③出会い その二
「あたしの家は少し遠いんだけど、おばあちゃんの家がこの近くなの。だから、このおまんじゅう、小さいころからよく食べてるんだ」
麻友がにこにことおまんじゅうを口に運びながら言った。麻友は少し離れた校区の公立中の出身だった。今日初めて自転車で来てみたが30分以上かかったという。
「家が近いっていいね!うらやましいよ!」麻友は学校まで自転車ならば10分かからず着く距離に住む彩羽をうらやましがった。
「それにしてもいきなりのテストの話だったねえ」もう食べ終えた彩羽はお茶のお代わりをもらい、つい愚痴が出た。
「でもね、あたし、受験のためだけで高校生活終わるのは嫌なんだよね」麻友は力強く言った。
「何かやりたいんだよ、何か!」彩羽は麻友の勢いに気おされながら、
「部、部活とかって、こと?」と訊いた。麻友は、
「うん、まあ………、それも含めて、かな。」と答えた。
「部活ってもうきめてる?」彩羽の問いかけに、
「中学の時も入っていたからバレー部かな」と麻友が答えた。彩羽は、麻友の170センチを超えているだろう長身の、ガタイのいい体を見て、きっと、バレー、うまいのだろうな、と思った。
彩羽は中学の時は友達に誘われ文芸部と美術部に入っていたがどちらもこれといった活動はしなかった。明確に答えられる麻友を少しうらやましく思った。
「でも、あたしの言ってる何かっていうのは、そういうものじゃないのよ。………まだ自分でもよくわからないんだけど………なんていうか、プライド?」
「え?」言っている意味が分からない。麻友は下を向いて考え込みながら、
「もちろん、スポーツやるのもプライドかけてるけど、それとは違って、自分に対してもっと………何ていうか、プライドを持てるものを探したいっていうか………うまく言えないんだけど」
プライド。彩羽は思いもかけなかったクラスメートの悩みの高尚さに、ますます自信を失った。
その時、店の入り口の引き戸がガラガラとあき、ややぽっちゃりめの、やはり見覚えのある北西高校の制服を着た男子生徒が入ってくるのが見えた。そして
「すみません、黒砂糖饅頭ください」という声が聞こえてきた。
彩羽と麻友は顔を見合わせ、笑い、その笑い声に気づき振り向いた男子生徒にこっちこっちと手招きをした。
男子生徒はやはり同じクラスの人間で、同じ連想をしてここにやってきていた。またも、お店の人にお茶をもらい、同じテーブルに着いた。
「二人は同じ中学なの?」吉沢正人と名乗った男子は下を向いたままぼそぼそと聞いてきた。
「ううん」彩羽と麻友はほぼ二人同時に答え、顔を見合わせ笑った。
その様子を見て、正人は「女子はいいよね、すぐ友達になれて」とまたぼそぼそといった。
「男子、まだうちとけてない?」麻友が正人に尋ねた。
正人は、まだ誰とも話してないよ、と聞き取れないほどの声で答えた。
「そっか。」と麻友は相槌を打ち、「明日からだね、きっと。」と笑顔で言った。
それに対して、正人が何か言ったが聞き取れなかったので、彩羽と麻友は二人そろって「何?」と聞き返してしまった。
正人はちょっと驚いたようで、肩をびくっと震わせ、「ポ、ポジティブだなあ、って………。」
と言ってまたうつむいてしまった。
――――-あ、やばい。怖がらせてしまった。――――彩羽と麻友の二人はこの固まった雰囲気をどう壊そうかと必死に頭を巡らせた。その時。