出立
ここはサクッと進みます。
それでは、どうじょ(/・ω・)/
「早いもんだなぁ、もう旅立つのか」
「ウス、お世話になりました!」
ガルボロのおっさんに出会ってから月日で言えば一年ぐらい経ったであろう。
俺は村を出ることにした。目的は勿論街に行って冒険者になることに尽きる。
この一年で村にもだいぶ馴染んではいたが、やはり「異世界で冒険者」という甘美な響きにシンド氏は勝てなかった。
「シンド、行っちまうのかい。寂しくなるねぇ」
これは近所のおばさん。
何かと世話をしてくれる節介好きなおばちゃんだった。
「若ぇんだから、人生楽しまないとな!」
そう言って快く送り出してくれるのはおばさんの旦那さん。こちらもおっさんと呼べる年頃だろう。
何夜男同士のエロ談義に花を咲かせたことか。因みにこのおっちゃんはメロン党で桃党な俺とは宿敵でもあったがまた立派な心友でもあった。
「気を付けてね?偶には顔を見せに帰って来てくださいね?」
ルセナさん、今日もおふつくしい。
何度でも帰って来ますとも!
「おう、一人前になるまでは帰って来なくていいぞ」
おい、どけよ殺人顔筋肉ゴリラマン。
折角癒された目が腐りそうだ。
「シンド兄ちゃん、行っちゃうの?」
ああああああ、ガルセナ~兄ちゃんを許してくれ~。
たくさんお土産持って帰って来るからな~
可愛い弟の頭を撫でてから軽くハグをする。
ここら辺だいぶ異世界ナイズされたなー、と時折気付く。
「ほれ、門出だ。持ってけ」
そうして投げ渡されたのは一本の剣だった。
だから、そうポンポン重いもんを放るなと、あ、ルセナさんがお説教してくれてるから良いか。
「バスクの爺さんがお前にってよ。今は寝てるから戻って来た時はしっかりお礼言っとけ」
バスク爺はこの村唯一の鍛冶師で村の何でも屋でもあるありがた~い存在だ。
皆はそのお礼によく食べ物を彼に置いて行くのだ。
「分かりました。良いお酒でもあれば買って帰ります」
「酒って、ああ」
勿論、その時はアイテムボックスの出番である。
おさがりの剣は既に腰にさしてあるので、祝いの剣は肩に背負う。
鞘は紐付きで難なく背負えた。バスク爺のこの行き届いた心遣いに感謝。
背中には既に背負い袋があるが、まぁ何とかなるだろう。
「それじゃあ、行って来ます」
「気を付けてな~」
「しっかりやるんだよ」
「体調にはお気を付けて」
「い、いって、らっしゃ、びえええん」
「ガルセナ、男なら笑って送ってやれ」
くぅぅ、不覚にもジンときた。
熱いものがこみ上げて来るのを止められない。
他にも気付いた村人たちが手を振ってくれる。
あ、おっさんたち置いて来た物に気付くかな?
多分大丈夫だよな?
んじゃ、
「いってきまあああああああああああす」
『うるさい!』
アレェェ?
□■□■
ローブを着た一人の若者の姿が遂に見えなくなった。
「行ってしまいましたね」
「ああ」
頼りなさげだが、何処か変わった雰囲気を持つ若者。
見た目は何処に居ても違和感がない様な身形なのだが、その言動には所々にズレがあった。
かと言って怪しい訳ではなく、本人は至って楽天家で気の良い若者だった。少々気が抜けすぎてはいたけれども。
「シンド兄ちゃんいつ帰ってくる?」
息子よ、ちょっと気が早くないか?
「ガルセナ、そんな急かなくてもシンドさんはちゃんと帰って来るわよ?」
ルセナがそう言うとガルセナも安心できたのか、表情が明るくなった。
にしても、アイツにだいぶ懐いたんだなと、ふと思う。
「ほんと!?」
「ええ、本当よ。シンドさんが嘘ついたことある?」
「ないよ!」
「なら大丈夫よ、ね、あなた?」
ルセナに釣られてガルセナもこっちを見てくる。
こりゃ、首を横になんか振れんだろう。
「ああ、アイツはしぶといからな。どんなに危険な目に遭おうとぬるりとすり抜けて帰って来るさ」
「???シンド兄ちゃん帰ってくるの?」
分かりにくかったか。
「ああ、帰って来るぞ」
「だそうよ、良かったわね、ガルセナ」
「うん!」
しかし、ここまでアイツにべったりだったとは。
なんかイラッと来るものがあるな。
「ガルセナ、今日は父さんと遊ぶか?」
「ううん、シンド兄ちゃんに貰った「タケトンボ」で皆と遊ぶんだ!」
恐らく、村の子どもたちと遊ぶのだろう、仕方がないか。
だが、ここでもアイツの名が・・・
「あなた、シンドさんって村の子どもたちの中では人気者なのよ?」
アイツが?
初めて聞くが。
「ガルセナの面倒を看てくれてたでしょう?それが何時の間にか村の子どもたちを集めて時々遊ぶようになって、その時に変わった遊びや遊び道具を披露してたら、ね」
納得だ、アイツは基本無知だが、時折謎の言葉や知識を話す時があった。
変わった遊びや遊び道具ってのもその類だろう。
「にしても、そんな時間あったか?」
「あなたとの鍛錬の間ににちょくちょく、ね。勿論家事なんかも手伝ってくれたわよ?」
このそつのなさ、やはりアイツは気が抜けない。
恐らくルセナの好感を得ようとしたのだろう、アイツはルセナの胸や尻に視線が向いてたからな。
ルセナもルセナで気付いてるだろうに咎めないから
「・・た、あなた。もう、顔をじっと見たと思えば考え込んじゃって。どうしたの?」
そう言って顔を覗き込んで来る彼女は初めて会った時と変わらず美しい。
いや、美しさは年を経るごとに増している。
「い、いや、なんでもない」
「ふふふ、顔赤くしちゃって」
そう言って腕を組んで来る彼女は少し幼げだ。
「さぁ、お家に戻りましょうか」
そう言って離れてしまうとどこか残念な気分になる。
その代わりに俺の手を小さな手が握ってくる。
「お父さん、帰ろ?」
「ああ、帰ろうか」
その小さな温もりを逃さぬよう握りしめると俺たち一家は我が家へと戻って行く。
居候のいなくなった我が家へと。
我が家に着くとシンドの使っていた布の下から、幾つもの薬が出て来た。
どうやら以前話していたスキルで作ったものらしい。
風邪、痛み止め、痒み止め、正直こんなにあっても無駄になるだけだと思われるほどの量だった。
全く、ホント余計な気ばかり回る野郎だ。
だけど、まぁ、ありがたくもらっておくか。
何だかんだで仲良い二人でした




