加代と千代
「私は血を見ることが好きです」
論文大会。その一言に教室がざわついた。
「あんなことがあったのに、どうしてそんなことを言うの?!」
静寂の音がし、そのあと金切り声が響いた。不思議と、そのほうが静かだと感じたのはなぜか。
しかし、音量は上がっていく。
うわんっと聞こえた。
クラスには40人くらいの人間がいる。
そのうちの大体の人間が声を出したので、聞き取れず音の塊になったのだ。
そうすると、もう論文大会なんてやってられなかった。
そのあと放課後になって、私は聞いたんだ。
「チヨちゃんどうして、血を見るのが好きだって言ったの?
カヨちゃんは、死んだんだよ。たくさん血を吐いて、死んだよ。」
千代は窓を開けた。生ぬるい風が入ってきた。
そうか、季節は変わった。もうすぐ梅雨入り。この匂い。
「血の中に、いのちをかんじるからだよ」
千代の髪を風が梳かした。
「加代は死んだ。たくさん血を吐いて死んだ。でも、生きてたから、血を吐いて死んだ。」
カヨとチヨは双子だった。
命の容器を、一緒に使っているように見えた。
カヨが血を吐き死んだとき、チヨはどうしていたのか。
その答えを、探し続けたクラスメイト達。
「加代の血を見た。美しいと思った。だから、私は血が好きなの。」
そうして、風がさらっていったのだ。
加代のことを大好きだった、千代のこと。
おわり
あとがきを書くことは、恥ずかしいです。どうして文章でそれを語れなかったのか、そこを恥じるからです。けれど今そんなことを言っている実力はないので書きます。
何かを好きだという、その表現に、正しさという尺度だけで評価する。
そして悪いものが人は好きです。悪いものをたたくことが、大好きです。
けれど私は、そういうことを、くそくらえと思うのです。