第11話 アモワナ鉱石
・・アルトデルト公都西部の壁沿いを北上して、整備された西への道を進み出した。道は庶民の馬車が3台ギリギリ通れる幅で、道の外側は草むらとなっている。ホスは警戒しながら馬車を走らせていた。順調に進んで来たがホスが緊張した表情を見せる。
「カズヤ、今からあの船に馬車を載せる。手伝ってくれ。」
少し先に200m幅の川が流れていて、小屋と船二隻が見えた。船と船の間にはイカダがあり、それに馬車ごと乗せるらしい。
「ん?ああ。どうすれば良いんだ?」
「イカダの上に馬を載せるんだが2匹の馬が落ち着く様に俺と、手綱を持ちながら首を撫でていて貰いたいんだ。」
「分かった。」
小屋には2人の船頭が居て、渡り料3100ディルをミオネが渡している。全員降りるとホスと数哉で2匹の馬を挟み、イカダに載せて行った。後ろの馬車まで載った所で2人の船頭がそれぞれの船に乗り込む。船の下には金属製のスクリューが付いていて後ろの斧の様な舵を握るとゆっくりと発進した。船頭が舵を取りながら座っている椅子の下に魔法具が装着されていて動力となっている。半分過ぎた辺りで突然、船の周りの波が高くなり、船が大きく揺れだした。
「キャッ!」
ミオネが悲鳴を上げて馬車にしがみつく。ウゲイル達も馬車を持ち船頭の1人にウゲイルが問い掛けた。
「何だ!?何が起きている!?」
「悪魔のハサミじゃ!お前さんらは冒険者じゃろ!奴らが這い上がって来たら川へ落としてくれ!」
「分かった!」
--「ラナ!?」
『はい!船の下には、ザリガニに似たゲントウザザミと言うエルラが7匹居ます!ハサミが強力で通常、この川のかなり下った所に住んでいる様です。一匹だけ非常に大きく体長3mあり、そのエルラが船を下から攻撃しています!』
--「そいつに俺は、川の中で勝てるか?」
『身体が大きい上に向こうに場所の利は有りますが、D級のエルラですから余裕で勝てます。それに今の数哉様であれば一時間は息継ぎ無しで泳げる筈です。川に飛び込まれるのであれば、念の為に足ヒレを転送装着致します。』
--「よし!頼んだ!行くぞ!」
『はい!』
「ホス!馬は任せた!」
「どうする気だ!?カズヤ!」
「船を揺らしてる奴を叩く!」
ドボン!
「カズヤ!鎧のまま!?く!死ぬなよ!カズヤ!」
ウゲイルが剣で50cm程度のゲントウザザミが這い上がろうとするのを阻止しながらホスの声に反応して叫ぶ。
カン!カン!カン!
「どうした!?ホス!」
「カズヤが船を揺らしてる奴を倒しに飛び込みました!」
「これだから冒険初心者は!?川の中でゲントウザザミに勝てる訳無いだろ!」
「勝手に飛び込んだんだ!自殺は勝手にさせろ!それよりも馬を守れ!」
「分かりました!」
ホスは剣を抜き、片手で馬2匹の手綱を持ってエルラを牽制していた。船頭2人はモリで上手くゲントウザザミの頭の柔らかな隙間を刺して2匹倒している。フネトは馬車の荷台に上がり全体を見渡しながら情報を叫んでいた。手には弓矢を構えてゲントウザザミに放っていく。
ビュン!ガ!ガ!
「ウゲイル様の右手後ろ方向から一匹!」
「分かった!」
ガッ!
「ミオネ!左手方向だ!」
「分かったわ!」
ゴガ!
ミオネは槍で這い上がろうとするゲントウザザミを叩き落とした。
川に飛び込んだカズヤは、流されない様に足を素早く動かしていた!
--「川の中は結構な流れだな。アイツか・・。」
他のゲントウザザミと違いハサミが4本もあるエルラが、イカダにハサミを叩き付けている!
ゴン!ゴン!ゴン!
巨大ゲントウザザミはイカダを壊し、獲物の馬を落とそうと狙っていた。数哉が川に飛び込んでもコチラに見向きもしない。他のゲントウザザミは数哉に気付いて川に落ちた獲物を欲し、向かい出す!カズヤは剣を抜いた。
『カズヤ様!足ヒレの転送及び装着が完成致しました!』
--「ああ!」
数哉の足には脚力に耐えられる鋼鉄で作られた重い足ヒレが装着されているが、難なく足を動かしている。多くの水を蹴られる足ヒレを素早く動かすと、ビュンビュン!と水の中を動き回れた。数哉に向かって来たゲントウザザミに剣を向けて突進する。
グサ!ブオォ〜!ガン!ゴオ!
一匹のゲントウザザミは頭を貫かれて死に、すかさずラナが転送した。そのまま他のゲントウザザミを避けて、巨大ゲントウザザミの側頭部に剣を刺そうとしたが装甲が硬く刺さらない。しかし、巨大ゲントウザザミは船から吹き飛ばされた。巨大ゲントウザザミが邪魔をする数哉を睨み付ける。4本のハサミをガチャガチャと閉じては開けて威嚇して来た。
--「ラナ、あのハサミはどのくらいの力がある?」
『数哉様の鎧は少ししか耐えられませんが、数哉様のお身体を傷付ける程の力は有りません。』
--「なるほどな、その程度か。ならば、この剣でも刺せる場所は?」
『頭と胴体の隙間か、腹の柔らかい部分であれば刺さります。後は、身体の一部を何処かに固定して剣を振れば、この川の中でもダメージを与えられます。』
--「川の中で固定か・・川底まで3mは有りそうだし、アイツを持って身体を固定するしか無いな。」
巨大ゲントウザザミが発進して、周りからからゲントウザザミ5匹が数哉に向かい出す。ザリガニの格好をしているが背中は逆にも曲がるらしく人魚の様な動きで数哉に迫っていた。数哉は命中率を重視し、剣を振るわず鞘に戻して先に到着した5匹のゲントウザザミの身体を殴っていく。3匹が数哉の重いパンチを貰い頭を凹ませながら息絶え、沈む前にラナが転送保管を行なった。2匹は、その様子を見た瞬間に海老の様に後ろ向きに泳いで逃走を開始する。巨大ゲントウザザミは数哉に近づくと、ハサミで挟もうと次から次へと繰り出した。数哉は足ヒレを使い、魚の様に鋭くビュンビュン!と移動して、それを避ける。
「ギギキ〜!」
ゲントウザザミは掴み無難い獲物に苛立ちを見せ叫ぶ。4つのハサミを広げると、その真ん中に魔法陣を築き始めた。
『数哉様!お気を付け下さい!ゲントウザザミの魔法は鎧を溶かす酸の泡を飛ばして来ます!』
--「これ以上鎧をボロボロにされては困るな。」
ギュン!
数哉は足ヒレを高速で動かすと、一瞬で巨大ゲントウザザミの正面まで移動する。ゲントウザザミは待ってました!とばかりにハサミで胴体と足を挟み込んだ。馬を食べる前の前菜を得たとゲントウザザミは喜ぶ。途中まで構築した魔法陣を消して数哉を口下へ引き付けた。
「ギギ〜!!」
--固定完了だ。
数哉は捕まった振りをして剣を掲げると、ハサミに挟まれたまま巨大ゲントウザザミの頭を縦に斬った。
バシュ!
・・一方、ゲントウザザミによる揺れが収まると船頭が今だと発進させる。ホスが、そこで叫んだ。
「待ってくれ!船頭!カズヤがまだ乗っていない!」
船頭2人は、もう助からないと真剣な表情で首を横に振る。ウゲイルがホスに話した。
「ホス!諦めろ!さっき話しただろう!自分で自殺したんだ!ゲントウザザミが又上がって来る前に出るぞ!船頭を困らせるな!」
「く・・。」
「船頭!行ってくれ!」
ウゲイルの声に、船頭は頷いて船は走り出した。ゲントウザザミは頭が割れて気付いていないのか変な声を漏らすと、絶命して動かなくなった。
「ギ?・・・。」
ラナが巨大ゲントウザザミを転送する。数哉は動き出した船を見上げる。
--「ん?船が動いている?」
『命の恩人の数哉様を置いて行くとは!?・・あの船を飛空艇にする事をお許し下さい。』
--「却下だ!誤魔化してるが、要は空まで吹き飛ばすつもりだろう!ダメだからな!」
「畏まりました・・。」
「・・それよりも先に向こう岸へ渡ろう。川を泳ぐのも気持ち良いしな。狭い船で渡るよりもずっと良い。」
『そうですか。数哉様が心地よいのであれば、全く問題有りません。』
--「ああ。」
・・数哉は川の中の生き物や害の無いエルラを見ながら優雅に泳ぎ、岸に渡り着いた。かなり川を満喫していたが、船より5分程前に着いている。鎧の中をラナは乾かそうとしたが数哉は他の者達から不自然に思われそうな為に断った。鎧と上半身の服を脱いで近くの枯れ枝を集め、ラナに火を付けて貰い焚き火を始める。船上ではホスが焚き火の煙で数哉に気付き、ホッとした表情で手を振り出した。数哉もそれを見て少し手を上げる。
・・船が着くと馬車を降ろしてホスが数哉に駆け寄った。
「大丈夫か!?カズヤ!」
「ああ、全く問題無い。」
船頭はその会話を聞いて首を傾げる。その日の川の流れは速く普通の者では流される筈であるし、ましてや数哉は鎧を着たまま川に飛び込んでいる。それで泳げたと言う事は・・と考えた船頭の1人が数哉とホスに近付き、数哉へ話した。
「あんな大きなゲントウザザミに襲われて沈没せんかったんは、お前さんのお蔭じゃ。ありがとうの・・。」
「ん?ああ。」
船頭は、そう話して次の出航に向けての準備に戻って行く。ホスはそれを聞いて、数哉の評価を改め話そうとする。
「カズヤは、もしかして強」
ホスの話の途中でウゲイルが走って来て数哉を非難した。
「お前!勝手な行動をするな!お前のせいで馬車が川に落ちる所だったんだぞ!」
ホスがそれを反論しようと話す。
「待って下さい!ウゲイル様!カズヤは!」
「うるさい!お前もコイツを甘やかすな!」
ウゲイルは、そう話して馬車へ戻って行った。
「ごめんな、カズヤ。助けてくれたのに・・。」
「気にするな。ホスが分かってくれていれば良い。さぁ!服も乾いたし、馬車へ戻ろう。」
「ああ。」
・・馬車に揺られながらホスの横で数哉は座っている。数哉はふとした疑問を問い掛け初めた。
「そう言えばアモワナ鉱石って、何なんだ?」
「良質な鉄鉱石さ。冒険者の装備にも良く使われているんだ。」
「それをアルトデルト公都まで運ぶのか?」
「いや、そうじゃ無い・・鉱石の採れる山の途中の道が壊れていて、今直してはいるみたいだけど約半年掛かるそうだ。その道以外の道は有るんだがワローの繁殖地の直ぐ傍でペロウレが大量に居る川の橋を渡る必要がある。そこでアルトデルト公都がギルドに依頼して冒険者達に経由地点まで運ばせているんだ。その経由地点から、更に奥へは馬車も入っていけないから鉱石を人力で運ぶ必要がある。俺達が依頼を受けているのは、そっちだな。」
「なるほどな。」
「カズヤは、力も強い様だし期待しているよ。鉱山の入り口から経由地点まで2km程は人が背負って鉱石を運ぶ必要がある。報酬は50kg以上からだから、1人10kgは背負わないと。」
「そうか・・。」
『数哉様には楽勝ですね。』
--「まぁな、だがホス達には10kgの荷物でも厳しいのかも知れない。」
「そうだ、カズヤ。これ食べてみないか?」
ホスが馬車を運転しながら自身のカバンに手を入れて取り出した。手には細長い木の実を持っている。数哉の近くで手を開く。
「何だ?」
「結構美味しいんだぜ。カズヤの持っていた何やらチップスには及ばないけどな。この前、山で偶然見つけたんだ。薄皮剥いて食べてみたら良い。」
「へ〜・・。」
数哉は2cm程の実の白い薄皮を剥くと、三日月状で緑色のシワシワの実が現れた。数哉は3つ貰った内の一つを口に入れてみる。
「うん、美味いな。」
--ピーナツに枝豆の味を少し足した様な味だ。煎って食べると、もっと美味しいかも知れない。
「だろ!俺、その実が結構好物なんだ。もう、それだけしか無いけど食べてくれ。」
「良いのか?」
「うん、カズヤには助けて貰ったしウゲイル様もあんなだから。」
「大変そうだな。」
「まあね。だけど優しい所も結構あるんだ。野垂れ死にしそうだった俺達3人を拾ってくれた恩もあるし。」
「ん?フネトは父親が居るんだろう?」
「あんなの父親って言えない!フネトが小さい時、口減らしに家から放り出されてフネトがウゲイル様の所で稼げる様になったら、フネトの弟達の養育費を出せってタカって来るんだ!殆ど自分の酒を呑むのに使ってるくせに!」
「そうか・・。」
「ま、そんなこんなでウゲイル様には頭が上がらない感じかな。今だってこうして冒険者を出来るからね。ウゲイル様が訓練の途中で1人じゃ面白く無いから参加しろって、俺達もウゲイル様の屋敷で戦い方を教えられたんだ。周りは反対してたけどウゲイル様が、自分のボディガードに使うからって説得してくれてね。」
・・話している内に道の分岐点に差し掛かる。分岐点には看板が立てられていて、左側迂回ルートと書かれていた。その道は整備があまりされておらず、草があちこちに茂っている。ホスは今から走る道を見て溜息を吐いた。
「あれか・・ふ〜。」
「どうした?」
「ああ、偶に草むらに隠れている大石を踏むと馬車を傷めてしまう事が在るんだ。この馬車はレンタル車だから壊したら、お金を取られる。」
「そういう事か。だったら、俺が運転しよう。」
--「ラナ、事前に分かるよな?」
『お任せ下さい。』
「カズヤでもこの草むらじゃあ、分からないんじゃ無いのか?」
「いや、こういう草むらは良く運転した事がある。熟れているから安心しろ。」
「・・本当にカズヤはGランクなのか?確かに初心者用のボロボロの鎧は着ているけど、所々話す事と行動が異常過ぎるんだよな。ベテラン冒険者でも勘を頼りに速度を落として馬車を動かすのに・・。」
「間違いなくGランクだ。だが安心しろ、馬車の運転は上手くやるさ。」
「ああ・・。」
・・ホスと交代した数哉が運転すると、慎重にゆっくりと運転していたホスよりも3倍の速度で進んで行く。複雑な地形も草むらを透視して完全に見える様に数哉はラナにゴーグルを渡され、装着していた。ゴーグルの内部には、草が透明に近い形で映し出されている。
「ちょっ!?その速度は無茶苦茶だ!!」
「問題無い。」
道の凸凹も見えて出来るだけ避けている為に、振動もホスが運転するよりも少ない。
「そんな運転すると横転するぞ!ほら揺れが!・・少ない?カズヤ?」
「な・・問題無い。」
「・・カズヤは凄いな。カズヤが初めパーティーに参加するって聞いた時は、かなり不安だったけど今じゃ運が良かったって感謝しているよ。」
「そうか?」
「ああ。高ランク冒険者でも、草むらでこんな運転有り得ないし・・この分だと、大分速くワローの繁殖地の川に辿り着きそうだ。大量のベロウレが見えたら速度を落としてくれ。いくらベロウレが弱いとは言え、一斉に掛かられたら対応出来ないから。ベロウレは刺激しなければ襲って来ない。」
「分かった。」
『大量の大人のワローが襲って来ても数哉様には問題ないのですが、手間の掛かる者達です。』
--「そう言うな。ホスは、中々良い奴だと思うぞ。」
『畏まりました。』
--「どうだ?この先にベロウレは大量に居るか?」
『そうですね・・川の橋500m以内でワローが12匹、ベロウレが57匹おります。』
--「へ〜、そうか。」
・・少しして山道に沿い右に曲がると、視界に川が見えて来る。ホスが慌てて数哉を止めた。
「カズヤ!馬車を止めてくれ!」
「ん?」
数哉が手綱を引くと馬車は急激に速度を落としてから留まる。後部荷台からウゲイルが不信に思い声を出した。
「どうした?ホス?」
「はい、前方を御覧になって下さい。どうやら今日はここを通らない方が良さそうです。川を下っていないベロウレとワローが大量に見られます。キャンプを張って様子を見るのが得策かと・・。」
「ふむ・・あんな小さなベロウレなど問題無い。ワローも刺激しなければ行けるだろう、出発だ。」
「本気ですか!?ここ最近ベロウレに冒険者が殺されているとギルドも言っていたじゃないですか!」
「ふん!そんな、冒険初心者と私を一緒にして貰っては困る!私はB級ランクの騎士を教師に、小さな頃から訓練しているんだ!良いから馬を出せ。」
「分かりました・・。」
ガラガラガラガラ・・。
・・心配しているホスが数哉と運転を変わり、ゆっくりと馬車を進めて行く。川の傍の道は既に馬車で固められ草は生えていない。橋の少し手前まで緊張して進んだホスに災難が訪れる!後ろからスピードを緩めずに冒険者4人の乗った馬車がホス達の馬車を追い抜き通り過ぎた。
ドドドドドドドド!!
運転しているアホそうなモヒカン冒険者が舌を出しながらコチラに手を振っている。
「おっ!さき〜〜!」
「く!」
ホスはヤラれたという表情で馬車を急加速させようとするが、興奮したベロウレとワローに取り囲まれてしまう!
「くそ!あの野郎!!」
「皆!!ワローとベロウレに取り囲まれた!戦闘になる!」
フネトが荷台から顔を出す!
「おいおい・・多過ぎるだろう。」
ウゲイルが出て来てフネトを否定した。
「荷台で退屈していた所だ。丁度良い!」
ミオネはウゲイルの見立てが間違っていると苦言する。
「ウゲイル様!これは多過ぎます!何とかして囲みを抜けて数匹ずつとの戦いにしなければ全滅です!」
「ミオネは慎重過ぎだ。私に掛かればこんな奴ら。」
シャキ!
ウゲイルが剣を抜くと同時に全員が戦闘態勢に入った。馬が怯え、ホスの横で最後に落ち着いた様子の数哉が剣を抜く。
シャキン!
「食べられないお前達を斬るのは、偲びないが襲い掛かるものは仕方ない。」
そう話す数哉の目を見た一匹のワローが悲鳴に似た小さな声を出した。
「グメェェ〜〜。」
今度は大きく鳴くと一目散に数哉から逃げ出す。
「グメェェ〜〜〜!!」
ダダダダダダダ!!
一匹が逃げると全てのワローとベロウレが連鎖して逃げ出した!
「「「「「「「グメェェェ〜〜〜〜!!」」」」」」
ダダダダダダダダダダダダ!!
馬車の周りも川にもワローとベロウレは一切居なくなる。ウゲイルが突然笑い出した。
「・・ハハハハハハ!皆!見たか!これが私の実力だ!私が高ランクの者とワロー達は分かったのだ!ギルドの者には分からなかった様だがな!」
ミオネとフネトはウゲイルの言葉を信じてはいないが不自然なワロー達の行動に首を傾けている。
「・・・・・。」
そしてホスは、ワローが逃げた原因は間違いなくカズヤだろうと予想しつつ、声も出せずに数哉の姿をボ〜っと眺めていた。ウゲイルがその空気を壊し声を掛ける。
「よし!邪魔は居なくなったんだ!馬車を出すぞ!乗れ!」
全員、馬車に乗ると走り出した。運転はホスがしている。ホスは疑問を数哉にぶつけた。
「・・カズヤは何故Gランクって嘘をついているんだ?」
「ん?Gランクだぞ。ほら、ギルドカード。」
数哉はギルドカードを出すとホスの斜め前に掲げた。そこにはGランクとしての紋章が宙に浮き出ている。ボスはそれを見て驚きを隠せない。
「!?嘘だろ!本当にGランクなのか!だったら何故そんなに強いんだよ!」
「強くない。この前にAランク冒険者に全く歯が立たなかったしな。」
「くらべる所が可笑しいって。Aランクなんか化け物みたいな実力者ばっかりだし。とにかく、またカズヤのお蔭で助かった。ありがとう。」
「剣を抜いただけだがな。」
「エルラは目の前に居る者のオストラルエネルギー量を敏感に感じるって言うからな。カズヤが剣を抜いた時に漏れでたエネルギーを感じたと思うんだ。それで逃げてくれて助かったんだから、やっぱりカズヤのお蔭様って事だよ。」
「なら感謝されておくか。」
「ハハ!そんなに強いのにカズヤは何故俺達のパーティーに加わったんだ?他の美味しい仕事も有りそうなのに。」
「魔棍棒が欲しくてな。アルトデルト公都に売って無かったから参加した。」
「魔棍棒?確かにそんなに売ってる物じゃないけど、必要あるのか?」
「ああ。この前に初歩魔法講座を受けただろう。」
「でも本当は魔法を使えるんだろ?」
「いや、使えないから受けたんだ。杖を強く握り過ぎて、杖が壊れてな。」
「それでカズヤだけ練習している振りをしてたのか!」
「良く分かったな。」
「俺、1番近くで練習してたから不思議に思ってたんだ・・そうか、あの時杖が壊れたのは握力が強過ぎたせいか。冗談だと思ってたよ。それで頑丈な魔棍棒を?」
「まあな。」
「そんな理由で魔棍棒が欲しい人は初めて聞いた。」
・・辺りは薄暗くなり明かりを灯しながら暫く山道を走ると馬車が22台止まっている広場に着いた。テントも沢山立てられていて、それぞれのパーティーがキャンプを行なっている。馬車を広場の端に止めて、こちらもキャンプを行う為にテントを張り出した。張っている途中で歩いていた男にホスが叫ぶ。
「おい!お前!さっきは、よくもやってくれたな!」
男はワロー達を興奮させたモヒカン男であった。ちらりとホスを見たが全く意に介さず笑いながら仲間へと足を進める。頭に血が昇ったホスがモヒカン男を追い掛け右肩に手を置いた。
ドン!
モヒカン男は振り向き様にホスの胸を強く押した。ホスは後ろに倒れそうなのを堪えながら後ずさる。
「何だ!?てめぇ〜!・・おぉ!お前生きてやがったのか?良かったな。」
「お前のせいで死ぬ所だったんだぞ!ふざけるな!」
「俺は急いで馬車を走らせただけだ。変な言い掛かり付けようってんなら、アモワナ鉱石運びの勝負と行こうぜ!もし、お前らが勝ったら土下座でもなんでもしてやる!どうだ?但し!お前らが負けたらギルドのお前らの報酬も俺達が貰う!」
どうせこれも罠だろうと断わろうとしたが、ホスの肩に手を掛けてウゲイルが割り込んで来た。
「だったら、お前達が負けたら土下座の上にお前達の報酬を貰う。」
「ちょっと待って下さい!ウゲイル様!コイツら、絶対何かを企んでます!」
「この様なカスが企む事等、高が知れている。」
モヒカン男は、少し怒りの表情を出しそうになるのを堪えて話す。
「・・1時間で鉱石を多く運べたパーティーの勝ちだ。約束は守って貰うからな。明日、鉱石集積所で待つ・・。」
「ふん!良いだろう!」
男はその場から去って行く。
「ウゲイル様!」
「心配するな。日頃鍛錬している俺達が負ける訳がない。それよりもミオネの食事の用意を手伝ってやれ。」
「分かりました・・。」
モヒカン男は3人の仲間が酒を飲み騒いでいる場所に戻ると話した。他の男達3人もモヒカン並みに目立つ頭をしていて人相は良くない。
「掛かったぜ!くく!馬鹿だ!馬鹿!俺達のパーティーは、ここに居るだけじゃないってのによ!現場に後、10人いる俺達のパーティーに少人数で勝つつもりだぜ!アイツら!カハハハハハハ!」
「「「ハハハハハ!」」」
その会話を全て聞いた者が居た。ホスが男へ走って行くのを数哉は見てラナに実況して貰っている。
『・・と言う事で、奴らのパーティーは14人の様です。』
--「なるほど・・14対5か。」
『・・情報収集した所、この依頼を受けているのは最高でもEランクらしいので数哉様1人でも勝てます。』
--「なら安心だな。」
・・数哉は1人でテントに泊まり、次の朝を迎えた。正規の運搬ルートでは無い為に崖の切り立った道や岩がゴロゴロとして平坦な道は少ない。数哉は歩いているホスに近付いて、静かに話す。
「・・ホス、静かに聞いてくれ。」
「え?・・。」
「昨日のモヒカン男には仲間が居て集積所で合流するつもりだ。」
「やっぱり・・卑怯な奴らめ。」
「人数制限をしていないからな。そこでだ、ホス達は5kg程積んだら身軽なまま出発するんだ。」
「それじゃ!」
「し〜・・。」
数哉が口に指を当てるとホスは黙った。
「俺が何とかする。安心していろ。」
「カズヤが言うなら、きっと何とかなるんだろうな・・分かった。皆には上手く言って出発するよ。」
「ああ。」
前を行く数哉の背中を見ながらホスが思う。
--カズヤは勇者か英雄の子孫かも知れないな・・。
・・30分掛けて集積所に着くと、そこにも鉱山の洞窟入り口に広場がありアモワナ鉱石が大量に積み上げられていた。ギルド職員と国の鉱石を管理する役員もいる。鉱石を何処かに持ち逃げしない様に管理されていた。多くの他の冒険者達もギルドカードをギルド職員に見せて、体重計の様な大きな魔法具に乗ってから出発している。モヒカン男がウゲイル達が到着した所で話した。
「着いたな。それじゃあ俺達はもう検問を済ませたから出発する。魔法時計は持っているか?」
ウゲイルが腕時計を見せながら返事をする。手を当てると数字が浮かんでいた。
「よし、後は着いた時刻は向こうのギルド職員が証明してくれるだろう。せいぜい沢山持つんだな!・・クク。」
そう話してモヒカン男は出発していく。モヒカン男が出発すると次々と他の仲間達も出て行った。不安を覚えたウゲイルが呼び止めようとするがモヒカン男達は止まらない。
「待て!・・。」
焦ったウゲイルは全員に指示を出す!
「いいか!全員20kgは乗せろ!」
ホスがウゲイルに話す。
「ウゲイル様、大丈夫です。ギルド職員に確認した所、奴らのパーティーは非力で有名だそうです。俺達がGランク冒険者と何処かで知った様で賭けを持ち掛けて来たみたいです。こっそりと奴らを見張っていたら、そんな話をしていました。」
「ハハハ!そうか!奴ら私達を只のGランクと思って侮っているのか?」
「はい、あの様子であれば60kgも有れば勝てると思います。カズヤと話して45kgは俺達で持てますから安心して下さい。」
「お前が力持ちなのは知ってるが、アイツは無理だろう?」
「いえ、大丈夫です。先程確認しましたから。」
「一時間以内だぞ、分かってるか?」
「はい。」
「・・そうか。では、私達はチェックを済ませたら先に行く。」
・・ウゲイル達3人は、5kgずつ専用の袋に入れてリュックに詰め終わると馬車広場までの道程を急いだ。馬車広場まで着けばギルドの交都行き馬車に載せて運ばれる。ホスは数哉が本当に200kg近くの荷物を持てるか心配になり残っていた。その心配を余所に数哉はラナに転送して貰った頑丈なチェーン網付き風呂敷を広げると、そこへ設置されているスコップを使い、鉱石を投げ込んでいく。
ホスもギルド職員も、その場に居る全員がポカーンとその姿を見ていた。数哉の姿が何人にも見える程の速さで鉱石は積み上げられ、風呂敷ギリギリに入りそうな所で数哉は止めて、ホスに声を掛ける。
「まだ居たのか?ホス。こっちは大丈夫だから鉱石を積まずに急げ。一時間以内じゃ無かったって難癖を付けられても困るからな。」
「あ・・あぁ。」
ホスも出発して、数哉は風呂敷を括ギルド職員の傍にある計量魔法具に載せる為に背負い出した。そのままでは背負い辛い為、一旦少し転がしてから背負う。ホスが少しだけ振り向くと、遠くに巨大な風呂敷を背負った数哉が見えた。
「す・・ごい・・あ!急がないと!」
ギルド職員は魔法具が壊れないか心配そうに計量魔法具を見つめていたが問題無く計れ、その重さは1022kgもある。ギルド職員が不思議に思い尋ねた。
「・・重く無いのですか?」
他のギルド職員が突っ込む。
「重いに決まってるだろ!突っ込み方がオカシイって!何で持てるんですか!?だろ!」
「それよりも急ぐので。計量はもう良いのでしょうか?」
「えぇ。しかし・・その大きさでは狭い道は通れませんが・・。」
「ん?道を通る必要無いし。届ければ何処を通っても良いんですよね?」
「それは、まぁ?」
正規の道は落盤で塞がっていて、それ以外の道は冒険者達が通って来た険しい道しか無い筈で、ギルド職員は何を言い出すのかと不思議に思った。数哉は約150mもの高さの絶壁に手を掛けると、スイスイと壁を登り出す。数哉の姿は完全に荷物に隠れ荷物が勝手に昇っているかの様にも見えた。
ボコ!ガゴ!ドン!・・・・ガゴ!
壁に掛ける場所が無い所は壁を殴り、そして蹴り付けドンドン頂上まで登って行く。ギルド職員や冒険者達はそれをボ〜っと眺めていた。モヒカン男の知り合いらしい冒険者が話す。
「あれって、ブノガが勝負してたパーティーの1人だよな。」
「ああ、いいキミだ。ブノガ達には俺達みんな、痛い目に会ってる。アレに荷物運びで勝負するなんて自殺も良いとこだ。」
「そうだ!ブノガ達の土下座を見に行こうぜ!」
「でもブノガの奴、卑怯だから認めねぇで逆ギレするんじゃねぇか?」
「あの山の様な鉱石運んでる化け物に、お前が20人居たとして勝てるか?」
「絶っ対、無理!」
「だろ!サッサと行こうぜ。」
「ああ、そうだな。」
他の冒険者達もブノガには沸汁を飲まされている様で、鉱石を積まず引き返そうとしてギルド職員に止められた。
「待って下さい!鉱石はどうするのです!?」
冒険者が呆れながら話す。
「何処に運ぶ鉱石が有るんだ・・?」
「あ・・。」
数哉が今迄に積み上げられた殆どの鉱石を持って行った為に、暫くは運べる鉱石が無い状態となっていた。冒険者達はギルド職員の返事を待たずに急ぎ戻り始める。
・・数哉は険しい崖や谷間を難なく通り抜け、一直線に戻って行った。そして10分もすると馬車広場へと戻って来たが、又もや垂直に近い崖を下りる必要がある。数哉は少しずつ降りるのが面倒だと、ラナに頑丈な紐を出して貰って上からスルスルと下ろした。冒険者達とギルド職員が何だ?と崖を見上げている。大きな包み袋に、まさかアモワナ鉱石が入っているとは誰も予想していない。包みの真下近くに居た冒険者達は、恐怖を感じ少し距離を取った。
ドサ!
数哉は荷物を下に置き終わると、高い崖から飛び降りる。他の冒険者達は飛び降り自殺か?と声を出した。
「「「「「あ!」」」」」
数哉は格好良く地面の手前でクルリと前に回るが回転が足らず、そのまま仰向けに鈍い大きな音を立てて着地してしまう。地面は、数哉型に少し凹んでいた。
ドオン!!
「ぐ!」
『数哉様!?』
--「・・大丈夫だ、だが着地失敗だな。」
・・数哉の周りには、いつの間にか冒険者達が集まっている。
「生きてるのか?・・。」
「いや、あの高さだぞ!死んでるに決まってる。」
「でも生きてる様に見えるぞ。ムクって起きたりして・・。」
そう話した隣の男が、青褪めていく。
「やめてくれよ。変な事言うの・・。」
「なんだ?オマエ、怖いのか?だらしね〜な。」
ムク・・パラパラパラ。
数哉が上半身を起こすと鎧に食い込んだ土が落ちて行った。だらしないと言っていた男は高い悲鳴と共に飛び上がり、数哉が死んでいると思っていた冒険者達が声に成らない悲鳴を上げる。
「ヒョッ!!」
「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」
数哉は周りを気にせず立ち上がり、背中に付いた土を払っていった。悲鳴を上げた冒険者は、気不味い表情を浮かべている。数哉は周囲を見渡し、バインダーらしき物を持っているギルド職員へ話し掛けた。
「アモワナ鉱石の運搬量のチェックをお願いします。」
「・・!?あ!ああ、はい。」
数哉は降ろした風呂敷を開ける。大量のアモワナ鉱石を間近で見たギルド職員は、摩訶不思議な世界に自身が入り込んだのか?といった状態で停止していた。数哉はモヒカン男が来る前に測定して欲しくて話す。
「何か問題でも?」
「いや!確かに鉱山入り口担当のギルド職員から、大量のアモワナ鉱石を運んだ冒険者が来るから驚かず問題無く処理を頼むとの連絡はあったんだが、ここ迄の量とは思って無かったんでね。直ぐチェックするよ。チェックしたら計量魔法具に載せてくれ。」
「分かった。」
内部に鉱石以外の混入が無いか調べた後、数哉は計量魔法具に載せた。ギルド職員が尋ねる。
「それでは今所属しているパーティー名をお願いします。」
「確か・・ウゲイル隊だ。」
「はい、計量完了です。このカードに計量した重さが書かれていますのでギルドにお持ち下さい。報酬が受け取れます。」
・・ウゲイル達は急いで戻っていたが、その横を鉱石を運んでいない冒険者達が追い越して行く。ウゲイルは不思議に思い首を傾げたが順調に進んでいる為に特に付いて行こうとは思わなかった。そのまま進めば30分と少しで着く。
・・・一方、モヒカン男のブノガは馬車停留広場に着くとギルド職員に話した。
「計量を頼みたい、パーティー名は山男。知っているだろうが此処に居る14人がパーティーだ。」
「畏まりました、では鉱石だけが入った袋を出して並べて下さい。中を調べます。」
「あいよ。」
ドサ・・ドサ、ドサ。
・・3人のギルド職員が調べ終わると、計量魔法具にブノガ達は載せて行く。
「計量完了です。152kgですね、カードをどうぞ。」
「ああ・・ククク。」
ブノガ達は顔を見合わせ笑っていた。5人で150kgを運ぶとなると一時間では到底運べる道では無い。勝利を確信して笑っている。
「ハハハ!アイツ達の顔が見物だな!絶対!今まで通り卑怯だ!とか言うんだぜ!」
「おう!それで喧嘩吹っ掛けてきやがったら、ボコボコにしてやろうぜ!女も1人居たから服をひん剥いてやる!モミモミの刑だ!なんてな!」
「「「「「「「「「ハハハハハハハハ!」」」」」」」」
・・数哉はその勝ち誇った笑いの横から現れ、男達の輪の中に入った。男達は誰だ?と数哉を見る。
「遅かったな、お前らと勝負しているパーティーの一員だ。俺達の勝ちだな。」
ブノガは余裕そうな表情で、それを否定した。
「何を言ってやがる。お前らは知らないだろうが、こっちは14人パーティーなんだよ。悪いな、ククク。」
「「「「「クク・・。」」」」」
「いや、知ってるぞ。それでも俺達の勝ちだ。俺が運んだのは1022kgだからな。」
「ふざけんな!そんな量を1人で運べるか!?」
ブノガの土下座を一目見ようと戻って来た冒険者が割って入る。
「ブノガ、この子が運んだのは皆見ている。あそこに積まれたアモワナ鉱石は全部そうだ。」
ブノガ達が冒険者の指差す方にはギルド職員が馬車に積み込もうとしている鉱石が山として積まれていた。
「・・さては、今までの仕返しに俺達を嵌めようとしてやがるのか?俺はな騙すのは好きだが騙されるのは大嫌いでね。」
シャキ。
ブノガが剣を抜く。
--「ふ〜、こんな沢山人が居る所でコイツらを叩きのめすと目立ちそうだな。」
『数哉様、ではミロアとイロアにやらせましょう。』
「ん?居るのか?」
『はい、右上の崖の上を御覧下さい。』
数哉が崖の上を見た瞬間、ラナは数哉の声色でミロアとイロアの頭に響かせた。
『ミロアとイロア、降りて来なさい。』
「・・やれやれ、こんな遠くでマスターにも気付れない様に気配を断ってたのに僕達のマスターにはバレバレみたいだね。」
「・・みたいね。」
ビュン!スタ!
フワリ。
ミロアは高い崖を華麗に飛び降り、イロアは空中で魔法陣を構築して風を舞い上げ着地した。次の瞬間には、数哉の前に現れている。遅れてイロアも横に立った。
「マスター?こいつらを殺せば良いのかな?」
「楽勝ね。」
「違う、出来るだけ人を殺す事は禁止した筈だ。」
「そう言えば、そうだった。だったら叩きのめす?」
「ああ、こいつらが掛かって来たらな。」
落ち着いて話す数哉達を見て、ブノガが苛立ちを見せる。
「何呑気に喋ってやがる!さっき言った事を訂正しないと、今からお前らはボコボコにされるんだぞ!こっちは何人居ると思ってる!?」
イロアが笑いだす。
「ハハハハ!雑魚が幾ら集まろうと雑魚は雑魚。ね、ミロア?」
「そうだね、面倒だから早く掛かって来て欲しいな。早く斬り刻みたいし。」
ブノガは更に馬鹿にするなと怒りの表情となるが、数人の男が冷や汗を流し始める。
「・・まさか、ミロアとイロア?冷酷で有名な死神兄妹・・?」
「へ〜、私達って有名なのね。」
ブノガを含めた他の者達も、それを聞いて蛇に睨まれたカエルの如く動けない。少しでも動くと斬り刻まれると思っている様だ。
「マスター?どうする?こいつら動かないんだが、斬って良いのかな?」
尋ねれた数哉ではなく、ブノガが冷や汗を出しながら答える。
「ま!待て!待ってくれ!あんたが死神兄妹のマスターとは知らなかったんだ!俺達の負けでいい!すまない!殺さないでくれ!」
カラン・・カラン。カラン。
ブノガ達は武器を捨て殺されない様に土下座した。ミロアは残念そうに話す。
「折角、久しぶりに人を斬れると思ったのに・・。」
数哉はミロア達に話した。
「・・ミロア、もう良い。」
「了解、マスター。行こうイロア。」
「は〜い、またねぇ〜。アンタ達、マスターを本気で怒らせない方が良いわよ。死神兄妹って言われてる私達なんか、マスターが怒った時の数万倍優しいから。」
「本当だね。」
数哉は何も言わないが、ラナが数哉に余計な事を話さない様にミロアとイロアの頭に響かせる。
『誰がそんな事を言えと言いましたか?』
ミロアとイロアは条件反射で身体をを強張らせた。
「「!?余計な事を言ってごめんなさい!マスター!」」
数哉が話したと思い、ミロアとイロアが恐怖の表情で頭を下げる。死神兄妹と恐れられているミロアとイロアの様子を見て、ブノガ達は目の前にいる数哉が本当の恐ろしい化け物に見えて来た。土下座をしながら数哉に謝り続ける。
「「「「「「「すみませんでした!すみませんでした!・・すみませんでした!」」」」」」」
ミロアとイロアは男達が謝っている内に消えた。ホスを含めたウゲイル達も到着する。数哉達の様子を見て近付いて来た。
「あれは・・?カズヤか?いつの間に私達を追い越した?」
ウゲイルの呟きに、ホスがフォローする。
--やってくれたんだな、カズヤ。ありがとう・・。
「ウゲイルさま。それよりも、奴ら鉱石の量が少なかった様ですよ。カズヤに土下座しているみたいなので俺達も行きましょう。」
「ん?ああ。」
・・ウゲイルは近付きカズヤよりも前に出て、腰に手を当てて鬼の首を取ったの如く話しだした。
「・・これで分かったろう!お前らがどんな者に勝負を挑んだか!これからは相手を良く見て勝負するんだな!」
ブノガ達はお前に土下座しているんじゃ無い!とウゲイルを睨もうとした時、もう興味無いと横を向いていた数哉がウゲイルの斜め後ろからブノガ達をチラリと見る。ブノガ達の背中に悪寒が走り、顔を地面に伏せたまま動かなくなった。
ゾオ!
「「「「「「すみませんでした!!」」」」」」
他の冒険者達も、ざまあみろと笑っている。
「「「「「「「ククク・・・。」」」」」」」
「これでアイツらもデカイ顔を出来ねぇな。」
「ところで、あの凄い冒険者って何て言う奴なんだ?知ってるか?」
「いや・・でも絶対どっかの有名人だろ。」
「まぁ、あの大量の鉱石を持てるとなると・・A級か?」
「いや、S級だろ。」
「マジか!俺サイン貰って来ようかな!?」
「お前、勇者だな。」
「ん?」
「死神兄妹があんなに怯えてた奴だぞ。俺は怖くて近付けねぇ・・。」
「よし!俺もやめた!」
「・・・。」