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魔装の冒険者~素材が採れねぇ、このスキル~  作者: うまひ餃子
新米冒険者頑張りま章
30/37

子供と大人

 それでは、どうじょ(/・ω・)/



 「助かりました」


 頭を下げながらも視線は立派な山脈に自然とロックされてしまう。

 その強制力は尋常ではない。何と言う戦闘力、これには抗えない。


 「いえいえ、良かったわ」


 その朗らかな笑みで明日からも頑張れます。


 「助けていただいたようで感謝する。恐らく初対面の筈だろう、私はセルティと言う」


 「どういたしまして~。私はギルドで鑑定士をやってるローザ。セルティちゃんね、よろしくどうぞ」


 そんなぽわわんとしたローザさんの手には木製の弓が。

 恐らくそれと背に担いだ矢でゴブリンを射たのだろう。

 それにしても、エルフってやっぱり弓の扱いが上手い種族なんだろうか。


 「挨拶はこのくらいにして戻りましょうか。ちょっと訊きたいこともあるし」


 何処となく、ローザさんの微笑みに怖さを感じるのは気のせいだろうか。

 切にそうであって欲しい所だ。



 ◇



 「バカ野郎ッ!」


 スキンヘッドの怒声が響く。

 俺とセルティさんはローザさんと帰還した後、すぐさまグスタフさんの元へ連れて行かれ、そのまま個室へ引きずられ今説教を受けている。


 「魔物がすぐ近くに居るのに、仲間割れだ!?何の冗談だ!笑えねえぞ!」


 真に仰られる通りです、はい。


 「俺はお前たちを犬死にさせるために組ませたわけじゃないんだぞ!」


 耳が痛い。

 もちろん、二重の意味で。


 「すみませんでした」

 「・・・・・」


 とりあえず謝っておくという日本人スタイルな俺に対してセルティさんは無言。

 さっきもそうだったけど、この人バツが悪いと黙る癖がある。


 「シンドくん、それは何に対しての謝罪なのかしら?」


 ひええ、ローザさんにこやかだけど目が笑ってないっす。

 

 「え、えっと、お二人に迷惑と心配をお掛けしてしまったことに」


 ギラッギラなグスタフさんと冷ややかなローザさんの瞳に晒されて自然と言葉尻が小さくなっていく。

 すると、ローザさんが「ハァ」と一つ溜息をついた。


 「それだけ?」


 短い一言だったが、何故か心に刺さった。

 思考が上手くまとまらない。


 「本当にそうとしか思っていないのなら、私は貴方達がこれからも活動するのを止めさせてもらうわ」


 「なっ!」


 「で、さっきからだんまりだけど、セルティちゃんはどうなの?」


 「・・・・・・」


 「黙ってばかりじゃ何も伝わらないでしょう?」


 真綿で絞めるように優しく、そして怖い口調だ。


 「・・・なさい」


 「なに?聞こえないわ」


 「・めんなさい」


 「はっきり言いなさい」


 「ごめんなさい!」


 そして彼女の顔を見るとストンと理解がいった。


 彼女は泣いていた。

 悔しくて、情けなくて、痛くて。

 色んなものがぐちゃぐちゃになっていて、けど、それを何とか表には出すまいと必死に堪えて。

 俺はそんな彼女のことを知ったかぶりして決めつけていた。


 ”お嬢様が何か意地を張って冒険者をしている”と


 本当は俺の方から心を開かなければならなかったのだ。

 例え一時の相棒であっても、性格に少し難があったとしても、彼女は俺より年下でそれなりに強いと言っても「独り」だった。

 俺は独りでも余裕があった。

 でも、彼女もそうだったとはとても言い切れない。


 体の向きを直す。

 顔を涙と鼻水でぐちょぐちょにした女の子は酷く小さく見えた。


 「ごめん」


 頭を下げた。


 「あの場面ではもっと言い様があった。君に意地を張らせて状況を悪化させた。ごめん」


 「こ、こっち、こそ、ごめんなさぁい」


 もう完全に彼女の涙腺は崩壊していた。

 わんわん泣いている。


 「これでいいかしら?」


 「まぁ、とりあえずは、な」


 大人たちの声はとても優しかった。




 ◇




 セルティさんが泣き終えると、ローザさんは持っていた布で彼女の顔を拭いてあげた。

 何となく母娘のように見えた。


 「ぐずっ、すまない、見苦しい所を見せた」


 「いえ、全く」


 「フフッ」


 「アハッ」


 お互いに軽く頭を下げる。

 それが何だか可笑しくて遂笑ってしまった。


 「良い雰囲気の所悪いんだけどね、お二人さん」


 ローザさんの声に俺たちは姿勢を正す。

 もう、この人には逆らえない。

 体が抗えないことを俺たち二人は本能的に理解した。


 「次、同じようなことやったら、分かってるわね?」


 ああ、その微笑みはあれですね。

 「二度と俺の手を煩わせんじゃねぇ、蛆虫ども」的な奴ですね。わかります。


 「は、はい!」

 「も、もちろんだ」


 「ん、よろしい」


 満足したのか、ローザさんは「それじゃあね」と言って部屋を出て行った。

 それと同時に溜め息が二つ。とても深い溜息だった。


 「お前たち、一応依頼はこなしていたから、今回は注意だけで済ませる。が、ローザがお前たちの尻を叩いた優しさ(・・・)とその痛み(・・)を忘れるなよ」


 「はい」

 「承知」


 しっかりと頷く。


 「ローザは経験が豊富な分、それなりに辛い経験もして来てる。老婆心って奴だ。肝に命じとけ?年寄りの説教と長話は面倒臭いが、聴いといて悪いことはないからな」


 「グスタフ~?何か聞き捨てならないことが聞えた気がするけど気のせいよね?」


 何時の間にか部屋の扉が半開きになっており、そこから顔を半分だけ覗かせる般若の姿があった。

 何か背中から、禍々しいオーラが漏れ出ているのは目の錯覚だろうか。


 「別に何もやましいことなんか言ってねぇよ。それとも図星だったか?」


 華麗に恨めしそうな視線を躱して部屋を出て行くグスタフさん。

 このスルースキル、俺も欲しい。

 

 「後でユティアに言いつけてやる」


 ローザさんがぼそりと呟いた。

 ユティアとはグスタフさんの奥さんの名前である。

 どうやらローザさんとグスタフさんはプライベートでもお付き合いがあるようだ。


 「パートナーかぁ、羨ましいなぁ」


 「ん?シンド殿は伴侶が欲しいのか?」


 呟きをセルティさんに聞かれてしまったようだ。

 心の声が口に出ていたとは。

 ちょっと恥ずかしい。


 「ええ、まぁ、いずれは、って感じですかね」


 冒険者稼業でお金を貯めない事には安心してデートも出来んからな。

 経済力というのはこの世界においても男性を測る上で重要な要素なのだ。世知辛い。

 残念だが、そういうピンクな話は当分先になるだろうな。


 「ふむ、そうなのか」


 何やら思案しているセルティさん。

 その横顔は凛としていて先程までの泣き顔とは全く違う物だった。


 「セルティさんが名乗り出てくれますか?」


 ちょっと悪戯っぽく聞いてみた。


 「戯け。私も当分は考えられん。それにもし、その様な相手になりたいのなら、私に勝てるようになってから言え」


 「それは一生掛かっても無理そうですね」


 「ふん、気概がない奴め」


 そうは言いながらもセルティさんは笑っていた。

 こうやって少しずつ、くだらない話でも良いから歩み寄って行こう。

 そう漠然と思った。


 今日は色々あったけれども、まぁ、悪くはないなと思う一日だった。

 とりあえず、依頼の報酬取りに行かないとな。


 俺たちはグスタフさんの元へ足を向けた。

 とても気持ちは晴れやかだった。



 

 真面目回でした。

 頼れる大人って言うのはやっぱり格好良いものですね。

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