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鰻女  作者: 山田 六十
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7

 昼休み、正也は二日前の事も含めて友栄に事の次第を話した。場所は屋上。昼休みになったと同時に友栄に胸倉を掴まれ、そのまま連行されたのである。

 屋上は本来解放されておらず鍵も閉められている筈なのだが、何故か彼女は易々と扉を開けていた。


「ふーん」


 友栄は興味なさげにリンゴジュースのパックを吸う。地べたに行儀悪く座っているせいかやたらと短いスカートから細い足がちらついており、視線を下げないように意識するのが大変であった。

 正也としては下着が見えるので注意したのだが「お前が見なければ良いだけだろうが」と叩かれて返されたのでもう何も言えない。


「つかアンタ何ノコノコ着いて行ってんの?」

「いや、まぁその色々ありまして」


 知恵と殆ど同じ事を言われ正也はまたも言葉に詰まる。


「まっ、アンタの好きそうなタイプではあったかな」


 そう呟いて友栄は鼻で笑った。知恵もそうであったが、自身は好みの女性であれば簡単に引っ掛けられる様な男だと思われているのかと、少しばかり悲しみを覚える。

 だが事実として釣られていたのだから、何一つ反論の余地が無く押し黙るしかない。


「しっかし、普段人に偉そうに注意する癖に自分は年上女性を食い物にするたぁ良い御身分だな? オイ」


 咎めるように友栄は言った。普段の口煩さに相当根を持たれているらしい。朝も似たようなことを言っていたことを思い出し、正也はうなだれる。彼としては偉そうにしているつもりは毛頭ないのだが、彼女の指摘自体はもっともでありどうにも居たたまれない心持ちであった。


「いや、その。そういう法に触れる的な事はしてない訳で……」

「誤魔化そうとしてた時点で後ろ暗い自覚はあるだろうに」


 なんとか弁解を試みるも、そでなく返されてうな垂れる。


「で? 鼻の下伸ばしてたら、実はヤバい女で付け回される羽目になったって訳だ。ざまぁねぇな」

「いや、そういう訳ではないけど鞄の中漁られたのかもなーっていう」

「充分ヤバイっつーの。食事誘っておいて隙をみて個人情報奪取してくるとか、しかもしゃあしゃあと恩を着せようとする辺り相当だな。」

「まぁその、でも確定じゃないし」


 昨日感じた南への不信感を思わず吐露した結果、友栄は完全に黒だと決めて話を進めていた。しかしこの後に及んで南を擁護する正也の態度をみて、彼女は哀れんだ目で見た。


「アンタみたいな人間が将来、結婚詐欺にあうんだろうな」

「そんなことはない。少しは疑ってる」

「少しとか言ってる時点でダメなんだよバァーカ!」


 反論できずに正也は押し黙った。確かに本来は彼女位強気に考えるべきなのだろうが、直接的には被害を被っていない為どうにも悪し様に言うには憚られる。


「んで? どうすんの? 警察にでも相談すんの?」


 友栄は焼きそばパンをかじりながら正也に尋ねる。しかし当の正也はあまり乗り気ではなかった。まだ彼の中では、自分の考えすぎという線が捨てきれてないからだ。


「いや、流石にそこまでしなくても」

「だって事実なら窃盗だろ? ストーカーって線もあるしなぁ」

「といっても、まだ決まったわけじゃないしな」


 煮え切らない態度に呆れながら、友栄は肩を竦めた。


「だから確定してないんだし、警察だってそれ位じゃ動かないだろ?」

「知らね。まぁ切っ掛けが切っ掛けなだけに、被害者ぶって話しづらいか!」


 心底バカにした態度で笑うと、どうでも良さそうに友栄は空を見上げる。

 なんと言われようとノコノコと誘いに乗ったのは事実なので正也としては言い返すこともできず、唯々顔を下げて落ち込むことしかできない。そんな正也を横目で見て彼女は不愉快そうに小さく舌打ちした。


「アンタさぁ、そうやって人の頼みをホイホイ聞くのいい加減やめろよ」

「いや、そんなに安請け合いはしてないよ。面倒だと思ったら断るし」

「ウソつけ。最初は拒否するけど強く押されると結局渋々承諾してるじゃねーか」


 どうだろうと正也は今までの自分を振り返るが、頼みを事聞くときの自分の考えなどイチイチ記憶しておらず首を傾げた。そんな正也をみて友栄は諦めたように溜息をついた。


「なんかアホらしくなってきた」


 立ち上がると肩を竦めて正也を見下ろす。


「まっ、いい機会だな。精々死なない程度に刺されてろ」


 そう言い残すと友栄は扉の方へ歩いて行った。

 縁起でもない物言いではあるが、彼女なりに心配してくれているのだろうなと正也は理解した。

 しかし、話を聞いてもらって幾分かスッキリした気持ちになった。結果的に彼女に詰め寄られたのは良かったのかもしれない。


「友栄。 ありがとうな」


 そう思い彼女の背中に礼を述べると、扉を開けたまま振り返り「バーカ」と一言返してから姿を消した。相変わらず素直じゃない彼女に苦笑すると、立ち上がり追う様にして屋上を後にした。

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