⑯再会
あれから、もう五年が過ぎた。彩羽は東京で学生生活を送っていた。担任や学校の希望には添えず、自分自身で最初からわかっていたように、東大には合格しなかったが、私立文系コースに的を絞ったおかげか、思いがけず希望通りの大学に受かり、学校に、サークルに、アルバイトにと忙しい日々を送っていた。
今日は、アルバイトの合間にショッピングをし、チェーンのカフェで一休みしているところだった。
ふと、彩羽は何かを感じ、からだを固くした。
―――――誰かに見られているのかな。
昔から、人の視線に敏感なところかあり、いつも不安を感じていた。 だが、それとほぼ同時に、
「ここいいですか?」
彩羽の前に相席の許可を求めてたずねる女性がいた。
彩羽はスマホから顔を上げ店内を見渡した。彩羽は声の主が女性であることにホッとし、ああ、ただ席を探していただけの視線だったのか、と警戒を解いた。
「どうぞ」
手にしていたスマホから目をあげながら女性の方を見た。だが、
………どうして?
女性の顔を見た彩羽は息をのんだ。
…………香織さん?
一目見たら忘れられないほどの美少女、北上香織の顔がそこにあった。
そして、よく見ると別人だった。まず、身長が違った。北上香織は165センチくらい、それ以上ではなかった、と彩羽は記憶していたが、目の前の女性はもっと大きく、170センチを超しているように見えた。そして、瞳の色が違った。北上香織は茶色がかった瞳をしていたが、目の前にあるのは、黒すぎるほど黒い、意志の強そうな瞳だった。だが。
彩羽はその瞳から目が離せなくなった。…………知っている、この目を。かつて自分を見つめて励まして、支えてくれた瞳。
「麻友ちゃん?」
目の前の女性が息をのんだ。
その美しい顔がゆがみ、信じられないという表情が広がった。その表情は、貼り付けた仮面のような美貌を突き抜け、その下の、本来の顔の持つ筋肉の動きを現した。
そしてその人は瞳をうるませ、微笑み、うなずいた。