彼女と見知らぬ女子の攻防
暇つぶし程度に呼んでください。
「お前誰だよ。邪魔だ、退け」
俺の前には見知らぬ女子がいた。
人一人分の広さしかない道に、退く気のない女子。
なんで俺がこんな目に遭わされるんだよ……。
***
俺の名前は粕野丹。
学校では丹助だのカスだの言われている。
カスは悪口だな。
そんな俺は今日、学校から家に一時間で帰らなければならない。
彼女が家に来るからだ。
学校から家まで5分くらいしか掛からない。
つまり、このゲームは余裕クリアだな。
『キーンコーンカーンコーン』
学校の終わりを告げるチャイムが鳴る。
現在は4時、彼女が来るのは5時だ。
フッ……余裕すぎるぜ。
……と、思ってたんだが。
「何なんだよお前は。名も名乗らず退きもせず、邪魔すぎる」
「春夏」
唐突に名前を言われ、出鼻をくじかれる感が否めないな。
少し呼吸を整え、俺は向き直る。
「春夏……か、なるほどいい名前だ。さ、退いてくれ。俺の家には彼女が来るんだ、退いてくれ」
「いや」
真顔で答える春夏。
肩までの長さの青い髪、それに合わせたかのような青い瞳。
見てくれだけでいえば超絶可愛いだけに、勿体なさが残る。
「なあ、春夏と俺って何か関係あったか? 多分無いよな? 退いてくれないか?」
「ある」
可愛げなく答える春夏の髪が風で靡く。
う……もしかしたら彼女より可愛いかもしれん。
ヤバい、このままだと浮気しそうだ、早く帰らなければ……!
「要件あるなら聞く、だから言ってくれ」
「私と付き合って」
「俺には彼女がいる。それを念頭に置き、もう一度問おう。要件を言ってくれ」
「私と付き合って」
ため息混じりに息を吐く。
くっそおおおお! 可愛すぎるぜ、おい!
俺に彼女がいなければ間違いなく付き合っている。
だが、俺はクズにはならないって決めているんだ、だから――
「お前とは付き合えない。悪いが諦めてくれ」
「では、彼女さんと合わせてもらえますか? それでこの件を収めましょう」
それ、君が言う?
なんて思ったが、口には出さなかった。
面倒事を避けるために。
「じゃあ電話させてくれ」
俺は春夏と少し距離を取り、携帯を耳に当てる。
『もしもし、丹助? どったの?』
『あ、月菜か? お前に合いたいって奴がいるんだけどさ、どうするよ』
『別にいいんじゃない? 今日はえっちぃことする気ないしね』
えっちぃって……。
きょうび聞かないな。
俺が少したわいのない話をしていると、春夏が俺から携帯を取り上げる。
取り返そうとするも、上手くかわされ、挙句の果てに電話までされた。
「もしもし、私、丹さんと結婚します」
一言そういうと、春夏は勝ち誇った表情で電話を切る。
いや、修羅場巻き起こすなよおおおお!?
――10分後、息を切らした月菜が現れた。
「だ、大丈夫か?」
「何にも大丈夫じゃないわよ! なんで他の人に告白されてるの!? 結婚って何? ちゃんとせつめいして!」
言葉に詰まる俺。
意味がわからん、なんで俺が結婚の約束を……、
「すみません、嘘です」
「「は?」」
俺と月菜は素っ頓狂な声を出す。
口をポカンとさせている俺達に、春夏は続ける。
「楽しめました。ありがとうございます」
俺はその後、彼女と遊んだ。
次の日、学校で彼女の話をすると、
「有名人じゃん。『遊び半分でからかう春夏』って奴だろ? 出会ったのか、どんまいだな」
俺は、自分が無知なんだなと思い知らされた。
他の作品もあるので、よろしくお願いします。