冒険者には女性もいる
遅れました
下位七級に上がってから少し経った。
冒険者級位が上がったは良かったものの、俺の生活サイクルが大きく変わることはなかった。
【全自動素材変換】大先生がいらっしゃるのだ。
大先生にとっては植物の採取だろうが、魔物の素材だろうが大差はないのである。
触った瞬間に「あいよ!一丁上がり!」と仕事をこなすこの職人具合にシンドの涙が止まることはない。
それに、こなせどもこなせども、住民からの依頼が途切れることはないのだ。
お土産も貰えるし、止めてしまう道理もないだろう。
しかし、俺が依頼を受け始めた頃より増えているような気がするのは気のせいだろうか。
うん、きっとそうに違いない。
そして、デジレを蹴り飛ばした後、変に絡まれることが少なくなった。
元々、ちょっかい出して来た奴らには大先生作の罠シリーズ使ってやり返していたのだが、その機会が減りちょっと残念。
そのいちゃもん野郎デジレ氏だが、あの騒動から姿を見掛けていない。
というより、先日、初めて認識したので、あいつのことについてはこれっぽっちも知らないのだが。
(にしても、誰も寄って来ないよな)
ボッチという悲しい言の葉が身に染みる。
「良いことではないが、決して悪いことでもないぞ」
と、仰るのは今日もゴリマッチョなギルド職員グスタフさん。
その心は?
「あまり親しくし過ぎると、お前みたいな奴はその関係に縛られてとんでもない目に遭うからな。好意からでなく借金目当てで近寄ってくるような下心を持った輩なんてそこら中にいるぞ?」
うげぇぇ
聞けて良かったけど、聞きたくなかった。
「新米冒険者のお前に寄って来る輩の大抵は何かしら思惑がある、そう思っておけ。それでもお前のお気楽振りは目に付くだろうがな」
うぐっ。
つまり、俺は周りから見ると隙だらけの獲物さんってことか。
「この前のデジレとの一戦でお前がそれなりにやるっていうのは見ていた奴らは理解した筈だ。そしてその噂は既に広まってもいる筈だ。『中位冒険者を一撃で伸した下位冒険者』って噂がな。それでも、お前に絡んで来る輩が消える訳じゃない。あまり隙を見せるなよ」
了解っす。
しかし、冒険者ってのは見た目がおっかない人ばっかりだよな。
顔や体に傷痕を付けた人もいれば、とんでもなく目つきがおっかない人、正に世紀末な方々の集まり、それが”冒険者”なのだ。
なので、男女比率は明らかに九対一を超えている。
俺はこれまでに女性の冒険者を見たことがないのだから、その稀少さが窺えることだろう。
そりゃあ男共は綺麗なチャンネーの所へレッツゴーするだろうよ。
冒険者ギルドの受付嬢たちって本当に顔もスタイルも良い人が多いのだ。
これは彼女たちに良い所を見せようと男共が馬車馬が如く働くように仕向けたギルドの策なのではと俺は疑っている。
そんな彼女達だが、仕事に対してはスタンスがばらけている。
男たちに笑顔で接し、ちやほやされるも仕事はお粗末なキャピキャピした可愛い系女子。
素っ気なく、しかし仕事は迅速で正確にこなすクールビューティー。
色気を振りまきながらも線引きはきっちり引いて、仕事もきっちりこなす仕事できる系妖艶美女。
見ていて飽きない。
やはりたわわな果実はゲフンゲフン
まぁ、俺のナンバーワンは不動でローザさんだがな。
あの穏やかなご尊顔から少し視線を下に向けると天然の要塞がそびえ立ち、更に下に視線を向けると・・・グヘへ。
おっと、いかんな。
グスタフさんの目付きが厳しい。
「お前は仮面をつけるべきじゃないかと俺は思う時がある」
顔に出てたとか一体全体どうなっているのだろう、俺の表情筋。
そんな自分の顔面への疑問をしていた時だった。
「グスタフ殿、よろしいか?」
振り向くとそこには少女がいた。
そう、girlだ。しかも美人さんだ。
身長は百六十あるかないかぐらいで歳は十代後半くらいだろうか。
髪の毛は金色でツインテール。
肉付きは残念ながら彼女の着ている銀色の鎧によって見ることは叶わない。無念。
白い肌に濃い茶色の瞳。ふつくしい・・・
キリッとした目付きには警戒感がありありと浮かんでいる。
「ああ、大丈夫だ。ほれ」
シッシとあっち行けの手振りで追い払われる俺は怒って良いのだろうか?
いや、用件が済んだのに居座ってた俺がアカンか。
井戸端会議は終わり俺はその場を空ける。
この女の子、横顔も綺麗だなぁと思いながらその場を去る。
黙って去る。
クールだろう?
あっ。
何もないとこで躓いちまった。
だせぇぇ。
□■□■
あのバカ、格好つけてコケるなんざ、言った傍から・・・
「グスタフ殿、今のは」
「ああ、前に話した変わり者の冒険者だよ。見るのは初めてだったか?」
「はい」
「で、どうだった?」
「どう、とは?」
「印象だ、アイツはお前の目に適ったか?」
「ほんの僅かでしたから何とも。それに、あまり実力があるようには見えませんでしたが」
まぁ、そうだろうな。
アイツの気の抜け方は尋常じゃない。
何度言っても直らないから最近は諦めかけているが。
「確かに、あんな野郎ではあるが、それなりに腕は立つぞ?聞いていないか、中位を吹っ飛ばした最下級冒険者がいるって話」
「いえ、全く」
コイツもコイツで浮いている。
ここに来た当初は男共がよくちょっかい掛けていた。
自分も男という生き物だからその気持ちは理解することも出来なくはない。
それを片っ端から舌先か腕っ節で悉く伸している内に気付けば孤高の美女冒険者が出来上がっていた。
綺麗な顔してるのに常に鋭い眼付きだから、仲良く付き合えるような友人もいないだろう。
シンドの野郎とは真逆で気を張り詰め過ぎなのだ。皮袋一杯に水が溜って今にも張り裂けそうな状態と言った所だろうか。
だから、噂の一つも耳に入って来ないのだろう。
そんなコイツにはシンドみたいなお気楽野郎が近くにいれば気を抜くことも出来るんじゃないかと思ったのだが。
「お前もそろそろ一人じゃ厳しいだろう?中位五級からは受けられる依頼の種類も難易度もぐんと上がる。その前に仕事を一緒にこなせる知り合いがいた方が良くないか?」
「・・・」
考える素振りを見せるということはコイツ自身もその重要性を理解しているのだろう。
「決して強要したくはない。だから今度顔合わせをしないか?アイツと話してみて、もし実力を見たいのならば、手合わせしても構わない。拒否するのはそれからでも遅くない筈だ」
少しして目の前の中位冒険者は顔を上げた。
「分かりました。グスタフ殿がそこまで仰るのであれば」
ほっ。
何とか糸は結べたか。
「それじゃあ、都合の良い日を教えてくれ。シンドの奴にはこちらから連絡を付けておく」
「分かりました」
諸々のやりとりを終え、女性冒険者がギルドを出て行く。
シンドの奴は明日も来るだろうからその時話してみるとしよう。
アイツも喜ぶだろう。
が、バカなことをやらかさないように一応、釘は刺しておくか。
こうして本人の知らぬ間に勝手に話が進められているシンドであった。
格好つかない主人公(笑)




