表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラナ markⅢ  作者: ススキノ ミツキ
17/37

第17話 勇者代理

・・・部屋の中心には大きな緑色の宝石が設置されており、淡く光を放っている。宝石を囲む様に円卓があり、その周りに豪華な魔法鎧で身を包んだ4名が座っていた。1人は、歳を重ねた50代に見える男性で立派な顎髭を生やしている。1人は真っ赤な鎧を着た涼やかな表情の20代の女性。1人は片目に眼帯をしている30代の男性で、もう片方の目も閉じて無言でいる。1人は若く、13歳の少年も居た。


ギュン!


 2つの空席の一つに突然、10歳程に見える少女が現れた。白髭の男性が現れた少女に話し掛ける。


「遅いぞ、アラルナン殿。」


 少女は見た目と違った、年寄りの話す様な口振りで返した。


「すまんの、みな。それよりガンダルクは又おらぬ様じゃな。やはりランゴアナ帝国に力を貸し、マダラグス王国支配に関与していた情報は本当かも知れぬ・・。」


 アラルナンの話に4人は驚き、目を閉じていた片目の男もゆっくりと目を開きアラルナンを見た。13歳の少年が怒りをあらわに声を上げる。


「ふざけるな!勇者代理のルール、国の戦争及び政治に関与してはならぬ掟を師匠が破る訳無い!師匠を侮辱するのならば俺が相手になるぞ!アラルナン!」


「ふむ、勇ましいの・・じゃが年長者に、その態度は頂けぬ。」


「何が年長者だ!俺より若い姿をして!」


「この姿の方が、小さなエネルギーを制御しやすいでな。元の姿がお好みなら戻っても良いぞ。」


・・アラルナンと呼ばれた女性が大きく変化していく。ゆったりとしていた魔法衣がセクシーなボディコン魔法衣に変化しつつあった。アラルナンはスーパーモデル並みのスタイルに変わり、年齢と肌の艶は20歳にも思える程だ。


「これで満足かの?オストラルエネルギーが一定以上に成れば細胞が活性化する為に、歳を取り難い。エネルギーを制御すれば細胞も自由じゃて。まぁ、まだお主には出来ぬ芸当じゃがな。」


「そんな芸当!何も役に立たない!強ければ良いんだ!」


「ほう!・・お主は儂に勝てるつもりか?十字槍の神器メイサルアルーガの勇者代理、ファングよ・・。」


 アラルナンの目が紅く静かに光り、オストラルエネルギーを高出力で身体に纏い出す!中心にある宝石の光がゆっくりと点滅しだした。ファングがアラルナンの纏うエネルギーを見て怯む。


「クッ。」


 立派な顎髭の男性がアラルナンに話す。


「アラルナン殿、そこ迄にされよ。装置に支障が出ておる。」


「ふむ・・。」


・・アラルナンの姿が幼児の姿に戻って行った。ファングは拗ねた表情を見せるが顎髭の男性は、そのまま会話を続ける。


「アラルナン殿、先程の話はまことか?」


「ガンダルクの事は本当じゃ。戦争の際、前線で指揮していたランゴアナ帝国の将軍と一緒に居たそうじゃ。」


 ファングが口を挟む。


「それだけでは、戦争に加担したとは言えない!」


 アラルナンがチラリとファングを見た後、言葉を続ける。


「更に・・ガンダルクがその手に持っていたのは両端に付いた刃型の神器、双槍アブタナルーガだそうじゃ。」


 それぞれが驚きの声を出す。


「「何!?」」


「何だと!?」


「嘘だ!」


「神器の姿は、伝説として世界中の誰もが知る所。儂の所に多くの者達が見たとの情報が入っておる。それと・・破壊神が蘇らず遺跡の外に神器があると言う事はアブタナルーガの勇者は既に死んでおるじゃろう。」


!!


「恐らくはガンダルクが」


 アラルナンの言葉をファングが遮る。


「出鱈目を言うな!師匠はそんな事をしない!!」


 髭男がファングを鎮める。


「ファングよ、落ち着くのだ。お主がガンダルクを慕うのは分かるが、お主も勇者代理の責務がある事を忘れるな。あくまで、アラルナン殿は知り得た情報を報告しているだけ。神器に関しての相互報告は勇者代理の責務でもある。それに、お主もアラルナン殿の情報収集能力と、その正確さは知っておるだろう。」


 ヒートアップしたファングは収まらない。髭男へ向いて話す。


「ドラン殿!アラルナンがガンダルク師匠を貶めようと、何か画策しているに違いない!」


 アラルナンはファングの発言に仕方無い奴だと首を横に振る。ファングは、それが気に触り指を刺して噛み付いた。


「きっと!この女が師匠に何かしたんだ!」


 ドランがファングを睨み付ける。


「いい加減にせい!ファングよ!お主の、この度の勇者代理会議は欠席とする!少し反省をせよ!」


 議長を務めているドランが、そう話すとファングの姿がその場から一瞬で消え去った。遺跡の力を利用して各地に同じ映像を流す事で他国に居ても会議が可能であった。現代で言うインターネット会議の様な物である。つまり、議長のドランはファングの映像を消しただけに過ぎない。ファングの円卓では、映っていた他の勇者代理達の姿が消えていた。


「くそ!アラルナンのせいだ!」


ダン!


 ファングが円卓を叩いた。ドラン達の勇者代理会議はファング無しで続けられる。


「アラルナン殿、神器を持ち出したとしても勇者を殺害した事と結びつくのか?」


「儂の師匠は一度、未曾有の災害が訪れた際に遺跡の外へ神器を持って出ようとした事があっての。封印部屋から神器を持ち出そうとした時、勇者から出たエネルギーが封印石に注がれて結界が現れたそうじゃ。仕方無く師匠は、別の遺跡の兵器で災害を防いだと言っておった。破壊神の封印が弱まるのを恐れて神器を外に出さない装置があるのじゃろう。その神器が遺跡の外にあると言う事は封印部屋の結界を破ったか、勇者を殺したか・・。ガンダルクは神器を解放出来る様になってから変わってしまったからの。破壊神を1人で倒せるとでも、思っておるのじゃろう。」


「なるほど・・結界は、どれぐらい強力な?」


「当時の師匠は、今の儂よりも剣の神器のシンクロ率は高かった。92パーセント・・その師匠でも結界は破れなかったそうじゃ。本気で結界を破ろうとしていたかは分からんがな。」


「これは、由々しき事態だ。神器が封印部屋から出されたとなると、破壊神の封印が弱まり眷属も動き出した筈。皆、神器のシンクロ率を報告せよ。我の鎚の神器アドンルーガのシンクロ率は87パーセントだ。」


 長剣の神器ラグナルーガの勇者代理アラルナンが答える。


「変わらず90パーセントじゃ。」


 眼帯の男、双剣の神器ジロシサルーガの勇者代理ムロフスが答える。


「78パーセント。」


 20代の細マッチョな女性、斧の神器ダイダルーガの勇者代理サメナリーが答える。


「70パーセントだ。」


 ドランが頷き、話す。


「ファングは前回37パーセント。未だ、神器を完全に使える者は少ない。早急に神器を解放出来る必要性が出て来たが簡単にはいくまい。我々の知っておる勇者の力は、伝説に伝えられている勇者の力よりも遥かに強い。このままでは、破壊神の一眷属にも対抗出来るかどうか・・?」


 アラルナンはドランに顔を向けて話した。


「こうしておる間にも力を付けるしか無かろうて。若しくは、儂らよりも力の強い者を探すか育てる、じゃな。神器は血縁も多少関係はしておるが、神器にある一定以上のエネルギーさえ注げばシンクロ率が得られる。」


 サメナリーが有り得無いと首を振りつつ、アラルナンに向け話す。


「その様な者が何処に居る?まさか、アラルナン殿の弟子のコーネット殿を?」


「いや・・コーネットも有望ではあるが神器を扱うにはエネルギーが全く足りぬ。今のコーネットではシンクロ率も25パーセントを越える事は出来ないじゃろう。」


「??では・・。」


「実はな・・そのコーネットの情報で面白い少年を見つけた。年齢としは17歳で、現在はマルセドラスタ王国の冒険者魔法学校の学生なのじゃが。」


「A級ライセンス試験でも受けているのか?」


「いや、少年が受けておるのはF級ライセンス試験じゃ。」


「それの何処が凄い?A級ライセンス試験を受ける者でさえ、我らの力には遠く及ばぬと言うのに。」


「少年の名前はカズヤと言う。G級冒険者であるが、既にS級冒険者以上のオストラルエネルギーを身体に秘めておる。」


 ドランがアラルナンの矛盾した言葉に疑問を投げ掛ける。


「アラルナン殿?どう言う事だ?」


「成長が極端に早いか、冒険者登録せずにして強力なエルラを狩りまくったか?じゃの。」


「冒険者登録せずして、そこ迄のエネルギーを吸収するのは潤沢な資金と多くの強い兵士か冒険者を動かせる力が必要だな。その少年は大貴族なのか?」


「いや、そうは見え無かったのぉ。鎧は初心者用の鉄鎧でボロボロになっておった。とてもじゃないが貴族には見えん・・それと、もう一つ気になる事もあるのじゃ。」


「何をかな?」


「2時間程前に、気配とオストラルエネルギーを絶って少年を遠くから見たのじゃが、儂が見ていたのを気付いていた様子を見せておった。」


「なんと!?アラルナン殿の遠見に気付いたと言うのか!」


「・・こちらを少し見た後は、気にせず授業を受けておったがな。」


「それが本当なら恐るべき少年だ。是非共、破壊神が甦る前に仲間にしたい所であるが・・問題は人格か。強さを得てガンダルクの様に、力に溺れる様では困る。」


「それは儂が冒険者魔法学校に入って確かめる。ギルドの冒険者魔法学校 ゆえにグランドギルドマスターのドラン殿に手配を頼めるかの?」


相分あいわかった。」


「もし、その少年が剣の勇者代理として使えそうならば儂は弓の神器セラナールーガの勇者代理に戻るとしよう。元々その予定であったし、慣れたセラナールーガであればシンクロ率100パーセントで神器を解放出来るしな。」


「ふむ。みな、他に何かあるか?」


 誰も何も言わない。


「それでは、この度の勇者代理会議を終了する。皆、眷属の動きには、くれぐれも気を付けてくれ。」


 勇者代理の全員が静かに頷き、会議は終了した。


・・・ネガリケ魚を撃退した数哉は、弱いエルラが定期的に出る部屋の前に着く。先生2人が先に入ってエルラを間引きした後、全員部屋の隅から隅へ散る様に言われた。


「ルセアナ、早く行くぞ。」


 数哉は扉に入る前で早くも固まっているルセアナを見て話した。ルセアナは少し震えながら顔も青くなっている。


「う、うん・・。」


 中に入ると既に、幾つかのパーティーがエルラと戦っていた。前衛2人が剣や盾で牽制し後衛の2人が習ったF級ライセンス魔法で戦っている。戦っているエルラはモテと言い、ウサギに似ているが大きな耳の代わりに少し曲がった角が二本生えていた。その他のエルラのクオはハリネズミそのものだ。コロコロと転がりながら生徒達に近付いて飛び跳ねながら攻撃をしている。


ガン!カン!


「「やぁ!!」」


「「「「おりゃ!」」」」


 数哉は列に並んだ後、ルセアナに問い掛ける。


「どうだ?魔法は使えそうか?近寄るエルラは俺が近寄らせない。」


「・・ごめんなさい。身体が強張って。」


「そうか・・仕方無いな。まぁ後で頑張ればいい。」


「後で?・・。」


・・1時間程して、遺跡訓練は終了した。まだ訓練したい者と宿舎に戻る者達に別れる。訓練を続ける者も落ちこぼれ組以外では3パーティー居た。但し、先生達は帰ってしまう為に自身達の身は自分で守る必要がある。ルセアナが帰ろうとした所を数哉が首根っこを掴まえて止めた。


「何処に行く?」


「え?宿舎に戻らないと。私達2人でエルラなんか対応出来ないし。」


「駄目だ。今から特訓だから帰るな。」


「いや!だって!2人だと死んじゃうよ!」


「死なない。それより、もっと大きなエルラは居ないのか?あんな小動物相手にしていてもエネルギー吸収が少ない。」


「居ないよ・・。だってF級ライセンスだし。」


「よし、だったらもっと下に降りよう。行くぞ。」


「え!・・私には、無理だよ。」


「行くぞ。」


ヒョイ。


「キャッ!」


 数哉はルセアナの80kg以上ある身体を軽々とお姫様抱っこで抱えると、ラナに案内して貰い地下二階に降りた・・。偶然、エルラには出会わす事も無く地下へ降りたがルセアナは、いつエルラが襲って来るか分からない恐怖に怯えて震えている。数哉は、その様子を見て考えを改め直す。


「・・そんなに怖いなら、冒険者になるのは諦めた方が良いかも知れないぞ?」


 数哉に抱っこされながら、気弱なルセアナらしく無い大きな声を出した。


「それだけは、嫌!・・私、亡くなったお母さんに誓ったの!立派な冒険者になって、あの人達を見返してやるって!」


「・・そうか。よし!ほら、これを持て。」


 数哉はルセアナを下ろすと、自身の剣を差し出す。


シャキ。


「え?私、剣は使った事無いから・・。」


「良いから持て。」


「・・うん、重い・・。」


「何とか振れるか?」


 ルセアナは持ち上げて、剣を振った。


「よし、それだけ振れれば良い。」


「こんな遅い振り、どんなエルラにも避けられちゃうよ。」


「大丈夫だ。ん?」


--「ラナ、右斜め方向から何か来てるか?足音的な音が近付いている気がするんだが。」


『おっしゃる通りです・・フアシルと言うエルラが二匹、五分程歩いた分岐を右に折れた場所から、こちらに向かって来ております。』


--「危険か?」


『いいえ・・エルラでは有りますが、只の鹿です。』


--「まずは、そいつでルセアナのリハビリと行こう。」


『畏まりました。角が地球の鹿よりも攻撃的に尖っております。数哉様は問題有りませんがルセアナには場所によっては致命傷となりますのでお気を付け下さい。』


--「分かった。」


「ルセアナ、もう少し早く歩け。冒険者を諦めるのか?」


 数哉にそう話されたルセアナは決意を固め歩をしっかりとした足取りで進み出した。数哉はルートを先頭して洞窟の分岐点を右へ曲がった。曲がるとルセアナにも微かなエルラの走る音が聞こえて来る。


「カ!カズヤさん!エルラかも!逃げなきゃ!」


「逃げてどうする?特訓に成らないだろ。」


「だって!こっちは2人だよ!あの足音!3匹は居そうだよ!」


「2匹だ。」


「分かるの?」


「まあな。ほら、見えて来たぞ。」


「だめ!あんな大きなフアシル2匹を相手に戦えない!」


「小さいだろ。」


 ルセアナは焦り逃げたい気持ちはあるが、身体が動かない。フアシルは勢い良くコチラに尖った角を向けて突進して来る!数哉は2匹の角を軽く握り簡単に止めた。


パシッ。


「よし、今から特訓だ。」


 数哉は一匹52kgあるフアシル2匹の身体を、角だけで持ち上げる。


ヒョイ。


 そのままフアシルのお尻をルセアナへ向けた。フアシルは逃れようと四本の脚を忙しく動かしているが身体が浮いている為に何も出来ない。数哉がルセアナに話す。


「さっき渡した剣で斬るんだ。」


「え?嘘!?何でそんな軽々と持ち上げてるの!」


「軽いし問題無い。さぁ斬って、叩いて、突け。」


--軽いって・・角だけで持てる程、軽く無いと思うけど。


 ルセアナの身体は再び震えていた。数哉の言う通り身体を動かそうとしているが、昔の恐怖が蘇りやはり身体が動かない。


--「エルラの動きを抑えて、安全でも駄目なのか・・。」


『数哉様、私に考えが。』


--「何だ?」


『身体が動かないのであれば、無理矢理動かしましょう。』


--「出来るのか?」


『はい。機械で作った手甲と足甲を着けさせて電気信号を身体に送る事でルセアナロボの完成です。』


--ルセアナロボ・・少しやり過ぎかも知れないが、身体が動かないのでは仕方ないな。


--「よし、出してくれ。」


『畏まりました・・転送。』


ブオン。


 かなり大きな手甲と足甲が洞窟の地面に現れた。新品らしく赤く艷やかに輝いている。


「ルセアナ、そこに現れた手甲と足甲が見えるか?」


 ルセアナはコクリと頷いた。


「エルラを持って離れるから、それを着けろ。大丈夫か?」


「分からないけれど、多分・・。」


 数哉はエルラを持ち上げたまま、ルセアナから離れて行く。かなり遠い所まで離れるとルセアナは地面にある腕に通すタイプの手甲と足甲を着けていった。まずは、手甲を持って右腕に通してみる。


--いくら私が太っているとは言え、ブカブカなんだけど?


ガチャ!グイーン!ガチャン!


 手甲は一部が魚の鱗の様に変わり、腕にフィットする様に縮まった。


「え!?何これ?」


 ルセアナは始めて見る機械に戸惑いつつも、数哉の言われる通りに他の甲も着けていく。足甲も同様にフィットして縮まった。


ガチャガチャン。


『数哉様、着け終わった様です。』


「分かった。」


・・数哉はルセアナの下に戻り、フアシルのお尻を向ける。


「よし、斬ってみろ。」


 ルセアナは右手に剣を持っているが先程と同様に動かない。


--「ラナ。」


『はい、ルセアナロボ発進!』


 急にルセアナの左手が剣を強く握りだして、両手で剣をしっかりと握ると剣を高々と掲げた。そのまま左手のフアシルを斬りつける。


バシュッ!


グエッ!


「え!?」


 ルセアナの意思とは関係なく・・次々に剣が振られていった。


「ちょっと待って!身体が勝手に!?」


バシュッ!バシュッ!・・・バシュッ!


・・2匹のフアシルは息絶え、オストラルエネルギーがルセアナに吸収されていく。エネルギー吸収後は、ラナが食料として転送保管した。消えたフアシルに少しルセアナは驚くが、それよりも勝手に動く身体にもっと驚きながら、疲労感で息を切らしている。


「ハァ・・ハァ・・・ハァ。」


--「ラナ、俺に作ってくれていた疲労回復ドリンクはあるか?」


『・・ございます。』


--「それを出してくれ。」


『畏まりました。』


--数哉様用の物は貴重過ぎて出せませんが、ワグラッテイア惑星の回復ドリンクが、まぁまぁ効く筈です・・。


『・・転送。』


 数哉の右手に、赤いドリンクの入ったドリンクが現れる。


「ほら、これを飲んでおけ。疲れに効くから。」


 ルセアナは渇いた喉を潤す為に受け取りゴクリと飲んだ。


「美味しい!じゃなくて!私の身体!どうなってるの!?勝手に動くよ!」


「ん?良いだろう。勝手にエルラを倒してくれる魔法の防具だ。」


「・・この鎧、呪われてないよね・・。」


 心配そうに話すルセアナだが、失礼だと機嫌を少し損ねたラナが数哉に話す。


『呪いの鎧をご希望の様です・・。』


--「出すな。」


『・・畏まりました。』


「大丈夫だ。訓練以外の時は外せるし、呪われてもいない。」


「良かった・・。」


「それより、サクサクと行くぞ。今日はこのフロアのエルラを全て狩るからな。」


「ええ!?」


「さっきのエルラは晩御飯にも良さそうだったな。どうせなら今日はもみじ鍋にでもするか?」


「モミジ?・・それより聞いて良い?」


「何をだ?」


「暴れるフアシル2匹を角だけを持って軽々と持ち上げられるG級冒険者のカズヤさんって不思議過ぎるよね?力が強過ぎだし・・それに、この不思議な防具も!カズヤさんは何者なの?」


--・・ルセアナなら、少しだけ本当の話をしても大丈夫か?


「G級冒険者だが、俺の力は強い。これは内緒だぞ。トルノルベアは知ってるか?」


「うん。B級エルラでもA級の強いエルラ並みに筋力が発達してるエルラだよね。」


「俺の力はそうだな・・」


『現在、数哉様の単純な筋力はトルノルベアの約1.5倍です。』


「トルノルベアの筋力の約1.5倍はある。」


「えぇ!?そんなに凄いの!」


「力だけだがな。まだ強過ぎる力の調整も出来ない。因みに、そのトルノルベア2匹を1人で倒した事もある。」


「・・もう驚き過ぎて何を言ってるのか分からないんだけど。」


「安心しただろ、行くぞ。」


 数哉が歩こうとするが放心しているルセアナが動かない。


--「ラナ。」


『はい、ルセアナロボ発進です。』


 ルセアナの足と手が動き出した。


「ちょっ!ちょっと待って!また身体が!」


・・数哉は返事をせずにラナにエルラの場所を聞いては、その方向に向かいエルラを抑えつけてルセアナに攻撃させていく。


バシュ!バシュ!・・バシュ!


「・・待って!ハァ!ハァ!何も言わずに作業的に抑えないで!ハァ!ハァ!もう!50匹以上倒してるよ!普通の冒険者パーティーでも1日平均10匹狩れば良い方なのに、いつ迄続けるの!ハァ!ハァ!ハァ!」


--「ラナ次は?」


『このフロアには、もう居ません。』


--「そうか。」


「よし、今日の特訓は終わりだ。これを飲め。」


 ルセアナは数哉から、渡されたジュースを飲みながら考えていた。


--うぅ・・この大変な特訓をまた明日もって事?・・。


「戻るぞ。晩御飯は食堂で出るのか?」


「ううん。皆、ポレモとかを外で買って食べてる。」


--「ラナ、ポレモって何だ?」


『ナンに近いパンの様ですね。』


--「ふむ。」


「そんなのでは、力も付かないな。宿舎近くにバーベキュー出来るスペースはあるか?」


「うん、狩ったエルラを解体したり調理出来る場所が宿舎にあるよ。」


「よし、じゃあモミジ鍋ならぬフアシル鍋と行こう。食べるだろう?」


「うん・・でも、倒したフアシルは何処にあるの?」


「内緒だぞ・・魔法具みたいな物かな。いつでも倒したフアシルを出せる。調理は手伝ってくれ。」


「うん、分かった。」


--不思議な人・・。


・・数哉はルセアナと宿舎に戻り、宿舎の傍にある調理場に案内してもらった。既に、多くの者達がバーベキューや食事をしていて賑やかである。ルセアナは案内した後、数哉が出したフアシルの解体を手伝った。数哉はラナに確認しながらフアシル鍋を用意していく。鍋は大きく30人前は有りそうだが、最近幾らでも食べれる数哉には問題無かった。野菜は日本から買っていった白菜とネギを入れている。現地で採った食材で作りたかったが今は、材料を切らしていた。


 数哉とルセアナが鍋を作っている最中に、F級ライセンス教室の者達が数哉を見つけて走って来る。男2人と女性1人が数哉に近付くなり話し掛けた。


「良かった!ここに居たんだな!カズヤって言ったよな!」


 数哉は鍋をゆっくりとお玉で混ぜながら、話し掛けている者には向かずに返事する。


「ああ、そうだ。」


 剣士の格好をした中心に居る男が数哉に話し掛けた。


「良かったら、俺達のパーティーに入らないか!?今、最後の1人で前衛を探してるんだ!不死身の魔法戦士の君に是非、入って欲しいんだ!」


 ルセアナが横で緊張している。話し掛けて来たパーティーは隣のF級ライセンス教室一の実力者達で常に色々な特訓で目立っていた。


--凄い!マルフェイさんのパーティーから誘われてる!


 数哉は見向きもせずに、1言を放つ。


「断る。」


「どうしてだい!?僕らのパーティーに入れば間違い無く!ライセンスが取れるんだよ!」


「だから、どうした?俺が受けようとしている最終試験は最低でもB級だ。F級ライセンスを取りたい訳じゃないから他を当たってくれ。」


「君はG級冒険者だろう!そんな無謀なライセンスを取る奴が何処にいる!死んでしまうのが目に見えている!どうやら君を過大評価していた様だ。これで失礼する!」


 3人は機嫌を損ねて去っていった。ルセアナは何故断ったのか気になり数哉に問い掛ける。


「どうして断ったの?」


 数哉は先程のパーティーの誘いを挨拶程度にしか思っておらず、ルセアナの言葉が響かない。お玉を回しながら何も無かったかの様に話した。


「何をだ?」


「だって!あのパーティー凄いんだよ!F級ライセンス魔法全てを全員が上手に使えるし!」


「さっき、あいつに言っただろう。俺が取りたいのはB級魔法ライセンス以上だ。」


「本気なの!?」


「勿論だ。それに他人事の様に話すな。ルセアナも取るんだぞ。同じパーティーなんだから。」


「えぇぇ〜〜!?無理だよぉ!ライセンス試験合格の最終試練は知ってる?」


「何だ?それは?」


「パーティー4人でオストラルエネルギーを一定以上注がないとイケないの。エネルギーが足りない者がライセンスを取っても意味が無いからそうなってるらしいんだけど、私達2人しか居ないから2倍注ぐ必要があるって事だよ。ライセンスが上がると注ぐエネルギーも増えるし、F級ライセンスでも私が足を引っ張りそうなのに絶対無理だよ。」


「絶対?やる前から諦めるのか?何の為に特訓していると思ってるんだ。それと、安心しろ。エネルギーを注ぐだけなら自信がある。調整は難しいが注ぐだけなら、A級ライセンスの最終試練も1人で合格出来るかも知れない。」


「えぇ!?カズヤさんって、そんなに凄いの!」


「エネルギーだけはな。魔法はまだ初歩魔法しか成功していない。」


「なんか言ってる事、無茶苦茶だよ。」


「まぁな。」


 鍋が出来るまでにF級ライセンス教室の多くの者達が数哉を熱心に誘うが全て断っている。数名はゲントウザザミの美味しさが忘れられず料理狙いで数哉をパーティーに誘っていた。ルセアナでは無く数哉をしつこく誘うパーティー達を見て、ルセアナの気は落ち込んでいる。


--分かってるけど、やっぱり私なんか誘われないよね・・。


「どうした?ルセアナ?」


「ううん・・何でも無い・・。」


『恐らくルセアナは数哉様が誘われているのに、ルセアナは誘われない事を妬んでいるのかと。数哉様と張り合おう等と烏滸おこがまし過ぎますね。』


--「張り合おうとしてる訳じゃないだろう。ずっと1人だったから少しは誰か声を掛けてくれたらと思っているのかもな。」


「ルセアナ!」


「は!はい!」


「俺とのパーティーは嫌か?」


「え!?ううん!そんな事無いよ!カズヤさんは私を冒険者として育ててくれてるんだもの!F級ライセンス教室の皆がカズヤさんと組みたがってる程だし!」


「だったら、落ち込むな。他の者達が組みたがっている俺がルセアナをパーティーに誘ったんだ。何処に落ち込む要素があるんだ?ルセアナが成長したら頼らせて貰う事もあるかも知れない。その時は、頼んだぞ。」


「うん・・。」


--ありがとう・・カズヤさん。


 ルセアナの落ち込む様子は無くなり、鍋が出来ると数哉が出した丼と箸で食べていく。ラナが出て来ると、説明が大変だと数哉はラナに話して今回は一緒に食べていない。ルセアナは、余程お腹が空いていたのか、大きな丼を2杯食べた。


「美味しかったぁ〜!もうお腹いっぱい!」


「もうか?じゃあ残りは食べて良いのか?」


「えぇ!?これって皆に分けて上げるんじゃないの!?」


「何の事だ?」


「だって、お昼は数哉さんがF級教室皆の分を作ってたし。」


「あれは仕方なくな。これは2人で食べようと作った分だ。まだ食べても良いんだぞ。」


「私はお腹いっぱい・・食べれるの?こんなに。まだ、20人分は有りそう。」


「問題無い。」


バクバク・・・・バクバクバク。


 次々と、丼に注いでは食べて行く。ルセアナはあっと言う間に無くなった巨大な鍋を見て放心していた。


--何処に入っているんだろう?


 オストラルエネルギーを多く身体に吸収して細胞が成長し、その者が魔法やオストラルエネルギーを使用して戦うと吸収した分をそのまま出すのでは無く、身体に吸収したカロリーを燃焼させてオストラルエネルギーを出す事となる。故にオストラルエネルギーを多く吸収している者達は大食いの者が殆どであった。勿論、食べなくても問題は無いが魔法を使う際のエネルギーが足りなくなる恐れもある。


「ルセアナ、明日の朝ご飯はどうなってる?」


--これだけ食べながら、朝ご飯の心配が出て来るの?


「・・皆、朝ご飯は殆ど食べてないよ。午前中は、実技授業が無いから。」


「そうか。」


--「ラナ、朝ご飯は頼めるか?」


『お任せ下さい。』


「じゃあ、また明日な。」


「うん。」


・・ルセアナは20歳未満の女性用宿舎に戻り、数哉は用意された宿舎に戻らず訓練場の中に堂々と家兼部屋を出している。勿論、誰にも見えていない。


「ラナ、今日は晩御飯も食べてしまったし一緒に風呂に入るか?」


『本当ですか!?・・実体化!』


グォン!グォン!


「入ります!」


--ついに!数哉様がその気を!お風呂で初めての行為となるのですね!


「水着でだからな。」


ガクッ!


「・・はい。」


--でも嬉しい!お風呂も今日はご一緒出来る!水着はどんな物を着れば?ハイレグで悩殺・・いや、まだ数哉様には逆効果かも。ワンピースタイプ、スカートタイプ・・決めました!


 数哉が水着に着替えて部屋の上にある露天風呂に上がるとラナが立っている。目の前には長い髪を下ろしてスクール水着にチェンジしたラナが居た。スクール水着であるがラナのバランスの良い身体のラインはクッキリと見えている。


「どうですか?数哉様。私の水着は?」


 その姿を見てドキドキする心を落ち着かせ、数哉は返答した。


「何故、スクール水着なんだ?」


「ダメですか?」 


「いや、似合ってるが。」


「フフフ。」


・・ラナが身体を洗いたがるので仕方なく背中だけを洗う事を許す。


「背中だけだからな。」


「はい!」


 洗っているラナが後ろから声を掛ける。


「力加減はどうですか?数哉様。」


「気持ち良いな。」


--数哉様の素肌が目の前に!


ドキドキ。


プニョ。


 数哉の背中に柔らかな2つの山が添えられた。数哉は当たった物を想像してドキリと心臓を鳴らし、ラナに焦りながら話す。


「おい!何してる?」


 ラナは急いで数哉から密着した身体を離した。


「すみません!我を忘れてしまい!」


「・・後は、自分で洗う。」


ガクッ。


「すみません・・。」


「あぁ・・それよりラナ。」


「はい。」


「地球で俺がお世話になった人なんだが、山口県に実家がある旧姓 牟菜田むなた美奈みなさんの亡くなった原因を調べてくれ。」


「畏まりました。」


「それと、今から名前を上げる人達もだ。」


「お任せ下さい。」


・・数哉はUKAグループを調査していた時に、行方不明になったり亡くなった人達の名前を話した。牟菜田美奈は科学者で、UKAグループの悪行を調べていた仲間では無い。数哉がイギリスへ科学実験の手伝いに行った際、母親の様に接してくれ御世話になっていた。現 アストル社の社長ヘンリー・ジョン・ウイリアムズと結婚して順風満帆の生活を美奈は送っていたのだが、数哉が日本に戻った2年後に悲劇が起きる。人通りの多い大きな道で通り魔に背中を刺されて亡くなってしまった。犯人は未だ見つかって居ない。数哉はUKAグループの内部を調べていた際、要注意人物とされたリストの中にヘンリー・ジョン・ウイリアムズの名前が載っていたのが引っ掛かっていた。


・・・数哉は亡くなった人達との大切な思い出を浮かべながら露天風呂に浸かり、満天の星空を眺めた。


「綺麗だな・・。」


「はい。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ