魔術師の家
今回も短めです。
ーーあれから一時間程が経っただろうか。
既に日は沈み始めていて、夕日が街をオレンジ色に染めていた。
「ここが、私の家よ。」
大通りを抜け、町の端のほうに来た俺らの目の前には、レンガ造りの立派な家が建っていた。
周りを見渡しても他に大きな家はない。
ここまで大きく立派な家はこの辺ではここだけだ。
「へー………こりゃまた………立派な家だな。」
俺は感嘆の声を漏らす。
「ふんっ。そりゃそうよ。おとーーーいえ、父上の努力で建てた立派な家なんだから。」
「ん?もしかしてお前の家、お金持ち?」
「ええ………そうよ。父上が魔法の研究で偉大な功績を残してね。莫大な量の懸賞金をもらったのよ。」
「へーー魔法の研究ってお金入るのか。」
「功績さえ残せればね。ただ、偉業を成し遂げるには、同時に莫大な量の研究費がかかるものよ。実際、父も若い頃は、一日一食パン半分ぐらいで生活していたそうよ。」
(……………うわぁ。よくそれで生きていけるなぁ。普通なら死ぬわ。)
アメリアの父、超人説。
これを確信し、俺はただただ先人の偉大な生き様に、絶句していた。
「………さぁ、入っていいわよ。」
アメリアが家に招き入れる。
その声に俺は我を取り戻し、「お邪魔します。」と挨拶をしつつ、ついに謎のツンデレ超絶美少女魔術師、アメリアの家に足を踏み入れた。
「おおおおおお!!!」
玄関に入ってまず俺が上げたのは感嘆と驚きの声だ。
外観からでも広いのは充分分かるが、いざ入ってみると想像を遥かに絶する程の広さに加え、快適でとてもきれいな空間が目の前に広がっていた。
決して少なくない物はよく整理されていて、この家は心落ち着く夢のマイホームそのものだった。
「すげぇ………。こんなに広くて快適な家見たことねぇ。」
声を震わせながら俺は素直に感想を述べた。
「母はとてもきれい好きで、いつも家の掃除をとても念入りにやっていたわ。
それを引き継いで、私も家にいるときはいつもやってるわ。
まぁ、最近は仕事が忙しすぎてできてないところも多々あるのだけれど。」
「へぇ………流石女子だな。俺には全く理解できないぜ!」
「褒めてるのか貶してるのか分かんないわ!」
アメリアが吠える。
ーーははっ。可愛いなぁ。
俺は心の底からそう思う。
そんなやり取りをしながら、俺は次にリビングに上がった。
そこには、大きめのソファー二つと、真ん中に大きめのテーブルが一つ。
上には、おしゃれなシャンデリアが灯りをともしていた。」
ソファーがあったことも驚きだが、やはり相変わらずの広さと、清潔さ。心が安らぐ空間を、見事なまでに作り上げていた。
「…………いいな。この家。」
素直に心の底から感動していた。
たかだか家にここまでの感動を覚えたのは、生まれて初めてかもしれない。
この家を一目見れば、きっと誰もがこの家に住んでみたいと思うだろう。
そのぐらいには、物凄く素晴らしい家だった。
(………せっかく異世界へ来たんだ。俺もお金ためて、こんな家に住んでみたいなぁ………)
夢がまた一つ、増えた。
「………いいわよ、座って。疲れたでしょう。
そう言ってソファーを指さした。
「おっ!サンキュ!………はぁーーー!気持ちいいなぁ!」
ソファーに座ると同時に俺はとても柔らかい感触を感じていた。
ただ座っているだけなのに、自然と心が安らぐ気持ちよさを感じられる、素晴らしいソファーだ。
正直こんなもの、現実世界でも見たことない。
ーー一体どんな素材が使われているのだろうか。
と、そこでアメリアが口を開く。
「そうでしょう。今からご飯作るからそこでくつろいでいていいわよ。
ああ、なんなら、家を見て回ってもいいわよ。
でも、物を壊さないようにね。」
ーーこいつ、ツンデレなのに、めちゃくちゃ気が利く。
素直に尊敬した。
「分かった。ありがとな。」
そういって、俺は席を立つ。
さて、まずはこの家を見て回ろう。
そのとき、ふと俺の頭に一つの疑問が浮かんだ。
実際は特になんてことのないことだった。
だが、この後すぐ、俺は後悔するのだ。
ーー自分の配慮が足りなさ過ぎて、お互いの関係に不和を築いてしまった、と。
そんな後悔の元となった俺の疑問から、話を続けよう。
「なぁ、そういや、親御さんは?」
ピタリ。とアメリアは動きを止める。
その場に沈黙が訪れ、一気に空気は氷点下へと下がる。
ふいに、ポロッと、アメリアは涙を零した。
(………え?まさか、今の質問まずかった?)
俺は割と鈍くて気の利かない空気の読めないやつなので、もしかして、今マジで余計なこと聞いたかなと、不安を感じ始めていた。
ーー空気が、重たい。
相変わらずアメリアは泣き続けている。
ーーあぁ。まさか、
俺が答えにたどり着くギリギリ前だった。
「………死んだ」
と、凄く悲痛な声で、声を絞り出すように答えた。
「……………そうか。悪いこと聞いたな。ごめん。」
申し訳なさで心がいっぱいになりながらも俺は頭を下げた。
「………家を見てる。」
そういってその場から逃げるように、相手の返事を待たずに、リビングを出た。
ーーだから、俺には聞こえてなかった。
「…………私の、バカ。」
続きが思いつかなくなったので、しばらく休載します。
その代わり、別の作品が思いついたのでそちらをぜひご覧ください!