本業とは何ぞや
それでは、どうじょ(/・ω・)/
「あなたがシンド殿でしょうか」
「はい、そうです」と返しそうになるのをグッと堪える。
よくやった、俺。自分で自分を褒めてやりたい。
知らない人に話し掛けられてもついて行ってはいけません、って小学校の時習ったっけ。
先生とお手本役として皆の前で演じたんだよな。
先生がレアカード手に持って「こっちにおいで」なんて言うもんだからノコノコついて行ったら、苦笑いで「これは駄目な例です」って言われたんだよなぁ。
懐かしきあの頃よ。
おっと、話が逸れたな。
で、目の前にいるおっさんだが当然初対面。
身なりは小奇麗にしてるからそれなりに裕福な人だと分かる。
少しポッコリしたお腹がチャーミング、って俺の周りにはおっさんしか寄って来ないのは何故だろう。
甚だ疑問だ。
「あなたは?」
先ず己からの精神を見せて欲しいものだ。
いきなり尋ねられて警戒しない方がおかしいってもんだ、違うかね、ん?
「おっと、これは失礼しました。私、ちんけな商会をやっとります、ゼニールと申します」
銭る?
どんな活用形だよ、それ。
とりあえず名乗ってもらったし返事しとくかね。
「ご丁寧にどうも。俺はシンドです」
「おお、やはりそうでしたか!いやぁ、お会い出来て光栄です!」
ブンブンと手を握って来るふとましいおっさん。
悪い人ではないのだろうが、目立つので勘弁願いたい。
「は、はぁ。ゼニールさん、それで自分に何の御用でしょう?」
テンプレを踏むなら、魔物討伐や護衛なんだろうけど、下位冒険者の俺にそんな事頼む筈ないし、何より初対面だしこの人。
「あ、そうでした!つい熱くなってしまい、申し訳ありませんでした!用件ですが、シンド殿、私の店に薬を卸してはいただけないでしょうか!」
お薬ですかね?
ちょいと事情話してみなさいや。
◇
「私ですね、先日腰を痛めましてね。それで、どうにもならなかった訳ですよ。しかし、仕事は待ってくれないし、どうしたものかと途方に暮れていた訳です。そんな時でした。奉公人の一人が一枚の湿布を私に差し出したのです。良く効きますからどうぞ、と。私ね、最初は半信半疑でしたよ。そりゃあ、湿布を貼ってすぐ治るならこの世に医者なんて必要ないですしね。でも、折角タダでしたし、気を紛らわせるくらいにはなるかと思って試しに貼ってみたんです。そしたらなんと、翌日には痛みが完全に引いてたんですよ!信じられます?信じられないでしょう?それでですね、その奉公人に訊いたのですよ。「あの湿布はどうしたんだ」って。そうしたら、あなたがくれたっていうじゃありませんか。それも数枚も。その時ですね私ピンと来たんですよ。これは良い商売ができるのではないかと。あれほどの効力を持つ湿布、売れば儲け間違いなし!ということで、私は貴方を探していた訳です」
「な、なるほど」
う~ん、その奉公人もしかして荷物運びの依頼受けたおばさんか?
腰が痛いって言ってたから数枚ニガ草の湿布渡したよな、確か。
巡り巡ってこうなるとは、分からんもんだな。
それよりもこの人、話が長い、というより止まらない感じか?
セールストークって感じだったな。勢いで主導権握ろうとするような感じか、しかし、二ホーンの凄腕セールスマンには及ばんな。彼らは言葉を的確に使い分け、こちらの興味を引く喋り方をする。その点において彼はまだまだ甘いように感じる。そんな俺は元高校生だけどな。
「で、どうです?私と契約致しませんか?いや、是非とも致しましょう。今しましょう。そうしましょう」
「ちょちょ、ちょっと待って下さい。一旦落ち着きましょうよ、ゼニールさん」
暴走機関車も大概にしてくれよ。
鼻息荒いし、目がギラギラしてるし、貴方は俺を捕食しようとしているんか、お?
「はっ!すみません、また熱くなってしまいました。何分、私このような質でして」
それはちょっと直した方がイイと思う。
まぁ、言わんけども。
「それで、契約の方如何でしょう」
売るのは別に構わないんだな。
ニガ草は何処にでも生えてるような雑草だし。
それでも、お話はしっかりしないとね。
「別に構いませんが、それより先ずは場所を変えませんか?」
「へ?」
ここ思いっ切り街中ですけん。
◇
気付けば、俺はゼニールさんの店兼自宅の方に招かれていた。
「気が付かない上に逆に気を遣って頂いて誠に申し訳ないです」
「いえ、お気になさらず」
コトリと湯呑っぽいものが目の前に置かれる。
中身は勘だがお茶に違いない。
「こちら、ウロン茶です。どうぞ」
ん?
懐かしい響きを聞いた気がしたが気のせいか。
んじゃ、遠慮なく。
「いただきます」
グビリグビリ、ごっくんちょ。
・・・・・・
ウー〇ン茶やないかーい!!
なんだよ、これ!めっちゃ久し振りじゃなぇか!
うめぇなチクショウ!
「気に入っていただけたようで何よりです」
「え、ええ、大変美味しかったです。このお茶ですがゼニールさんが仕入れてらっしゃるのですか?」
聞いてみるとゼニール氏満面の笑みを浮かべる。
「そうですよ、私、このウロン茶が好きでしてね、余裕があれば必ず仕入れるようにしているんですよ」
そ、そうなの。
分かったから顔近付けないで。
「おっほん、失礼。それでは早速ですが、本題に入らせていただきます。シンド殿、私と痛み止めの湿布の売買契約を結んでいただけませんでしょうか」
ストレートな要求、嫌いではない。
けれども気が早い。
「ゼニールさん、先ずは条件に付いて話し合いましょう。それがまとまらなければ、契約など夢の話ですよ」
「条件、ですか」
あ、警戒された?
そんなぼったくりなっかしないって。
「はい、俺がゼニールさんに一度に売る数。湿布一枚の値段。売る頻度。少なくともこれぐらいは決めないと話にならないのでは?」
「!?」
なんか「何とォォ!?」みたいな顔してる。
そんな大したことは言っていない筈だけど。
「失礼ですが、シンド殿は本当に冒険者ですか?もしや商家のお生まれで?」
「ハハ、確かにひょろっちいですけど、冒険者ですよ。生まれは平民ですが、商人の家系ではないですよ?」
「そうですか、いや、シンド殿のお考えがあまりにも我々に近しいものだった故、失礼しました」
そうなんだ。
まぁ、考えてみれば冒険者って強面でゴツイのばっかだもんな。
俺みたいなこと考える人って少ないのかもしれない。
「気にしてないですから、頭を上げて下さい。それで、ゼニールさんはどの様に考えてらっしゃるんで?」
「ありがとうございます。ざっとですが、卸して頂くのは十日に一度で数は十から十五程で卸値は銅貨三枚、売値は銅貨五枚。卸しの頻度や量については売れ行きによって増減していく仕組みを考えています」
ふむ、悪くはない。
むしろ、こちらにとっては利しかない。
それでも、気になる点はある。
「質問宜しいですか?」
「ええ、どうぞどうぞ」
「それでは、売る量に対して値段を変えたりはしないのですか?」
「そうですね、あまり細かく値段を変えますと買い手が寄り付きませんので。しかし、状況によっては値上げ、値下げ共に行っていくつもりです」
柔軟に対応は可能なタイプだな。
よし、次は
「卸す際の品数の上限ですが天井知らずに上がって行くようなことは」
「それについてはご安心をシンド殿が出来る範囲で結構ですので」
ふむ、これもありがたい。
「売り出す際にですが、俺の個人名を出すようなことは」
「全てシンド殿が望むように致します」
うむ、これぐらいか?
いや、まだ、あった。
「俺がこの街を離れる際はどのように?」
「それについては残念ですが、諦めます。シンド殿本職は冒険者でしょうし」
めっちゃホワイトやないか!
こりゃ、オッケーですわ。
「分かりました。契約内容をこれまで言った通りのものにしていただけるならば、俺は構いません」
「ほ、本当ですか!しょ、少々お待ちを!」
ばびゅんとゼニールさんが跳んでいく。
飛べないb、おっと、失礼だったな。
戻って来たゼニールさんが契約書を書いて、俺がそれを確認し、署名した。
これにより契約は無事成立し、シンドは冒険者兼湿布屋になったのだ。
てれれってってってー
ファンファーレが止まらない(ニヤリ
目指せ、小金持ち!
この流れも結構テンプレな気がする。




