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ラナ markⅢ  作者: ススキノ ミツキ
13/37

第13話 父親の災難

・・数哉はファルアナ達と別れた後、1km離れた荒野でラナに話していた。


「ラナ・・暫く土産と魔法学校は、お預けだ。」


『宜しいのですか?』


「ああ、あれだけ似ているとな・・香澄が危険だと勝手に思ってしまう。」


『そうですか。』


「念の為に、城までのファルアナの警護を誰かに頼めないか?危ない場面だけ助けられるような。」


『畏まりました。ではミロアとイロアに警護させようと思うのですが如何でしょうか?若しくは不安な様でしたら、警護アンドロイドを数体転送させます。』


「いや、アンドロイドは止めておこう。ミロアとイロアに頼みたい。事前に排除出来るならば、それで頼む。」


--警護相手が王女だと、アンドロイドが気を使って護れるのか心配だ・・ラナでさえやり過ぎないか、いつもヒヤヒヤしているしな。


『畏まりました、それではミロアとイロアに警護をさせます。』


「ああ、頼んだ。それと盟主の行動と会話をチェック出来るか?」


『可能です。スパイ型超小型ドローンを転送致します。』


「そうか・・ファルアナの言っていた通りの話をしていたら教えてくれ。もし、弟と組んでいるなら会うのは無しだ。危険だからな。」


『畏まりました。』


「まったく・・土産を持って帰りたいだけなのに、次から次へと問題ばかりだな。」


『数哉様。』


「なんだ?もう分かったのか?」


『いいえ、実はもう一つ問題が発生致しました。』


「ん?」


『今、警護アンドロイドから連絡を受けたのですが数哉様のお父様が営業の帰りに屋台で少し呑んだ後、繁華街を歩いている所で麻薬の密売人と当たって転倒されました。密売人が絡もうとした為に、警察に扮したアンドロイドが助けた迄は良いのですが、密売人は急いで逃げようとしてお父様のカバンを持って行ってしまいました。お父様も麻薬の入ったカバンを気付かずに持って、お家へ移動されています。』


 数哉は頭を右手で抱える。


「父さん・・。最近、家族トラブル多過ぎるだろう・・。」


『これはもしや・・。』


「ん?」


『あくまでも推測ですが・・数哉様の御家族は私が時間を遡り、旅行に行けない様に細工したため助かったのですが一度起きた事に辻褄を合わせようと世界からの干渉が起きているのかも知れません。』


「俺の家族は世界に命を狙われている訳か?」


『確定ではございませんが・・都度対抗処置を取れば、いずれ収まるとは思います。』


「そう願うよ。」


『ただ、それには数哉様が主力でトラブルを解決する必要が有るかも知れません。』


「何故だ?」


『外部で排除するよりも、要因に近しい所で処理する方が収束は早くなるのではと・・。』


「確かに外部からの力だと、よく分からない方向へ進むかもな?・・。」


『はい。』


「それじゃあ、地球に一旦戻るぞ。こちらの盟主監視は大丈夫か?」


『抜かりなく。弟のモルナバルにも監視を付けています。』


「よし、地球に転送してくれ。住んでいる近くにあるマンションの屋上が良いな。後、父さんの持っているカバンと同じ物を用意しておいてくれ。何とか誤魔化してカバンを入れ替える。」


『畏まりました・・転送。』


ヴォン!ヴォン!・・・。


 数哉は日の沈んだマンションの屋上に現れた。服はジーパンに革ジャンを着ている。世界感が違う為にラナが転送と共に用意し、入れ替えた物だ。辺りは、既に日が暮れていた。多くのマンションから溢れる灯りが道路の街灯を助けている。


「・・こんな急に帰って来て、何て言って帰れば良いか?」


『数哉様、明日お父様とお母様の結婚記念日ですが。』


「それいいな!でも、何故それを知っているんだ?ラナは?」


『昔、結婚記念日の祝いのプレゼントをサプライズで渡す役目を私が頂いた事が有ります。』


「そんな事があったか?・・。」


『はい、お父様には寝ているだけでヒゲの剃れる目覚まし時計と、お母様にはゴミ置き場のカラス撃退小型音波装置を贈られてました。』


「思いだした!・・母さんからは喜ばれたが、父さんからクレームを受けたな。ヒゲだけじゃなく眉毛もシャープになったじゃないか!って・・あの時は、その方が格好良いって思って調整したんだけどな。そうか、結婚記念日か。」


『はい。』


「だったらプレゼントが必要か?今あるのは黒ポラの実とモロストース、コメルネレ茸か・・若しくは他のエルラ?コメルネレ茸は、いずれ貯めた土産パーティーのメインにしたいし。モロストースは大き過ぎて家に入らない・・。ちょっと地味だが、黒ポラの実しかないな。」


『カゴ付きで転送致しますが、何個ご用意致しましょう?』


「そうだな、父さんと母さんと香澄に2個ずつ。俺に1個かな?ラナは要るか?」


『滅層もございません!御家族の大事なお土産を頂くなど!私は・・え〜っと、その〜・・。』


「ああ、なるほどな。冷蔵庫に豆腐があったら、俺の部屋に持って来る様にするが、それで良いか?」


『数哉様!』


「ん?」


『私は!数哉様が大好きです!』


「ああ、ありがとう。じゃあ、黒ポラの実を出してくれ。」


ガクッ・・。


--もう少し喜んで頂けると・・こんな超美少女が大好きと告白しているのに・・愛しています!の方が数哉様には伝わりやすいのでしょうか?でも、好きや、愛しているの表現を出し過ぎると逆に伝わり難いと言いますし・・う〜!!恋愛は難し過ぎます!!


『・・畏まりました、転送。』


 数哉の両手に竹のミカン籠と黒ポラの実が現れる。数哉はマンションの非常階段を降りて少し離れた自身のマンションに戻った。実家は、そののマンションの二階にある。数哉が儲けていた頃に両親の貯金と合わせて買ったマンションだ。4LDKだが部屋はそれ程広くない。


ガチャ。


「ただいま〜!」


 3人共、知らされずに戻って来た数哉の声に驚いて玄関に走って行く。


「「数哉!?」」


「お兄ちゃん!?」


 家族の3人が玄関に集まり、母親が驚きの表情のまま話した。


「どうしたの!?急に帰ってくるなんて!帰る費用はどうしたの!?まさか!何処かに借りたんじゃ!」


「母さん、落ち着いて。借りてないよ。昔、作った発明のアイデアを売ったんだ。いいお金になったから心配ないよ。ほら、明日は母さん達の結婚記念日だろ。」


「数哉・・。」


 母親が少し涙ぐみ、父親はあっ!と言う顔をしている。多分、忘れていたのだろう。


「そんな、涙ぐむ事ないだろ!ちょっと友達にも用があったし!」


 照れ隠しで数哉は、カゴを顔の前に持ち上げた。母親は早く中に入りなさいと招き入れる。


「さぁ!さぁ!今!ちょうど晩御飯の最中だから!一緒に食べなさい!」


 数哉が家の中に入ると、キッチンのテーブルには晩御飯の料理が並べられていた。煮物や漬物など、和食中心の料理である。数哉は家に入るなり初めて来た家の様に、隅々をチェックした。キッチンの隣の居間には炬燵こたつがあり、父親がいつも座る近くの木籠にカバンが入っている。


--あれか・・。


--「ラナ。」


『はい。』


--「あのカバンの傍に行ったら、似たカバンを出してくれ。入れ替えるから。」


『畏まりました。』


「さぁ!さぁ!数哉も食べて頂戴。数哉の持って来た果物は後で出すわね。」


「じゃあ、食べようかな。」


--食べてる暇は無いんだが。


 数哉は久しぶりの母親の料理を食べながらラナに話した。


--「ラナ、麻薬の密売人の監視はどうなっている?」


『はい、こちらも超小型ドローンで監視しております。現在、分かっているのは葛原組という組に属していて、組の他の者達から袋叩きに合っています。』


--「麻薬を失くしたからか?。」


『はい。』


--「父さんのカバンと言うのは認識されているのか?」


『認識されています。中に営業で使っている名刺が束で入っていた様です。』


--「そうか。組全体の者に忘れて貰わないとな。」


『危ない連中です。消してしまった方が宜しいのでは?調べると他にも詐欺や暴行、人殺しもしている様ですよ。』


--「・・銃は俺に効くか?」


『銃にも依りますが、一般的な銃であれば青痣程度で済みます。それに数哉様ならば見て避ける事が可能です。』


--「・・無人島にでも連れて行くか?いや・・時間が掛かり過ぎるか?」


『誰も居ない無人惑星にでも転送させましょうか?』


--「それだと俺の力で解決した事にならないだろう。」


『そうですねぇ・・では、佐藤家に近付いたら痛い目に遭うと身体に覚え込ませるのはどうでしょう?若しくは両腕と両足を斬り落としてしまえば良いかと。』


--「それ、生きるのも難しいんじゃないか?」


『他の罪の無い人達の人生を壊した者達です。自身の人生が壊される覚悟も出来ていると思われます。それに警護アンドロイドと言えども万能では有りません。数哉様の御家族を完全に護るには非情さも必要かと。』


--「・・家族を狙われるのは許せないな。ここはラナの言う様に徹底的に恐怖を味わって貰おう。奴らが動く前にこちらから動く。先ずはカバンだ。」


スクッ。


 数哉がキッチンテーブルの椅子から立つと、不思議に思った母親が尋ねる。


「どうしたの?」


「いや、トイレ。」


「トイレは、そっちじゃ無いわよ。」


「いや!え〜と・・今日のテレビ番組表をチェックしたかったんだ。」


「そうなの?後で良いじゃないの。」


 そこに香澄がフォローを入れた。


「日本に帰って来た所だし、テレビが気になるんでしょ。」


「そう言うものかしら?」


 数哉が香澄に便乗する。


--香澄!ナイスフォロー!


「そう!そう!」


 数哉は炬燵の上にあるリモコン立てのリモコンを取り、家族を見ると誰もこちらを見ていない。


--「今だ、ラナ。ダミーのカバンを出してくれ。」


『畏まりました・・転送。』


 数哉の手にカバンが現れると、急いでカバンを入れ替える。カバンの取っ手が木箱の淵に引っ掛かり倒してしまった。


ゴトッ。


 その音に父親が気付いて数哉に話す。


「どうした?数哉?」


ドキリ!


 数哉は炬燵の影にカバンを急いで隠した。


「何でもない。ちょっと収納箱に足が当たって。」


「そうか。」


--危ない、危ない。


 数哉は木箱を起こしながら、気付かれない様にカバンを入れ替える。


--「ラナ!いいぞ。」


『はい・・転送。』


 数哉は何事もなくキッチンテーブルに戻った。


--「ラナ、俺の携帯電話を鳴らしてくれ。」


『畏まりました。』


トゥルルルルルル!トゥルルルルル!


「ん?俺の電話だ・・もしもし。ん?ああ、分かった。今から行くよ。」


「ゴメン、ちょっと望月の所に忘れてたゲームを取りに行ってくるから。」


 母親が怪訝そうに答える。


「そうなの、もう8時よ。遅いし暗いから明日にしたら?」


「もう行くって言っちゃったし。遅くなったら泊めて貰うから良いよ。」


「一人暮らしとは言え、望月君に迷惑でしょう。」


「そんな事ないよ。逆に望月がいつも泊まっていけって言うし。」


 香澄が予想で補足した。


「望月君もヘビーゲーマーだから、お兄ちゃんと徹夜でゲーム対戦したいんじゃない?」


 いつもなら、お前は一言多いんだよっ!とツッコミを入れる数哉だが、助け舟が出たとそれに乗り込む。


「実はそうなんだよなぁ。まぁ!徹夜は疲れるから、程々に相手してくるよ。」


「そう?・・もう暗いし、車に気をつけるのよ。」


「分かった!行って来る。」


 数哉は家を出ると、走り出した!但し、レリクスと違い障害物が多い為に時速15kmしか出していない。それ以上の速度を出してしまうと、加減の出来ない数哉は街を壊してしまう事が予想されたからだ。


--「案内を頼んだぞ、ラナ。」


『お任せ下さい。』


「それと組事務所の傍まで着いたら、俺の姿は葛原組の対抗している組の誰かに変更させてくれ。」


『なるほど、畏まりました。』


 数哉の姿が走りながら変化していく。


--「こいつは?」


『はい、金城組の下っ端で須原幸治という男です。今までに強盗と暴行、強姦未遂で何度も捕まっている男です。葛原組とも接触した事が有ります。』


--「そうか、分かった。」


・・・数哉はラナの案内で、同じ区にある繁華街の裏路地に着いた。繁華街は、まだまだ明るく賑わっている。数哉のいる裏路地にも、酔っぱらいの声や音楽が聞こえてくる。


--「あのビルがそうか?」


『はい。』


 ビルを眺めていると顔を腫らして、服も何度も蹴られた為か汚れている男と屈強で人相の悪い2人が、その男を挟んで出て来た。ビルの出口に立つ2人の若い衆がその2人にお辞儀をする。


「「行ってらっしゃいませ!」」


「おう!」


「・・・。」


「おら!さっさと歩けや!手間掛けさせやがって!」


 1人の男が顔を腫らした男の頭を殴った。


ボコッ。


 男は苦痛に顔を歪める。


「す!すんません!!」


 数哉は何も無かった様に麻薬の入ったカバンを持って、おもむろに近付いた。


「・・取り込み中に失礼するよ。」


 数哉の挨拶に、ドスの効いた声で殴ったリーゼントの男が返す。


「何だ?てめぇ〜!?お前・・須原じゃねぇか?何しに来やがった。ここが俺らのシマだって事を分かって来てるんだろうな!」


「あ?ああ、もちろん!さっき繁華街で寝てた酔っぱらいのおっさんのカバンを引っ手繰ったらよぉ〜!良いもんが入ってたから!見せびらかせに来てやったんだよぉ!ほれ!」


--こんな話し方で良かったか?


 数哉はカバンを前に出して、餌を捕食するカエルの口の様に大きく開け見せた。怪しい粉の入った透明な小袋がぎっしりと見える。顔を腫らした男がカバンを指さして、焦ったように話す。


「そ!それは俺のカバンだ!返しやがれ!」


「あ〜ん?聞こえねぇな。」


 無口だった髭顔の男が数哉に近付くと、黒いスーツの内ポケットから長財布を出して、数哉の前に22枚の一万円札をばら撒いた。


「・・そのカバンを置いて失せろ、チンピラ。」


 数哉がカバンを閉じると取っ手を出せと、男は手を伸ばす。


パタン。


 数哉はカバンを引き、男の手を軽く払った。男は武闘派で知られ、須原如きでは全く敵わない強者である。プロボクサーを素行不良で辞めさせられた男は、数哉を眼光鋭く睨んだ。


「何の真似だ?死にてぇのか・・?」


「これは俺が拾ったんだから俺の物ですぅ〜!残念でした!」


「フッ。」


 男は鼻で笑うと、数哉の顔を目掛けて強烈なパンチを繰り出す!


ブオ!


・・とは言えど地球人としてのパンチである。数哉には低ランク冒険者よりも遅いパンチは、当然ゆっくりと見えた。


--この程度なら何人来ても手加減出来そうだな。


「よけただと!?・・やるじゃねぇか?須原・・どっかで修行でもしてたのか?」


「似たようなもんかな?」


「なめんじゃねぇ!オラ!」


ブン!ブオ!ブン!ブン!・・ブン!


 男はフットワークを使い次々とパンチやキックを繰り出すが、数哉は軽々とそれを避けていく。門番の若い衆と他の2人の男も計4人で数哉に掴み掛かろうとするが、全く数哉に触る事さえ出来ない。


「クソ!なんて速え野郎だ!」


「オラ!」


『数哉様?叩きのめすのでは?』


--「刀とか武器で殺されようとしないと、攻撃するのは可哀相に思えてな・・。」


『その者達は御家族の命を狙おうとしたいたのですが、流石!数哉様はお優しい御方です!』


 その言葉を聞いた数哉の表情が一変し、武闘派男の繰り出したパンチを避け、腕を取り関節の曲がらない方へ掌底を繰り出した!更に数哉は折れた腕を握りつぶしながら振り回してビルに叩きつける!


ゴキン!


「ぐああ〜!・・・。」


メキメキ!ドスン!


「ごえっ!!」


「「「御堂兄貴!」」」


『数哉様が夜叉に!?』


 男はそのまま気絶して倒れ込んだ。音を聞いたビルにいる無法者達が窓を開けて外を見る。


「カチコミか!?」


「1人だと!?いてもうたれ!!」


「ぶっ殺せ!」


「チャカだせや!俺が殺したらぁ!」


「殺せ!殺せ!」


ダダダダダダダダ!


 次々と武器を持って組員達が出て来た。数哉は武闘派の男を倒した後、木の棒で襲って来た門番2人の腕を握り折り、そのまま振り回して顔を腫らした男ともう一人の麻薬回収しようと出て来た男に当てる。それぞれ門番の足首が2人の顔に当たり、歯と血を飛ばしながら吹き飛んだ。


ミシミシ!


「「いでぇぇぇ!」」


ゴォ!ゴ!


「ぶぁ!」


「ぶぇ〜!」


 追い打ちで吹き飛んだ2人の足を軽く蹴ると、蹴った方向に足は折れ曲がる。


ゴキン!ゴキン!


「ぐぎゃあ!」


「ぐげ!お!俺の足が!」


パンッ!


 突然、数哉の足元の土が弾けた!出て来た男の1人が銃を持ち、数哉へ向けている。


「須原!動くんじゃねぇ!動けば次はお前の頭だ!」


 数哉は門番の肩から外れた腕をそれぞれ放した。


「そうだ、大人しくしてろ。まぁ好き勝手にやってくれて、これからお前がどうなるのか分かってるよな。お前が葛原組との戦争の引き金を引いたんだ。後悔しながら逝け。」


 数哉は銃を持った男へ、男の話などはどうでも良いと一歩を踏み出す。


パン!


 男は射撃に慣れているらしく、数哉の心臓目掛けて発砲した。もうすぐ倒れて死ぬ数哉を予想して話す。


「残念だ・・もう少し遊んでやろうと思ってたのにな・・。」


 数哉は、その予想に反して何事も無かった様に男へ近付いていく。数哉は男に見えない速度で弾を避けていたのだ。


「な!?どういう事だ!!」


「ん?その答えは愚問だな。お前の腕が下手糞だからだろう?」


 男は自信を持っていた射撃の腕を貶されて、逆上し数哉を殺そうと撃ちまくる!


パン!パン!パン!パン!


「この野郎ぉ〜!どっかの映画の様な動きをするんじゃねぇ!くそ!」


パン!パン!パン!カチッ、カチッ。


「くそ!弾切れか!?」


 数哉は男を目掛けて走り込む。2人の男がそれを阻止しようと刀と鉄パイプを、数哉の前方上段から振った。数哉は刀の平らな刀身部とパイプを走る勢いのまま軽く叩き、刀とパイプは男達の手から離れて回転しながら他の者を襲った!


グサッ!ゴン!


「ぐあっ!」


「!?・・・・。」


 刀は1人の男の太ももに深く刺さり、パイプは組員の頭に直撃して気絶して倒れていく。弾の無くなった拳銃を持った男は焦りながら銃を捨て、懐からドスを出して持ち替えた。組員の中の4人が銃を持って撃ちまくるが数哉の速度が速過ぎて捉えられない。外れた弾は倒れている男や対面にいた男達に当たった。


パパパパパン!パン!パパン!パパン!パン!


「「「「ぐおぁ!!」」」」


 それを見た奥にいる若頭が大声を出す!


「チャカは止めろ!味方に当たっとる!」


 その間にも既にドスを持ち替えた男は、数哉に胸を斜め上へ押されて宙に舞い上がり、二階の窓を割って飛び込んで行く。


「ぐぼっ!」


ガシャン!!


「ぐおあっ!・・・。」


 そのまま数哉はビル扉前の一番多く集まっている組員の中に割り込み、姿勢を低くすると片足をまっすぐ外へ伸ばして回転した。


「ラァ!」


ブオン!


ババババババババ!


 男達は側転を強制された様に吹き飛んでいく!


「「「「「うわぁ〜!」」」」」


ドサ!ドサ!ドサ!


--どっかの映画と聞いてやってみたが、以外と上手くいったか?当たった瞬間、もっと持ち上げる様にすれば更に飛ばせるな。今それをやると手加減出来ずに只、足を折るだけになりそうだが・・。


 倒れていた男1人が蹌踉めきながら起き上がり、落ち着いて銃口を定めた所へ、数哉は回転して倒れた男の腹を足の甲に乗せて掬い上げた。


ドオ!


 拳銃を構えた男に激突して2人は倒れ込み、数哉は残りの立っている組員7名も素早く動いて胸を押し吹き飛ばしていく。男達は肋骨が折れて宙を舞った後、地面に倒れ胸を抑えて呻いている。ドアの前で最後に残った若頭は刀を前に出して、数哉へ向けつつ話した。


「お前?バケモンかよ?人間じゃねぇ・・何者だ?」


 数哉は答えずにスッと近寄り、刀の振れない場所まで一瞬で距離を詰める!男の腰ベルトを掴むと、体重92kgもある身体を空に放り投げた。


「うわぁぁ〜!」


 男は放物線を描き6mの高さから、数哉の背後の地上に舞い戻る。


ドサリ!


「ぐ・・ぐぐ・・・。」


 数哉は、ビルに入り父親のカバンを探す。2階の麻雀テーブルに広げられたカバンを閉じて手に持った。


パタン。


--「よし、ラナ転送を頼む。」


『畏まりました・・転送。』


--「ミッション完了だ。」


『数哉様。』


「ん?」


『金目の物も持っていった方が信憑性が出るかと。』


--「確かに、父さんのカバンだけ持って行くと怪しまれるかもな。ただ、ヤクザの金を奪っても使う気になれない・・。」


『では奪ったお金は全て寄付されては如何でしょうか?』


「そうか、それで行こう。」


 数哉は二階のフロアを全て開けるがデスクにパソコンと特に金目に成りそうな物は、見当たらなかった。


--何もないな?三階を探すか。


 数哉が三階へ上がると、広いフロアの奥に毛皮の絨毯が引かれ木の艶々とした高価な机が置かれている。机の傍には、凭れると寝る事も出来そうなフワフワの椅子もあった。更に奥をみると股下程の高さの金庫も見える。


--「あれを頂くとするか?」


『数哉様。』


--「ああ、分かってる。」


「そこにいる奴?出て来い。」


 椅子の裏から散弾銃を構え、高級スーツを着た小太りの組長がスクッと立ち上がる。その手にはショットガンを持っていた。


「お前!拳銃の弾を避けれる様だが流石にコレは避けられないぞ!これは只の狩りの銃じゃない!多対単体用に開発された軍隊用の最新式ショットガンだ!死にたくなけりゃあ、動くんじゃねぇ!!」


 数哉は何も言わず、ゆっくりと詰め寄って行く。


「・・ざけやがって!死ね!」


 組長が引き金を引く瞬間に、数哉は懐に飛び込みショットガンの銃口を握り潰す!組長はそのまま引き金を引いた。


ボン!


「ぐがぁ!お・・俺の指が・・。」


 銃が小さな爆発を起こして、組長の右手の親指と人差し指も吹き飛んでいる。組長は痛さに跪き、右手を抑えながら呻いていた。


「ぐぐぐ!・・・。」


 数哉は金庫の前に立ち、ダイヤル式の鍵と横の鍵穴を見る。


--「ラナ、金庫のダイヤルの答えは分かるか?」


『はい、お任せ下さい・・分かりました。鍵穴の鍵は組長の胸に着けているネックレスに付いています。その鍵を穴に入れ右に1回転回した状態のまま、ダイヤルを回します。右に・・左に・・・・です。』


--「分かった。」


 数哉が組長の首輪を握ると、組長は怪我をしていない左手でコレだけは取られまいと抵抗した。


「ネックレスは渡さねぇぞ!」


「指が吹き飛んでいるのに、元気な事だな。だったらコレだけ貰おう。」


バキン!


 数哉は純銀製のネックレスを簡単に引き千切り、鍵を取り外す。


「くそ!・・ぐぐ。」


 数哉が鍵を手に金庫に近寄ろうと振り向いた所で、机の下の隠しドスを左手で持ち数哉へ迫った!


「おら!死ねや!」


 数哉は振り向き様、ドスを向け後ろに迫る組長の腕を握ると、部屋の隅で両手を上げて立つ大きな熊の剥製へ、小さなオモチャを扱う様に軽々と投げる。


ドガ!!


 剥製に衝突して組長は仰向けに倒れ、ゆらゆらと揺れる熊は最後に組長へ覆いかぶさる様に倒れた。


ドォ!


「ぐえっ!・・・。」


--「ラナ、指紋の付かない手袋はあるか?後、監視カメラがある様なら、壊すから調べてくれ。」


『畏まりました・・転送。』


 数哉の手に手袋が現れる。


『監視カメラはこのビルに到着した時に、既に4台全てを使用不能にしております。』


--「そうか、分かった。」


 数哉がラナの言う通りに回すと、鍵は開いた。中には金塊2ケと札束が2027万円、権利書等が入っている。


--「結構入ってるな。金塊とお金だけ貰う、転送してくれ。」


『畏まりました・・転送。』


 数哉は組員の事務所を後にした。3人が痛さを我慢して事務所の出入り口で刀と鉄パイプを持ち、不意打ちしようと待ち構えている!


パリン!ガシャ!ガシャン!


 3人が音のした上空へ振り向くと、手を交差して三階の窓を割り飛び出してくる須原の姿が見えた。窓ガラスは粉々に割れて地面に落ちていく。


「自殺か!?」


ダン!タタタタタタ!


 数哉は地面に着地すると、もう用は無いと男達が倒れている横を異常な速度で走り抜けて行った。


「何で平気なんだ!?三階だぞ!?」


・・走り抜けた後、数哉は誰もいない路地で呟く。


「・・もう、12時半か。今の時間からは帰り難いな。」


『では、釣り等は如何でしょうか?』


「夜釣りか?」


『いいえ、まだ朝日が登る直前の離れた場所へ転送致します。』


「そうか・・出来ればクロマグロを釣れる所は無いか?」


『そうですね・・では、海に船を用意して転送致します。』


「悪いな・・それを明日の父さんと母さんの結婚記念日に食べさせて上げたいんだ。今迄、苦労を掛けっ放しだったからな・・それにモロストースの方は、土産が全て揃ってから驚かそうと思っているから。」


『畏まりました・・転送。』


ヴォン!ヴォン!


・・葛原組と金城組の戦争は行われなかった。葛原組の全員が何処かしらを骨折し、戦闘不能である事と須原への恐怖からである。警察には面子を守る為に内輪もめで喧嘩しただけと、嘘を付いたが警察は当然信じない。捜査をするが他の暴力団が最近、葛原組の事務所に近付いた形跡が全く出て来なかった。


 唯一、多くの近所住民から聞けた不思議な事と言えば・・その日、自転車を軽く追い抜いて行く足の速い少年を見掛けたとの事だ。警察官達は、犯人に関わる重要なその話をどうでも良いと聞き流している・・。

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