第15話 フォーデハック公国
・・・数哉は昼間のフォーデハック公国へと転送移動していた。フォーデハック公国は8つの小国がより強い同盟を結び、大国とも争える様に力を合わせた国である。5年に1度それぞれの王が集まり、八人の王の中で1番票を集めた者が盟主となっていた。盟主として選ばれるのは、人格は勿論素晴らしく自国にとって1番有利になりそうな王を選ぶのが通常だが、自身に票を入れる事は出来ない。それ故、盟主には最も公平に行動出来る者が多く選ばれている。
他の国の検問所よりも公国内の検問は、この国々に住む者達であれば素通りの様に可能である。各国の芸術的な工芸品も有名で世界中から大富豪や貴族も訪れていた。それ故、経済的にも潤っておりランゴアナ帝国に次いで武力も有している。しかし、ランゴアナ帝国には遺跡の力がある。遺跡の発掘に他国よりも力を注いでいて、他国が見た事もない強力な遺物兵器を多く保有していたのだ。
各国が気付いた時には戦争が始まり、マダラグス王国は約1ヶ月と言う短い期間で支配されてしまった。マダラグス王国の公爵家厶ランクス縁の者達と民達が現在、抵抗軍として帝国を追い出そうと尽力しているが力及ばず、コーストの婚約者であったフレリア・ムランクスも既に捕らえられている。
・・・遺跡の力を利用した牢獄である為に、助けだそうとした多くのレジスタンスが命を落としていた。数哉はラナが集めた情報には無く、コーストの婚約者であるフレリアが捕らえられている事は知らない。
『・・と言う話です。盟主のエイナバル・フォレントはランゴアナ帝国が力を付けて行く事に関して、危機を感じているとの事です。フォーデハック公国の西にはメリーデルト森林に住むメルト族と言う自然を愛し、自然に生きる者の集まる王国と言ってもいい巨大な集落がある様で、ランゴアナ帝国の侵略に備えようと、フォーデハック公国からメルト族へ使節団を送った様ですが誰が族長なのかさえも分からず、同盟は結べなかった様ですね。』
「・・・・。」
『メルト族は多くの国の中で1番魔法分野にて長けている為に、同盟を望んた様ですが・・。その後は東のマルセドラスタ王国との同盟を結ぼうとエイナバルが公国内を取り纏めた所で、タイミング良くマルセドラスタ王国からの使者としてファルアナ王女が訪ねた様です。』
「そうか。」
『はい。当然、ファルアナ王女は丁重に迎えられた様ですが盟主の弟、モルナバルはランゴアナ帝国と繋がりが有ります。スパイドローンの映像にはランゴアナ帝国のプラゴデガ将軍と邸宅の私室で仲良く酒を酌み交わしている所が確認出来ております。』
数哉が無言で頷いた。
「・・・。」
『プラゴデガ将軍との話ではフォーデハック公国を陥とした暁には、モルナバルをランゴアナ帝国の将軍として迎え、フォーデハック公国侵略後の統治を任せるとの事です。』
「フォーデハック公国とマルセドラスタ王国に同盟を結んで貰っては困る訳だな。」
『はい、それでファルアナ王女の命を狙った様です。失敗した場合にはランゴアナ帝国が襲ったと見せかけて、マルセドラスタ王国から戦争を開始する様に仕向け、旧マダラグス王国に設置した遺跡兵器で戦力を削ろうとした模様です。マダラグス王国にある遺跡兵器は、現在エネルギー充填中で移動させるには時間が掛かる為と言っておりました。』
「そういう事か。」
『はい。』
「後は盟主のエイナバルがそれを信用するかどうかだな。よし、城へ忍び込むとしてラナはファルアナに化けてくれ。俺の姿はガルテアさんに変装させられるか?」
『可能です。』
「エイナバルには姫に化けたラナが説明するんだ。マルセドラスタ王国の帰りにランゴアナ帝国に扮装したフォーデハック兵に幾度となく襲われた事と、帰りの道筋はモルナバルにしかフォーデハック公国で話をしていないとな。」
「畏まりました。」
『エイナバルが1人になった際、転送すれば宜しいでしょうか?』
「エイナバルの部屋の前には兵士が居るか?」
『いいえ、ですが部屋に続く通路には数箇所に兵士が見張っております。』
「そうか・・だったら部屋の扉の外に転送してくれ。中に転送すると、警戒心が増すだろうし。」
『畏まりました。では、参ります。』
「ああ。」
『・・転送。』
ガルテアに化けた数哉とファルアナに化けたラナがフォレント城の王の間の奥にある扉の前に現れる。
ブォン。
数哉が小声でラナに指示を出した。
「ラナ、俺がノックしたらファルアナ王女として出来るだけ警戒されない様に話してくれ。」
「畏まりました。」
コン!コン!
書斎机に目を通していたエイナバルがノックする音に気付く。部屋には王に相応しい豪華なキングサイズベッドとシンプルな木製の書斎机、王の寝室としては他国の物よりも質素であった。エイナバルは王としては異質で贅沢は敵と言う人物である。
「どうした?入れ。」
「はい!失礼致します!」
ガチャリ!
ガルテアに化けた数哉が扉を開けてお辞儀をしながら、ファルアナ王女に化けたラナを迎え入れた。予期せぬ事に、エイナバルの表情が曇る。ラナは兵を呼ばれる前にエイナバルにお辞儀しながら話し掛けた。
「突然の再訪問をお許し願います、エイナバル様。」
「マルセドラスタ王国に戻られた筈では??」
「はい、私は貴フォーデハック王国を旅立った後にランゴアナ帝国の妨害を嫌い、正規ルートを通らず危険なルートを選び戻っておりました。」
「・・・。」
「そして、その道中で三度襲われる事となったのです。」
「なんと!もしや、ランゴアナ帝国が!?」
「はい、私共もランゴアナ帝国の者とばかり思っておりました。しかし、私を守っておりました兵士の中に貴国のマノーラ地方出身の者が居たのですが・・ガルテア。」
「はい、王女様。エイナバル様、失礼致します。これがランゴアナ帝国と思われた兵士の懐に入っておりました。」
ガルテア(数哉)は頭を下げたまま布に包まれた短剣をエイナバルに見せる。エイナバルはガルテアに近付き、短剣を手に取った。
「これは!マノーラ地方の兵士の御守りではないか!?」
「ご存知で御座いましたか?私を守っておりました兵士も、それを知っておりました。そこで、エイナバル様の真意を再確認させて頂く為に戻った次第です。何処に敵が潜んでいるか分からない為に、お忍びで侵入した事を誠に申し訳無く思っております。」
「・・いや、こちらこそ大変申し訳無い。ファルアナ王女、戻りのルートは誰かに?」
「はい。モルナバル公爵様に根掘り葉掘り聞かれ、仕方無く・・。」
「ファルアナ王女、私はこのフォーデハック公国を!民達を守りたい!・・襲われたファルアナ王女には大変申し訳無いが、親書に書いた事は事実っ!そう、御父上のマルセドラスタ王国国王陛下へお伝え願いたい!姫を害そうとしたモルナバルは、私が処理致します・・。」
真剣な眼差しでエイナバルはファルアナ王女を見て、頭を下げた。本来ならば、国王が頭を下げる事は無いが賢王と知られるエイナバル王は違った。ラナ(ファルアナ)は問い質す。
「信じて宜しいでしょうか?」
「勿論。」
エイナバルが頭を上げて真剣な眼差しで頷きながら話し、今度はラナ(ファルアナ)が頭を下げる。エイナバルは書斎の机に座り、同盟が間違いなく望んでいる旨と、王女が襲われた謝罪の親書を書き上げた。立ち上がり、ラナ(ファルアナ)へ親書を差し出した。
「・・では、私はこれでマルセドラスタ王国に戻ります。エイナバル様もお気を付け下さい。」
「ファルアナ王女。我が国から信頼の於ける者達を護衛に付けますので、待って貰えないか?フォーデハック公国の王族専用飛空艇でお送り致しましょう。」
「大丈夫です、今度は誰にも話していない別の道を行く予定ですから。ただ城の外までは、どなたかに送って頂ければ助かります。」
「王女はどうやって此処へ?」
「・・強力な魔法具を使用して姿を隠しました。魔法具は一度きりの物ですから使えません。」
「なるほど、それで厳重な監視魔法具を潜り抜けたのですね。」
エイナバルは書斎机に戻り、更に謝罪の親書を書き上げて机上の鈴を鳴らす。
チリン!チリン!
それ程大きな音とは言えないが、鎧を着た兵士が4人お辞儀をしながら入って来た。その中の高級そうな鎧を着た兵士長がコチラをチラリと見ながら、エイナバルにお辞儀をして話す。
「お呼びでしょうか?」
「ああ、こちらの方々を丁重に城の外まで案内して欲しい。但し!決して他の者には話さぬ様に。出来る限り人目を避けて御案内、差し上げてくれ。」
「畏まりました。」
兵士長は、ファルアナ王女へ向いてお辞儀した。
「では、どうぞコチラへ。」
「はい。」
・・・大きなお城の外に出た所で、兵士達と別れた。城下街は多くの人達で賑わっている。馬車が行き交い観光や、工芸品を買おうと目を輝かせながら店頭を見ている人達がいた。
「良い街だな。」
「はい。」
「俺も土産物を探したい所だが、ガルテアさん達も待っている事だし誰も居ない路地に入ったら姿を元に戻して転送を頼む。ジロジロと見られている様だしな。」
豪華なドレスを着ているファルアナ王女と化しているラナを見て、美しさに男性だけでは無く女性でさえ感嘆している。
「畏まりました。では、左手の建物沿いに進み三本目の細い路地にお入り下さい。」
「分かった。」
・・・路地に入った所で姿を戻してラナが話す。
「数哉様、王都へ転送致しますか?」
「・・まだガルテア達は王都に着いていないよな?」
「はい、現在の速度ですと後ニ週間は掛かるかと。」
「・・そうだな。エイナバルを訪ねていないと思われても困るし、王都の魔法学校に先に入学して1ヵ月後ぐらいにガルテアさん宅を訪ねよう。王都の誰も居ない裏路地へ転送を頼む。」
「畏まりました・・腕輪化。」
『・・転送。』
ブオン。
・・光と共に数哉は消えていく。マルセドラスタ王都の裏路地へと移動した。
--「ここは?」
『はい、マルセドラスタ王都の魔法学校の裏手にある路地です。他にも武術と魔法の両方教える学校等も有りますが、まずは魔法をと言う事でしたのでここを選びました。学校の広さは東京の港区程の広さがあります。』
「そうか、かなり大きいんだな。」
『運動場の様な、大きな魔法訓練施設が幾つもある為です。』
・・路地で話していると、声が聞こえて来る。
「・・・このデブ野郎!ブスの癖にメレラス様に告白しやがって!」
「痛ッ!痛い!止めて!」
「ん?」
・・数哉が聞こえた方に歩くと、冒険者風のはち切れんばかりの皮鎧を着ている太った少女が、高級そうな鎧を着ている者の取り巻き女子達に頭や身体を叩かれていた。
ガ!ガ!ガ!・・・ガゴ!
「痛いッ!」
木の棒を振り降ろそうとした魔法使い風の服装をした女の腕を数哉は近付くなり止め、叩かれている少女の前に立った。
「止めろ。」
「何よ!あんたは!」
「ん?俺か?数哉だが?」
「名前聞いているんじゃ無いわよ!私達は誇り高い魔法騎士学校の生徒よ!ボロっ!ボロの鎧着ているアンタもどうせ、魔法冒険者学校の生徒でしょ!頭が高いのよ!土下座なさい!」
『フフフ・・この女、永遠の地獄輪廻に落としてやります。』
--「怖すぎるからやめろ、ラナ。」
『・・畏まりました。』
--「それよりも、どうなっている?魔法学校は二種類あるのか?」
『・・どうやら、その様です。ここの魔法学校は冒険者ギルドが経営する冒険者魔法学校と、各国が経営する魔法騎士学校がある様です。魔法騎士学校は貴族や裕福な家庭の者達が集まっているみたいですが。』
--なるほどな。
吠える女に数哉は向いて話す。
「・・生憎、お前の様なクズ女に下げる頭を俺は持っていない。」
「何ですって!」
女が激昂して杖を構えた。二つ火の玉を飛ばす魔法陣を描いていく。他の3人の女も杖を構えるが、メレラスがそれを止めた。
「やめろ、皆。」
「メレラス様・・?」
「学校在学中の、学校外での魔法は許可が必要な事を忘れるな。それと・・。」
メレラスが数哉に向き話す。
「お前もだ。私は貴族。それを踏まえて態度を考えるのだな。」
「生憎と俺は敬語を使う相手を選ぶ。お前が一人の人間を相手に、囲み傷付ける様な非道を止める人間ならば敬語ぐらい使っても良いが、そうでは無い様だしな。お前の様な奴には使わない。」
「何だと!?貴様!貴族への、その態度!反逆罪と捉えるぞ!」
「なるほど、この国では貴族に敬語を使わないだけで犯罪なのか。一部の貴族は心が狭いみたいだな。」
「貴様〜!!」
「俺の知っている貴族は、そんな事は無かったぞ。」
「!?」
メレラスは貴族の知り合いと言う数哉を少し恐れた。メレラスの家より上の爵位であれば問題となる可能性がある。
「・・本当に貴族と知り合いと言うのなら、証明してみせよ。」
「生憎、お前とこれ以上談話するつもりはない。俺はこれから冒険者魔法学校の入学手続きで忙しいからな。」
「ん?貴様、冒険者魔法学校に入るのか?」
「・・・。」
もう話す事は無いと数哉は黙ったまま、乱暴されていた女性の腕を取り起こした。そのまま、その場を離れようとして取り巻き女性の1人が叫ぶ。
「メレラス様が聞いているんだから!さっさと答えなさいよ!」
メレラスが再び止める。
「いいんだ・・。」
「メレラス様?・・。」
・・数哉達の歩く背中を睨みながらメレラスが話す。
「お前達、私同様に使用人や警護の者達も更に役に立たせる為に冒険者魔法学校側へ入れているだろう。」
「はい。確か私達、皆入れて居りますが・・?」
「そいつ達に先輩として、後輩の指導に当たって貰おう。」
「なるほど、流石!メレラス様。良いお考えです。」
「「「「フフフフ。」」」」