誠意は大事
それでは、どうじょ(/・ω・)/
無論、俺は逃げられなかった。
スキンヘッドの強面から睨まれたら誰だってそう動けまい。
なんで、グスタフさんはこっちを見るかね。
「小鬼の饗宴ってなにか知ってます?」
俺はセルティさんに一先ずそう尋ねた。
すると、彼女は「嘘だろ?」みたいな顔をして溜息をついた。
ちょっと恥ずかしい。
「ゴブリンが繁殖して何十、何百もの群れを作ることだ。それが確認され次第、早急に最寄りの冒険者ギルドが総力を挙げて巣を潰すのは至極常識的な事だぞ?」
つまり、ゴブリンがいっぱい!でその巣をぶっ潰しましょう!という話で、これは一般常識のようだ。
だってしょうがないじゃないか、俺転生してまだ二年経ってないし、つまり二歳になってないってことだし。言い訳?上等だ。こちとらゆとりだからな。
「それで、緊急依頼ってのは」
またしても「ダメだコイツ」みたいな顔された上に首を横に振られた。
そんな扱いしなくたっていいじゃんよ。
「言葉通り、急を要する依頼のことだ。ギルドや国から出されることが大半で、他の通常依頼と大きく異なる点が二つある」
ほうほう、何ぞや。
「一つは強制力を伴う場合があるということだ。小鬼の饗宴のような事態において重要なのはやはり戦力だ。それを集めるためにある程度の実力を持つ者達は特別な場合を除き、依頼を強制的に受けることになっている」
勤労の義務とかそんな感じだろうか。
「もう一つは参加するだけで報酬が受けられる点だ」
それはスンバらしいやないか!
「しかし、働きが大したものでなければ、貰えるのは定められた最低限度の報酬だけだ」
う~ん、この鞭の激しさにシンド、ダウン。
「その変わりと言ってはあれだが、お目溢しもある。小鬼の饗宴のような魔物群の際には倒した魔物の素材を自らの懐に収めることが暗黙の了解となっている」
おう、飴が来た!
つか魔物群ってなんぞや?
訊きたいけど、話の腰を折るのも悪いし、後で訊くか。
「ただ、その素材を手に入れた所で伝手を持っていない者は薄利でギルドや商人に安値で買い叩かれるのだがな」
世知辛いな。
こういう時にも社交力と営業努力はついて回るのな。
「というか、こんなことも知らないシンド殿は一体どうやってこれまで生きて来たのだ」
転生二年目のバリバリ異世界ルーキーです。
「まぁまぁ、自分の無知っぷりは一旦置いときましょう。それで、この依頼ですが、受注するための冒険者級位とか、そこら辺の線引きはどんな感じで?」
ここ大事。
「それは事態の規模やその対処するギルドで確認できる戦力を集計してから判断するものだからな、今の時点では誰にも分らん」
うむ、つまり今の時点では悩んだところでどうしようもないと。
さて、どうしたものかと考えていると、
「それじゃあ、話の続きと行こうか」
爽やかにカットインを決めてくるアンセム。
認めよう。君の無意識な図々しさはこのミクラムでも五本の指に入ることを。
「いや、結構だ。我々は今の所仲間を増やすつもりはない。他を当たってくれ」
セルティさん遂にドストレートお断り入りました。
腹に据えかねていたようで、まぁ、ご苦労様でした。
ザマーミロ、ウケケ。
「んじゃ、どうします?一度、宿に戻りますか?」
「そうだな、色々と準備をしておこう。シンド殿、買い物に付き合ってもらえるだろうか?」
この会話、これ以上お前ら入ってくんなよの牽制の意味も入っている。
距離感、大事。
「喜んで」
そして俺たちは何もなさげに席を立ちその場を去ろうとする。
「ちょっと、待ってくれ!」
そうはイカのキ〇タマと奴は俺たちの進行方向に割って入って来る。
ちょいちょい、下品だよチミィィ?付き纏うのは良子ちゃんだよ、全く。
「あまりしつこいようなら、このまま受付に報告するぞ?」
完全にセルティさんの目が敵を見るものになった。
この人って結構壁作るタイプなのよね。結構気が短いし、頑固だし。
そう考えると、彼女と組めている俺は凄い奴なのかもしれない。
「ちょっ、アンタいい加減にしなさいよ!」
ここでカシィ氏が乱入!
ちょっと弱腰に入り掛けたアンセムを庇い前に出た!
流石は同性、全く以てセルティさんに負けていない。
セルティさんの方も負けじと睨み返す!
そして俺はいつプロレスの実況アナウンサーになったのだろうか。
「いい加減にするのはそちらの方だろう。しつこい勧誘をしているのは貴殿らではないか」
正論である。
因みに俺はネム子ことスゥ氏を観察している。
彼女、時折目を開けるのだが、数秒と経たたずに再び瞼が閉錠する。
見ていて面白い。
と、思ったりしていると突如スゥ氏の目が現れた。
効果音をつけるなら「クワッ!!」というSEがピッタリであろう開眼具合である。
「カシィ、非はこちら、理は相手にある」
そう確かに言った。
予想通りというか、やはりその声は気だるげだった。
「ッ、分かったわよ」
しかし、不思議なことにその一声で暴れ牛カシィ氏の暴走が治まろうとしていた。
「アンセム、善意は差し出すもの。押し付けてはだめ」
「で、でもな、スゥ」
「なに?」
あまりにドスの効いた「なに?」に俺だけでなくセルティさんまでもが衝撃を受けていた。
ぽわわーんとした外見や雰囲気からは想像がつかないものだった。
「い、いや、なんでもない」
流石のKY王アンセムさんでもこの一声には勝てなかった。
この少女侮れない。
「うちのパーティメンバーが迷惑をかけました。お詫びにこれあげます」
そう言って差し出されたのは
「お札?」
何やらややこしい書体の文字が書かれたお札だった。
「なっ!スゥ、それは!」
「迷惑を掛けた。なら、その償いが必要」
アンセムの焦りの声を一喝した眠い系少女。
しかし、これは一体。
「そっちの人は分かってるっぽいけど、一応、説明。渡したのは簡易聖符。傷を負った箇所にその札を張るとちょっと誤魔化せる」
あ、セルティさんはご存知でしたのね。
まぁ、つまりはこれ回復アイテムとかそんな感じなんだろうか、でも”誤魔化す”ってことは
「傷を塞げたり、痛みを和らげられるけど、根本的な治療にはならないってこと?」
尋ねてみるとスゥ氏はコクリと頷いた。
小動物っぽくてかわいいな。
「あくまでもその場しのぎ。本当に困った時に使うことを勧める」
まぁ、プロのスポーツ選手でも体に傷を負いながらプレーを続けた結果、早くに引退する羽目になったり、酷い人は私生活に影響が出るまでになる人だっているんだもんな。
「使わないに越したことはない、か」
そんな俺の呟きに少女の目が更に開いた、気がした。
「そんなこと言われたの、初めて」
あ、もしかしてこれを作ったのは彼女だったのか。
とすると、今のは失言だったな。
「ああ、気を悪くさせちゃったか。ごめんな」
「いや、そうじゃない。すごく、新鮮だっただけ」
どうやら、ぷんすかぷんした訳ではないようだ。
とりあえずは一安心。
しかし、アンセムとカシィの視線が痛い。
視線に物理的な力など宿っている筈がないのに。
「んんっ、スゥ殿、こちらは有難くいただいておこう」
セルティさんが咳払いしながらそう言った。
「ん、礼はいらない。こっちこそ、迷惑掛けた」
「では、失礼する」
「ん」
それを合図に俺とセルティさんはその場を離れた。
「なんで、あんな人があのパーティにいるんでしょうね?」
「分からん。何かしら理由があるのだろうさ」
足早に歩く素気ないセルティさんの背を追って俺はふと湧いた疑問を棚上げした。
それと、セルティさん歩くの速いっす。
ちゃんと謝れることは大事です(遠い目




