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鰻女  作者: 山田 六十
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 駅前から少し離れたファミリーレストランで、友栄は不愉快そうにドリンクバーのコーラを吸った。その姿を眺めながら正也は皿に盛られたフライドポテトをつまむ。


「そんなに怒るなって」

「うるせぇ」


 舌打ちをして正也から視線を外す。先ほどの南とのやり取りにずいぶんと立腹しているようであった。その姿を見て小さく溜息をつく。

 最初に仕掛けたのは明らかに友栄だ。正直言って彼女の態度は褒められたものではないが、それでもいつものような小言を言うような気にはなれなかった。


「まぁその……助かったよ」


 礼を言う正也に対して友栄は無言でコーラを吸う。なんとも素直でない彼女に正也は肩を竦める。

 結局の所、彼女なりに正也の助け船になったつもりなのだ。偶々見かけた際に彼が困っている様子であった為、彼女なりの方法で南を引き剥がそうとしたのだろう。ただ致命的に不器用な所為でああいった形にはなってしまったが。

 それでも正也は友人の気遣いに素直に感謝していた。しかし半分不良に絡まれていたようなものの為、些か言葉の歯切れは悪い。


「それで? 結局付き纏われてる訳だ」

「ん? まぁ……そうなんだろうな」


 散々うやむやにしてきた為肯定し辛いが、あの様子からしてみればほぼ確定であろうと流石の彼も理解した。その回答を聞いて友栄は小さく鼻を鳴らした。


「どおりでシケた顔してたわけだ。鰻女が」

「鰻女って……妖怪じゃないんだからさ」


 忌々し気に舌打ちをする友栄に正也は呆れた様に肩を落とす。知恵もそうであったが、南に対する印象が完全に鰻と紐付けられてしまっていた。直接的な接触が無かったのでそうなってしまうのは致し方がないのだが、あんまりな呼称に正也も流石に南が気の毒に感じられた。

 対して友栄は「似たようなもんだろ」と吐き捨てた。得体の知れない点で言えば、確かにその通りかもしれない。と正也は思ったが、下半身が鰻の体になっている南を想像すると、頭を振って映像を追い出した。


「しかし、なんか想像していたのとは違ったな」

「ふぅん? 具体的には」


 ポテトを咥えて興味深そうに正也は尋ねた。彼は最初から南と直接やり取りを交わしていた為、遠目からでは彼女がどんな印象を持たれているかが少々気になったからである。


「教養のあるお嬢様ってイメージだったがな。実際は男に媚びてて頭が軽そうだ」


 お嬢様の部分にはあからさまな皮肉が込められてはいたものの、友栄にしてはずいぶんと好印象を抱いていたものだと正也は少々驚く。


「小賢しくはありそうだけどな」


 馬鹿にしたように鼻で笑う。どうやら南は完全に彼女の敵対リストに加えられてしまっているらしい。


「一応言っておくけど、暴力はダメだぞ」

「へーへー月岡様はお優しいこって」


 心底呆れた様に友栄は椅子に寄りかかると天井を見上げた。優しい以前に一般論なのだが、彼女はそういうのを気にぜず行動を起こすため正也としては気が気でない。今回に至っては彼女に直接的な被害はないので心配はないであろうが、念のため釘をさした。事が起きれば結果的に彼女自身が割を食う事になるのでそういったことはさせたくないのであった。


「まぁどうせ付き纏われてるのはアンタだしな。私には関係ない」


 おざなりに注意を聞いていた友栄は残りのコーラを一気に吸ってそう締めくくった。


「しかしアンタの何を気に入ったのか知らないけど、鰻女も無意味な事するもんだ」

「? どういうことだ?」

「付け回す。だけじゃなくて直接コンタクトを取ってるんだ。アイツ的には親交を深めたいんだろ」


 友栄は空のコップを手に取ると席を立つ、ついでとばかりに正也のコップも手に取り少量残っているアイスコーヒーを吸いつくして苦い顔をした。彼女の言葉聞いて正也は「あぁ」と声を漏らした。


「確かに、友好を築きたいなら逆効果だよな。でもストーカーってそういうもんじゃないのか?」

「違う違う」


 正也の言葉を聞いて友栄は否定の言葉を出した。どうやら微妙に言いたいことが違うらしく正也は首を傾げた。


「アンタ、ああいう男に媚びたなよっちぃ女嫌いだろ。無駄な努力ごくろーさんってこと」


 得意げにそう言うと友栄は冷笑する。当の正也はまるで意味の分からない彼女の発言に困惑する事しかできなかった。


「何飲む?」

「え? あ、あぁ。アイスコーヒー」

「胃。悪くすんぞ」

「……じゃあアセロラ」


 素直にオーダーを変えたからか、はたまたそのチョイスなのか友栄は正也の言葉に鼻を鳴らして笑うと、ドリンクバーへと歩いていく。自分でも把握していないその女性の好みに物申したい気分であったが、何故だか碌な事にならない気がしたのでただ茫然と彼女の後姿を見送った。

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