みは炎症では無く細胞の急激な成長に依るものです。昨日のドリンクを飲んで、あの程度の運動疲労が残るのは有り得ない筈ですから。更に、あの飲み物には成長の際の痛みを抑えつつ急激な成長変化を短時間で行える促進剤も入っていますので少し我慢すれば普通に動けます。』


--「そうか。」


「・・まぁ、午後になっても身体が動かなかったら考えよう。」


・・午前中の授業が終わり、数哉は尋ねた。


「どうだ?ルセアナ、身体の方は?」


「うん、不思議といつの間にか治ったみたい。」


「よし!ならば、今日も特訓出来るな。」


「え?う・・うん。」


--治って少し後悔かも・・。


・・訓練場で魔法の練習をした後、再び遺跡に入って行く。ネガリケ魚の泉を、まだ何も居ないが慎重に進み、弱いエルラが定期的に出る部屋に着いた。未だルセアナは、エルラを前にして身体が動かない。


--「ルセアナのトラウマは根深い様だな。」


『そうですね。』


・・・数哉は他の者達が戦っている横で、魔法陣の作成を練習している。ハリネズミのエルラが一匹だけ近付いたが関係無いとばかりに魔法の練習を続けた。数哉に体当りしたエルラは微動だにしない数哉の鎧に弾き返されて、体当りする冒険者を間違えたとばかりに他へ走って行く。実技授業が終了すると数哉とルセアナは再び残った。ルセアナと数哉の前に先日の防具をラナが出す。


「よし、それを着けるんだ。」


「うん。」


ガチャ!グイーン!ガチャン!・・・・・・ガチャン!


「よし、行くか。今日はF級ライセンスの最終試験をクリアするぞ。」


「本当にするんだ?」


「当たり前だろ。それより最終試験迄の魔法の試練が迷宮にはある筈だが、昨日の特訓では見当たらなかったな?」


「・・あったよ。土魔法で石を飛ばしてスイッチを押し、橋を下ろす必要があるものや、水を注ぐ事で扉が軽くなるものとか・・。カズヤさん全部体力と筋力でクリアしてたから。重い私を担いで四メートルの幅を軽々とジャンプしたり、開かない筈の扉も普通に開けてたもの。」


「知らなかった。もしかして、それは反則で失格とか?」


「ううん。最終試練以外の試練は、どんな突破方法でも大丈夫だって言ってたよ。」


「なら、問題無いな。このまま今日は地下三階に降りてF級ライセンスの証を貰おう。」


 ルセアナは不安になりつつも頷くが、問題無くエルラを倒しながら進んでいく。今まで通りエルラを無表情のまま数哉が抑えてルセアナが数哉の剣で倒していた・・。そして、F級ライセンスの最終試練場に辿り着く。鏡台の様な形で、三方を魔法陣に囲まれた石板の台があった。台の一番手前には何かを嵌め込む4つの凹みがある。


「どうしたら良いか分かるか?」


「うん、ここにギルドメダルを嵌め込むの。それでギルドメダルに横にある手形に一定以上エネルギーを注ぎ込む事が出来たら、この3つの魔法陣が光って次の地下への扉が開く様になってる。ギルドメダルにもライセンスの証が仮登録されるから、それを先生に見せたら大丈夫。」


「なるほどな。」


--「ラナ。」


『はい・・転送。』


 数哉の右手にギルドメダルが現れる。ルセアナも腰袋からギルドメダルを取り出した。


コト、コト。


 2人はギルドメダルに手を置いた。数哉は右手だけ、ルセアナは両手を重ねて置いている。


「よし、やるぞ。」


「うん。」


 両端の魔法陣が少しずつ線に沿って白く光り出した。右側の魔法陣はルセアナが注いでいるものなのか、ゆっくりと画かれている。左側の魔法陣は凄い速さで光が突き進んでいく。左側と真ん中の魔法陣を光で満たした後、右側の魔法陣の光りも勢い良く進み出し画かれた。魔法陣の左手にある地下へ続く扉が横へスライドして開いていく。ルセアナは冒険者として生きていく事を諦めたくは無いが、自身の状況を考慮すると非常に困難だと考えていた。数哉がルセアナに声を掛ける。


「意外と簡単だったな。」


「・・普通は有り得ないんだけど。だって、ここ迄来るのにエルラを倒したり妨害してる魔法装置を解除したりでエネルギーを浪費するから。その上に私達2人だけのパーティーだもの・・。」


--この人、本当に何者なんだろう?


「だが事実は簡単だったしな。この際、今から地下7階のD級ライセンス最終試練まで一気に進んで証を貰うぞ。」


「え!?絶対無理だよ!皆、2日掛けて地下7階へ行くんだよ!私、G級冒険者だし!」


「そうなのか?ルセアナの剣の速度もオストラルエネルギーを吸収して昨日より大分上がってるし斬れるだろう。硬いエルラでも出るのか?」


ガクッ!


--私は強いエルラがいるから危ないって言いたかったけど、この人に取っては、私が斬れるかだけの心配なんだ。トルノルベアより怪力って、何処までオストラルエネルギーを吸収すればなれるの?


「斬れる・・かな。」


「ならば、心配いらないな。授業を休むと罰則はあるか?」


「ううん、無い。けど、冒険者魔法学校の事務局には遺跡に入る日数を言いに帰る必要があるよ。」


「そう言えば、授業で話してたな。言わずに丸1日経つと、救助隊が出てお金を取られるのだったか?」


「うん。」


「・・ちょっと待ってろ。直ぐに戻るから。」


「え!何処に行くの!1人は怖いよ!」


「大丈夫だ、落ち着け。この近くにエルラは居ない。」


「何故分かるの?」


「耳で聞いていれば、大体分かるぞ。」


 数哉は真実を話していた。初めてのエルラは分からないが2度目3度目となると大体、予測が着く。更に、ラナにも念の為に確認しているので間違いは無かった。


--耳も超人・・?


「そうなんだ・・信用はしているけど・・。」


「少しだ、我慢しろ。」


 そう話して、数哉は四階には降りずに洞窟の曲がり角をルセアナを置いて進む。ルセアナは恐怖に数哉を追い掛けるが、そこに数哉の姿は無かった。数哉は事務局の誰も居ない裏手に転送されてから、表に廻り込み中に入る。


コンコン、ガチャ。


「すみません。」


「はい?」


「F級ライセンス教室のカズヤとルセアナのパーティーですが遺跡に2日間入る予定です。」


「そうなのかい?一階で特訓も良いけれど、気を付けるんだよ。」


「はい。」


・・数哉が転送して遺跡に戻るとルセアナが震えながら、地面に体育座りで座り込んでいた。


--そんなに怖かったのか・・?


「悪かった・・大丈夫か?ルセアナ。」


「カズヤさん!」


 涙を少し流しながらバッと立ち上がり、抱き着いた。数哉は子供をあやす様に背中を優しくポンポンと叩く・・。ラナは、その間も別の事を考えていた。


--『失敗でした・・調べたら、普通の学校と呼ばれ私がイメージしていたのは、貴族や金持ちが通う魔法騎士学校の方だったのですね。ルセアナに抱き着かれても、デブ専でない数哉様のエロ性欲を増すのは難しいでしょう・・ん?・・いや?ルセアナも良く見れば整った顔をしてますね。もしかして、痩せれば・・シュミレーションシステム作動・・』


・・ラナの見る数哉に抱き着いたルセアナの姿が痩せていく。ルセアナはバストが形の良いBサイズの美少女に変わっていた。顔は3割程小さくなって、パッチリとした2ふたえ瞼の目が大きく見える。日本のアイドルと言っても過言では無い美少女と変化していた。ラナはシステムに、ピンクのリボン付きハイレグビキニを今回取り入れている為、現在の姿のルセアナポスターがあれば高くても買いたいと万人が思える姿で数哉に抱き着いている。


『これは!?フフフ、少しドリンクの内容を変える事にしましょう・・。』


「・・ごめんなさい。もう、大丈夫。」


 少し冷静になったルセアナが少し顔を赤くして数哉から離れた。


「そうか?すまなかった。これからはもう、ルセアナの傍を離れないから安心してくれ。」


 ルセアナは数哉が安心させようとして、そう話しているのは分かっていたが、心が落ち着いてくると今まで抱き着いていた状況から要らぬ方向へと考えてしまい、益々顔が赤くなって俯く。


「うん・・。」


--プロポーズの言葉みたい・・!?ううん!カズヤさんは、そんなつもりで言ってないから!


 ルセアナは恥ずかしさに、数哉より先に地下4階へ歩きだそうとした。そこへ地下4階から階段を登ってフシアルが飛び出して来た為に、数哉がルセアナを追い抜いてフシアルの角を持ち止める。


「危ない!」


パシ。


 今まで通り片手だけでフシアルの身体を持ち上げ、ルセアナに向けた。


「よし、コイツを倒したら地下4階へを降りるぞ。」


 数哉が話すと、ルセアナがまだ顔の赤いまま剣を振り始める。


「う!うん!ハァ!」


バシュ!バシュ!・・。


『数哉様、まだルセアナロボの身体を動かしていません。』


--「そうなのか?エルラに慣れて来たのかも知れないな。」


『??・・そうでしょうか?』


バシュ!


 フシアルが息絶えてルセアナにエネルギーが注がれていった。


「どうだ?エルラに慣れたか?」


「ううん・・変わってないと思うけど。」


「おかしいな?今、自分で動いてたぞ?」


「え?」


「自分で分かっていないのか?まぁ、次のエルラを倒してみれば分かるだろう。」


 地下4階へ降りて直ぐに小さなボッゴ一匹が迫って来る。小さいと言っても大人の牛程の大きさがあった。


ドドドド!・・ドドドド!


「カ!カズヤさん!大きなボッゴが!」


「ああ、風船か・・。」

 

「ボッゴを風船って!?」


 数哉が向かって来ているボッゴへ危機感も無く片手を上げつつ歩いて行く。吹き飛ばそうとすれば数哉の手が降りて風船は破裂寸前に上から叩かれてしまう。エルラの本能で恐ろしい予感がしたのか数哉の前で急停止をしたボッゴはUターンを開始するが間に合わない。


「逃げるな。」


 数哉は背中の皮を摘むと、そのまま持ち上げた。


ヒョイ!


「ほら、この風船を斬ってみろ。」


「こんなに大きいエルラを只の風船って呼ぶのカズヤさんだけだと思うけど・・。」


「大きくないぞ。別の遺跡にいたボッゴは、みんなこの1.7倍以上はあったからな。それより斬ってみろ。」


「・・うん。」


 バシュ!バシュ!・・。


「動く!?身体が動くよ!カズヤさん!」


「治って良かったな。」


「うん!」


「もう良いだろう。腰の杖で魔法の練習をしてみてくれ。剣は俺が持つ。」


 ルセアナは不安そうに剣を数哉に返し、腰に装備していた冒険初心者用の只の枝をストレートに整えた杖を右手に持つ。


「・・うん。」


「安心しろ。直ぐに本格的な戦いをしろとは言わない。今まで通り俺がエルラを抑え込むから、それを狙えば良い。」


「でも、もしカズヤさんに当たったら・・。」


「俺は頑丈だから安心しろ。今までF級ライセンス教室が使っていた魔法を見たが俺に少しでも効くとは思えないからな。」


「本当?」


「ネガリケ魚の泉から出て来て平気そうにしていただろう。」


「嚙まれ無かったんだと思ってた・・?」


「いや。鎧以外の部分も沢山嚙まれたが、くすぐったいだけだったな。」


「・・くすぐったいだけ。」


--あの鋭い歯で嚙まれて大丈夫って?どんな身体なの・・?


「まぁ、そんな訳で気にするな。俺を気にせずに撃ちまくれ。」


「・・手甲と足甲は、もう外して良いの?」


『取らない方が賢明と思います。ルセアナが危険な場合に、私が身体を操作して危険を回避出来ますから。』


--「そうか。」


「・・その防具には、俺と居る場合に危険回避出来る機能も付いている。そのまま着けておけ。」


「そんなに凄い防具なんだ、これ。」


『あと、数哉様。お手を・・』


「ん?」


『転送。』


 数哉の右手にコップが現れた。


--「これは?いつもの飲み物より少し黄色くないか?」


『はい、その方がルセアナの身体に合っています。』


--「そうなのか、分かった。」


「・・ルセアナ。これを飲んでおけ。」


「いつものと違うけど美味しいの?」


--「ラナ?」


『大丈夫です。』


「・・美味しいから、飲め。」


「うん・・本当だ、少しいつものより酸っぱいけれど美味しい。」


--『フフ・・これで停滞していた計画の進行です。』


・・・数哉は先行して体力と筋力で魔法の試練を次々とクリアしていく。大きな岩が転がってくるのを軽く片手で止め、灼熱部屋にあるスイッチも普通に熱さを我慢して入り、次のフロアへの扉を開く。ルセアナは、数哉のそれに少しずつ慣れて来たようで魔法試練の看板があっても見るのを止めていた。試練も何もかも数哉には効かないだろうと思ってきている。新たな強いエルラが現れても、怖いと思う事さえ無くなって来ていた。


--怖くないけれど、本当はダメなんだよね。先生も冒険者は臆病な方が優秀な冒険者だって言ってたし・・でも、カズヤさんの近くにいると、それが麻痺するみたい・・どう見ても超人だし、魔法を覚える必要あるのかな?この人・・・。


・・次々に襲い掛かるエルラと試練を乗り越えて、D級ライセンス試練も問題無く証を得る。ルセアナはF級ライセンス魔法を優秀と言われていたパーティーよりも威力を増して使える様にもなった。元々、真面目に魔法訓練を積み重ねて威力だけが難点であったが次々と襲い掛かるエルラのエネルギーを数哉が吸収せずに、ルセアナへ全て渡した為に異常な速さでルセアナは成長している。当然、ラナがいつもおこなっている数哉の成長とは比較にはならないが・・。


「・・外は深夜だろうか?」


「多分・・。」


「どうだ?疲れてるか?」


「身体は大丈夫だけど、眠たいかな。」


「遺跡迷宮の安全部屋でキャンプをしよう。帰れる元気があるなら戻っても良いが。」


「え!?」


--2人っきりでキャンプ!それはまだ早いよ!じゃ無くて!パーティーだもの!当たり前よね!当たり前・・当たり前・・。


「それか、俺が背負うか抱っこして戻っても良いぞ。」


 数哉には妹的な扱いで話しているが、ルセアナの顔が赤く染まる。


カァァ〜〜〜!


「う!ううん!キャンプで良い!」


「そうか、確か向こうにキャンプ用の安全部屋があったよな。」


「うん。」


「それが偽物で試練とかの可能性は無いのか?」


「大丈夫。ここの遺跡迷宮には、そんなの無いよ。私、ライセンスに受かりたくて必死に勉強したから間違いないと思う。何処のライセンス迷宮も、必ずワンフロア毎に安全な部屋が一つ設けられてる。」


「ならば、そこへ行くか。」


・・安全部屋に着くと他のパーティーが3チーム居て、テント内で既に寝ている様だ。安全部屋のスペースはかなり広く、トイレも完備していて20チームは優にキャンプ出来そうな広さがある。換気口も外に繋がっているらしくバーベキューも可能だ。調理した残りの残飯や解体した後の内臓や骨等は、捨てられる穴があり其処へ捨てている。天井にも同じ大きさの穴が有るので、安全部屋は高低差はあるが迷宮の同じ位置に作られている様だ。地下深くまで穴は続いており捨てられた物はエルラが食している。主に掃除屋として知られているエルラは数哉が倒した事もあるタレデックが有名だ。骨までくまなく食べるのでタレデックの通った後は何も残らない事から、掃除屋と呼ばれている。


・・数哉はラナに出して貰った、他パーティーと同じピラミッド型のテントを張っていった。


「風も無いし、固定しなくても大丈夫そうだな。」


「うん。」


「何故、この部屋はエルラが入って来ないんだ?」


「四隅に看板の様な魔法具があるでしょ。」


 ルセアナの向いた先に数哉は振り向く。


「あれに仕掛けがあるのか?」


「うん、エルラ除けの魔法具だって。1週間に1回は取替てるって言ってた。」


「うるさいぞ!早く寝ろ!」


 数哉達が話していると、突然他のテントから声を掛けられた。ルセアナは急いで謝罪する。


「ごめんなさい!」


 数哉達は話すのを止めて鎧を脱ぎ、テントの中に入った。中は2人が寝るスペースとしては少し狭く、身体が触れなければ寝られないスペースしかない。


--「ラナ、少し狭くないか?」


『広いと、エルラを怖れるルセアナが寝られないかも知れません。』


--「それも、そうだな・・。」


 クッション制の高いテントの床に数哉とルセアナは背中合わせに寝転ぶ。ルセアナは心臓がバクバク鳴るのを気付かれたくないと必死に離れようとするが、そこまでの広さは無かった。


「ルセアナ、寝られそうか?」


「う、うん・・。」


--私、汗臭くないかな・・?


「怖いなら手を握っていても良いぞ。」


「大丈夫!」


「そうか、おやすみ。」


「おやすみなさい・・・。」


ぐぅ〜・・ぐぅ〜・・・。


 数哉は先に眠りに着いた。ルセアナはドキドキを抑えつつ1時間は眠れなかったが疲れも有り、いつの間にか眠りに着く・・次の朝・・。


「ルセアナ、起きるぞ。もう他は出発して俺達しか居ない。」


「ん・・んん・・きゃっ!」


 テントの外から顔だけを入れてルセアナの顔を上から覗き込んでいた。ルセアナは驚いて飛び起きテントから出る。


「どうだ?寝れたか?」


「う!うん!」


「ん?ルセアナ・・。」


「え!?もしかして!ヨダレ付いてる!」


 ルセアナは焦りつつ、自身の顔をペタペタと触った。


「いや・・ルセアナ、異常な程に痩せてないか?」


「え?うそ!?本当だ!」


 かなり嬉しかったのかルセアナは笑顔で腕や足、お腹を確認している。


「元に戻ってる!?どうして!?」


 元にと言うが、まだルセアナは少しポッチャリ体型であった。それでも現在はデブとは言えない状態である。体重は12.2kg減っていた。身長が159cmのルセアナにとっては、減量大である。


「まぁ、エルラを倒して頑張ったからじゃないのか?良かったな。」


「うん!」


 ルセアナの満面の笑顔を浮かべ返事した。


ドキッ。


--なんか可愛くなったか?


・・数哉とルセアナは、行きと同じくエルラを多く倒しつつ遺跡の出口をめざした。帰りはルセアナの身体能力も上がっていて、進む速さは行きよりも速い。ルセアナは定期的にラナのドリンクを摂取しながら出口に着いた。


「昼御飯には間に合いそうだな。」


・・一方、校舎裏では執事風の男エリオットと魔法使い風の男ルバ、剣士風の革鎧を着たタルマスが話し合っている。


「ルバ、モーラはどうなんです?」


 エリオットにルバが答える。


「ダメだ。怯えた様子で何も話さない。」


「何があったのですか?ネガリケ魚に襲わせるのは失敗したのですか?」


「分からない・・が、モーラの同僚に聞いた話ではネガリケ魚に襲われたのは間違い。それで怪我人も出ているらしい。」


「カズヤとルセアナの怪我の具合は?」


「多分、怪我は無い。」


「何故、分かるのです?」


「訓練中に戻って来た者達の名前を回復室で確認したがカズヤとルセアナの名前は無かった。まぁ、他の回復手段を持っていれば別だが2人共Gランク冒険者と聞いているから、それは無いだろう。」


「そうか・・運の良い奴らですね。モーラは仕掛けてネガリケ魚を導いたのは良かったが、奴らを襲わせる事が出来ずに自身が襲われたのでしょう。ドジな奴です・・。このままでは、我々の主人達に会わせる顔が無い。我々3人で粛清を行うしかないですね。」


 ルバが反論し、タルマスは何も言わずにニヤケ顔だ。


「見つかれば退学になる。」


「見つからなければ良い。コレを付けて粛清します。」


 エリオットは左手に持っていた黒い鞄から仮面を3つだす。


「これは?」


「地元の骨董屋で売っていた只の仮面です。」


「こんな物で正体を隠したとは言えないぞ。」


「顔さえ見られなければ、証拠は残らない。後は我々の主人に任せておけば良いでしょう。」


「そうだな。」


 タルマスが会話に割って入る。


「悪いが俺は仮面なんか要らない。折角、カズヤって言う奴とやりあえるって言うのに、仮面なんか着けていたら楽しめないからな。俺のカンが言ってる・・アイツは強い!」


「正体を明かして、退学になってもいいのですか?」


「まぁ、なったらなったで又受けるさ。俺は剣士だ。魔法は主人に無理矢理覚えさせられているだけだからな。」


「ならば、好きにしなさい。」


「そうさせて貰う・・。」


 タルマスは2人の下を去って行く。


「いいのか?エリオットさん。」


「何がでしょう?」


「タルマスは強い。俺はタルマスと同じ教室だから分かるが恩義を感じている主人に仕えているから未だにD級冒険者なんだと思う。俺が見る限り実力はB級冒険者に達している。アイツが抜けると、かなりの戦力ダウンになるぞ。」


「・・その強いタルマスと戦った相手は、不運にも身体が上手く動かない事でしょう。」


「そういう事か・・ククク。」


・・数哉と宿舎で水を浴びたルセアナが食堂に行くと、F級ライセンス教室の者達の視線が集まる。また、喧嘩が始まり数哉の料理が食べられないかと期待しているようだ。


--まぁ、どちらでも良いけどな。


 皆の期待も虚しく、普通に食事は終わってしまう。数哉とルセアナは、先生にD級ライセンス取得の証を見せる為に訓練場に向かった。校舎と校舎の間を歩いている途中に、突然剣が振られる。


ビュン。


 届かないと見切っている数哉は歩みだけを止め、ルセアナは悲鳴を上げた。


「キャッ!」


「ルセアナ、下がるんだ。」


 数哉は腕を出してルセアナに話した。ルセアナは小さく頷いて恐る恐る下がって行く。


「誰だ。」


 数哉が話し掛けると、校舎の曲がり角から幅5cm長さ110cmの長剣を持つタルマスが出て来た。


「悪いけど俺と勝負して欲しい。」


「何故だ?お前も揉めた奴と繋がっているのか?」


「まぁな。だが俺が勝負したいのは、アンタが強そうだからだ。」


「バトルマニアか、断る。もっと強い奴は他にも居るだろう。ソイツと闘え。」


「今は恩返している主人が居て、中々闘える機会が無い。お前がヤラないのなら、その後ろの奴と闘うとするか。」


 ルセアナが緊張の表情に変わる。数哉は仕方なく了承した。


「分かった。俺がやろう。」


「そうこなくっちゃぁな!」


「嬉しそうだな。」


「おう!」


 屈託の無い笑顔で笑うタルマスを見て、数哉も少し笑みを浮かべる。


--余程、闘えるのが嬉しいのか。コイツを見てると、敏郎を思い出す。そんなに悪い奴じゃ無いのかもな。


・・訓練場へ少し歩いた所に開けた場所があり、そこで先行していたタルマスが歩みを止めた。


「ここで良いだろう。」


 タルマスが振り返り剣を構える。数哉も剣を抜いた。ルセアナは数哉が親指で合図して下がっている。


タン!ガン!!


 タルマスが一気に間合いを詰め、体当たりの末に鍔迫り合いの状態となる。


ギリ!ギリギリ!・・ギギギ!


「・・やっぱりな!G級冒険者なんて嘘だろう?俺の力でコレをやって吹き飛ばなかった奴は、B級以上の冒険者にしか居ない!」


「勘違いするな。俺はG級冒険者だ。」


・・ギ!ギ!ブオッ!!


 数哉が力を入れてタルマスの身体毎、剣で吹き飛ばした!タルマスは宙に浮いて1回転して着地した後、勢いのまま1メートル程後ろへ滑っていく。


ズサザザ〜。


「・・面白おもしれぇぇ〜。」


タンッ!


 タルマスは数哉に飛ばされた距離を一瞬で詰めて、フェイントを織り混ぜながら嵐のように剣を振っていく。右から来ると思えば左に、左から振られたかと思うと上から剣を振られた。しかし、数哉は全てを見て剣を弾き返す。


カカン!ガン!カン!キキキン!


--技術は大したものだが、ミロア程の驚きは無いな。全て見えているし、速さも対応出来る。


『数哉様、食堂で揉めた執事風の男と魔法衣を着た男がこちらへ走って近付いています。後、1分もすれば到着します。』


--「3人で戦う気か?まぁ、何とかなるだろう。タルマスの剣も全て見えてるしな。」


カカン!キン!カカキン!


『到着しました。少し離れた斜め前の小高い土の大木に潜んでいます。』


--「分かった。」


「・・・動きし彼の者に呪縛を・・。」


シュッ!


 突然、タルマスの剣が数哉の鎧の腹を掠めた!


--「おかしいな?見切って避けたつもりだったんだが?身体が上手く動かなかった。」


『執事風の男が何かの魔法を使用していました。』


--「そいつの魔法のせいか?」


『恐らく。』


--「まぁ、良い。大した力を受けた感じは無かった。少し大きく避ければ良いだけだ。」


 エリオット達が数哉に当たった剣を見て笑っている。タルマスは続けて剣を繰り出していく。


カカン!キン!カン!


「・・・動きし彼の者に呪縛を・・。」


カン!キン!カカン!


・・数哉は何度も身体に違和感を受けるが、魔法の呪縛を筋力で捩じ伏せ動いていた。エリオットが魔法が効かない数哉を見て怪訝な表情に変わる。


「どういう事です・・?あいつには魔法が効かないのですか?」


「だが、さっきは効いていたぞ。もしかして呪縛を受けたまま動いているんじゃ?」


「確かに呪縛は、それ程強い物ではありませんがC級冒険者でも一瞬ぐらいは止める力がある筈です。」


「エリオットさん、あいつがもしランクを誤魔化していてB級冒険者だとしたら?」


「あのボロボロの初心者用鉄鎧を着た奴がですか?」


「しかし・・。」


「まぁ良いでしょう・・予定変更です。この仮面を着けて下さい。あいつが止まった時を狙って同時に攻撃魔法を仕掛けますよ。」


「タルマスが怒るぞ。」


「大丈夫です。もうすぐある人が来ますので。」


「ある人?」


「それよりも、魔法陣を構築して放つ準備を。」


「ああ。」


 エリオットとルバはシンプルな白色の仮面を着けると、杖を構えて魔法陣を構築しだした。


『数哉様、隠れている男達が攻撃魔法を構築中です。』


--「何の魔法か分かるか?」


『ギルドのデータバンクによると、あの2つの魔法陣は稲妻の欠片2つと炎の矢1つです。』


--「威力は?」


『数哉様にとっては大した威力ではありませんが、ルセアナに当たった場合が問題です。但しルセアナは、まだあの手甲と足甲を外していませんから飛んでくれば私が動かして避けます。』


--「頼んだ。」


『お任せ下さい。』


カン!カカンカン!


ビュオッ!


 2人が魔法を放った。数哉はタルマスの剣を防ぎつつ、2つの飛んで来る魔法を見る。数哉は戦闘慣れしていない為に、魔法を見た瞬間タルマスの剣が当たりそうになったが身体を反り避けた。


「おっと!」


ブォ!バチバチ!


 地面に落ちた炎矢と稲妻の欠片が、音とそれぞれの光を散らす。タルマスがそれを見て数哉に待ったと左手を出し、放たれた方向へ睨み剣を向けた。


「楽しんでいるのに!邪魔をするな!」


 2人が仮面を着けたまま出て来る。


「邪魔とは心外ですね。アナタは私達の補助を受けて、そのまま戦っていれば良いのです。」


 タルマスが無言のまま、剣を腰の鞘に戻して話した。


「・・やめた!やるならお前らだけで、やれ!」


 エリオット達の影から1人の少女が現れて、大きな声を出す。


「タルマス!この人達に協力しなさい!さもなくばクビです!」


「お嬢様!?・・良いでしょう、この命令だけは従います。しかし、この命令の後はクビで結構!腹を空かせて山で息絶えそうだった所を助けてくれたのは感謝しますが、これまで充分恩を返した筈!それで良いですね!」


「構いません!今だけは2人に協力しなさい!」


・・静かにタルマスが剣を数哉に向け出した。


「悪いが、そういう事だ。」


「ふむ、好きにしろ。弱い奴が3人揃った所で問題無い。まぁ、お前は少しましな方だがな。」


「ありがとうよ、褒めてくれて。ハァ!」


ガン!カカン!カン!


 剣を交えた所でエリオット達が杖を構えて降りて来る。


『宜しければ、2人はルセアナロボが相手致しますが。』


--「そうだな。ルセアナが強い所でも見れば、ルセアナへのちょっかいも無くなるかもな?」


『それは不明ですが・・。』


--「良いだろう、2人は任せた。」


『畏まりました、ルセアナロボ発進!』


 2人が降りて来た所にルセアナが間に割って入りだす。


「ちょっ!ちょっと!待って!?」


 エリオットが仮面の下で、笑みを浮かべた。エリオットはルセアナの魔法の威力やエルラ恐怖症で、オストラルエネルギーも吸収出来ていない事を知っている。


「あなたに何が出来ると言うのです。防げるのなら防いでみなさい・・・氷の刃よ、彼の者を切り裂け。」


シュッ!


ギャン!パリン!


「な!?この近距離で氷の刃を防いだ?」 


 ルセアナが左手を上げて手甲の新たな機能で、砕けた氷が散っている。手甲には、手甲から扇子の様に広がった直径70cmの朱盾が付いていた。その間も、ルバがルセアナを標的に小石を10個放つ事が可能な魔法陣を構築している。弱いエルラにしか効果が無いが、人間を傷つけるだけであれば有効な魔法である。


「・・・石の波よ前へ進め!」


ビュン!カカカカカカカン!


たたたたた!」


 ルバか放った小石を、ラナに操られたルセアナが盾をラケット代わりに弾き返した。更にルバが痛がっている所へ走り込んでルセアナの右手甲パンチが腹に炸裂する!


ドオッ!


「ぐぁっ!」


ドサリ!


 ルバはエリオットの後ろまで大きく吹き飛ばされ気絶し、仮面が外れてしまっている。ルセアナの腕が動いてエリオットに向け、早く掛かって来いと挑発の手招きをした。


「ち!違います!私が殴ったんじゃ無いの!これも別に挑発してる訳じゃ無いから!」


「何を言っているのです?そうやって弱そうに見せる事で、油断させて私も倒すつもりでしょう!そうは、いきませんよ!」


タタタタタタ!  


 エリオットが仮面を着けたまま、怯えた表情で後ろへ振り返ると一目散に走り逃げて行く。タルマスの主人である大きな商家の娘も、その行動には驚いた。


「ちょっ!ちょっと待って!エリオットさん!逃げるの!?」


 商家のお嬢様がルセアナに向くと、未だ挑発を止めていないルセアナが誤解を解こうと首を振っている。


「だから違うから!これ!挑発じゃ無いから!」


「ヒィッ!!私も標的に!?違うの!この前叩いたのは皆に命令されたからなの!ごめんなさいぃぃ〜〜!!」


 薄ら涙を浮かべて商家の娘も逃げだした。その間も数哉に怒涛の剣攻撃を仕掛けていたタルマスが話す。


「ククク、これでやっと落ち着いて闘えるぜ!」


「悪いが、これ以上お前に付き合っていられない。実習が終わる前に先生にライセンスクリアの証を届けたいんでな。」


「そう言うなよ。ハァ!」


ガン!キン!カカン!


「加減が未だ難しいから耐えてくれ・・死ぬなよ。」


 数哉が今までに無いスピードで消える!タルマスはこれまでに培った戦闘の勘で後ろへ振り返った。


「後ろだっ!」


 後ろを振り向くと、正面直ぐ傍に剣を逆さに持ってタルマスへ柄頭えがしらを突き出す数哉が見える。


「正解だ。」


ドオッ!


 数哉が加減した柄頭がタルマスの革鎧を大きく凹ませ、くの字の状態となり吹き飛んでいく。


「ぐはぁぁぁ〜!」


ドサリ。


 タルマスも地面に倒れて仰向けに気絶した。ルバと違いタルマスの表情は満足気である。


--「ラナ、タルマスの健康状態は?」


『問題ありません。死ぬ様な事はありません。』


--「そうか・・後、ルセアナの動きを解除してくれ。何も無い空間の挑発を続けているぞ。」


『すみません、忘れておりました。』


「・・カズヤさ〜ん!何とかしてぇぇ〜!」


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