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⑥ ボランティアグループ『桜』

 美少女の名は香織といった。まず、正人から香織に連絡をして、ボランティアに興味を持っているクラスメートに連絡先を教えてもいいか、と確認した後に、麻友が電話を入れた。


 香織の説明ではボランティアは自分一人でやっているのではなく、主に緑ヶ丘の生徒でボランティアグループを作って活動しているので、ほかのメンバーにも一応確認してから返事をする、と麻友は言われ、2日ほど待ったのちにオーケーの返事が返ってきた。


 数日後の昼休み、麻友は弁当をたべながら、


「ヨシザワッチ、ありがとね!」とうきうきした声を上げた。


「昨日初めて顔合わせに行ってきたんだ、例のボランティアの!」麻友は声を弾ませ、


「ホントに驚いた、香織さんもきれいだけど、もちろん、群を抜いてきれいだけど、緑ヶ丘の子たちって、みんな、ほんとに、おしとやかで、ほっそいの!みんなかわいいのよ!」


 麻友はボランティアの内容のことではなく、『ボランティアグループ桜』のメンバーの容姿や持ち物の話に終始した。また、メンバーの一人はクラシックバレエのあるコンクールで優勝したとか、別の一人は自作の料理をインスタにあげていてプロ並みだとか、そんな話ばかりを我が事のように自慢した。彩羽いろはは、その麻友の様子を見て不思議な気がした。おおらかで、器の大きな人、と今まで思っていた麻友とは別人みたいだと違和感を感じた。


「ヨシザワッチは知ってるよね、北上さんって、中学3年の時、アメリカ留学してたのね!」


 すごいすごいとはしゃぎながら話す麻友は、まるでアイドルの追っかけのように彩羽には見えた。


 正人は、


「うん、緑ヶ丘は私立でエスカレーター式だから、そこらへんは融通が利くからね。彼女の英語力はすごいよ」


 正人は彼女の発音の良さと、交換留学生や外国人教師と普通に会話が成立する北上香織の様子を熱心に語った。


 そして正人は、「噂では、その留学は彼女の勉強のためだけではなく、北上代議士の海外とのパイプを作る、という目的もあったらしいよ」、と付け加えた。


「ほんとにすごい人だよねえ………。まるで、皇室外交みたい………。」


 うっとり、という感じでそう言った麻友は、完全に北上香織にのぼせ上ったようだった。


 そしてやっとボランティアの中身の話になった。


「それでね、最初から、対象者と話をするのは無理だから、あたしはそばにいて、横で話を聞いてるように指示されてね…………。」


 嬉々として語る麻友のそばで、彩羽は、ボランティア先の方を『対象者』っていうのか、なんかイメージ違うな………、などと考えていた。


麻友は嬉しそうに、

「とにかくあのメンバーに入れるっていうのが………、あたし誇らしいわよ、ほんとにありがとう、ヨシザワッチ」と正人に再び礼を言っていた。そして、


「そうそう、北上さんが、吉沢君にお礼を言っておいてって。ヨシザワッチ、ボランティアに協力してくれてるんだって?」と付け加えた。


 それまで黙って黙々と弁当を食べていた正人が、驚いてむせてしまった。そして、


「あ、ああ。」と少し戸惑ったような声を出した。正人は口の中のものを飲み込んだ後、


「それは大したことじゃないんだ」と話し始めた。


「北上さんから、僕が毎日移動する範囲でいいから、ゴミ屋敷がないか、もし時間があったら見ておいてくれないかって頼まれたから。ほら、君のことで、彼女の家に電話した時に」


 正人は控えめに言ったが、北上香織に感謝されたことはとてもうれしいらしく、顔は紅潮し、心なしか、手が震えているようだった。おそらく、彼女の頼みに、正人は自分の行動範囲のみならず、果てしなく広く、そしてくまなく、ゴミ屋敷を探して回ったのだろう。


「へえ、そうだったんだ。ありがとう、ヨシザワッチ。」


 もう、いっぱしのメンバーになったつもりの麻友が正人に礼を言ったが、ぼんやりと今もらった幸せの中に浸っている正人の耳には届かなかったようだった。


 そして弁当を食べ終えると、また、それぞれプリントの予習に入った。


 間もなく中間考査が始まる。



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