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ラナ markⅢ  作者: ススキノ ミツキ
14/37

第14話 亜洲那リン

・・・数哉が南半球に浮かぶ新品の漁船と共に現れた。漁船には数哉の他に実体化したラナも現れている。超美少女のラナが漁船の上に乗ると、水平線から昇る綺麗な朝日も相まって今から映画撮影が始まる様な錯覚に数哉は陥り、正気に戻る為に少し首を振った。そんな数哉を余所に、憂いを帯びたラナは別の心配事をしている。


「・・本当に宜しかったのですか?空母を用意しなくて・・?」


「要らない。良かったよ・・転送する前にどんな船か?聞いておいて。俺は今から魚を釣ろうとしているんだ。戦争しようとしている訳じゃないんだぞ・・。」


「それは存じ上げていますが・・この様な小船は数哉様には相応しくないかと?」


「食事の時は気を使ってくれて、平凡な机と椅子を出してくれているだろ。」


「はい、毎回私にとっては苦渋の決断でした。あの様なボロボロの椅子の上に数哉様がお座りになるなど・・少しずつグレードアップすれば数哉様も、お慣れになるかと思い空母を用意したかったのですが。」


「少しじゃないぞ!空母は!?グレードアップを通り過ぎてるし!いつもの椅子も、あれが標準の椅子だからな。」


「そうですか??」


「・・まぁ、いいか。取り敢えず用意する前に俺が確認すれば・・竿は?」


『はい、そこの船首に鉄竿を御用意しております。疑似餌も付いていますので、そのまま投げて下されば問題有りません。丁度、真下にアジの群れを追い掛けているクロマグロがいますので。』


 見ると、釣竿に付いている糸には魚のアジの疑似餌が付いていて、尾ビレには隠れ針が付いている。数哉はそれを手に取って海へ移動させる程度に投げ、糸の伸ばしていく。


「よし・・ほっ!と・・・。」


パシャン・・・・グイ〜!!


 鉄の竿が少しだけしなる。


「お!早くも来たぞ!ラァ!」


バシャ!


 約150kgのクロマグロが水飛沫を上げて、海から宙へと舞い上がる!そのまま全長12mの船の上に大きな音と共に着地した。


ダン!!バタバタ!バタバタバタ!


「美味しそうだな!」


・・数哉は一時間程で、計17匹のクロマグロを釣り上げる。その中には300kgを超える大物も釣れていた。魚は釣れたら直ぐに血抜きを行い、内臓を海に捨てて転送保管していく。


「・・もう良いだろう。そろそろ帰るぞ、ラナ。」


「まだ日本は夜中の2時半ですが、宜しいのですか?」


「まぁ、何処かのビルの屋上で仮眠させて貰うさ。」


『睡眠を取られのであれば、数哉様のお部屋をお出し致しますが?』


「あまり眠たくは無いし。仮眠と言っても屋上でボ〜っとするだけだから部屋は要らない。また繁華街のビルの上にでも、転送してくれ。」


『畏まりました・・転送。』


・・・その一時間程前・・駆け出しのアイドル17歳の亜洲那リンと、その姉25歳の売れっ子俳優である亜洲那ミナミの姉妹ゲンカが、とあるマンションの1室で繰り広げられていた。お酒好きな亜洲那ミナミは仕事終わりに、マネージャーへ頼んで大量のお酒とツマミを買って来て貰っていたのだが、その日は深夜までお酒も進んで無くなってしまう。


カンカン・・。


 コップへチュー杯の缶を逆さまにして、最後の一滴を絞り出そうとするが出てこない。


「あれれ?・・もう無いし!マネージャーったら!もっと沢山買って来なさいよ!気が利かないんだから!」


 缶チューハイ10本とワイン1本を開けた、黒の高級なネグリジェ姿のミナミは、不貞腐れた表情で携帯電話を手に取る。


プルルルル!プルルルル!プルルルル!・・・・プルルルル!

 

「何よ!出ないじゃない!クビにしてやるから!」


ボン。


 ミナミは携帯電話を近くにあったソファーに投げつけた。


「しょうがないわね!」


バタン。


 ミナミは隣の部屋のドアを開けて、部屋の壁に掛けてある照明のリモコンを取ると深夜にも拘らず照明を明るくする。明るくした部屋で可愛い犬のぬいぐるみに添い寝して貰っている妹を揺さぶった。


「リン〜!起きなさいよぉ〜!大変なのよぉ〜!」


「・・何ぃ〜・・お姉ちゃん?明日もライブが朝から有るから寝かせてよぉ〜・・く〜・・・。」


「早く起きなさいってば!大変って言ってるでしょ!!言う事を聞かないなら家賃払いなさい!」


・・リンは眠たいのを我慢して目を擦りながら起きる。可愛いピンクと白のチェック柄のパジャマ姿で上半身を起こして話した。


「・・も〜、お姉ちゃん。またぁ〜!?」


「何よぉ〜?その言い方は?こっちはクソ監督に虐められて酒でも呑まなきゃ!やってられねぇ!っつうの!!」


「もぉ〜、分かったわよ!行って来れば良いのね!もぉ〜。」


・・11月末の深夜、外気温度は10度しかない。出掛ける準備として大きめの黒縁メガネを着け、ピンクのジャージの上に白のダウンジャケット姿へ着替えた。高台にあるマンションからリンは繁華街にあるコンビニを目指して歩いて行く。


--・・どうしようかな?この公園通ったら近道だけど、照明の工事とかで真っ暗なんだよね。怖いけど迂回したら5分以上余計に掛かっちゃうし。でも、寒い!えぇ〜い!行っちゃえ!


 リンは携帯電話を出すと、ライト機能をオンにして走り出した。


--怖くない!怖くない!怖くないからね!怖く!


ガサ!


 公園の植えられた膝より少し高い木の茂みの傍を歩いていると、何かが出て来た様な音がする。リンは咄嗟にスマホのライトを向けると目出し帽を被った男の顔が浮かび上がった。


「キャャ〜〜!!」


「大人しくしろ!・・死にたくないだろう。」


 2人出て来た内の1人がリンの顔にナイフを当てる。リンは頬に当たる冷たい感触に声も出ず、身体も上手く動かなくなった。


--怖い!お姉ちゃん!助けて!誰か!助けて!


 更に口に催眠剤を含ませた布を当てられて意識が遠のいていく。


--誰か・・。


・・本来なら誰にも届かない筈の悲鳴を数哉は強化された聴覚で感じ取った。数哉は街に戻り、屋上で夜景を眺めようと手摺りの上に座って寛いでいた所である。


「こうして、ボ〜っと街を眺めるのも良いもんだな。」


『はい。』


「・・キャャ〜〜。」


「ラナ!?」


『・・どうやら、この近くの公園で2人組が女性を誘拐しています。』


「クズも多いがな・・そこに案内してくれ。」


『はい・・数哉様。』


「何だ?」


『他にも仲間がいて黒のワゴン車に今乗りました!現在、中路川方面へ走っています!』


「分かった!そのワゴン車の屋根の上に転送してくれ!」


『可能ですが動いている傍に転送して失敗すれば車諸共、女性も消滅の恐れがあります!』


「ならば、走る!見逃すな!」


『お任せ下さい!』


 深夜になり人も車も少なくなっていた。数哉は時速50kmで駆けていく。人々は数哉を見るが、疲れたのかと目を擦っていた。信号は黄色と赤色の点滅が殆どであったが、数哉が通る直前にラナは信号を全て青色信号に変えている。


タタタタタタ!


『次を右へ!そこを!・・・。』


 ラナの指示通りに走ると建設途中で、工事費用が足りないと分かり中断されたままのビルに到着した。ビルの前には黒のワゴン車の他、バイク5台と乗用車が3台ある。いずれも違法に改造された車だ。


・・建物内ではビリヤード台が持ち込まれ、その脚から紐を伸ばしてリンは括り付けられている。


「はい、そろそろ起きてねぇ。」


ペチペチ。


 派手な黄色のダウンジャケットを着たスキンヘッドの男がリンのホッペを叩いた。


「ん・・んん・・・!?んんん!んん!」


 リンの口には手拭いを着けられ、目も手拭いで隠されている。メガネは連れて来られる途中に何処かに捨てられた。白のダウンジャケットとピンクのジャージの上半身の服も脱がされて、上は下着姿となっている。リンは誰か!助けて!と話そうとしたが声が出ない。周りには薬をパイプで炙っている者や、直ビンでビールを飲む者達がリンを見ている。煙草の匂いが立ち込め健康とはかけ離れた環境だ。


「きゃははは!早くやっちまえよ!目隠しなんか取れ!怯えた奴を犯すのがいいんだ!しかも今回、メチャ可愛いくね!ビデオ撮るんだったら絶対、目隠し取った方が良いって!」


 横にいる煙草を咥えながら歩いてくる男が、それを否定する。


「馬〜鹿!そんな事すれば、コイツを殺す必要があるだろう!ビデオだけ取ったら、どっかの山に捨てて来る方が楽に決まってる。オマエが責任持って、殺して処分もしっかりやるってんなら良いけどな。」


「・・くく。やる!やる!俺がキッチリ処分するから、良いだろう!リーダー!」


 ピンク髪の派手な女と濃厚なキスをしているヘソピアスの短髪ムキムキ男が、女を押し退けると話した。


「ダメだ。お前に死体を任せたら、アシがつく。」


「へぇ、へぇ・・でも、さぁ。」


グサッ。


 リーダーが腰ベルトに着けていた内のナイフを流れる動作で投げて、しつこく話す男の額に刺している。男は即死で頭から血を流して、傍にいたリンの上に倒れた。


ドサリ!


「んん〜!んんんんんんん〜!」


 リンは男の感触に恐怖が増して、涙を流しながら動いて助けてと声に出ない悲鳴を上げている。


「始末してこい。浮かない様に沈めろよ。」


 リーダーが話し2人が頷いて無表情のまま、死んだ男を持って起こそうとした。その男達の背中の上に、突然数哉が降りて来る!


ドォ!


「「ぐぁ!」」


「まったく・・この世界でも平気で人を殺せる奴は居るんだな。」


 リーダーの男が泣く子も黙る威圧顔で、リンを跨いで男達の背中に立つ数哉を見る。


「お前・・何だ?どっから入って来た。」


「ん?上の鉄骨を伝ってかな?人質を取られると厄介だからな。」


 話しながらリンの目隠しと口の布を取った。リーダーがそれを隙と見てナイフを2本飛ばす!


ビュッ!ビュッ!


「ぐぁ!」


「ぐ!」


 リーダーの投げたナイフが数哉の乗っていた男の肩と、もう1人の男の腕に刺さっている。数哉が2人のベルトを持って、一瞬で盾代わりに持ち上げていた。


「ふむ、ナイフをゲットだ。」


ブシュ!ブシュ!ドサッ!ドサッ!


 数哉は男達に刺さったナイフを抜くと適当に男達を放り投げ、リンの目隠しを解いて取る。


「待ってろ。直ぐに助けてやるから。」


 落ち着いた様子で数哉は話すが、まだ周りを見ると武器を持った男12人と女が3人居て助かるとは思えなかった。数哉はナイフでリンの括り付けられている縄を切っていく。少し傷付けた後、手で握り難なく引き千切った。


ブチ!ブチブチ!ブチ!


 リーダーが全員に大きな声で号令を掛ける!


「殺せぇ!」


「「「「「おらぁ〜!!」」」」」


 数哉がビリヤード台から降りると、ほぼ同時に鉄パイプと角材を叩きつけて来たが両手で受け、握力に任せて奪い取り腹に加減して叩きつけた。


ゴホッ!


 2人共派手に吹き飛びながら、血を吐きつつ倒れる。血の量がかなり多い為に数哉は少し不安になった。


--死なないだろうな?かなり手加減して叩いたつもりだが道具はマズいか?


「おらぁ!」


 数哉はリンに当たりそうな武器を防ぎつつ、ポンポンと胸を軽く押して吹き飛ばしていく!軽くと言うが数哉の力は非常に強く、机や椅子ドラム缶に当たった者達が骨折して痛そうに呻いている。リンはそれを見て呟いた。


「凄い・・この人。」


 荒くれた者達7人を吹き飛ばされて、どうにかしようと考えた1人の男が、ナイフを持ってそっと音を立てずにビリヤード台へ上がりリンを人質に取ろうとしている。チラリとそれを見た数哉はリンを抱き寄せ脇から腕を入れると、高さ4メートル近い天井の鉄骨まで特撮現場の様に飛び上がった。


ギュン!


「え!?きゃっ!!」


 鉄骨を片手でぶら下がったまま、片手雲梯で部屋の隅まで移動していく。途中でリーダーがナイフを投げるが、数哉は簡単そうに足で蹴飛ばして笑った。リーダーは自慢のナイフが届かずに悔しそうな表情をしている。部屋の隅に来ると床に下りてリンを背に、男達を手で挑発する様に招いた。挑発に乗って近くに居た男が叫ぶ。


「俺と一緒に、この机を持て!アイツを押し潰すぞ!!」


 4人の男が作業用の2メートルもある長机を持ち上げて、数哉に突進してくる!


「「「「うりゃあ〜!」」」」


ガッ!


「残念だったな。」


 数哉が片手で20kg近くある机を押す男達を軽々と止めて、4人で押している筈の長机は全く動かない。


「ざけんな!こっちは4人だぞ!お前ら!もっと力を入れろ!」


「よっ。」


 数哉がもう一方の手で軽く机を縦回転させて。1人で持ち上がる筈のない重い机を4人の頭上に浮かすと、男達は驚いて身体を守る為に手を上げた。数哉は素早くジャンプして長机を蹴り下ろす。


ゴン!ドガッ!


「「「「うぎゃあ!」」」」


 着地して机の端を持ち上げると4回程、更に倒れている男達へ叩き付けた。


ゴ!ゴ!ゴ!ゴ!


「「「「いでえぇ!も!もう勘弁して〜!・・・・。」」」」


 残り5人になった所で、数哉は瞬間移動の様に動きだす!攻撃して来ない女は放っておいて、他の男2人に一瞬で近付くと脚を払った。


「悪い事をしていた事を後悔するんだな。俺の足払いは特別に痛いぞ。」


「よっ。」


ゴキン!


「うぎゃあ!」


「ほいっ。」


ゴキン!


「ぐでえ!」


 残るリーダーの前にゆっくり歩いて来た所で、懐からリーダーはヤクザから盗んだ秘密兵器を出した。


「ここ迄近付いたお前が馬鹿だったな。」


パン!パン!


「ふむ、近過ぎて一発掠ったか。俺の服に穴を開けて、只で済むとは思ってないだろうな。」


「に・・人間じゃないのか?」


グゴキン!


 数哉は答えずに強めに足を払う。リーダーの両足が払った方向に折れ曲がっている。


「うがぁ!」


 数哉は銃を持つ手を踏み付けた後に、屈んで腕を握りつぶした。


「うぎゃあ〜〜!!た!助けてくれ!」


「ダメだな・・反省しろ。」


ミシミシ!ミキッ!ブチッ!


「・・・・。」


 腕が千切れ掛けて、その痛さでリーダーは失神する。残った女達は数哉がチラリと見ると、悲鳴を上げて腰を抜かし床に座り込んだ。数哉は相手にせず、部屋の隅にいるリンの傍に近寄り話した。


「大丈夫か?」


「う・・うぅ、うぁぁ〜〜!」


 怖さから安心に変わって、涙が溢れ数哉にリンは抱きついていく。ラナはそれを羨ましく思っていた。数哉は急に抱き着かれ、困まりながら話す。


「もう大丈夫だから落ち着け。」


『演技では?引き剥がして、空の彼方へ投げ飛ばす事をお勧めします。』


--「お勧めするな。」


『畏まりました・・。』


 数哉は抱き着かれたまま話した。


「上着はどれだ?」


 リンは話さずに、指を指す。


「・・あれか?」


 比較的汚れていないリンのピンクのジャージだけを床から拾い上げ渡した。泣き止まないリンをお姫様抱っこで抱えると未完成の階段を上り、最後はビルの屋上へとジャンプした。


「よっ。」


ビュン!


「キャッ。」


 屋上に上がると少しは減ったが街の灯りは、まだ消えず輝いている。


「・・キレイ。」


クゥ〜・・。


 お姫様抱っこされたままのリンのお腹が小さく鳴って、リンは恥ずかしさに両手で顔を挟み赤くした。


「いやだ・・。」


「お腹が空いたのか?待っていろよ。」


--「ラナ。さっき釣ったマグロの一番小さいやつと、捌く為の作業台を出してくれ。皿と醤油と箸もな。」


『畏まりました。』


 数哉の前に落ちていたブルーシートを広い、パサっと広げ放り投げる。リンの視覚を遮っていたブルーシートが落ちると目の前に作業台とまな板、立派なマグロが現れた。リンはビックリしながら声を出す。


「え!?これ、何処から出したの?」


「手品だ・・。」


「凄い!?」


「ちょっと待ってろ。」


スパ!スパ!


「・・上手ね。」


「ん?たまに、色んな物を捌いているからな。」


「料理人なの?としは同じぐらいに見えるけど。」


「17歳だ。」


「私と同じ。」


「そうなのか?」


「私、見たこと無いかな?テレビにも少しは出た事もあるんだけど?」


「ないな。」


「そっか・・まだまだ駆け出しのアイドルだから仕方無いか。」


「俺はゲームはしても、殆どテレビなんか見ないからな。」


「もしかして格闘技の選手だから?それとも手品師なの?」


「俺か?只の引き篭もり・・いや、今は冒険家かな?」


「それで何故、あんなに強いの?いや、強いの通り越してたよ。あんな人間がポンポン飛ぶのテレビでも見た事が無いし。気功術みたいな?」


「冒険している内に、ちょっとな。ソレよりも出来たぞ。」


「うわぁ〜、凄い!」


 数哉の前にはトロを含む色鮮やかな刺身が並べられている。


「食べてみろ。」


パク。


「うん!・・これ!凄く美味しい!」


 リンは余程お腹が空いていたのか、小さな身体の何処に入るのか?と言うぐらい次々と食べていった。数哉も無くならない内にと、食べてみる。


「・・本当に美味いな。新鮮だからか?」


・・2皿目が空になる頃、リンがお腹を擦った。


「もうだめ!入らない!」


「そうか?じゃあ、全部食べるぞ。」


バクバクバク。


 リンが数哉の食べている所を微笑みながら見ている。


「ん?どうした。やっぱり食べたくなったか?」


「ううん。美味しそうに食べるなって思って。」


「そうか?」


「うん、そう言えば名前聞いてなかったよね。私は亜洲那リン。君は?」


「佐藤数哉だ。」


「連絡先とか聞いても良いかな?後で御礼をしたいから。」


「礼なんか要らない。」


「そんな訳にはいかないよ!私の命の恩人だもの!」


・・数哉は最後の一皿を食べ終わり、話した。


「いや、礼は良い。それよりも夜道は気をつけるんだな。」


「うん。」


--「ラナ、馬車は出せるか?」


『問題有りません。』


--「よし、下に出しておいてくれ。出来れば目立たない小さめの馬車を頼む。」


『畏まりました。』


「送っていこう。馬車しか乗れないが。」


「馬車!?」


「ああ、もう明け方だし人も少ない。駄目か?」


「フ!フフフフ!本当にあるなら、乗ってみたい!」


「じゃあ、降りるぞ。ほら。」


 数哉は背中に乗れと、背中を見せる。


「うん・・。」


 リンは数哉をギュッと背中から抱き締めた。数哉はリンを背負うと、まだ未完成の階段を再び飛び跳ねながら降りて行く。下には一匹の白馬が引く馬車があった。運転席を合わせると、詰めれば4人は乗れそうである。数哉は運転席に乗り、リンには後ろを勧めた。


「後ろに乗れ。」


「・・か、数哉君の横は駄目かな?」


「別に構わないが狭いぞ。」


「それで良い!」


「分かった、ほら。」


 数哉が手を出してリンの手を取る。


「フフフ!本当に馬車なんだね。」


「まあな。これしか運転した事無いからな。」


ガラガラガラガラ・・。


「さっきの話なんだけどさ。連絡先教えてください。」


「だから、礼は断った筈だ。」


「私さ、アイドルみたいなのやってるから友達居なくてさ。友達で良いから!お願い!携帯番号教えて!」


「・・俺も友達は少ない方だか、出れるかどうか分からないぞ。俺も忙しいからな。」


「それでも良いから!お願い!」


 数哉にお願いしながら顔を近付けた。顔に息が掛かる程に近い。


「・・分かった。一度しか言わないからな。09・・・・・・だ。」


「覚えた!私のマネージャーが頼りないから、名前と住所と電話番号覚えるの得意なんだよね。」


「おい、教えたんだから離れろ。」


「だって寒いんだもん!友達に、なったんだから良いじゃない!」


「友達をOKしたつもりは無い。」


 リンが独り言の様に小さく呟く。


「だったら恋人でも良いよ・・。」


ガラガラガラガラ・・。


「何か言ったか?」


「う!ううん!ほら!この方が暖かいでしょ!」


 左手にいるリンは上半身を捻り、数哉に抱き着いていた。数哉は右手でポリポリと頭を掻きながら馬車を進める。ラナは悔しくは思いつつ、計画通りと思う事にした様だ。


--ハーレム計画の為・・ハーレム計画の為。ハーレム計画の為、仕方無くハグを認めましょう。但し!これが只、抱き着く人は誰でも良かった等と思っていたら!数哉様と2度と会えない遠い惑星まで、転送して差し上げます!!


メラ!メラ!メラ〜!!


 リンがブルっと震える。数哉がリンの震えに反応した。


「そんなに寒いのか?」


「いや、ちょっと今寒気が来て?」


「大丈夫か?ほら。」


 数哉は革ジャンを脱いでリンの身体に掛けた。数哉はその下にはTシャツしか着ていない為に寒空の中、薄着になっている。


「いいよ!数哉君が寒いじゃない!」


「俺は何て言うかな?それ程寒くは無い。身体が丈夫だからな。」


--異常な程だけどな・・。


「ありがとう。」


ギュッ。


「おい!だからくっつくなって。」


「この方が暖かいでしょ。」


「いや、でもな。その・・胸が当たって。」


「いやだ!・・ごめんなさい!」


 リンが顔を赤くしながら離れた。


「嫌だったよね?」


「そんな事は無いが、俺も男だからな。それに、ドキドキもする。」


「ふふ・・。」


 リンが再びゆっくりと数哉に抱き着いていく。


「私もドキドキしてる。でも私は数哉君なら嫌じゃないよ。」


「そう言う事じゃなくて・・。」


「いいじゃない!暖かいし・・ね!」


・・そのまま30分弱を馬車で走り、リンの住むマンションに着いた。


「じゃあな。」


「うん、ありがとう。又、連絡するから。」


「ああ、直ぐに返事出来ないかも知れないぞ。俺は」


「冒険家だから?でしょ。分かってる。こっちへ連絡出来る時に何時いつでも、してくれたら良いから。」


 リンの頭の中では、ジャングルとかを調べている教授の助手を想像している。


「ああ。」


ガラガラガラガラ・・。


 数哉は馬車を進めた。馬車が見えなくなるまでリンは手を振り続けている。まだ暗いが既に朝5時を過ぎていた。誰も居ない路地に入ると馬車を消して家路を戻っていく。家の鍵を開け、父親のカバンをすり替えて自身の部屋に戻った。


「ふ〜、疲れたな・・。」


・・昼まで寝るとリンの為に捌いたマグロの半身を使って、家族に振る舞う。日曜であった為に家族全員居て、新鮮なマグロの美味しさに感動していた。黒ポラの実もジューシーで甘くフルーツ独特の旨味も有り、何の果物か何度も聞かれたがマンゴーの改良品種だと誤魔化している。アメリカに戻ると話して家を出ると、誰も居ない路地へ入った。


「よし、ラナ。レリクスに転送だ。」


『あの〜・・何かお忘れになられては居られないでしょうか?』


「ん?何かあったか?・・あ!ラナの豆腐!?」


『やはり、お忘れに・・うぅ。』


「泣くな、今から買いに行こう。」


『はい!』


「あ?お金が無い。」


ガクッ!


『お金は私が100億円を用意致します!!』


「コピーは止めろ!犯罪だから。」


『では、銀行から転送致します!』


「止めろ、それも犯罪だ。」


『しかし!それでは!・・そうです!金塊です!宝石です!数哉様と私用の物が本拠地に山程に有りますから!』


「しかし、それはちょっとな。そうだ!マグロだ!マグロを売ろう!確かこの近くに老舗の寿司屋があった筈だ。」


・・・寿司屋に数哉が入ると大将と従業員の大きな声が迎える。老舗の店らしく年季の入った建物で内部も古風で味のある建物であった。


「へい!らっしゃい!」


「「「らっしゃい!」」」


「すみません。客では無いのですが、表にある魚を見て頂けないですか?」


けぇんな!坊主!ウチは市場の仲買なかがいからしか魚は買わねぇんだ!」


「そうですか・・良いクロマグロなんだが、残念だな。」


「ん?何て言った?坊主。」


「良質なクロマグロです。生マグロで捕れたての。」


「坊主!生マグロの意味を分かってて言ってんのか?ここ迄海から何時間掛かると思ってる?生マグロで持ってきたらダメになっちまうんだ。話しになんねぇな!帰った!帰った!今日は良いマグロが無かったから仕入れてねぇ。本当に良いマグロならとも、思ったんだがな。」


「大将!こんな坊主の言う事をマトモに聞いちゃあ駄目ですよ!」


「見てから言ってくれ。」


 数哉は外に出していた大きな台車の上のマグロを店の中に入れる。それを見た客達が口々に凄い!と驚いていた。数哉の持って入ったクロマグロは250kgで大きな台車から、はみ出している。マグロを見る大将の目が光った。包丁を持ってマグロに近付くと、数哉に話す。


「良いか?」


 数哉が頷くと、スパッと尻尾を切り呟いた。更に少しだけ腹身を切ると口に入れる。


「間違いねぇ・・新鮮も新鮮!天然の良質な脂の乗ったクロマグロだ!千木せんぎ!明日の仕入れ金!全部坊主に渡してやれ!」


本気マジっすか!?おやっさん!それはマズいんじゃ!」


「良いから!お前もコイツを食べてみろ!」


 千木と呼ばれた三十代の従業員がカウンターから出て、大将の切った身を半信半疑で口に放り込んだ。


「凄ぇ〜!コレは寿司にするしか無いっすね!でも、明日用の仕入れ金って30万円ぐらいしか無いっすよ。」


「それで構いません。元々、多少でも売れたら助かるなと言う程度でしたから。」


「坊主、このクロマグロの相場だがな。市場で売られりゃ少なく見積もっても500万円はするんだぞ。」


「構いません。美味しく食べて貰えるのならどうぞ。」


「美味しく食べて貰えるならか・・気にいった!坊主!何時でもこの寿司屋に食べに来い!代金の代わりに、いつでも無料ただで御馳走してやらぁ!取り敢えずホラよ!30万円だ!また魚が手に入ったら持って来い!良い魚なら買ってやるぞ!」


「有難う御座います。」


「どうだ!今から俺の寿司食べていかねぇか!」


--さっき食べた所だけど、まぁ良いか。


「それじゃあ、遠慮なく頂きます。」


「おう!待ってろよ!」


「お客様!大変お騒がせしやした!今からクロマグロ、本マグロの解体ショーといきやす!滅多に食べられない程のマグロを格安で提供させて貰いやす!さぁ!さぁ!如何ですか!」


 1人の常連客が疑問に思い、大将に話す。


「大将!本当に大丈夫なんかい?持ち込みの魚なんて!」


「何でぇ!俺の目利きが信用出来ねぇってんなら帰んな!」


「いや!大将は信用してるけどよぉ!持って来たのが仲買じゃなく、そこの坊主って言うのがな。」


「食ってから文句いいな!これ食った後、文句が言える奴がいるんなら見てみてぇな!」


「お!そこまで言うか!なら、その本マグロ貰おうじゃねぇか!」


「おう!」


「こっちもだ!」


「こっちも下さい!」


「「「「こっちも!」」」」


「おうよ!」


 手際良く大きなまな板兼作業台に乗せると、大将が素早く捌いていく。大きな身の塊を沢山取り、色鮮やかで艶やかな赤が一層美味しさをアピールしてきた。大将がその中のマグロを宝石の様な寿司へ、あっという間に変身させる。


「坊主!お前さんが持って来たマグロの寿司だ!食べてみな!」


「頂きます。」


パク。


「美味しい!凄く美味しいです!」


--やっぱり本職が作ると全く違うんだな。さっき食べてたマグロも美味しいとは思ったけど。コレはもっと美味しい!シャリとのバランスが絶妙だな。


「だろう!返してくれって言っても返さねぇぞ!」


 笑顔で大将が冗談で話した。


「その分、寿司を食べて帰ります。」


 数哉はマグロ二人前と他の特上寿司を食べて寿司屋を後にする。他の客も本マグロに舌鼓を打ち、格安に手に入るうちにと、家族への土産物も持って帰っていた。但し、家の遠い人は味が落ちるからと断られ、がっかりしながら帰っていく。


・・数哉はそのお金を持ちスーパーに入って、並べられている豆腐45丁を買い上げた。レジに並ぶと注目の的になっている。沢山の調味料と共に買った為に、豆腐料理の研究家にでも思われているかも知れない。


・・リンはあの後マンションに戻ると、怒りから仁王立ちした姉を見るが、逆に再びホッとして涙を流した。姉は妹が何故泣いているかをオロオロしながら事の経緯を聞いて、リンを抱き締めながら何度も謝り涙を流している。2度と夜、妹に買い出しさせる事は無いだろう。次の日の朝、朝食を食べながらニヤニヤしている妹を見て姉がテーブルに肘を着きながら話す。


「あんた、昨日の話嘘じゃないの?」


「嘘じゃないよ!フフフ。」


「へぇ、へぇ。よっぽど白馬の王子様が気に入ったって訳だ。」


「うん!」


「気を付けなさいよ!週刊誌に撮られるわよ!駆け出しアイドルが人気無くなったら、間違い無く仕事は来ないわね!」


「だったら芸能人止めるから、良いもん!」


「アンタ・・私みたいな俳優になりたいって言ってたじゃない?それは、どうするの?」


「今の夢はお嫁さんだから、問題無し!」


「問題アリアリよ!そんな冒険家って言うの?どうせプータローみたいな物でしょ!収入も少ないだろうし!嫁に行ったら間違い無く苦労人生よ!それに!彼女だって、もう居るかも知れないじゃない!外国は積極的な女性多いって言うし!」


「そうかな?・・やっぱり。」


「どうするの?日本であんたが付き合うとして、外国に嫁と子供が居ました!とかになったら?」


「・・それでも良いかな?嘘さえつかれなかったら。日本での嫁は私みたいな?」


「姉としては賛成しかねるわね。」


「良いじゃない!お姉ちゃんお金持ちなんだし!何かあったら助けてね!」


「嫌よ!あんたの人生なんだから、あんたが何とかしなさいよ!」


「う〜ん・・だったらお金持ちになってから、芸能人止めようかな?」


「結局、そいつを諦める気は無い訳だ。」


「だって!私の白馬の王子様だもの!」


「へぇへぇ、只の馬車じゃないの。付き合えるかどうかも分からないのに今から大変ね。」


「フフ、これが幸せな苦労って言うのかな?」


「あんた・・ストーカーだけは止めなさいよ!」


「うぅ・・確かに近くから眺めたい!でも学校なら恋って感じで許してくれるのに、外なら何故駄目なんだろう?」


「それはね・・周りが見えなくなってエスカレートして犯罪に走る人が多いからよ。止めてよね!私の人気まで影響しかねないんだから!」


「はぁ〜い。分からない様に頑張るから!」


「本当に分かっているんだか・・?」

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