第12話 王女ファルアナ
・・ミロアとイロアは用が済んだと、山を軽快に降りて行く。イロアがミロアに走りながら話した。
「この山奥に住み付いたC級エルラのボルドルも倒して角もゲットしたけど多分、程々のお金にしか成らないね。」
「そうだな、でも仕方ないさ。あまりマスターの傍を離れていたら殺されそうだし。」
「ふ〜・・折角、ここ迄強くなったのに・・。もっと良い剣と杖を買うのは大分先だわ。」
2人の頭に数哉の声で響く。
『止まりなさい。』
「「は!はい!」」
ミロアとイロアが急停止して、イロアが焦りながら話した。
「ごめんなさい!決してマスターへの不満は言ってません!只、良い剣と杖が買いたいなって言っていただけです!」
『そうですか。2人共、手を出しなさい。』
・・2人は疑問に思いながら手を前に出すと、手の上に小さな金塊が現れる。
『今回の報酬です。この世界でも売れば500万ディルには成るでしょう。』
ミロアがイロアに向いて微笑んだ。イロアもミロアへ笑い返し、ラナに話す。
「ありがとうございます!マスター!」
『又、用があれば呼びます。』
「「はい!マスター!」」
ラナの通信が切れて少し時間が経った頃、ミロアがイロアに話した。
「そう言えば、イロアはマスターの性奴隷になるって決めてるんだよね。」
「うん・・やっぱりミロアは嫌?」
「う〜ん、考えた事無かったけど僕もまぁ良いかな?まぁまぁイケメンだし、お金も持ってるみたいだしね。何より僕よりも強い上に、怒った時と普通の時のギャップがゾクゾクして最高だから。」
「でも全然そっちで呼ばれないよね?あんまり性欲少ないのかも。」
「・・覚悟を決めたのに、それはちょっと残念かな。」
「まぁ、いずれ呼ばれるんじゃない?」
「・・・。」
・・・一方、数哉達は馬車停留所でキャンプを行い、翌朝アルトデルト公都に向かった。
・・ギルドに到着すると、依頼を受けたカウンター越しに話す。そこには、受付の20代後半女性が居てウゲイルが話した。
「依頼の達成確認を願いたい。依頼はアモワナ鉱石の運搬だ。」
「はい。それでは計量された運搬カードをお出し下さい。」
・・ブノガから奪った計量カードを含め1人ずつ渡してゆき、数哉が1022kgと計量されたカードを最後に渡して職員は驚く。
「え!?・・。」
そのカードをカウンターに置いてあった四角い魔法具に翳すとカードに済みの文字が現れた。
「・・どうやら本物のカードみたい。」
ウゲイルはカードに記載されている重量を見ていない為、険しい表情となり話した。
「当たり前だ!失敬な。」
「失礼しました・・。」
職員はギルドの奥に戻ると、魔棍棒とお金の入った小袋を持って来てカウンター越しに差し出す。ウゲイルは不思議そうに小袋を開けた。
「ん?これは多くないのか?」
「いいえ、それで合っています。」
「こんなに儲かる報酬なら、もっと滞在して運べば良かったな。ほら、そこの机で分けるぞ・・。」
ウゲイル達は近くのテーブルに小袋と魔棍棒を置いて、4等分に分けていく。ホスがウゲイルに何かを話そうとした時に数哉はホスの会話を阻止する様に前へ手を出した後、魔棍棒を取った。
「約束通り、これは貰う。」
数哉はそのままギルドを出て行く。ウゲイルは不満を漏らした。
「何だ、あいつは?冒険を経験させてくれて、有難う御座いましたぐらい言えんのか・・。」
「ウゲイル様!先にこの分けたお金を頂いても良いですか!?」
「ん?良いぞ。」
「有難う御座います!」
そう言ってホスはギルドを出て行った数哉へ走る。
「カズヤ!待って!」
「ん?どうした、ホス。」
「これ!カズヤが運んだ報酬としては少ないけど、持って行って!」
「これはホスの報酬だろ。」
「カズヤが居なきゃ報酬なんて全く無かったんだから、これで良いんだよ。」
「いらん、と言いたいが納得しないか・・。じゃあ、半分だけ貰う。」
「俺・・カズヤには迷惑かも知れないけど又、何処かでカズヤとパーティーが組みたい!」
「機会があればな。」
「王都の学校には行くんだよね!」
「ああ。」
「じゃあ、俺達もお金が貯まれば行くから。その時もし会ったら宜しく!」
「ああ、またな。」
ホスが手を出して握手を求め数哉もそれに応じた。
--「ホスって、こんな喋り方じゃ無かったよな?」
『他の冒険者達から、舐められない様に無理をしていたのでは?』
--「そうかもな。さて、魔法の練習だ。アルトデルト公都を出るぞ。」
『はい。』
--「コーストに貰った図鑑に確か・・アルトデルト公都北東のグテマ山に生えてるって言う茸があったな。」
『はい、どんな食べ方でも非常に美味しいコメルネレ茸が存在すると書いてありました。ここから78km離れていて、2年に一度しか生えない上に数も少なく、強いエルラも出るのでギルドの依頼報酬も高価になっています。』
--「魔法修行ついでに、その茸も取りに行こう。」
『ギルドへ売るのですか?』
--「いや、今はお金に困っていない事だし。単純にお土産候補だ。」
『畏まりました。』
・・数哉はアルトデルト公都を北に出て更に北東に向かう。道中で、道の外れに何も無い荒野を見つけて練習する事にした。
「ここで練習してみるか。ラナ、魔棍棒を出して貰えるか?」
『畏まりました・・転送。』
数哉の手に魔棍棒が現れる。この世界にある魔棍棒の中では最低ランクであるが、鉄で覆われている為に頑丈であった。
『数哉様。力を入れ過ぎると、この杖でも壊れてしまうのでお気をつけ下さい。』
「分かった。」
--よし!まずは前に成功した水の魔法だ。
数哉は教わった通りにエネルギーを杖から通し、魔法陣を画いていく。
グググ!
・・更に魔法陣にエネルギーを注いでいくと左前方約100m先に水の塊が大きくなっていった。
「今度は、あそこか・・現れる場所がバラバラだな。」
バシャ!
数哉が魔法陣にエネルギーを注ぐのを止めたと同時に水は自由落下して地面を濡らす。
『恐らくは、数哉様の持つエネルギー量が大きい為に発生させられる射程が広くなっているのではと・・。あと他の魔法を習っていた冒険者達が叫んでいましたが、魔法陣を画く時は言葉に出してみては如何でしょうか?』
「確かに他の授業を受けた人達は、近くにしか出て無かったし言葉を発する事でより強いイメージが出来るかもな。ふむ・・。」
数哉は再び魔法陣を画いていく。今度は出現させる場所のイメージを持ち、言葉にしながら・・するとイメージした場所から2m程、ズレた場所に今度は出現した。
「・・清き水よ!あの場所にいでよ!お!良い感じだな。」
『はい。』
バシャ!
・・次に数哉は氷魔法の初歩魔法を構築してみる。
グググ・・・ググ。
「・・冷たき塊をあの場所に出現させろ!・・これも問題無さそうだ。」
『はい、一発で成功なさるとは数哉様は天才です!』
--{数哉様と一発・・セイコウ・・・ぽっ・・。}
ガラガラガラガラ。
・・狙った所とは5m程離れていたが、大量の小さな氷を生成してエネルギーの注ぎを止めた所で氷は地面に落ちた。
「次は松明か・・。」
・・炎の初歩魔法を数哉は構築していく。
ホワッ。
数哉の杖の先に小さな炎が現れた。
「・・熱く燃える炎よ!杖先に姿を現せ!良し!これも成功だ!」
--{・・ぽっ。}
小さな炎を維持する為に杖の傍にある魔法陣にエネルギーを注いでいたが、少しずつ注ぐ必要のある魔法陣へ数哉はエネルギー量を調整出来ず、一気に注いでしまう!
ボワッ!!
炎は一瞬にして大きく広がり、数哉を包み込んだ!
「熱っ!ラァ!」
ビュン!
数哉は勢い良く魔棍棒を前に振り消そうとするが、炎は消えず杖を離れて前方へ勢い良く飛んで行く!
ボオッ!
その炎は、約20m程離れた半径1mの範囲で荒れ地を焼いた。
『お見事です!炎の遠距離魔法の修得です!』
「・・松明の魔法修得とは言い難いな。」
『そうですか・・。』
「まぁでも、注ぐエネルギー量を調整する練習をれば良いだけだ。結果オーライか。」
『はい!』
・・4回程、荒れ地を焼いた後は松明魔法に成功して山へと走り、進んで行く。
「・・もしかして、あの山か?」
『はい、湿度が年中高い上に上部の気温で冷やされて黒雲が常に山を覆っています。上に登る程、雷に出会う可能性が高くなりますのでお気を付け下さい。』
「止めた・・。」
ゴロゴロ!ドォ〜ン!
『そうですか?』
「いや、死ぬだろ。」
『雷でも数哉様は死にません。確かにダメージは負うでしょうが確実に死にません。』
「え?雷だよな。」
『はい。』
「地球の雷より電流と電圧が低いとか?電圧が低いと雷に成らないか。」
『地球の雷と同じです。』
「俺の身体どうなってるんだ?」
『健康です。』
「いや!そんな簡単に。雷に撃たれたら健康でも普通は死ぬぞ・・。」
『着実にレベルアップして、身体も丈夫になっていますので。』
「経験値チートか・・。」
『はい、現在のレベルは107です。伝えられている、この世界の勇者レベルに力だけは近付きつつあります。エネルギーの大きいエルラを倒していないので、少しずつレベルの上がり方は落ちていますが。』
「どおりで、練習してるにも拘わらず力加減が上手くいかないと思った。今の力に慣れるまでは、暫く経験値チートを止めだ。」
『しかし、そのお陰で御家族への美味しいお土産も採れているのですが・・。』
--{数哉様改造計画に支障が!}
「それもそうか?・・もう少し様子を見てみるか。いずれ力に慣れるかも知れないし・・それじゃあ、茸も採るぞ。美味しいらしいからな。」
--{ほ・・。}
『はい。』
ゴロゴロゴロ!!ゴロゴロ!
「雷・・鉄鎧は脱いだ方が良いな。」
ガシャ・・ガラン。
「ラナ、この鎧預かっておいてくれ。」
『畏まりました・・転送。』
数哉は、白の作務衣に似た服装で山に近付いていく。近付く毎に雨と風、雷鳴と光が激しさを増していった。
ビュオオ〜〜〜!ゴロゴロゴロ!
「良くこんな環境で植物が育てってるな。年中、こんな感じなんだろ?」
『はい、ただ雲の切れ間から光も届いている様ですから。それよりも合羽は必要ですか?すぐに御用意しますが。』
「いや、いい。これだけ降っていると合羽の隙間からも雨が入って来るだろうし蒸れるからな。それにしても熱帯雨林のジャングルか?ここは・・。」
・・数哉は森の茂みに入って行く。草を木を剣で切り倒し進んだ。
「ラナ、幻の茸の位置は分かるか?」
『申し訳ございません。成分や形の特徴が分かれば、調べる事が可能なのですが今の所・・。』
「確かに、この本の絵だけしか手掛かりも無いしな。こんなケバケバしい茸、本当に美味しいのだろうか?」
『・・どうでしょうか?』
・・取り敢えず草を掻き分けながら、茸を探して山を登っていく。何度か茸を見つけてはラナに確認していた。
ガサ。
「お!あの茸どうだ!?模様似てないか?」
『あれはギルドのデータバンクに依ると、メサナグ茸と言う毒茸です。数哉様しか食べられません。』
「・・だったら、こっちの椎茸に似てるのは?」
『椎茸です。地球の物より少し大きめで名前は違いますが。』
「一応採っておくか・・。」
・・数哉は、2時間掛けて雷雨の中を探し続ける。採れた物は全て別種の茸である。
「・・簡単に思ってた、反省だな。幻と言われてるんだし、そんな簡単な訳無いよな。」
『お役に立てず申し訳ございません。ギルドのデータバンクにも詳しい情報が無いものですから。』
「いや、ラナは悪くないよ。それよりも、そろそろ暗くなって来たし降りた方が良いか?」
『空の雲のせいで通常より暗くなっていますから。明かりをご用意しましょうか?』
「明かりは、まだ良い。これも冒険って感じがするし。最近夜目も利いていて、かなり暗くても見える様になってるから。」
『畏まりました・・数哉様!ここから頂上へ登り213m先に、本の絵に似た茸を見つけました!今、アルマジロの様なクエロと言うエルラが木の葉の下にある3つの茸の内の一つを食べています!』
「すぐに行こう!」
タタタタタタ!!
数哉は猛スピードで駆けていく!細い木を二本、当たった衝撃で倒すが構わず駆け抜けた。数哉が100mまで近付くとクエロは長い舌をニョロニョロと出して威嚇しだす。数哉は意に介さず、茸を食べられまいとスピードを緩めない!
「俺の家族の土産を〜!食べるなぁ〜!!」
タタタタタタ!!
数哉の迫力にクエロは身を守ろうと丸まった。その時!ラナが警告を発する!
『数哉様!止まって下さい!もう直ぐ!この先に雷が落ちます!!』
「俺の土産だぁぁ〜〜!」
『数哉様!?雷が!!』
ドォォ〜ン!!バチバチバチ!
クエロと数哉の間にある大木に雷が落ちた!数哉はその稲妻の光の中へ姿を消してしまう!
バチバチバチ!
「ラァッ!」
稲妻の光から煙を上げつつ飛び出した数哉はクエロを蹴り、蹴られたクエロは多くの大木に跳ね返されながら絶命する。
ゴッ!ビュン!ガ!ゴ!ドン!・・コロコロコロ。
「幻の茸をゲットだ!」
数哉は身体から煙を出しながら茸を取り、喜びながら高く掲げた。ラナが数哉に問い掛ける。
『・・数哉様?大丈夫ですか?その・・雷の直撃を受けていましたが。服もボロボロになっていますのでお着替え下さい。』
「ん?・・そう言えば身体が、かなりヒリヒリするし身体も痺れているな・・。雷なんて受けたか?」
『はい・・でも、ご無事で何よりです。』
--{昔から熱中すると周りが見えなくなる方でしたから、私がより気を付けないと・・。}
「ああ、でも本当に美味しいのか?・・これ。」
『はい。今確認した所、地球で言う旨味成分が豊富で成分の種類も沢山含まれています。』
「そうか、食べる時が楽しみだな。」
『はい・・数哉様。』
「ん?」
『調査した所、この山には後253本のコメルネレ茸がある事が分かりました。如何なさいますか?』
「幻の茸にしては結構有るんだな。だが今後も生えて来て欲しいし、近くに生えている物だけ取ったら山を降りる事にしよう。」
『畏まりました。』
・・数哉は、山をジグザグに降りながら計5本のコメルネレ茸を採取した。山から少し離れた荒野でマイルームを出して貰い露天風呂につかる。身体を癒して出ると、幻の茸料理から漂う匂いに引き寄せられた。
「・・凄く良い匂いがするな。」
風呂から出て下に戻り話すと、メイド姿のラナがテーブルの前に居て笑顔で数哉へ話す。
「はい。自信作です!」
テーブルには、茸料理のフルコースが置かれている。前菜はコメルネレ茸を丸く切り取った物を中心に、他の茸をメリーゴーランドのコップの様に仕立てていた。上には野菜ソースで色鮮やかな5色ソースが掛けられている。メインの皿には丸ごと蒸し焼きにされたコメルネレ茸が調理されていた。他にリゾットとスープ、デザートにもコメルネレ茸が使用されている。
数哉が座るとラナも横に座り、数哉の感想を待ち望むかの様に凝視してきた。数哉はナイフとフォークを持つと前菜の中心に存在するコメルネレ茸を一口サイズに切って口へ放り込む。
パク・・。
「!?・・・うまっ!!予想以上だ!こんなに美味しいなんて!ラナも食べてみろ!」
パク・・。
「はい・・?確かに美味しいですが、豆腐には敵わないと思われますが・・。」
「え?・・まぁ、ラナにはそうなのか。俺には勿体ないぐらいの味だけどな。どこかの皇帝が食べる様な味じゃないのか?・・これ。」
「でしたら問題ありません。何度も言う様に数哉様は、只の皇帝など遥かに超越する宇宙皇帝なのですから。」
「・・・。」
・・・数哉はコメルネレ茸を堪能して、その日は山の麓で魔法の復習をして1日を終えた。
・・次の朝、数哉が朝食を終えて王都の魔法学校への旅路を踏み出そうとすると若い女性の悲鳴が聞こえて来る。
「・・キャァァ〜〜!!」
「!?何だ?ラナ?」
『ここから山を少し迂回した道で騎士らしき男達が争っています。恐らく、女性の声は馬車の中からしたのではと?』
「この世界で厄介事に巻き込まれたくは無いが、仕方ない・・。」
タタタタタタ!!
『助けるのですか?』
「ああ!案内を頼む!」
『畏まりました!』
・・・12人の騎士達が1台の馬車を囲み、馬車を守っていたと思われる7人の騎士は濡れた地面に横たわり倒れていた。馬車を守っている38歳の騎士隊長と25歳の副隊長が必死に魔法と剣で応戦しているが、多勢に無勢で副隊長の方は左腕に怪我をして血を流している。
「大丈夫か!?オライス!」
「隊長!俺がここを食い止めます!王女様を安全な場所へ!」
「駄目だ!お前だけでは、この手練騎士達を相手には出来ん!」
「しかし!?」
・・馬車の中では侍女のサハナが王女ファルアナの蛮行を阻止しようとしていた。
「私が出て魔法で戦います!そこを退きなさい!サハナ!」
サハナは馬車の出口前で手を広げて話す。
「なりません!ファルアナ様っ!どうやら相手は騎士ランクBも居る猛者達です!危険です!」
「あなたも聞いたでしょう!このままではガルテア達迄殺されます!」
「なりません!」
ダン!!
「何の音です!?まさか!ガルテア達が!?」
バッ!
ファルアナは自身の愛杖の魔杖レナフィースを持ち、サハナを押し退けて馬車を出た。
「あ!ファルアナ様!?」
王女の眼には、ガルテア達と騎士の間に舞い降りた数哉が映る。
「間にあったと言えるかどうか・・。」
数哉は呟きながら周辺に血を流して倒れている騎士達を見た。相手の貴族騎士らしい隊長のウェバンが、数哉を怪訝そうに見る。
「誰だ!?貴様!」
--「ラナ・・コイツらの推定ランクは?」
『エネルギー量だけで言うと、殆どがCで2名がBランクと思われます。隊長らしき男だけはAランクに近いエネルギーを持っていますが、力押しで問題無いかと。』
--「そうか、先手必勝だな。」
『はい。』
「ラァ!」
ビュン!ゴッ!
「ぐぁ!」
数哉は答えの代わりにウェバンに飛び蹴りを喰らわし、高級な魔法鎧を凹ませつつ吹き飛ばした!他の騎士達はウェバンを目で追うと、ウェバンを蹴りながら後方へ進む数哉を殺す為に、後ろへ振り向いて追い掛けて来る!
「ウェバン隊長!」
ゴロゴロ、ゴロゴロ・・・。
ウェバンは気絶したまま泡を吹き、まだ勢い良く転がっている。数哉は途中で勢いを殺して立ち止まると、追い掛けて来る騎士達へ振り向いた。隊長が一撃で気絶している姿を目の当たりにした騎士達は立ち止まり、警戒して剣をしまうと腰に付けた魔杖を各々が構えだす。数哉はそれを見て少し笑った。
--ふっ、ゲームなら詰みだな。前衛無しで時間の掛かる魔法を全員で行ってどうする?良い的だ・・鎧を着ているから手加減すれば大丈夫だろうけれど死ぬなよ、お前ら。
「ラァ!」
タタタタタタ!ゴ!
「ぐぇ!」
タタタタタタ!ガ!ゴ!ダン!ゴ!・・・ガ!
数哉は走り回りながら体当たりや鎧の上にパンチを繰り出していく。騎士達は数哉から距離を取りながら剣に持ち替え様とするが、数哉の速度に間に合わず吹き飛ばされた。1人だけ数哉の適当パンチが運良く当たらず剣を構えるが、ガルテアがその騎士に話し掛け、騎士が振り向いた瞬間に上段から斬り降ろす。
「何処を見ている!?私達を忘れてないか!」
「は!?」
ズバッ!
「ぐはぁ!」
・・数哉が殺さずに倒した騎士達を副隊長オライスが剣でトドメを刺そうと走り、剣を振り下ろした。
ズサ!
「ぐがが!・・。」
それに気付いて数哉はオライスに近付き話す。
「止めろ、殺すな。」
「何を言う!この者達は王女様を襲い、私達の同胞を殺めた者だぞ!」
「・・そうか。ならば勝手にしろ。」
数哉がそれを聞いて立ち去ろうとした所を、ガルテアに止められた。
「そこの御方!お待ち下さい!ファルアナ様を助けて頂き感謝申し上げます!」
「オライス!この方の言う通りにしろ!」
「しかし!」
命令が聞けぬのかと言う目で見られ、仕方なくオライスは剣を戻していく。
「・・はい。」
ガルテアが数哉に向き直り話した。
「お願いが御座います!王都の城まで王女様の警護を手伝って頂けないでしょうか!?」
ガルテアは丁寧にお辞儀までするが、オライスは気に食わないらしくそれを否定する。
「何を仰います!隊長!王女様の警護を貴族でもない下賤な冒険者に依頼するなど!」
『!!。』
--「落ち着け、ラナ。」
『・・畏まりました。』
「オライス!失礼だぞ!この方に助けられなければ、私達は王女様を護れなかった!この先も王都まで、どんな刺客が放たれているか分からない!戦力が必要なのだ!」
「それは!・・。」
「あんた達の事情は知らんが断る。」
数哉の発言に慌ててガルテアが話した。
「依頼を受けて下されば!報酬も好きなだけ払いましょう!」
オライスが金に汚い冒険者め!といった目で数哉を見ている。
「報酬など要らない、じゃあな。」
オライスはえ!?と言う表情をし、数哉が去ろうとした所を会話を聞いていた白のドレスを着たファルアナが走って来て回り込み腕を広げ、去り行く数哉を止めた。サマナも後ろから付いて来ている。
「お待ち下さい!冒険者様!」
「か!香澄!?」
--・・な訳無いよな・・・。
「カスミ??」
「いや、何でもない。」
--それにしても似過ぎだろう・・髪の色と髪型を変えたら分からないぞ。
なんと、目の前にいるファルアナは数哉の妹の香澄そっくりであった。違う点を言うと、髪の色は栗色でかなり長い。
--「ラナ、香澄は地球に居るんだよな・・。」
『はい、間違いなく。』
--「そうか。声も似てるし、驚きだな。」
『確かに・・。』
王女ファルアナは両手を願う様に前に出して、数哉に話しだす。
「お願いです!私はフォーデハック公国の親書を何としても父上に届けねばならないのです!」
「・・・。」
「私はマルセドラスタ王国の第3王女ファルアナと申します。マルセドラスタ王国の北にあったマダラグス王国がランゴアナ帝国に侵略されたのは御存知でしょう・・間もなくマルセドラスタ王国にも侵略を開始すると噂され、隣国のフォーデハック公国に我が国は戦争同盟を結んで頂ける様に望みました。その返事が書かれた親書を父上にお届けしなくてはなりません!どうか!私に貴方様の御力をお貸し下さい!この通りです!」
ファルアナは頭を下げた。
「「「!?」」」
他の者達は姫が頭を下げる事等!と思っているようだが、王女の願いを邪魔しそうな為に何も言わない。
--「本当に香澄じゃ無いんだよな・・。」
『香澄様では、御座いません。ですから数哉様が、この女を見捨てて、この女がどんな目に会おうが気にする必要も有りません。』
--ぐ!?そう言われると・・。
「・・分かった、但し王都迄だ。俺の名前は数哉と言う。」
「カズヤ様!宜しくお願い致します!」
『・・数哉様?』
「どうせ王都の魔法学校にはライセンスを取りに行くつもりだったしな。」
ガルテアは明るい表情となり、ファルアナもお辞儀しながら喜んで話す。オライスは気に食わないのか別の方向を向いた。
ガルテアは今後の方針を話しだす。
「それでは王女様は馬車へお戻り下さい。この者達の馬は野に放しましょう。時間が稼げる筈です。それでは行きますぞ。」
「隊長!?我らが同胞の騎士達を埋葬してやらないのですか!?」
「隊員達には申し訳ないがそんな時間はない。敵の騎士達が起きて再び襲って来るとも限らない、行くぞ。」
貴様のせいで!とオライスは数哉を睨んだ。
--「ラナ、敵騎士分の足枷は出せるか?」
『出せます、お手を後ろに・・転送。』
ジャラ。
「ガルテアさんだったか?」
「ええ。」
「これを使えばいい。」
数哉が大量の足枷を前に出して地面に置く。
ジャラジャラ。
「何処にこんな大量の足枷を!?」
「いいから。」
数哉は幾つかを拾うと倒れている敵の騎士に付けていった。ガルテアも、数哉に続いて足枷を付けていく。オライスも隊長にだけさせられないと足枷を付けていった。
「よし、これで良いだろう。後は亡くなった人の墓か・・。」
--「ラナ。」
『はい、スコップを用意でしょうか?』
--「ああ、俺用の頑丈なスコップと2人用のスコップを出してくれ。」
『畏まりました・・転送。』
・・他の者達が足枷をまだ付けている内に、敵騎士を影にしてスコップを出した。荒野に生えた一本の大きな木を中心にして、数哉は猛スピードで騎士達の入れる穴を掘っていく。土が次々と宙を舞い逆に落ちる滝の様に飛んでいた。全員、固まっていたが数哉が遺体を移動させようと一人を抱き上げた所で、墓穴である事に気付いてガルテアとオライスも持ち上げては長穴に埋葬いていく。オライスは涙が流れるのを腕で拭きながら埋めていった。
「皆!不甲斐ない副隊長ですまない!うぅ!・・。」
「オライスが悪いのではない!隊長である私の責任なのだ・・。」
ガルテア達がお墓に手を合わせている間に数哉は敵騎士達の持ち物を調べていく。どの男達も小さな短剣を懐に忍ばせていて柄には特殊な模様が入っていた。
--「ラナ、何処の国の物か分かるか?」
『お待ち下さい・・分かりました。これはフォーデハック公国の一部の騎士が持っている物です。戦をする時に持つ守り刀、御守として持つ物の様です。』
--「どういう事だ?ランゴアナ帝国の騎士達じゃないのか?」
『鎧と持っている剣はランゴアナ帝国の物です。鎧の稼働部に使われている金属がランゴアナ帝国で採取された物ですから。』
--「・・これは不味いな。つまり、もし本当にランゴアナ帝国が王国を狙っていると言うのならば、一部のフォーデハック公国も既に敵と言う事か・・それとも他に?わざわざ、ランゴアナ帝国の鎧を着ていたのも気になる・・。」
数哉が調べている所にガルテアとオライスが傍に寄っていく。
「何か分かるのかね?」
「ふん!どうせ!金目の物でも奪っていたんでしょう!」
斜め後ろにいたオライスをガルテアが静かにしろと睨んだ。
「・・・。」
数哉は立ち上がりガルテアに話す。
「どうやら、この騎士達はランゴアナ帝国の者ではなく、フォーデハック公国の者である可能性が高い。」
「なんと!?フォーデハック公国が何故、王女様を!」
「それは分からないが、この鎧と剣がランゴアナ帝国正式な物で中身の者はフォーデハック公国の者となると・・既にフォーデハック公国の一部か全体がランゴアナ帝国と手を組んでいる可能性もある。」
「それで、わざわざ誰にも分からない様に危険な迂回ルートを進んだ各所に刺客がいたのか!?」
「フォーデハック公国の誰かに、その事を?」
「はい。フォーデハック公国の王女様の歓迎パーティーで、公国盟主エイナバル・フォレント様の弟君であらせられるモルナバル・フォレント公爵から根掘り葉掘りと聞かれました・・。」
「隊長!?こんな冒険者の言う事は当てになりません!」
数哉がオライスの言った言葉に返す。
「当てにならないかも知れない。だが、これを見てくれ。」
数哉は短剣を敵の懐から出して、今までに調べた騎士達の4本の短剣を見せた。ラナの説明を受けながら数哉は話す。
「これはフォーデハック公国のマノーラ地方で流行っている、戦の御守りだ。倒れている殆どの騎士が持っていた。」
「何故、お前にそれが分かる!?」
「信じないなら流してくれたらいい、好きにしろ。」
数哉は別にどうでも良かった。ただ、殺されそうになっていた香澄に似ているファルアナが心配でどうしようも無い。数哉が助けようとしても、周りが信じないなら別の方法で助けるしかないと思っていた。ガルテアは、数哉の言葉を信じてオライスを窘める。
「オライス!お前は黙っていろ!これは私やお前のプライドよりも重要な話なのだ!王国の危機に余計な感情を持ち込むでない!いいな!」
「分かりました・・。」
「それでカズヤ殿、先程の話は本当なのですね。」
「間違いない。」
「そうですか。フォーデハック公国の力を借りられないとなると、ランゴアナ帝国の脅威に対抗する手段が・・。」
会話を聞いたファルアナがショックを受けた様で、口に手を当てて話した。
「そんな!盟主であるエイナバル・フォレント様は力を貸して下さると申されてましたのに!?」
数哉が姫に話す。
「ふむ・・それが本心で言っていれば、まだ手段はある。」
「本当ですか!?」
「フォーデハック公国の盟主と弟の仲が悪いのならば、それを利用すれば良い。難しいかも知れないが、盟主だけに姫がフォーデハック公国の者に襲われた事を話せば何とかなるかも知れない。但し・・盟主も弟と繋がっていた場合、伝えた者は殺される可能性もある。」
ガルテアが真剣な表情で一言を話した。
「私が参ります!」
オライスが手を前に出して、それを止める。
「待って下さい!隊長!私が行きます!」
数哉はどう考えてもこの2人では弟モルナバルの目を掻い潜り、盟主一人と話すのは無理だろうと溜め息を吐いた。
--仕方ない・・。
「は〜・・俺が行く。」
オライスがまたもや牙を向ける。
「ふざけるな!この様な大事な任務を只の冒険者に任せられるか!」
「あんたは盟主だけに話す自信はあるのか?」
「それは!・・命懸けで何とかする!」
「・・命懸けで何とかと言うのは、良い結果への手段としては乏しいな。」
「何!?」
数哉が無言で15m程垂直ジャンプして、空に舞い上がった!
ビュン!
3人は空を見上げると自由落下してくる数哉が見える。数哉の姿は少しずつ大きくなり、激しい着地音を立てた。
ダンッ!!
「・・どうだ?これでも俺より上手く伝えられる方法はあるのか?」
「それは!ぐっ!・・。」
「オライス、ここはカズヤ殿に任せよう。それが一番、可能性が高い。我々だけでフォーデハック公国へもどのは王女の命を脅かしかねない。王国へ戻る際の王女様の警護は、やむを得ないが我々だけで何とかするしかないな。」
「カズヤ殿、王都に着けばこちらをお訪ね願えますか?」
ガルテアは腰袋から小さな紙とペンを出して、自身の住所を書き渡して来る。
「ん?ああ、分かった。結果を報告しよう。では行ってくる・・」
立ち去ろうと後ろを向いた数哉をガルテアが止めた。
「お待ち下さい!この危険で重要な仕事!カズヤ殿の望みの報酬を用意して待とうと思っております!報酬は!?幾らでも申されて下さい!」
「要らない。」
「な!?命懸けの仕事ですぞ!そんな訳には!」
「守りたいだけだ・・。」
「??何をですかな?」
「ファルアナ姫だ。家族(妹)にしか思えなくてな。」
タタタタタタ!!
数哉はそう言い残し、猛スピードで走り出す!数哉のスピードにガルテアとオライス、サマナは驚いていた。その横で恋愛経験のない王女ファルアナが勘違いし、顔を真っ赤にして両手を頬に当て小さく呟く。
「家族(妻)・・。」
--プロポーズされて、しまいました・・。
・・ファルアナ一行は決めてあったルートとは別のルートに変更して約二週間後、無事お城へ到着する事となった。