憧れの上位冒険者たち
雨が凄いですね。
アメニモマケズ、それではどうじょ(/・ω・)/
「それでは出発する」
指揮官らしき人の声が響くと続々と人の列が流れていく。
向かう先には数百匹単位のゴブリンが待ち構えているらしい。
正にゴブリンの楽園。ゴブリン好きの方々が大興奮待ったなしのぱらいそなのである!
それを想像すると酷く憂鬱だ。
だって、ごぶごぶ祭りだぞ?美人がたくさんいるならまだしも、醜くて、皺くちゃで、不衛生なゴブリンさんの大集会だぞ?需要ねぇだろ。ニッチ産業にも程があるわ!
というか、今までよく街は襲われなかったなと思う。
「シンド殿、あちらを見ろ」
セルティさんが珍しく俺を急かしてくる。
なので、視線を移すとその先にはガタイの良いおっさんがいた。馬鹿でかい戦斧を持って。
「あのお方は上位六級”強撃”のゴリアテ殿だぞ!あ、あそこも見てくれ」
更に視線を動かすと高そうな深緑色のローブで顔まで隠した輩がいた。あれは不審者だろ。
「上位五級”翡翠”のナナシ殿だ!」
どうやら彼女は冒険者オタクらしい。
まぁ、元居た世界だってアイドルやタレントのおっかけやファンなんていくらでもいたし、あの人たちも一種の公人みたくなってしまっているのだろう。
「ん?」
ふと、俺は気になる人を見つけた。
その子は燃えるような紅い髪を肩甲骨辺りまで伸ばし、装いも赤いドレスで着飾っていた。
もしかせずとも、冒険者なのかもしれないが、この場にはあまりに不釣り合いな気がする。
「なっ、紅髪に赤着の少女!”焼滅”のキャスリー殿か!」
今までで一番の驚き様だった。
なに、あの幼女凄いの?
セルティさんの熱量に吃驚である。
そして、視線を戻すとバッチリと視線が合った。
誰とだって?
もちろん件の幼女だよ、バカ野郎。
◇
「ふ~ん、それじゃあお主らは最近パーティを組み始めたのじゃな?」
この如何にも老練な口調を幼女ボイスで見事に使いこなすは上位二級冒険者キャスリー殿である。
セルティさんが騒ぐから気付かれてしまったらしい。
といってもそこそこ距離はあったので、キャスリー殿の聴力がおかしいだけである。
「はっ、はい!」
幼女に緊張しながらも頬を赤らめて敬語で嬉しそうに返事をする美少女。
危険な香りがするのは気のせいだろうか?
「で、そっちの平凡顔」
え、ダレソレ~?
どこどこ~?
「オマエじゃ!ちぐはぐな装備をしてふつーな顔した貴様じゃ!」
もしかしなくても俺らしい。
幼女に此処まで扱下ろされるとは、ぐぬぬ。
「ハイハイ、その平凡顔でございますが、如何したのでしょうか。お手洗いですか?申し訳御座いません、当方に厠はありません。ですので、向かって右手にあります自然豊かな木々のざわめきをお耳に入れながらどうぞ一発やっちゃってください」
言われっぱなしは性に合わない。
これぞ大和魂じゃ!
「ほう、お主そんなに消し炭になりたいか」
声の温度が下がったのに何か暑いな。
あれぇ~、なんか幼女の体から火のオーラみたいなの見えるんですけど、気のせいですよね?
「すいません、調子に乗りました。許してください、お願いします」
下位七級冒険者シンド、リスクマネジメントには定評がある男だ。
命のためなら、例え幼女の靴先でも舐めてやろうぞ!
「うむ、分かれば良いのじゃ」
満足げに頷く幼女。
おのれぇい、今に見ておれ。必ずやこの屈辱、百倍にして叩き返す!
臥薪嘗胆の心意気で行くとしよう。
「で、平凡顔。貴様から何か面白い匂いがする。正直に全て話せ」
まさかの超絶電波系かよ。
勘弁してくれ。
「一体何をでしょうか?皆目見当がつきませんけど」
こういう手合いは大概騒動を巻き起こす。
その対処法は二つ。即抑え込むか全スルーか。
前者は無理だ。冒険者級位的に考えるなら実力は相手の方が上の上のそのまた上なのだから、多分。
なので、俺は後者のスタイルで行くことにする。
「またも儂に逆らおうとは、お主覚悟は良いな?」
この理不尽の塊、誰かどうにかしてくれよ。
保護者の方は何処だよ!
「キャスリー、若者を虐めてんじゃねぇよ」
低い声の主は馬鹿でかい戦斧を持ったおっさんだった。
確かゴリアテ氏だっただろうか。
上位冒険者、それも名の知れた人が二人も集まったから、より一層周囲からの注目は集まる。
正直、此処から逃げだしたい。マジで〇ソする五秒前の気分だよ、ああ、腹痛い。
で、件のゴリアテ氏はガルボロのおっさんやグスタフさんという厳ついおっさんどもを見て来た俺でも気圧されるほどにデカかった。
何と言うか、生物としての格の違いと言えば良いのか、そんな漠然としたものを悟ったのだ。
厚みが違うとはよく言ったものである。
「ふん、”強劇”の小僧か。儂の暇つぶしを邪魔するとは」
「いやいや、暇つぶしで人を消し炭とか暴君以外の何者でもねえな、おい」
キャスリーがこちらを凝視する。
いっけね、つい突っ込んじまった。
「・・・そうか、そう言われればそうかもしれんな。うむ、ここは広い心を持って許してやろうぞ」
少し何か考えてから幼女はそう言ってさっさと戻って行った。
自由奔放と言えば許されると思っているのだろうか、あの幼女。
「災難だったな」
そう言ってゴリアテ氏が話し掛けて来た。
うん、やっぱりデケェ。
隣のセルティさんは目を輝かせながら言語機能と思考能力がそれぞれ停止している。
しかし、足は動いている辺り、生きてはいるのだろう。
「そうですね、あ、初めまして自分はシンドって言います。冒険者一年目のルーキーです。そんで、こっちは相棒のセルティさんです」
「おう、俺はゴリアテだ。一応、今回の作戦で一部隊の長を務めることになっている。恐らくお前らは俺の下にはつかないだろうが、今回はお互い頑張ろうや」
朗らかに笑う彼にはやはりカリスマと言うべき何かがあるように思えた。
言葉にするなら絶対的な安心感、若しくは心強さだろうか。
上位冒険者という地位を笠に着ないのも個人的にポイント高い。
「うっす、よろしくお願いしゃす!」
挨拶は大事だ。
冒険者は儀礼にこだわらない分、こういった上下関係の礼儀は中々しっかりしている。
実力主義の体育会系という造語がピッタリくる。
ゴリアテ氏は俺の肩をポンポンと叩くと元の位置に戻って行った。
恐らく、電波幼女を引き戻すためにわざわざこちらに来てくれたのだろう。
そう思うと、ゴリアテ氏の好感度爆上げである。
「・・・・・ハッ!あれ、ゴリアテ殿は?」
漸くトリップから戻って来たセルティさん。
どうもおはようございます。夢の時間は終わりましたよ。
「な、なんと」
とてもショッキングなご様子。
まぁ、運が良ければ、また挨拶ぐらいは出来るだろうと彼女を慰めながら歩を進めた。
それにしても上位冒険者と言うのは良い意味でも悪い意味でも目を引くもんだと分かった。
あまりにもセルティさんが凹んでいるもんだから、機を見てサインでも貰っておくか、そんな事を考えながら俺たちは進む。
凄腕の方々の登場回でした。
まぁ、定番っちゃ定番ですな。




