エマージェンシー
それでは、どうじょ(/・ω・)/
グスタフ、ローザ両名にきつく怒られてからというもの、俺とセルティさんはよく話すようになった。
最初は自分の好きな物の話から始まって、今では敵に遭遇した際の連携やハンドサインまで話し合っているぐらいのチームっぷりである。
「えーっと、指一本で頬を掻くのが”怪しい”で・・・」
しかし、頭脳がそこまで優秀でないシンド君には厳しいものがある。
はっきりと覚えている訳でもないが、前世でそこまで勉学に励んでいた記憶もない。
部活動も野球部ではなく帰宅部だったし。
「そうだ。それで指二本で指す方角は?」
「う~ん」
そして、セルティさんの方はとても物覚えが良く、あっという間にサインを作り、それを覚えてしまった。
今はご覧の通り、俺は出来の悪い生徒で彼女は先生役である。
「おい、アレ」
「ふざけやがって、遊びじゃねぇんだぞ」
「イチャコラしやがってぇぇぇぇ」
と、外野のヒソヒソ声が飛び交うここは冒険者ギルドの中で、俺達は備え付けられた机を使って補習を行っている。
かなりの羞恥プレイならぬ周知プレイである。
この状況を一刻も早く脱したければ、覚えるしかないのだ。
本人にとっては大真面目だが、他人から見ているとふざけているようにしか見えないようで、先のように非難や嫉妬の対象となっている。
ひじょーに不本意な言われ様だがここは甘んじて受け入れるしかないのである。
「ちょっといいかな?」
振り向くとそこには三人組の男女が佇んでいた。
◇
メンドクセェェェ
それが話し掛けて来た三人組に対する俺の率直な感想だ。
まず、三人組のリーダーで唯一男のアンセム。歳は俺と同じくらいだと思う。
顔は整っていて、身だしなみにもそれなりに気を遣っていることが一見で窺える。
金髪がサラサラしていて、余裕のある態度は異性からするととても素晴らしい存在と言えよう。
しかし、この男、人の話を聴かない。
これだけで地雷待ったなしである。その詳細は後で。
次は赤みがかった茶髪のロン毛少女。名はカシィ。
目付きは鋭く、その色は嫉妬の炎と侮蔑の氷を往ったり来たりしてお忙しい。
前者はセルティさんに後者は俺に容赦なく向けられている。
アンセムに首ったけな感じで特にセルティさんに対しての敵意は尋常ではない。
そしてそれにはアンセムの野郎は気付かないという使えなさっぷりにシンド胃が痛い。
最後が水色のショートカットに寝ぼけ眼のスゥ。女の子である。
ハッキリ言ってなんで先の二人と組んでいるのか俺には想像がつかない。
俺たち二人には興味がなさそうで、時折立ったままうつらうつらと舟を漕いでいる。
こんな個性的な連中が俺達に話し掛けて来たのは「勧誘」が目的らしい。
アンセムによると彼らは元々ソロで活動していたが、アンセムがカシィを誘い、その後スゥを仲間に加えてこれまで活動して来たらしい。
自慢気に赤毛が教えてくれた。多分に高圧的な態度で。
そして、このミクラムに来た彼らはそろそろ新しいメンバーを、と考えていたらしい。
そこで、情報を集めたり、色々な冒険者たちを観察した結果、俺達にその白羽の矢が立ったとのことだった。
こちらからしたら、有難迷惑極まりない話である。
家柄を隠して冒険者稼業に身を置くセルティさん。
スキルのことがある為、迂闊に仲間を増やせないシティーボーイシンド。
そんな俺たちがどうして簡単にそんな話を受けられようか、いや、有り得ん。
なので、「事情があるので無理です、ごめんなさい」と優しく気遣って応対したが、それが間違いだった。
アンセムの奴は「二人じゃ危ない」だ、セルティさんには「君は美人なんだから」、「君たちの事情を僕達は気にしないから」と的外れど真ん中な返しを見せる。いや、話聴けや。どうしようもない事情があるから無理って言ってんの!お前らが気にしなくても俺らが気にするの!と声を大にして言いたい。
カシィは俺たちの返事に一瞬口角を上げたが、すぐに「アンタたち、アンセムの誘いを断るなんて!」とヒステリックに騒ぎ立てる。いや、断って欲しいのか、受けて欲しいのかどっちなんだよ、と突っ込まずにはいられない。恐らくはアンセムに好感度上昇アピールを仕掛けているのだろうが、奴はそんなの見てないぞ、とこれまた声を大にして言いたい。
スゥは、まぁ、何と言うか、その、眠そうである。
うん、そのまま夢の世界の住人になるといいさ。
兎に角、そんな三人組(主に二人)の面倒臭い口撃に俺たち二人は辟易としていた。
セルティさんは打ち合わせの時間を邪魔され、表情が消えていってるし、俺も最初は勉強中断できてラッキーなどと思っていたが、始まって三分で「お願い、去れ」とミッチーさんに祈りを奉げている始末だ。
「だからさ、僕達と組めば君はこんな無駄な時間を無くせるんだよ?その方がたくさんの依頼を受けられるし、君に良いと思うんだけど」
そして、このアンセムの野郎の本心も読めて来た。
コイツ、セルティさんを狙っているのだ。つか、俺のことディスってるよな?
中々折れない俺たちの態度に少しずつ言葉のメッキが剥がれ落ち始めているが、この野郎は気付いていない。そして、それを察してかカシィの方は本妻が側室に向けるようなドギツイ視線(知らんけど)をセルティさんに送っている。
当の本人は下心チラチラなアンセムの誘いを断固拒否し、カシィの死線をさらりと流している。
その悠々とした様子は彼女が貴族の子女であることを強く俺に実感させた。
(あの婆ちゃんに通ずるものがある気がする)
ふと、食えないババアを思い出した時だった。
建物の扉が大きな音を立てて開けられる。
入って来た者の形相は尋常ではなかった。
ギルド内にいた者達の視線が自然とその男に向かった。
もちろん、俺達も例外ではない。
男は受付に駆け寄ると何やら強く訴えているようだった。
その受付がグスタフさんだったのだが、彼はその男を連れて階段を登って行ってしまった。
ギルド内がざわつく中、俺はセルティさんに尋ねた。
「何があったんでしょうね?」
「分からんが、ただごとではなさそうだな」
俺の記憶が確かならあの冒険者の男は中位四級の実力者であった筈である。
そんな男があの慌て様、恐らく悪い出来事が起こっている。子どもでも簡単に考えが着くだろう。
「アンセム、大丈夫かしら?私、なんだか怖いわ」
「大丈夫だよ、カシィ。君のことは僕が必ず守る」
なんか急にいちゃつき始めた地雷衆二人組。
あっち行けと声を大にして言いたい。
もちろん、スゥは無言だ。
本当にこの子は謎だ。
しばらくすると、グスタフさんと冒険者の男、それにこれまた厳ついオジサマが階段を降りて来た。
これまた異性に人気のありそうな渋みのあるオジサマだ。
「ミクラム冒険者ギルド長の権限で緊急依頼を通達する!小鬼の饗宴だぞ!テメェら、気合い入れろ!」
その言葉に一瞬の静寂の後、周りが騒めき始める。
俺はオジサマの不吉な言葉に忍び足でこの場を去る準備を始めた。
テンプレを二つほどいれてみました。




