第1話 悲しみ・・そして冒険へ
「それじゃあ、行って来るわね。ゲームばっかりせずに偶には外に出て、お日様に当たるのよ。」
「分かってるって!」
「お母さん。お兄ちゃんにそんな事を言っても無駄だって。どうせ帰って来るまでゲーム三昧だし!」
「うるさい!この!」
俺は右手を上げる振りをする。するとミシンの営業をしている何処にでも居る様なサラリーマンである45歳の父親から窘められた。
「こら!香澄もお前の事を心配しているから言ってるんだぞ!」
香澄と言うのは15歳で俺の2つ年下の妹だ。玄関に居る父親の後ろへ回りアッカンべ〜をしている。美人の母親に似て顔は可愛いらしいが、いつも見ているので俺には分からない。因みに俺の顔は自分で言うのも何だが平均より、ほんの少し上って所だろうか?
--心配している様には見えないけどな・・。
「・・気をつけて、行ってらっしゃい。」
「「「行って来ます。」」」
何故、こんな事になったかと言うと父親が1週間程の休みを取れたので急な家族旅行に行こうと言い出したからだ。既に引き篭もりだった俺は留守番を申し出た。
両親は、昔神童と言われた俺が引き篭もるのは充電期間の内だとでも思っているのか、学校の授業料を払っているのに説教の一つも無い。
・・心配してくれているのは分かるがゲーム以外、今の所興味が湧かないのだ。ゲームは良い。嫌な奴とも顔を合わせ無くても良いし、神童と呼ばれた頃、周りの理解力と資金難に愕然とする事があったが、どんなゲームでも時間さえ有ればお金を大量にゲット出来るのだから。
・・・・そんな訳で家に引き篭もり、オンラインのロールプレイングゲームに没頭して3日が経った。
--腹減った・・カップラーメンでも食べるか?
数哉はキッチンでカップラーメンにお湯を注ぎ、キッチン横にある居間のテレビを聞こえる音量にしてつけた。
--もう出来たか?
カップラーメンの蓋を開ける瞬間、テレビから聞こえる内容に驚きラーメンを倒してしまう。
『速報が入りました!・・・絵葉村の山道で大型バスにトレーラーが衝突して、大型バスが崖下に転落した模様です。なお、運転手を含め乗客32名全員の死亡が確認されています。』
バシャ!
--え!あのバス!父さん達が乗って帰る予定だったバスじゃないか!!?
数哉は手元にあったリモコンを握りテレビの傍に走った!
--嘘だ!嘘だろ!やめてくれ!
テレビのニュースから聞こえるのは所持品から予想される死亡者の名前だ。
『・・・佐藤圭一さん45歳男性、佐藤菜美子さん43歳女性、佐藤香澄さん・・・・・・と思われています。』
「嘘だぁ〜〜!!」
数哉は信じる事が出来ず、テレビのチャンネルを変えて見るが同じ内容を伝えていた。
--う・・そ・・だ・ろ・・・。
数哉は呆然としながらテレビを見続けている。すると不意に家の電話がなりだした。
トゥルルルル!トゥルルルル!
数哉は焦点が定まらず放心状態のまま、電話に近付き受話器を取る。
「・・・。」
「こちら津崎警察署の松本と申します。佐藤圭一さんのお宅で間違いないでしょうか?」
「・・はい。」
「落ち着いて聞いて下さい・・そちらに住んでいらしゃった佐藤圭一さんと佐藤菜美子さん、佐藤香澄さんが事故で亡くなったと思われ、大変申し訳ございませんが御家族の方に身元確認願いたいと思いまして。」
ガチャン!
数哉は電話を強く切った。
--な・・ん・・・で・・だよ!
数哉の目から涙が止めどなく流れる!再び警察署からの電話が鳴るが数哉はそれを取る事が出来なかった・・。取ってしまえば現実を受け入れてしまう気がして・・。
トゥルルルル!トゥルルルル!トゥルルルル!・・・・トゥルルルル!
「ウワァァァ〜〜〜!!!」
・・・そして無限とも言える遠い場所で、泣き叫ぶ数哉を見ている者がいた・・・。
『やっと見つける事が出来ました!ご主人様!!すぐにお側に参ります!その悲しみ!素早く解決致します故!』
『・・惑星デアラールの転送を開始しなさい!』
『『『『『『は!!』』』』』』
グォン!グォン!グォン!グォン!・・・!
地球の約50倍程もある惑星デアラールは巨大なオーロラに包まれる様に暫く発光して・・消えていく!
・・・翌日、数哉の下に警察が訪ねて来た。
ピンポーン!ピンポーン!・・・ドン!ドン!ドン!
二人の警察官はチャイムを鳴らしても数哉の反応が無い所を見て、自殺でもしていないか?と心配して扉を強く叩いていた。すると扉は少しだけ開かれる。
ガチャリ・・。
52歳の男性警察官と23歳の警察官は顔を見合わせ、扉の隙間から新米警察官が話した。
「良かった!居たんだね!」
数哉は新米警察官の笑った顔に腹が立つ。
「何が良かったんだよ・・?何が良かったんだ!?帰ってくれ!!」
ガチャン!!
扉は強く閉められる!それでも若手警察官は職務を全うしようと扉越しに話し掛けた。
「数哉君だね!君の気持ちは分かる!けれど現実を受け入れて乗り越えるんだ!君のご家族もきっとそう願っている筈だ!」
中に居た数哉はそれを聞いて怒りが込み上げる!キッチンにあるフライパンを取り出して玄関の扉に叩き付け、叫んだ。警察官はその大きな音に驚き顔を顰める。
ガン!!
「ふざけんな!!お前に何が分かる!・・帰れ!!」
「だ!・・。」
更に説得しようとした新米警察官の肩を中年警察官がポンポンと叩いて首を振った。
「しかし!」
「今日は大人しく引き上げるんだ。彼の言う通り、彼の苦しみは彼にしか分からない。家族が元気なお前が言っていい言葉じゃない・・。」
「はい・・。」
「数哉君!又、明日来る!困った事が有ればこの連絡先に電話をくれ!」
中年警察官は手帳に自身の携帯電話番号を走り書きすると、そのページを破って玄関扉の下の隙間に挿し込んだ。
・・・泣いて泣いて・・身体中の水分が無くなるのでは無いかと思うぐらい数哉は泣いた。何かに縋り付きたい気持ちで涙を流し、真っ暗な部屋の中・・ゲームを続ける。
・・やがて疲れきった数哉はベッドに凭れたまま目を閉じ、コントローラも持ったまま寝てしまう。
・・・数哉は夢を見ていた・・現実逃避する様に・・。
「・・父さん、母さん・・・香澄・・俺、暫くファンタジーな・・・世界で・・生きていく・・から・・・・・お土産持って帰る・・・だから・・待っててくれよな・・・。」
数哉の閉じたままの目から涙がポロリと落ちた。数哉の寝言を一人の超美少女が聞き入れる。数哉は気付かない内に、その美少女の美脚上に頭を載せて寝かされていた。
「それをお望みですか?畏まりました。」
・・・・・数哉が目を覚ますと自身のベッドの上で目を覚ます。
「・・いつの間にか寝てたのか?」
数哉は目を覚ました事にがっかりし、これからどうするか・・?と両手を広げた。
ぷにょ。
「あん・・ご主人様・・いきなりですか?」
数哉の右手が何とも言えない柔らかな感触を感じる。数哉は驚いてバッ!と上半身を起こした。横には長く綺麗なツインテールの黒髪で、上品な白のネグリジェを着た数哉と同じ年頃の美少女が横に寝ている。首元は大きく開いており、白く透き通る様な肌が見えた。美少女は優しく数哉に微笑み掛けている。柔らかな感触と感じたのは、右手が美少女の左胸を鷲掴みしていた。数哉は急いで、そこから手を放し尋ねる。
「誰!?」
その超美少女は、売れっ子アニメ声優の様な可愛い声で応えた。
「RANAマークⅢです。早速ですが御命令を。食事になさいますか?お風呂になさいますか?○ックスになさいますか?それとも世界征服になさいますか?」
ニコッ。
「いや!2つ変なの混ざってるし!・・え!RANAマークⅢ・・?って、俺が昔宇宙に打ち上げた!?」
「ピンポ〜ン。」
「ピンポ〜ンって。確か俺が作ったのは50センチ四方の立法形タイプに頭と手と足を付けたヤツだろ!?」
「自らで改造致しました。」
「・・原型全く留めて無いな・・・。でも確かにそれも可能な様に作ったような・・。」
ポッ。
少女も上半身を起こし頬が赤く染まる。
「そんなに見られると恥ずかしいのですが・・やはり○ックスになさいますか?」
「しないし!?と言うか機械だったら○ッチ出来無いだろ!」
「いいえ。ご主人様に喜んで頂ける様に○ッチは可能ですし、数哉様の子供も無限に産めます。数哉様の頑張りが必要ですが・・。」
「無限に頑張れ無いし!というか産めるのか!?機械なのにどうやって!?」
「○ックスです。」
「いや!それを聞いてるんじゃないよ!機械なのに子供出来無いだろ!」
ポッ!
再び美少女の頬が赤く染まる。
「・・改造いたしました。」
「ポッ!って・・どれだけ改造すれば子供が出来る様になるんだよ。」
「二年三ヶ月十二日七時間・・・・・。」
「いや・・時間を聞いてたんじゃ無いんだが・・・あ!それより父さん達!そっか・・もう一人なんだな・・・。」
数哉が俯き、涙を零す。
「いいえ、ご主人様は御一人ではございません。」
「慰めはいい・・・父さん達はもう居ない・・・。」
「生きていらっしゃいますよ、御三人共。見られますか?」
美少女の目が光り、部屋の壁には父親達が元気に食卓を囲む姿が映し出された。
「映像?・・夢?」
「いいえ、現実です。少し無理をしたので、時空の歪み修正に手間取っていますが。過去を変えさせて頂きました。」
数哉はバッ!とベッドから出ると家族の無事を確かめようと走って部屋の扉を開ける!
「父さん!母さん!香澄!」
ガチャ!
「・・って、なんだこれぇぇぇ〜!!」
数哉が扉を開くと辺り一面だだっ広い荒野が目に飛び込んできた。空は澄んで青く、地球と同じ様に太陽らしき物が地表を照らしている。
「ご希望のファンタジー世界です。」
落ち着いた様子で数哉の後ろで美少女が話す。数哉は放心したまま現状を把握しようと尋ねた。
「あの・・・ラナさん?」
「ご主人様に名付けて頂いたのはRANAマークⅢですが、ご主人様が呼びやすい様で有ればそれで構いません。」
「そうじゃ無くて、ここ何処・・?」
「オールバルト星雲の中の惑星で、レリクスと呼ばれる世界にあるマルセドラスタ王国です。」
「・・で、俺の住んでた家は何処?」
「地球に普通に存在しますよ。先程、ご家族が食事をされていた映像を見られたと思いますが。」
「何で俺の部屋だけこんな所に?」
「いいえ、ご主人様の部屋はそのまま地球に存在致します。この部屋は、その部屋を模して作りました。住み慣れた環境の方が落ち着くかと思いまして。」
「何故ここに?」
「ご主人様が寝ながらファンタジー世界で、ご家族のお土産を買いたいと仰いましたので。御心配無く!ご家族様には海外留学と認識して頂いております。偶に連絡さえして頂ければ怪しまれません。連絡もコチラから簡単に取れます。直ぐにご使用なさいますか?」
「・・本当に生きてるんだな。」
立ち尽くした数哉の目からポロポロと涙が流れる!
「ご主人様?私・・何か余計な事を?」
数哉はガバッ!とラナに振り向き、抱き着いた。ラナは勘違いして話そうとするが数哉からそれを流され、感謝の言葉を掛けられる。
「やはりセッ○」
「ありがとう!ありがとう!ありがとう!!」
「え・・?」
・・ラナは抱き着き涙を流す数哉を見て少し微笑み、軽く数哉の背中を擦っている。
「・・・良かった・・ラナ・・俺な・・昔、考えが周囲に理解されず、信頼してた人達から裏切られて研究に嫌気が挿してたんだ・・それからは何をしても面白く無くなって・・俺がもっと馬鹿なら・・・俺が俺じゃなければ!って自身を嫌いになってた。」
「ご主人様・・。」
「でも今は違う!俺が俺で良かった!ラナのお陰で自分を好きになれた!・・。」
そう話した後、抱き着いたままの数哉がラナの顔を見つめた!ラナはゆっくりと目を閉じる・・が、数哉はラナを放して荒野に振り返り、両手をグーにして空に振り上げ喜びを表現した!取り残されたラナが目を開けて残念そうにポツリと呟く。
「よっしゃぁぁ〜!!待ってろよ!ファンタジ〜!!」
「・・そこはキスでは・・・。」
・・何故にラナが遥か遠い惑星に居たのか?また特殊な多くの能力を使えるのかは、いつか分かるかと・・?